1.悪魔憑き
はっきりと自己の
なにが起こったのか冷静に
わき上がる
激しく突き上げる
心に穴が空きそうな、いそがしい
「****? ****っ?!」
「**っ! ****!」
めちゃくちゃにわめき立て、頭を抱えてのたうち回る自分に、異国の言葉が浴びせられる。
男と女……。
顔つきがメリケンを思わせる、知らぬ男女――いや知っている。
この言葉も、聞き覚えが――いや生まれて一年間親しんできた言葉だ。
――もしや、生まれかわった、というのか?
「ぱぱっ、ままっ……」
自分の身体から勝手に
慣れ親しんだ
「クレア、どうしたっ! 頭か! 頭が痛いのかっ!」
「落ち着いて、あなたっ! 不用意に近づいたらいけないわっ! これは――
――悪魔憑き――
――よ」
「そんなっ……!」
自分はいまなにが起こっているのか判然と理解できていない。
が、目の前の男女――どうやら自分の両親のようだ――二人は
理解はしていても
それがなにを表す言葉なのか知らないが、おそらく
ありもしなかった記憶がいきなり
しかし、いまは頭だけであった痛みは、首に胸に肩に腹にまで広がっている。
幻痛、というわけではない。
ブチブチと骨に響いて聞こえてくる音は、確かに生前、聞き慣れた筋肉がちぎれる音に
「せ、聖教会に、
「はっ、はい! かしこまりました、旦那様!」
「でもあなた! クレアが――――」
「俺たちにはどうにも――――」
これは……あの
あの御方の
あのとき私はどうやってそれをしのいだのだったか……。
――わたしの役に立て
――力をつけろ
――人を食え
――鬼を食え
――鬼殺隊を殺せ
そう、あのときは
灯火のようだった。
当時の私はその灯火に
ならばこの身体を
――“お労しや、兄上”
ふいに。
生前の弟の声が思い出された。
何百年経とうとも耳から離れなかった声が集中をかき乱し、一瞬のすきを突いたように視界が
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
息を吸う。
身体に
息を吐く。
また。
息を吸う。
身体に巡らせる。
息を吐く。
断続的なゴトゴトという
時折、
この身を蝕む呪いに比べれば
息を吸う。
身体に巡らせる。
息を吐く。
少しずつ。
少しずつ。
身体の流れを、人として正常なものへと戻していく。
呼吸術。
鬼狩りは全集中の呼吸などと呼ぶことが多かったか。
人だった頃から、鬼になってからも、前世の私に深く染みついた技術である。
異国風の男女――今世の両親の前で悪魔憑きというものになったことで、肉体はめちゃくちゃに歪み、ついに見えていた目も
気を抜かなければ目がつぶれなかったわけではなかったかもしれないが、気を張っていたことで肉体の変形を遅らせられていたことは確からしい。
思い返してみると、前世の記憶を思い出してから、無意識に呼吸術の
それが肉体の変形を遅らせていたのだと思われる。
幸運だったのは気道が確保できていたこと、肺が無事だったことだ。
目がつぶれてから慌てて呼吸術を再開し、最低でも現状維持できるように息を身体の届くかぎりに巡らせた。
意識が落ちてしまわないように
その間、この身体は何者かに運ばれ、
そして、しばらく呼吸に集中し、身体の
この“悪魔憑き”なる症状の進行を呼吸術で遅らせることができ、維持することまでできたのだ。
ならば、回復させることもできるだろう、と
やることは簡単だ。
呼吸術を応用した回復は前世でも常用していたから、それを行う。
そう時間はかかるまいとやり始めたときには思っていた。
実際に、始めてからしばらくは手応えがあった。
しかし、なにかがおかしい。
視界を確保するくらいまでは肉体を回復させることはできた。
ただ、あるときから壁にぶつかったみたく
異常な息の流れを感じることはできる。
どんな風に流れているのかもわかる。
正常な息の流れを
なのに、流れを戻せない。
なにか、別の流れに
直接感じとることはできないが、不自然な力の流れから、そう結論付けた。
この流れを直接感じ、操作できれば……。
そう思いながら、集中すると、視界が開けたように明るくなった。
朝か、それとも次の町についたのか。
この荷車がどこへ向かっているかわからないが、もしかしたら目的地に着いたのか。
と、
言うなれば、これまで見えていたのに認識していなかったものを認識できるようになった
まさか、と自らの内側へ意識を向けると、さっきまでわからなかった不自然な力の流れが明確に知覚できた。
間違いない。
この感覚を拡張し、鍛えれば、息を
ならば、そうしよう。
目的地に到着するまでどれくらい時間があるかわからない。
目的地に到着して何をされるのかわからない。
一刻も早くまともに動けるようになる必要があるだろう。
少しでも深く、力の流れに集中するために
時間との戦いだ。