誤字報告、ありがとうございます。
魔剣士協会は基本的に15歳以上でないと、依頼を
実力者に対して例外を認めることがあるとしても、限度がある。
例外を認めたとしても、ある程度は信用や責任能力が必要になるため、11歳以上でないと依頼を請けられない。
それでも、現在9歳の私が魔剣士協会の依頼を請けることができるのは、ひとえに『武神』ベアトリクスのおかげである。
ベアトリクスが故郷に帰るまえに、
――「この子、しばらく一人で修業するから。依頼を受けさせてあげてくれないかな?」
と、協会と直接交渉してくれたおかげだ。
嘘は言っていない。
言いまわしが誤解を
おかげで、『武神の弟子』という二つ名が付いてしまったが、低ランク~中ランクの依頼を請けることができている。
保証人の件といい、いろいろと世話になり過ぎている気がする。
いつか、この恩を返せればいいのだがな。
「はい。では、依頼名『クィモーノ領に深夜に現れる盗賊退治』を、ベアトリクス様名義で代理人クレア様が受諾。手続き完了しました」
「うむ、今夜中に済ませて来る」
「ご武運を」
ニコニコと笑顔で見送る受付に背を向けて、魔剣士協会の建物を
このように、ベアトリクスがまだいたときも含めて、たいていの討伐依頼は
いまさら、実力を疑われることはない。
ただ、『武神の弟子』という二つ名を得たことによるものか。
私が剣を振るうときに用いる呼吸術やその型、血液操作や血鬼術。
それらの技術が、『武神』が弟子にだけ教えた
これについては、何度も違うと
――“はいはい、わかってますよ。『武神』が習得していることを明かすことすら禁止されているほどの、秘伝なのですね。”
みたいな反応をされて、取り合ってもらえない。
呼吸術は
こちらもいつか、どうにか訂正したいものだ。
あれこれと、考えながら街を出て、道なき道を走り、目的地へ一直線へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
依頼内容は、決まって一週間に一度の深夜に、どこからともなく現れる盗賊を退治してほしい、というもの。
盗賊らの
まずは、依頼にある盗賊を探すところから始めなければならない。
そのため、深夜、事前情報で得た最近盗賊に襲われたという村の周辺を、注意深く走り回っていた。
のだが。
(――大量の、血のにおい)
耳を
むしろ、草木まで何かに
(――手遅れだったか……?)
ほぼすべての者が息絶えている。
そして、おそらく生きている者は片手の数で数えられるほどしかいない。
――つまり、盗賊はすでに襲撃を済ませ
大量の血のにおいと死臭、異様な静けさからは、そういったことが想像できた。
(――依頼は失敗か……。せめて、襲撃に
「はぁ……」
私は依頼の失敗を
死んでいたのは盗賊だった。
統一性がない防具と剣。
衛生面に一切、気を
奪うことに慣れた
おそらく、盗賊のものと思わしき死体が、林に
死体の
私はそれに気が付いた時点で、自身ができる最大の隠密を行った。
ミーコが
息も熱も音も魔力も自然の流れに溶けこませれば、気が付く者はまずいない。
その状態で、この集落の中で唯一の生きた人間の気配がある場所へ向かう。
「
近付いて、声が聞こえたとき、内心ではビクリとした。
もちろん、表には出さないが。
上弦の月。
それは私がクレアになるまえの、前世の私に付けられていた称号だ。
偶然だろうが、このタイミングで口に出されたことに、わずかに
(――まだまだ、未熟よな……私は、いつまで経っても……
見上げれば、なるほど、その者の言うとおり、背中を
上弦の月だ。
「ほぅ、美しいな……」
独り言なのだろう、心底から
(――
そういった態度や、
賊を殺めたのは彼で間違いないのだろうが、それはむしろ
(――事の経緯を
そう、声をかけようと、ごくわずかに気を抜いたところを狙ったかのように、
「何者だ? それで、隠れているつもりか?」
(――ッ!!)
その者が振り返りもせずに、背後へ向かって意識を向けた。
そう、声をかけようとして、その者の背へ一歩目を踏み出した私に向かってだ。
(――気取られている? これほど、
私の内心の動揺に気が付いているのか、いないのか、その者はこちらへ意識を向けたまま動かない。
(――背後を取られているというのに、なんという
いくら、意識を向けているとはいえ、正面でないということは、もしも私から攻撃を仕掛けられたとき、対応するのに一刹那の遅れは避けられないだろう。
それがわかっていてなお、まるで
(――それほど自信があるということか)
これほどの剣士。
ここで隠れたまま立ち去るほど、私は
そうありたい、と思っている。
「……」
私は、彼の正面に回って、隠密を解いた。
彼は、当然とばかりに軽くうなずくだけで、私に
「なぜ……わかった?」
誰にも
「
「殺気……」
殺気が漏れる、とは言っても、それは本当に身体の内から心や感情が漏れているわけではあるまい。
動きや立てる音、息遣いなどが荒々しかったり、なんとなく
――はずだ。
前世で関わった、闘気を察知できるという鬼でも、一切無駄がない動きをする者の闘気が読めないという弱点があった。
「息も熱も音も魔力も、自然に
少なくとも私はそういう認識であった。
まだ、隠せていないものがあったのだろうか?
「
「月……」
(――影でもどこかに伸びていたのか……?)
「
(――いや、この言い分、まさか、本当に?)
「っ! 心を読んだ、というのか……?」
その者は、まだ十歳にも満たないだろうに。
幼さに不相応な、
殺気が漏れる、という言葉通りに。
本当に漏れている
――“お前が存在していると、この世の
ふと、なぜだか、前世の自分の情けない声が聞こえた気がした。
それとこれとは別だろう。
「名は……なんという? 私は……クレア、という」
「名か……そうだな。――るろうに……るろうにミノル、と名乗っておこうか」
「
流浪人ミノル。
(――それが、私が知らぬ術を持つ、私が知らない世界を見ている者の名か)
「
「ほぅ……」
気分が
この者――ミノルから感じられる、どこか
敵意なのか、殺意なのか、悪意なのか、好意なのか、敬意なのか、愛なのか。
とにかく、戦わなければならない、と全身全霊が
「わかった。いいだろう」
ミノルはゆるりと腰の剣を抜いた。
速くなくても早い。
洗練された最短の動き。
音もなく抜く所作は達人じみている。
わかっていたが、やはりかなりの使い手のようだ。
ちなみに、転生黒死牟さんのコミュ力とか語彙力とかは日々、成長しています。
ベアトリクスに言葉や文字を習って
饒舌になったり、横文字を普通に使うようになったり、三人称に「彼」とか「彼女」とか使うようになったりしています。