おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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クレア視点→シド(ミノル)視点


EX4.いや待て、もしも縁壱ならできてもおかしくない。(2/3)

 

「まずは、軽く……」

 

「ウォーミングアップと行こうか」

 

 

軽く振るわれた剣筋に、私も抜いた刀で応じる。

 

 

――ィッ、ッィッ、ィッ

 

 

互いに手の読み合い、手の(つぶ)し合い。

 

受け流してカウンター、ペースを上げていく中でも相手の隙を突くのはやめない。

 

 

体勢を変える。

 

リズムを変える。

 

足を半歩前に出して。

 

位置を微妙にズラして。

 

 

より相手の意表を突く。

 

余白(よはく)を詰めて、逃げ場を奪う。

 

 

――ッ、ィッ、ィッッ、ッ

 

 

まだ、つばぜり合いには足りない。

 

鋼がこすれる音だけが連続する。

 

 

ミノルの剣を一言で言い表すなら、合理の剣、だろうか。

 

 

身体の姿勢、身体の動かし方。

剣の構え方、剣の振り方。

目の配り方、意識の配り方。

吸う息の量と吐く息の量に呼吸のリズムまで。

 

構成するすべてが、合理を体現(たいげん)している。

 

 

いまを確実にしのぎ、次の手また次の手につなげることを考えて、構築された極めて合理的な剣術。

 

 

一瞬、一瞬が布石(ふせき)(かたまり)

いつでも、攻めにも守りにも逃げにも入れるように、布石を集約(しゅうやく)させた剣だ。

 

 

途切れることなく、次手(じて)(つむ)がれていき、流れるように戦闘が展開される。

 

 

(――美しい。そして、おそろしい)

 

(――あくまで無機的に相手を追いつめる。けれど、何も考えないわけではない。こちらが慣れるや否や、その慣れを突いて切り(くず)しにくる)

 

(――一体、どんな頭があって、鍛練をして、経験を積めば、こうなるのか)

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

戦いは、ギリギリを攻めればいいってものじゃない。

 

 

攻撃のために守りを捨てて、守りのために攻撃を捨てて。

 

それゃあ、そうしたほうが威力や防御力は出せるんだろうけども。

 

実際は、そんなに極端に比重を(かたよ)らせれば、深みがなくなり、対応しやすくなる。

崩しやすくなるのだ。

 

だから、戦いは(がけ)っぷちを歩くのが最適解なんて、単純な話ではない。

 

 

――ィッ、ッィッ、ッィッ、ィッ

 

 

けれど。

それでも、限られたリソースを割り振るからには、どうしてもギリギリを攻めるほうが速く、早く、強くなる。

 

 

道場の娘さん――クレアの剣は、このギリギリを攻めるという点において、間違いなく僕よりも格上だ。

 

 

上手い。

隙がない。

洗練されている。

 

確かに技はすごい。

けど、それ以上に、立ち回り方に尋常(じんじょう)ではない経験値を感じる。

 

 

鍛練だけでは技を(みが)くことはできても、カンを磨くことはできない。

 

術理に落とし込めない、細かな立ち回りに、一朝一夕(いっちょういっせき)では身に着けられないカンの良さを感じる。

 

 

――ィッ、ィッッィ、ッィッ

 

 

対する僕は、前世の世界の長い歴史の中で発展した、現代のあらゆる武術を複合した剣。

 

交流と多様性、競争(きょうそう)と進歩、淘汰(とうた)と選定、理屈と科学を重ねて研鑽(けんさん)された人類の叡智(えいち)(こう)する。

 

 

――ィッィッ、ッィッィッ、ッィッ

 

 

が、正直、このまま速さを上げられてしまうと、遠からず対応できなくなる。

 

早い話が負けが見え始めているのだ。

 

 

研究中、検証不足、経験不足、時間不足。

 

いくらでも言い訳は()いてくるけども、そのどれも情けなさすぎて笑えない。

 

 

(――陰の実力者が弱いことに理由があるか? 否、そんなものはない。なぜなら、陰の実力者は弱くないからだ)

 

(――陰の実力者が負けることに理由があるか? 否、そんなものはない。なぜなら、陰の実力者は負けないからだ)

 

 

言い訳なんてもってのほか。

 

 

つまり、弱いのもあり得ないし、負けるのもあり得ないのだ。

 

 

(――勝機(しょうき)見出(みいだ)せ、シド・カゲノー――いや、るろうにミノル。

まがりなりにも実力者っぽい名前を名乗ったからには、相応の実力を示せ)

 

 

(――観察する。

何かないか)

 

 

――ィッィッッ、ィッッィ、ィッン!

 

 

クレアの刀を(はじ)いて間を開けて、足もとに転がっていた盗賊の剣を()り飛ばす。

 

剣はくるくる回転しながら、クレアへ一直線に向かった。

 

 

――キンッ! キン!

 

 

その剣をクレアが弾き返すときには、すでに僕は他の盗賊産の剣をクレアへ向かって蹴っ飛ばしていた。

 

 

そのまま、クレアから目を離さないように、されど距離を取りながら、盗賊の剣を蹴り飛ばすのを繰り返す。

 

 

(――観察する。

クレアのあの身体能力、本当に魔力だけのものか?)

 

 

クレアと一瞬、目が合った。

 

 

――『卑怯(ひきょう)とは言うまい?』と、僕。

 

――『無論』と、クレア。

 

 

アイコンタクトでそこまではっきり意思疎通ができたかわからないけど、クレア的にもルール違反ではないと判断してくれているようだ。

 

 

林の(きわ)を、ステップを踏んで駆けまわり、盗賊の剣を蹴り飛ばす作業を続ける。

 

 

――キンッキンッ、キンッ!

 

 

クレアは僕を目で追いつつ、そのすべてを斬り払う。

初めは意表をつけても、すぐに慣れた様子で、クレアは飛んでくる剣を容易くあしらっていた。

余裕ができて、そろそろ攻勢に転じてきそうな感じ。

 

 

(――観察する。

純粋な身体能力か……いや、何か違う。なんだろう、これ?)

 

 

――キンッキンッ、キンッキキキンキン!

 

 

盗賊の剣の残弾も少なくなったところ。

 

クレアの姿勢が若干、前のめりになる。

次の瞬間には、僕へ向かって走り出しているだろう。

 

 

僕はクレアが攻勢に出ることを察知して、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

魔力を通した鋼糸(こうし)は、林の樹木の幹をスパッと斬りわけ、さらに広場の中心――攻勢に出ようとしていたクレアへ向かって高速で引っ張られる。

 

僕が、林の際を走りながら仕掛けたトラップ。

林の樹木を斬り倒し、広場の中心に猛スピードで突撃する、鋼糸を使ったトラップだ。

 

 

クレアに(せま)る数十本の丸太。

 

(――観察する。

やっぱり、魔力じゃない何かで身体能力が飛躍的に向上している……)

 

 

もちろん、これでクレアほどの剣士がどうにかなるとは思えない。

けれども、迎撃なり回避なりで必ず手を取られる。

 

僕はそこを突く。

 

それも、ただ樹木の隙間から攻撃するのでは、クレアの想定内だろう。

 

だから、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()、クレアへ迫る樹木のまえへ身を(おど)らせた。

 

 

「――っ?!」

 

 

これには、さすがに驚愕したようで、出会ってからずっと鋭く細まっていた目を見開いた。

 

 

僕はそんなクレアの驚愕にも、背中に迫る丸太にも構わず、クレアを本気で斬り殺すつもりで剣を振るう。

 

 

僕に対応すれば、あとから来る丸太への対応が遅れる。

丸太に対応すれば、僕はその隙を突いて君を斬る。

 

(――さぁ、どうする?)

 

 

そんな僕の策を、クレアは、

 

 

「ホオオオ……」

 

 

刀を構えて、

 

 

(――観察する。

息……?)

 

 

月の呼吸 伍の型 月魄(げっぱく)災渦(さいか)

 

 

一蹴(いっしゅう)した。

 

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