おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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柱合会議で伊黒さんが炭治郎にやったやつ↓


16.事件のにおい

 

太陽が沈み、すっかり暗くなった街。

 

市場から宿屋へ、近いからと北の区画を経由して戻る。

 

 

その途中、

 

「…………っと、ごめんなさい」

 

通りすがりにぶつかる外套の影があった。

 

 

私は、その外套の者が会釈(えしゃく)して立ち去るのに、足をかけて

 

「――っえっ」

 

その背中にひじを当て、そのまま押し倒した。

 

 

――ドスッ!

 

 

「ぐぇっ」

 

 

(したた)かに打ちつけられ、ひじで押さえつけられた外套の者が(うめ)く。

 

その隙に肩を(はず)して、さらに圧力を強くする。

 

 

「な、に、をす」

 

「財布」

 

「盗ってな、い」

 

「嘘を吐くなら身ぐるみを(あらた)めて殺す。自供(じきょう)するなら身ぐるみを検めるだけで許す。

――好きなほうを選べ」

 

「やれるもん、な、ら――あ゛っ゛」

 

「殺してから身ぐるみを検めたほうがよさそうか?」

 

「ぅぐぅっ!」

 

 

体躯(たいく)の大きさはあちらのほうが上だ。

そんな状態で、殺さずに取り押さえ続けるというのは、正直に言えば難しい。

 

だから、早く背負い袋からすり盗った財布を返してほしい。

力加減を誤ってしまいそうだ。

 

 

「クレア、もう、それくらいでいいだろう?」

 

 

成り行きを静観していた女――ベアトリクスが外套の者の懐に手を突っ込んで、巾着(きんちゃく)袋――私の財布を取り出して、ひょいっと放る。

 

 

「――っぅ! 覚えてろ!」

 

 

私が放られた財布を受け取るために片手を放した(すき)に。

押さえつけていた外套の者は、くにゅんとやたらと(やわ)らかく身体をくねらせて拘束を逃れた。

 

脱兎のごとく迷いなく北へ逃げていく。

 

 

「いまの()、濃い血のにおいがした……」

 

 

私も、財布をすり盗られたくらいで、過剰(かじょう)に報復をやったりはしない。

 

取り押さえてから、すぐに殺すという選択肢が浮かんだのは、あの外套の内側からとても濃い血のにおいがしたからだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ああはならない。

 

 

「血のにおいくらいさせるさ。誰もが(ゆた)かな暮らしを送れないのだから」

 

 

ベアトリクスもその血のにおいを()ぎ取った上で、見逃すことを決めたらしい。

 

(せつ)なそうに、もう人影がない北の路地を見ていた。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

宿に泊まって、翌日。

 

予定通りならば、今日中に街を出発する。

 

残りの買いものを済ませるため、魔剣士用の比較的丈夫な服を扱う、服屋に(おもむ)こうと宿を出たのだが。

 

おすすめの服屋を聞くために訪れた魔剣士協会は、不穏(ふおん)な空気に包まれていた。

 

 

「何があったんだ?」

 

ベアトリクスが受付に訊ねたところ、昨日、女の魔剣士に聞いた話の続きだった。

 

また、心臓をくり抜かれた死体が見つかったのだという。

それも、魔剣士協会に所属していた中堅どころの魔剣士が3人。

同じ現場で見つかったのだとか。

 

 

協会員が3人も死んだこと、その3人が中堅どころの慎重で確かな実力の者だったこと、同じ現場で発見されたこと。

これら三つの事柄から、犯人の戦闘能力はこれまでに想定していたものより、大幅に上回るものである。

 

そう結論が出されて、危機感や不安から不穏な空気になっているらしい。

 

 

さもありなん。

これまで見つかった惨殺死体は、娼婦と魔剣士ばかりというのだから、不安がるのは仕方ない。

 

 

服屋の場所を聞いて、建物を出たあとも、二人して沈黙していた。

 

 

 

「昨日の外套、事件に関係あると思うか?」

 

やはり、気になるのはそこか。

 

私は首を縦にも横にも振らなかった。

 

 

「わからない。手がかりというには曖昧(あいまい)すぎる。しかし、心当たりではある」

 

「遅くなると、今日中に街を発てなくなるぞ」

 

「一日遅れるくらいは、想定している。問題は、ない」

 

「そうか。――この事件、なんだか気になるんだ。少し、寄り道させてほしい」

 

「わかった」

 

 

かさばる服の購入を明日に回し、引き払った(チェックアウトした)宿の部屋を、改めて取り直して。

我々は街の北区画、裏町がある地区へ向かった。

 

 

 

 

「あの(むすめ)の血のにおい……濃厚ではあったが独特ということはなかった。しらみつぶしになる……」

 

「いくら裏町でも、毎日、そう何人も人死(ひとじ)にが出るわけじゃない。

しらみつぶしでも十分に探し出せるはず。

新しい血のにおいから辿(たど)っていこう」

 

 

殺されたのは娼婦と魔剣士のみということで、裏町でも一番大きい娼館の従業員に話を聞いてから、捜索を始めることにした。

 

 

運よく捕まえられた掃除係の男から聞いたところでは。

 

惨殺死体で発見されたこの娼館の娼婦は全員、娼館の外に部屋を借りる余裕がある、人気のある高級娼婦。

他に殺された娼婦たちは、余所の娼館の娼婦かどこの娼館にも所属していない野良の娼婦。

ということで、たぶん、娼館からの帰り道を狙ったのではないか。

わざわざ、外に出るまで待って襲っている様子から、内部犯の可能性も小さいのではないか。

 

とのこと。

 

 

思ったよりもしっかりした証言が取れた。

 

おかげで、事件の犯人の足取りが追いやすくなった。

 

 

 

「少なくとも、娼館の出入りを監視する必要があるわけだ」

 

「今朝、見つかったのは、魔剣士の死体だったが?」

 

「直近で被害に遭った娼婦の身元を調べよう」

 

 

予定変更。

西区画の魔剣士協会へ再訪し、情報提供を要請する。

 

『武神』の二つ名、ベアトリクス自身が最高位ランクの魔剣士であることで、協会はむしろ積極的に事件の情報を提供してくれた。

 

最後に娼婦の死体が見つかったのは三日前。

北区画の西寄りにある娼館の娼婦だった。

 

この手がかりをもとに実際にその娼館へ足を運んだ。

 

そこにあるいくつか新しい血のにおい。

 

 

「だが、娼館の監視は、殺すまえのはずだが」

 

「いや、話によれば、死体はどれも心臓を抜かれていた。犯人は大量の血を浴びたはずだ。

そんな血のにおいが、そう簡単に落とせるとは思えない」

 

「なるほど。と、なれば、真新しすぎる血のにおいは外れ、か?」

 

「かもしれないけど、無視はできない。犯人のものかもしれないから」

 

 

――だからやはり、しらみつぶしになる。

 

 

血のにおいを辿(たど)って、今度こそ本格的に捜索(そうさく)を開始した。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「ここか」

 

 

(くだん)の娼館を中心にして、新しいほうから血のにおいを辿り、夕方ごろに着いたのはごみ溜め。

 

北区画の隅。

鼻が曲がりそうな悪臭だった。

 

 

「わかりにくいけど、ここの血のにおいが一番濃い」

 

 

ここに足を運ぶまでわからなかった。

悪臭に紛れた、むせ返るような血のにおい。

 

 

「行こう」

 

「あぁ」

 

 

何も言わなくても、目的の場所はわかった。

 

ごみ溜めの奥、街の厚い外壁に空いた穴。

 

そこから漂う血のにおいが、一際濃かった。

 

 

 

大人が屈めばギリギリ入れるだろうか。

驚いたことに、(せま)い入り口の奥に少し空間があるようだ。

 

 

剣を抜き、ベアトリクスが慎重に踏み入る。

 

私もあとに続く。

 

 

そして、穴の真ん中にあった血にまみれたボロ布の前で二人、立ち止まり。

 

――背後から飛んできた二本の槍を斬り払った。

 

――次の瞬間、カチリと音が鳴り、頭上を無数の剣や槍で埋め尽くされた。

 

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