おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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児童期・上
EX2.ょうじょうじょうじょうじょ


 

「ご主人さまっ! ミーコの中にご主人さまの熱~いとろとろのやつ、たっぷり出してほしいにゃ☆」

 

「…………」

 

 

街に降りられるようになり、そこで食べものや道具を買うことで、充実(じゅうじつ)した生活環境。

 

ものが増えて手狭(てぜま)になり、拡張した家。

私に当てられた部屋にて。

 

 

入り口の扉を開けた先で。

十歳くらいの黒い猫耳の少女が、「あ~ん」と開けた自分の大口(おおぐち)をゆび指して言った。

 

 

「……その服は?」

 

「奥さまに()ってもらいました~」

 

 

――異国の女中風の洋服(メイド服)を身にまとって。

 

 

 

あれから、四年。

 

街で出会った連続殺人鬼をけっきょく、(ひろ)うこととなり。

 

ベアトリクスの指導により、世の中の常識と一般知識を身に着けた黒猫の少女は敬語を使うようになった。

 

名前はミーコ。メラが付けた名前である。

 

そして、なぜか、私をご主人さま、ヴェラを奥さま、メラをお嬢さま。

いまはもういないが、ベアトリクスのことは先生と呼ぶ。

 

 

 

「ご主人さまに従順なメイドとして、これからもエサをタカり続けてやる(末永くお仕えさせていただきますっ)

 

 

なお、いくら口調が丁寧になったところで、性根(しょうね)は変わっていないことは把握済みだ。

たまに、本音と建前を言い間違える。

 

 

「だからご主人さまっ! 血液(ごはん)ちょーだいっ☆」

 

 

てってってっ、と小走りで寄って来て抱きついてくる。

 

 

()になったことで、四年前から身体的に成長していないミーコと、()()()()人として成長していた私の身長は同じくらい。

 

抱きつかれて密着されると、顔が間近(まぢか)になる。

 

 

私は首を傾けて、首筋をさらす。

その上で、指を背中側へ向けた。

 

 

「私は書きものをする。邪魔だから背中にまわれ」

 

「わーい☆ 食べ放題だ~☆」

 

 

ミーコは合理的な生きものだ。

自分の欲望に正直であり、自分の欲望を叶えるためならどんな手段もいとわない。

 

 

ベアトリクスがここを去ってからは私に取り入ろうと、こうして愛嬌(あいきょう)を振りまくことが多い。

――(ほだ)されようものなら、比喩(ひゆ)ではなく()い殺されることは目に見えているので、相手にしない。

 

 

私は部屋の書きもの台に着き、さっきまで書きかけだった羊皮紙(ようひし)に向き直る。

 

 

「何を書いてるんですか~?」

 

 

指図(さしず)した通りに、抱きついたまま私の背中側へまわったミーコが、(たず)ねてくる。

 

 

「鬼化と血鬼術について、文字の練習を()ねて、まとめていた」

 

「おぉ~。ワタシのことを(すみ)から隅まで調べてわかったことですね~」

 

「おかげで、この世界での鬼のことが詳しくわかった」

 

「マジメな返し~。でも、そういうトコ好きですよ~」

 

にゃははっ、と笑ってガブッと私の首に()みつく。

(あふ)れ出る血を、のどを鳴らして飲みはじめた。

 

これで、しばらくは静かになるだろう。

 

 

 

私は羊皮紙にすでに書き記した内容にザッと目を通して、おさらいする。

 

 

 

〇街で拾った黒猫族の獣人、ミーコについて調べてわかったこと。

……子の(こう)では、明らかに人を逸脱(いつだつ)した特性を有する変異生命体、ミーコについて調べてわかったことを箇条(かじょう)書きにする。

 

 

・1.特性:曖昧化

……ミーコは、魔力を感知できる者ならすぐにわかる異質な魔力と、おかしな血の流れ、本能的に忌避してしまうおぞましい異臭をその身に宿している。

で、あるにも関わらず、どれだけ感覚が鋭い者でも、感じ取ることができない特性を持っている。

また、血液に肉体を融合させて黒い液体に変化することや、やらせてみたら霧になることや顔から目だけを無くすことなども出来た(肉体の一部もしくは全部以外のものに対しては発動させられなかった。例えば手に持ったリンゴなど)。

ミーコ当人曰く、これらはすべて「自分のことを融かして無くす感じ」で操作すると発動させられる、とのこと。

当人が同じ感覚で発動していることから、とりあえず、これらの特性はすべて同じ法則によって実現していると仮定。

この特性を――自身の肉体に由来する形や構造、においや熱などをぼかして曖昧なものにする特性――曖昧化と名付けた。

弱点は、検証でわかったことだが、一定以上の密度の練り上げられた魔力ならば、根底(こんてい)の法則に直接干渉可能であること。これは血液操作技術全般に関して同じことが言える。

 

 

・2.特異な食性

……拾った当初は本人も自覚していなかったが、栄養の摂取に不具合が生じていた。

結論から言えば、近似種族すなわち人の血肉でしか栄養補給をおこなえなくなっていた。

人が普通に食べるものも食べることはできるが、どうやら栄養として吸収することができなくなっているらしく、拾ってから人の普通の食事を与え続けていたミーコは日に日に飢えて衰弱していった。

せっかく拾ったのに死なせてはもったいないと、何がほしいか訊ねると人の心臓と答えたので、人肉食しかできなくなっている可能性を考え再生が利く私の血肉を与えると飢えは解消された。

このことにより、ミーコは普通の人の食事から栄養を摂取することはできず、近似種族の血肉から栄養が摂取できない身体になっていると結論付けた。

現在は、後述する人化の訓練の結果、血液だけを飲んでいれば飢えは満たされるようになった。

 

 

・3.高い不死性と再生能力

……1の特性とは別に、ミーコ自身が特に意識しなくても高い不死性と再生能力が備わっていることがわかった。

試せないためどこまでできるのかはわからないが、不意打ちで頭を潰されても、心臓を潰されても、全身を潰されても死なずに放っておけば再生することが、魔境の探索中に判明している。

 

 

・4.太陽光への弱性

……太陽の光を浴びれば()き尽くされる、というほどの弱性ではないが、太陽の光を浴びれば弱体化し苦痛を覚えるくらいの弱性はあることがミーコ本人の証言でわかった。

実際に太陽の光を長時間浴びると肌がただれ、体内の肉がむき出しになるのを確認。陽光下では、短時間の活動しかできないということがわかった。

 

 

〇観察、考察、習得、検証等からわかったこと。

 

 

・1.ミーコの身体はどのようにして変質したか。

……実はこの内容については、ミーコに出会うまえから心当たりはあった。

それは、私自身が血液操作により斬撃を作り出し、月の呼吸を研鑽する中で、いつしか気が付いたこと。

すなわち、“血液操作を用いた技術――私でいえば月の呼吸――を使うために肉体を変質させ、極端に最適化”させれば、私は鬼化するのではないか、ということ。

これは、ミーコを研究したことでおおむね不安材料を解消することができたと判断した上で、実際に私が鬼化することで確定した。

ミーコに起こった変質も、彼女が“無意識に行っていたと考えられる血液の操作に最適化する形で、生来の本能や反射を上書きするほどの深度で肉体を変質させた”結果、起こったものと思われる。

 

※以後、生来の本能や反射を上書きするほどの深度で肉体が変質することを『鬼化』、『鬼化』により変質した生命体のことを『鬼』、『鬼化』するほどに濃密に洗練された血液操作技術のことを『血鬼術』と呼ぶこととする。

 

 

・2.人の消化吸収と鬼の消化吸収の比較から推測する鬼の食性の原因。

……人の消化吸収の様子と鬼の消化吸収の様子を、私自身の目で深く穿(うが)ち見て、比較してわかったことは“鬼は自力で栄養を精製できていない”ことだ。

どういうことかというと。

人は食事すると腹の中で食べたものを溶かし極めて微細な単位の栄養に分解し、吸収され、血液などによって全身に巡らせることにより、栄養の摂取を行っている。

しかし、鬼の腹の中に入った食事は溶けはすれども、栄養に分解することなく食事などなかったかのように消却されるのだ。栄養は精製されずに、当然吸収されず、全身に栄養が巡ることもなく、そのままでは飢えてしまう。

観察すれば、鬼の腹が、まったく人の食事から、栄養が取れていないというわけではない。わずかに食事に含まれる、分解せずとも初めから分解されていた栄養は、鬼の腹から吸収させ、全身に巡っていた。

つまり、“口に入るよりもまえから、微細な単位の栄養の状態に分解されていれば、鬼は栄養を摂取できる”ということである。

結果、“すでに分解された状態で、人体(鬼化するまえのベースとなった種族の体)に必要な栄養を大量に保持している人の血肉を食べることが、鬼にとってもっとも効率的な栄養摂取の方法”になってしまう。

このことが、鬼の食性の原因になっている可能性がある。

 

※ただ、明らかに飢えとは別の(じく)として、“これを食えば強くなれる。だからこれは旨い”というような判断基準があることも、ミーコ本人が語る所感(しょかん)から(うかが)える。

 

 

・3.不死性と再生能力はどのようにして実現しているのか。

……正確にはわからない。

ただ鬼の体は人の体と比較して、血液を始めとした体液の循環速度が極めて速いことは、観察することにより判明している。

それが不死性や再生能力、さらには身体能力の向上や環境適応能力の向上になんらかの形でつながっているのかもしれない。

 

※なぜなのかは不明ながら、“鬼の肉体は部位で切り離しても、ある程度は自律して生存し続けることが可能であること”、“本体からの操作が可能であること”が確認されている。

非常に危険なことであるが。

これを応用して、“鬼の血肉を、鬼になる前のベースとなった同族もしくは近似種族へ与え、体内から同調・操作することで鬼化させることが可能である”と思われる。

本当に可能なのかはわからない。

対象の肉体を乗っ取ってしまう、対象を捕食し尽くしてしまう、切り離した血肉が意思的にも自律してしまう、などの危険性があるため、まだ試していない。

 

 

・4.太陽光への弱性の、感覚的考察。

……今世鬼になって感じたこと・気が付いたこととして、鬼になると人のときと比べて“目が(あら)くなる”――肉体の細密度が低くなる――ようだった。

これは魔力という、極めて微細な単位の質料を扱っていたから、気が付けたのだろう。

肉体を構成する血肉の一粒一粒が、鬼のものは人のものに比べて大きく、構造も人より鬼のほうが大雑把にできている。

だから、鬼は、太陽の光の()けつくような目が細かい熱に、弱いのではないだろうか?

ツボを人間、カゴを鬼、太陽の光を水として。ツボで水が漏れるのを防げるが、カゴで水が漏れるのを防げないようなもの。

鬼は、肉体の目が粗くなり、目が細かい光の熱を防ぎ損ねて、それがダメージになっているのではないだろうか?

憶測でしかないが。

 

 

・5.鬼から人に戻ることは可能なのか。

……可能である。

むしろ、人に戻ることが可能であると確信したため、鬼化に踏み切った。

呼吸術の痣による人体の損傷を、二年以上もかけて修復。それにより、人体と人体の修復手段への理解を深めた結果、“鬼化し肉体が変質しても、人体を再構築すれば戻れるはず”という確信を抱いた。

そして、実際に私は鬼化し、人体を再構築し人間に戻る、ということを何度も行い成功している。

鬼化と鬼から人間に戻る(以後、人化)感覚を忘れないように、鬼化と人化の反復訓練を行っていると、思わぬ効果があった。

一体どこに記録されているのかわからないが、鬼化と人化を繰り返し行っていると“癖のようなものができて瞬時に鬼化と人化を切り替えられる”ようになったのだ。

これは嬉しい誤算だった。

 

※以後、鬼が人体(もとのベースとなった種族の体)を再構築して人にもどることを『人化』、『鬼化』と『人化』を反復経験し、癖ができて『鬼化』と『人化』を瞬時に切り替えることができるようになった者のことを『鬼人(きじん)』と呼ぶこととする。

 

 

〇備考・注意

 

 

・鬼化による精神作用

……いまのところほぼ確実に、同族や近似種族への捕食欲求が生まれるため、意図して鬼化を行う際は鬼化する者よりも圧倒的に強い者の立ち合いが必要。

一生、同族食いを続けたくないのならば、鬼化するよりままえに、自らの肉体とその修復手段について高い理解と実行できる能力が必要。

 

 

・鬼化の副作用

……鬼化をすると、自然に歳を重ねなくなる。より正確に言うのなら、はっきりとした寿命がなくなるようだ。

死ぬまでが寿命で、死んだときが寿命、といった具合。それまで、幼い姿だったり老いた姿だったり、それぞれの個性にあった姿を取るのだろうと思われる。

強いてやらなければ、鬼化したときの肉体年齢のまま、成長もしないし老化もしない、若返りもしない。

これは、『鬼化』の癖が付いた『鬼人』もおそらく同じ状態にある。

 

 

・『血魔術』と『超覚醒』

……ベアトリクスが『血鬼術』と『鬼化』という言葉はなんか使いにくいから、と言って代わりに『血魔術』と『超覚醒』という単語を提案してきた。

由来を訊ねると、『血魔術』は、血を使って伝承の魔女の魔術みたいな超常現象を起こすから。

『超覚醒』は、たまに現れるちょっと強い刺客が自分のことを、覚醒者、覚醒者と呼んでくるのに頑なに覚醒者が何なのか教えてくれない。鬱陶(うっとう)しいから、これからは自分から覚醒者を超えた『超覚醒』者を名乗ろうと思うから。

好きにすればいいと言っておいた。私は『血鬼術』と『鬼化』のほうが馴染み深いため、そちらを使おうと思う。

ちなみに、そんなことを言い出すだけあり、ベアトリクスはあっさり『鬼化』と『人化』を習得して、『鬼人』になっている。

 

 

 

「うむ。あとは、単語の一覧をつくろうとしていたのだったな」

 

「ぷはぁ! ぅえへへへ……やっぱご主人さまの血やべぇうめぇ……。

これずっと飲めるなら、鬼サイコーじゃん。人化習得とかマジカス……やる気でねぇ……」

 

 

食事を終えたミーコを適当に床に転がして、羊皮紙の最後に一項だけ書き足す。

 

 

 

〇単語一覧

 

・『鬼』……『鬼化』により変質した生命体のこと。

肉体を成立させている魔力以上に高い密度で練り上げられた魔力ならば、不死性や再生能力を阻害可能。

さらには基本的に、太陽の光や微細に震える熱に弱くなる。

食物からの栄養の精製がほとんど自力でできなくなる。

 

・『鬼化』/『超覚醒』……血液操作技術を極めた上で、生来の本能や反射を上書きするほどの深度で肉体を変質させること。

血液操作技術への極端な最適化。

 

・『血鬼術(けっきじゅつ)』/『血魔術』……『鬼化』するほどに濃密に洗練された血液操作技術のこと。

血鬼術を成立させている魔力以上に高い密度で練り上げられた魔力ならば、根底の法則に直接干渉可能。

どんな血鬼術も無敵ではない。

 

・『人化』……鬼が人体(もとのベースとなった種族の体)を再構築して人に戻ること。

 

・『鬼人(きじん)』……『鬼化』と『人化』を反復経験し、癖ができて『鬼化』と『人化』を瞬時に切り替えることができるようになった者のこと。

 





まとめ

・黒猫獣人(鬼化済み)が仲間になった。

・クレア成り代わり転生黒死牟さんが『鬼化』を習得し、自力で人間に戻る『人化』も習得して、ハイブリッドな生命体になった。

・ベアトリクスが『呼吸術』と『血鬼術』、『鬼化』と『人化』をあっさり習得して、故郷に帰った。
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