おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

22 / 38

誤字報告、ありがとうございます。



EX3.そんなことが可能なのか?(1/3)

 

魔剣士協会は基本的に15歳以上でないと、依頼を()けることができない。

 

実力者に対して例外を認めることがあるとしても、限度がある。

例外を認めたとしても、ある程度は信用や責任能力が必要になるため、11歳以上でないと依頼を請けられない。

 

 

それでも、現在9歳の私が魔剣士協会の依頼を請けることができるのは、ひとえに『武神』ベアトリクスのおかげである。

 

 

ベアトリクスが故郷に帰るまえに、

 

――「この子、しばらく一人で修業するから。依頼を受けさせてあげてくれないかな?」

 

と、協会と直接交渉してくれたおかげだ。

 

嘘は言っていない。

言いまわしが誤解を(まね)くだけで。

 

 

おかげで、『武神の弟子』という二つ名が付いてしまったが、低ランク~中ランクの依頼を請けることができている。

 

保証人の件といい、いろいろと世話になり過ぎている気がする。

 

いつか、この恩を返せればいいのだがな。

 

 

 

「はい。では、依頼名『クィモーノ領に深夜に現れる盗賊退治』を、ベアトリクス様名義で代理人クレア様が受諾。手続き完了しました」

 

「うむ、今夜中に済ませて来る」

 

「ご武運を」

 

 

ニコニコと笑顔で見送る受付に背を向けて、魔剣士協会の建物を()る。

 

 

このように、ベアトリクスがまだいたときも含めて、たいていの討伐依頼は(なん)なくこなして来たため、依頼手続きはスムーズに完了する。

 

いまさら、実力を疑われることはない。

 

 

ただ、『武神の弟子』という二つ名を得たことによるものか。

 

私が剣を振るうときに用いる呼吸術やその型、血液操作や血鬼術。

それらの技術が、『武神』が弟子にだけ教えた秘伝(ひでん)の技術ということに、いつの間にかなってしまっている。

 

 

これについては、何度も違うと訂正(ていせい)を試みているのだが、

 

――“はいはい、わかってますよ。『武神』が習得していることを明かすことすら禁止されているほどの、秘伝なのですね。”

 

みたいな反応をされて、取り合ってもらえない。

 

 

呼吸術は縁壱(よりいち)が、血鬼術(けっきじゅつ)はあの御方(おかた)開祖(かいそ)であることを知る身としては、とても歯痒(はがゆ)い。

 

こちらもいつか、どうにか訂正したいものだ。

 

 

 

あれこれと、考えながら街を出て、道なき道を走り、目的地へ一直線へ向かった。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

依頼内容は、決まって一週間に一度の深夜に、どこからともなく現れる盗賊を退治してほしい、というもの。

 

盗賊らの本拠地(ほんきょち)を突き止め、殲滅(せんめつ)まで済ませたのならば、追加で報酬(ほうしゅう)を出すとも書いてあった。

 

 

まずは、依頼にある盗賊を探すところから始めなければならない。

そのため、深夜、事前情報で得た最近盗賊に襲われたという村の周辺を、注意深く走り回っていた。

 

 

のだが。

 

 

(――大量の、血のにおい)

 

 

(くだん)の襲われたという村――いまは廃村――から、走って一時間くらいのところで足を止めた。

 

 

耳を()ますが、騒がしいということはない。

むしろ、草木まで何かに(おび)えるように静かだ。

 

 

(――手遅れだったか……?)

 

 

ほぼすべての者が息絶えている。

そして、おそらく生きている者は片手の数で数えられるほどしかいない。

――つまり、盗賊はすでに襲撃を済ませ撤退(てったい)した。

 

 

大量の血のにおいと死臭、異様な静けさからは、そういったことが想像できた。

 

 

(――依頼は失敗か……。せめて、襲撃に()った村の様子だけでも調査して報告せねば……)

 

 

「はぁ……」

 

私は依頼の失敗を(さと)り、血のにおいがするほうへ静かに走った。

 

 

 

 

死んでいたのは盗賊だった。

 

 

統一性がない防具と剣。

 

衛生面に一切、気を(つか)っていない身なり。

 

奪うことに慣れた(ゆが)んだ顔立ち。

 

 

おそらく、盗賊のものと思わしき死体が、林に(かこ)まれた集落(しゅうらく)無造作(むぞうさ)に転がっていた。

 

死体の(きず)の切り口からは、かなり鋭い斬撃で殺されたことが(うかが)える。

 

 

私はそれに気が付いた時点で、自身ができる最大の隠密を行った。

 

ミーコが曖昧化(あいまいか)の血鬼術で行う隠密を参考に、技術に落としこんだ隠密。

 

息も熱も音も魔力も自然の流れに溶けこませれば、気が付く者はまずいない。

 

 

その状態で、この集落の中で唯一の生きた人間の気配がある場所へ向かう。

 

 

上弦(じょうげん)の月……か」

 

 

近付いて、声が聞こえたとき、内心ではビクリとした。

もちろん、表には出さないが。

 

 

上弦の月。

それは私がクレアになるまえの、前世の私に付けられていた称号だ。

 

偶然だろうが、このタイミングで口に出されたことに、わずかに動揺(どうよう)してしまった。

 

 

(――まだまだ、未熟よな……私は、いつまで経っても……縁壱(おまえ)にかなわない)

 

 

見上げれば、なるほど、その者の言うとおり、背中を()かせた月が西のほうに浮いている。

 

上弦の月だ。

 

 

「ほぅ、美しいな……」

 

独り言なのだろう、心底から感嘆(かんたん)したような声を()らした。

 

 

(――()しき者ではなさそうか……?)

 

 

そういった態度や、(おだ)やか気配にそう判断する。

 

賊を殺めたのは彼で間違いないのだろうが、それはむしろ(たたえ)えられるべきことだ。

 

(とが)めるようなことではない。

 

 

(――事の経緯を()いて、同意が得られるのなら協会に同行を願おう)

 

 

そう、声をかけようと、ごくわずかに気を抜いたところを狙ったかのように、

 

「何者だ? それで、隠れているつもりか?」

 

(――ッ!!)

 

その者が振り返りもせずに、背後へ向かって意識を向けた。

 

そう、声をかけようとして、その者の背へ一歩目を踏み出した私に向かってだ。

 

 

(――気取られている? これほど、緻密(ちみつ)に重ねた隠密を?)

 

 

私の内心の動揺に気が付いているのか、いないのか、その者はこちらへ意識を向けたまま動かない。

 

 

(――背後を取られているというのに、なんという胆力(たんりょく)……)

 

 

いくら、意識を向けているとはいえ、正面でないということは、もしも私から攻撃を仕掛けられたとき、対応するのに一刹那の遅れは避けられないだろう。

 

それがわかっていてなお、まるで微動(びどう)だにしない。

 

 

(――それほど自信があるということか)

 

 

これほどの剣士。

 

ここで隠れたまま立ち去るほど、私は()ちていない。

そうありたい、と思っている。

 

 

「……」

 

 

私は、彼の正面に回って、隠密を解いた。

 

彼は、当然とばかりに軽くうなずくだけで、私に焦点(しょうてん)を合わせた。

 

 

「なぜ……わかった?」

 

誰にも看破(かんぱ)されることはない、と思っていた私はつい(たず)ねてしまう。

 

 

殺気(さっき)がだだ漏れだ」

 

「殺気……」

 

 

殺気が漏れる、とは言っても、それは本当に身体の内から心や感情が漏れているわけではあるまい。

 

動きや立てる音、息遣いなどが荒々しかったり、なんとなく(かた)かったり、そういったものをひとは殺気と呼ぶ。

――はずだ。

 

前世で関わった、闘気を察知できるという鬼でも、一切無駄がない動きをする者の闘気が読めないという弱点があった。

 

 

「息も熱も音も魔力も、自然に()けこませたつもりだったが……」

 

 

少なくとも私はそういう認識であった。

 

まだ、隠せていないものがあったのだろうか?

 

 

今宵(こよい)の月にはあまりにも、無粋(ぶすい)にすぎた。ただ、それだけのこと……」

 

「月……」

 

 

(――影でもどこかに伸びていたのか……?)

 

 

風情(ふぜい)の中に野暮(やぼ)がある。それは、()()()だろう?」

 

 

(――いや、この言い分、まさか、本当に?)

 

 

「っ! 心を読んだ、というのか……?」

 

 

その者は、まだ十歳にも満たないだろうに。

幼さに不相応な、(あや)しい笑みを浮かべた。

 

 

殺気が漏れる、という言葉通りに。

本当に漏れている殺気(こころ)を感じられる者がいたというのか?

 

 

――“お前が存在していると、この世の(ことわり)(くる)うのだ” 

 

 

ふと、なぜだか、前世の自分の情けない声が聞こえた気がした。

 

 

それとこれとは別だろう。

 

 

「名は……なんという? 私は……クレア、という」

 

「名か……そうだな。――るろうに……るろうにミノル、と名乗っておこうか」

 

流浪人(るろうにん)ミノル……ミノル……」

 

 

流浪人ミノル。

 

(――それが、私が知らぬ術を持つ、私が知らない世界を見ている者の名か)

 

 

一手(いって)仕合(しお)うてもらえまいか」

 

「ほぅ……」

 

 

気分が乱高下(らんこうげ)しているからだろうか、自分でもよくわからない感情の歯止めが効かない。

 

この者――ミノルから感じられる、どこか(なつか)かしいにおいも、私の心を(みだ)している要因かもしれない。

 

 

敵意なのか、殺意なのか、悪意なのか、好意なのか、敬意なのか、愛なのか。

 

 

とにかく、戦わなければならない、と全身全霊が(わめ)いていた。

 

 

「わかった。いいだろう」

 

 

ミノルはゆるりと腰の剣を抜いた。

 

速くなくても早い。

洗練された最短の動き。

 

音もなく抜く所作は達人じみている。

 

 

わかっていたが、やはりかなりの使い手のようだ。

 





ちなみに、転生黒死牟さんのコミュ力とか語彙力とかは日々、成長しています。

ベアトリクスに言葉や文字を習って
饒舌になったり、横文字を普通に使うようになったり、三人称に「彼」とか「彼女」とか使うようになったりしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。