弟ガチャSSR、二連発
シド視点→三人称→クレア視点
百回くらい木が折れる音と、骨が折れる音を聞いた気がする。
右腕はあらぬ方向を向いているし、足は両方ともくるぶしから先がぐにゃってなっている――たぶん潰れている。
「いたたた……容赦ない――」
なぁ……、とつなぎかけた言葉は周りの惨状を見て引っ込めた。
並ぶ切り株、大地に刻まれた
あぁ、これ直に食らっていたら、致命傷だったな。
「――でもないか。手加減された上でこの
クレアの足音が聞こえる。
歩いてこちらに向かってきているようだ。
もう、僕が抵抗できないと思って油断しているのか、それとも――
「これじゃあ、ぜんぜん、陰の実力者じゃない……」
――まだ、僕に何かあると思って期待しているのか。
「じゃあ、その期待を上回るくらいじゃないと、陰の実力者じゃないね」
魔力による全力回復、アンド、オーバードライブ。
いよいよ近付いて来ていたクレアに
剣は吹っ飛ばされたときに、どっか行った。
「やはり、まだ手はあったか」
「持て余す力は
「むっ、強い」
ハイになっているからか、口が軽い。
クレアのほうも、さっきまでの
オーバードライブはこの7歳の身体には負担が大きく、長持ちしない。
いや、そもそも、負担が大きくてバックダメージが入るから、オーバードライブなんて名前をしているわけだけれども。
ともかく、短期決戦用で無駄が多いこの技を、このタイミングで使いたくなかったけども、負けたら意味がない。
身体能力を上げて格闘戦に持ち込む。
これなら、まだ可能性があるんじゃないかと思ったけども。
そう、一筋縄じゃいかない。
「フッ、フッ! やっぱり! これでもっ! ダメかっ!」
「
パンチ、キック、ひざ、ひじ、タックルも
(――観察する。
ポイントは息。もう少しで何かを
「こちらからも、行くぞ」
「……っ!」
――カインッ!
クレアが振るった刀を、僕は
「棒? どこから……?」
「さぁねっ! 企業秘密、さっ!」
――カインッ! カインッ、カインッ!
黒い棒を振るって、どうにかクレアの刀を
きっと、決着を着けようと思えば、いつでもあちらは決着を着けられるんだろう。
それをしないのは、僕にまだ引き出しがあると思っているからだ。
(――そんなものはない、って。
これが戦いの場でなければ、るろうにミノルなんて名乗ってなければ、言ったんだけどなぁ……)
本命本番の陰の実力者ではないにしろ、修業中擬似的な陰の実力者ムーヴをかましたのだ。
たかが、ごっこ遊びと笑うなら、初めから陰の実力者を目指してはいない。
ぜったいに、勝つ!
(――観察する)
見ろ。
「みろ……っ」
「……?」
――カインッカインッ! カインッ!
見ろ、ミノル。
「みろ」
見て習得しろ、ミノル。
「みろっ!」
いまこの場で成長するんだ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
直刀と棒が打ち合う中、
――カンッ!!
いっとう強く、黒い棒が直刀を弾いた。
「…………?」
すぐに距離を詰めようとしたクレアは、ミノルの様子にかすかに首を傾げる。
(――力を抜いている……)
ミノルは距離を取って、棒を下ろして、脱力していたのだ。
立ち姿には、さっきまでの
(――諦めたのか……? 違う。そうとは思えない)
外面上は、まるで、もう戦う気が失せたようなミノルの姿。
だけれども、クレアはそれを見て直刀の柄を握り直した。
直感がこれから始まる激闘を予知していた。
ミノルはまだ、諦めていない、戦いをやめてもいない。
(――何をする気だ?)
おそらくは、ここからが本当の戦い。
そうなる、予感をいまのミノルからクレアは感じ取った。
果たして、本当の戦いは
「カハッ!」
ミノルの
「 ミ エ タ 」
クレアは飛んできた、赤いそれを頭を傾けることで避ける。
横目で見えたそれは、赤い針。
においから、血でできた針とわかった。
(――吐血した血液を針にして飛ばしたのか)
クレアも血液を使った攻撃をよく使うので、正体はすぐにわかる。
(――? この、血のにおい……?)
それよりも、クレアが気になったのは血のにおい。
鬼化を習得してから、もともと鋭かった嗅覚はさらに鋭くなり、特ににおいに対しては敏感になっていた。
その嗅覚が、ミノルの血のにおいとクレアの血のにおいの相似性を
(――まさか……!)
クレアが衝撃の事実に気が付こうとしていたとき。
夜の静けさにまぎれる
「ィァァァ……」
高い呼吸音。
それは、ミノルの口から発せられていた。
小さいのに、夜の闇に警鐘を鳴らすような高い音だった。
月の呼吸 壱ノ型
激闘を予感していたことが幸いした。
ミノルが黒い
放たれた弧状の斬撃が、ミノルが持つ
「刀……?」
斬り別けられた。
器用な者なら、手刀でも何かを斬ることは可能かもしれないが、ミノルの手にはちゃんと斬るための得物が握られていた。
柄も刀身も真っ黒な刀だ。
「これ……失敗作でさ。強度は高くなったけど、柔軟性も魔力浸透率もダメダメなんだよねぇ……」
ふぅ、と息を吐きながらミノルは軽く黒い刀を振るう。
それは、彼が研究中の、武器と防具を兼ねた万能装備の失敗作だった。
「おかげで、刀にするのに時間かかったよ」
ミノルは、ははっ、と軽く笑って。
「ここから本気ね」
と、言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(――いまのは、型、なのか……? それにしては……)
「ホオオオ……」
「ィァァァ……」
月の呼吸 弐ノ型
人間の呼吸 其の一 一刀・三連
(――構えが無さすぎる)
「ホオオオ……」
「ィァァァ……」
月の呼吸 参ノ型
人間の呼吸 其の二
この受け流しもそう。
(――前触れも
(――予兆も
余計なものを一切、排除した剣。
必要なものだけを選びとり、それ以外を切り捨て、我がものにしてしまう、
「ホオオオ……」
「ィァァァ……」
月の呼吸 肆ノ型
人間の呼吸 其の三
及び
其の二 暖簾
(――目的のために手段を選ばず、聖域を暴き、神の
(――その
(――まるで、人間のようだ)
「ホオオオ……」
「ィァァァ……」
月の呼吸 伍ノ型
人間の呼吸 其の四
及び
其の一 一刀
「ホオオオ……」
月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮・
「ィァァァ……」
人間の呼吸 其の一 一刀
何より、おそろしいのが。
(――洗練されていっている、力強くなっていっている。戦いながら、成長している……!!)
その剣は徐々に鋭くなり、呼吸の速度や質が安定し始め、身体は無駄を無くして行っている。
まだ、余裕を持ってしのげているが、このまま技が磨かれ続ければ、わからなくなる。
そもそも。
(――呼吸はもともと習得していたのか? それとも、いましがた、習得したのか? 本当に?)
(――私と戦いながら? 私の呼吸を見て?)
(――そんなことが、可能なのか?)
「ホオオオ……」
「ィァァァ……」
月の呼吸 陸ノ型
人間の呼吸 其の三 心眼
及び
其の四 神速
及び
其の二 暖簾
(――では、このまるで、赤子が産声を上げたときのような輝きをどう説明する?)
「ィァァァ……」
「ホオオオ……」
人間の呼吸 其の五
月の呼吸 拾壱ノ型
(――
先ほど血のにおいを嗅いで気が付いたこともあってか。
私の予想をはるかに超えてくるその姿に、前世の弟を重ねてしまう。
縁壱。
もし、この少年の立場に縁壱がいたとしたらどうだろうか。
想像してみよう。
仮に前世、縁壱が生まれつき呼吸術を使っていなかったとして、さらに縁壱よりも先に私が呼吸術を開発し習得したのだとする。
縁壱なら後天的に呼吸術を見つけてもおかしくないし、前世の私にそれほどの才能はなかったが、奇跡的にそんな状況になったとする。
その上で、ある日初めて、私が習得した呼吸術の型を、
さて、どうなるだろうか?
その術理を私が説明するまでもなく、縁壱は一目見ただけで呼吸術を理解し、容易く習得するだろう。
翌日には、私以上に扱いこなせるようになっているのではないだろうか?
見てもいないのに、その光景が鮮明に想像できるのは、なぜだろうか?
その日、初めて見た呼吸術を見るだけで理解し、習得し、磨き上げる。
たしかに、縁壱なら可能なのだ。
(――つまり、“弟”ならできてもおかしくない? ?? ???)
「ィァ……ッ、ガハッ、ゴホッゴホッゴホッ」
呼吸のために息を吸う途中で、ミノルは
見れば、
上手く息ができないのだろう。
意識も
身体がゆらゆらと揺れて、私を
「ホオオ……ほぉ、ふぅ……。身体の限界か……ミノルよ」
「ハァ……ハァ……ハァ、ゴホッゴホッゴホッ、ァゴホッゴホッゴホッ」
血反吐の量はさらに増して、咳き込む姿が痛々しい。
顔色も青くなり、いよいよ死を目前に
その姿は、寿命以外で
いまの私よりも年下の、意地を張った少年だった。
(――私は、何をやっているのだ……。バカじゃないのか?)
「勝負なし、と言いたいところ……」
「カハッ。まだ……やれる……」
「その
私は早くこの仕合いに決着を着けるべく、ミノルの前へ一足で
――ザスッ
ミノルの刀が私の腹に刺さるのを、構わずに。
――コツッ
「ぁぅ、ぁ…………」
「――決着はもらおう」
倒れてくる小さな身体を抱きとめる。
「いつか、この
意識を失った身体に、まずは生命維持のため魔力を流し込んで、治療を開始する。
〇オリ呼吸、
……シド(るろうにミノル)が戦いの中で、生み出した呼吸。現代武術の多くに共通する概念を、より効率よくより高い出力で引き出すための呼吸。
呼吸だけで戦わなければならない、という縛りがない環境・状況で生み出したため、呼吸と魔力を合わせて使う前提で型を作っている。けど、呼吸だけで型を繰り出そうと思えば繰り出すことは可能。
・其の一
・其の二
・其の三
・其の四
・其の五