柱合会議で伊黒さんが炭治郎にやったやつ↓
太陽が沈み、すっかり暗くなった街。
市場から宿屋へ、近いからと北の区画を経由して戻る。
その途中、
「…………っと、ごめんなさい」
通りすがりにぶつかる外套の影があった。
私は、その外套の者が
「――っえっ」
その背中にひじを当て、そのまま押し倒した。
――ドスッ!
「ぐぇっ」
その隙に肩を
「な、に、をす」
「財布」
「盗ってな、い」
「嘘を吐くなら身ぐるみを
――好きなほうを選べ」
「やれるもん、な、ら――あ゛っ゛」
「殺してから身ぐるみを検めたほうがよさそうか?」
「ぅぐぅっ!」
そんな状態で、殺さずに取り押さえ続けるというのは、正直に言えば難しい。
だから、早く背負い袋からすり盗った財布を返してほしい。
力加減を誤ってしまいそうだ。
「クレア、もう、それくらいでいいだろう?」
成り行きを静観していた女――ベアトリクスが外套の者の懐に手を突っ込んで、
「――っぅ! 覚えてろ!」
私が放られた財布を受け取るために片手を放した
押さえつけていた外套の者は、くにゅんとやたらと
脱兎のごとく迷いなく北へ逃げていく。
「いまの
私も、財布をすり盗られたくらいで、
取り押さえてから、すぐに殺すという選択肢が浮かんだのは、あの外套の内側からとても濃い血のにおいがしたからだ。
「血のにおいくらいさせるさ。誰もが
ベアトリクスもその血のにおいを
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿に泊まって、翌日。
予定通りならば、今日中に街を出発する。
残りの買いものを済ませるため、魔剣士用の比較的丈夫な服を扱う、服屋に
おすすめの服屋を聞くために訪れた魔剣士協会は、
「何があったんだ?」
ベアトリクスが受付に訊ねたところ、昨日、女の魔剣士に聞いた話の続きだった。
また、心臓をくり抜かれた死体が見つかったのだという。
それも、魔剣士協会に所属していた中堅どころの魔剣士が3人。
同じ現場で見つかったのだとか。
協会員が3人も死んだこと、その3人が中堅どころの慎重で確かな実力の者だったこと、同じ現場で発見されたこと。
これら三つの事柄から、犯人の戦闘能力はこれまでに想定していたものより、大幅に上回るものである。
そう結論が出されて、危機感や不安から不穏な空気になっているらしい。
さもありなん。
これまで見つかった惨殺死体は、娼婦と魔剣士ばかりというのだから、不安がるのは仕方ない。
服屋の場所を聞いて、建物を出たあとも、二人して沈黙していた。
「昨日の外套、事件に関係あると思うか?」
やはり、気になるのはそこか。
私は首を縦にも横にも振らなかった。
「わからない。手がかりというには
「遅くなると、今日中に街を発てなくなるぞ」
「一日遅れるくらいは、想定している。問題は、ない」
「そうか。――この事件、なんだか気になるんだ。少し、寄り道させてほしい」
「わかった」
かさばる服の購入を明日に回し、
我々は街の北区画、裏町がある地区へ向かった。
「あの
「いくら裏町でも、毎日、そう何人も
しらみつぶしでも十分に探し出せるはず。
新しい血のにおいから
殺されたのは娼婦と魔剣士のみということで、裏町でも一番大きい娼館の従業員に話を聞いてから、捜索を始めることにした。
運よく捕まえられた掃除係の男から聞いたところでは。
惨殺死体で発見されたこの娼館の娼婦は全員、娼館の外に部屋を借りる余裕がある、人気のある高級娼婦。
他に殺された娼婦たちは、余所の娼館の娼婦かどこの娼館にも所属していない野良の娼婦。
ということで、たぶん、娼館からの帰り道を狙ったのではないか。
わざわざ、外に出るまで待って襲っている様子から、内部犯の可能性も小さいのではないか。
とのこと。
思ったよりもしっかりした証言が取れた。
おかげで、事件の犯人の足取りが追いやすくなった。
「少なくとも、娼館の出入りを監視する必要があるわけだ」
「今朝、見つかったのは、魔剣士の死体だったが?」
「直近で被害に遭った娼婦の身元を調べよう」
予定変更。
西区画の魔剣士協会へ再訪し、情報提供を要請する。
『武神』の二つ名、ベアトリクス自身が最高位ランクの魔剣士であることで、協会はむしろ積極的に事件の情報を提供してくれた。
最後に娼婦の死体が見つかったのは三日前。
北区画の西寄りにある娼館の娼婦だった。
この手がかりをもとに実際にその娼館へ足を運んだ。
そこにあるいくつか新しい血のにおい。
「だが、娼館の監視は、殺すまえのはずだが」
「いや、話によれば、死体はどれも心臓を抜かれていた。犯人は大量の血を浴びたはずだ。
そんな血のにおいが、そう簡単に落とせるとは思えない」
「なるほど。と、なれば、真新しすぎる血のにおいは外れ、か?」
「かもしれないけど、無視はできない。犯人のものかもしれないから」
――だからやはり、しらみつぶしになる。
血のにおいを
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここか」
北区画の隅。
鼻が曲がりそうな悪臭だった。
「わかりにくいけど、ここの血のにおいが一番濃い」
ここに足を運ぶまでわからなかった。
悪臭に紛れた、むせ返るような血のにおい。
「行こう」
「あぁ」
何も言わなくても、目的の場所はわかった。
ごみ溜めの奥、街の厚い外壁に空いた穴。
そこから漂う血のにおいが、一際濃かった。
大人が屈めばギリギリ入れるだろうか。
驚いたことに、
剣を抜き、ベアトリクスが慎重に踏み入る。
私もあとに続く。
そして、穴の真ん中にあった血にまみれたボロ布の前で二人、立ち止まり。
――背後から飛んできた二本の槍を斬り払った。
――次の瞬間、カチリと音が鳴り、頭上を無数の剣や槍で埋め尽くされた。