おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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ほとんど会話の回


19.新流派の産声

 

魔剣士協会の盗賊退治の依頼で訪れたクィモーノ領。

 

しかし、私が盗賊らを見つけたときにはすでにその者らは亡骸(なきがら)と化していた。

 

代わりに、ただならぬ力量をうかがわせる男――少年が一人(たたず)むのに遭遇(そうぐう)

 

どこか懐かしいにおいがする彼と、私はいくらかのやり取りを()わす。

 

そして、その底知れない実力を知りたくなった私は、彼に一つの頼みをする。

 

 

――「一手、仕合(しお)うてもらえまいか」

 

 

彼――ミノルはそれを了承。

 

 

初めは私が優勢だった戦い、実力を(はか)るために手加減をしていた私。

 

だが、ふとしたときミノルの雰囲気が変わる。

 

次の瞬間、これまでにはなかった太刀筋(たちすじ)で斬りかかってきた。

 

彼はなんと、戦いの中で呼吸術を習得し、自分なりの型を()み出し、私と渡り合い始めたのだ。

 

 

激化する戦いの中で、だが、一日(いちじつ)(ちょう)がある私のほうが有利だった。

 

ミノルの身体が幼いこともあって、長く続く戦いに体力と耐久力が限界を(むか)え、今回の戦いは私の勝ちとなった。

 

しかし、あえて言うのならば、これほどの才能。

あと数年もすれば、本気の私と互角(ごかく)の力を得ていても不思議ではない。

 

彼からはそれほどの才能と気迫(きはく)を感じた。

 

 

 

そういった経緯で私はいま、戦いの果てに倒れたミノルの治療を終わらせ――ついでに自分の治療も終わらせて――、(たたん)んだ(ひざ)に寝かせている。

 

 

ヴェラが膝枕と呼んでいた姿勢だ。

 

『世の男の誰もが喜ぶ、最高級の枕を体現する姿勢』らしい。

 

 

変なニュアンスを感じるが、まぁいいものならいいだろう。

 

 

「この血のにおい……やはり、姉弟か。遠くとも、いとこだろう」

 

 

戦いの中で気が付いたこと。

 

どこか懐かしいにおいを仕合(しあ)うまえから感じていたが、血のにおいを()いで懐かしさの正体はわかった。

 

 

最近、鬼化を試みて、さらに鋭くなった嗅覚が、私の血とミノルの血のにおいの相似性(そうじせい)を嗅ぎ取った。

 

これほど、似通った血のにおい。

かなり近しい関係だ。

 

最低でもいとこ、おそらく私たちは姉弟。

 

 

それが、こうして邂逅(かいこう)することとなるとは、なんとも因果(いんが)なものだ。

 

 

(――今世での弟との関係。因果だとするなら、前世での善因に心当たりがないから、悪因悪果となるのだろうか……?)

 

 

できることなら、今世でまで前世のような愚行(ぐこう)を重ねたくないのだが。

 

 

「ん……んん……。ん、あれ?」

 

 

私が答えの出ない考えを巡らせていると、膝の上のミノルが目を覚ました。

 

 

「あ。あ~……これ、もしかして、負けた?」

 

「勝った、私が」

 

「マジかぁ……マジか。うわ、マジか、うわぁ。負けたかぁ……ぜんぜんダメだな、僕」

 

「発展途上だな……修業が足らんかった。あと、身体の成長も足らんかった」

 

「ずけずけ言うね。同意だけど」

 

 

ミノルは目を覚ましてから、雰囲気や口調が変わった。

 

かしこまった場とそうでない場で、態度を分けているのだろう。

 

 

「前途ある者にとって、()びしろはありがたいものだ」

 

 

成長する余地(よち)があるというのは、天井に頭を打つよりはよほどいい。

 

 

「ああ、うん。今回の君との戦いで新しい戦術も得られたしね。あの息を使った能力強化って――え?」

 

 

ミノルは言葉の途中で、空を見上げた。

 

東から明るくなり始め、もう間もなく太陽が姿を見せるだろう。

 

 

「やばっ、帰らないと!」

 

 

がばり、とミノルは起き上がる。

 

その顔には(あせ)りが見えた。

 

 

「用事か?」

 

「そうとも言うし、そうじゃないとも……いや、うん、用事用事! ほぼ用事! だから、僕もう行くね!」

 

 

言って、ミノルは起き上がり、走り出そうとするが、

 

「っとと」

 

「平気か?」

 

 

小さな身体がふらつく。

 

私は彼の身体が倒れないように、支えた。

 

 

「ふらついている。急ぐなら、私がお前を抱えて運ぼう。――どこだ?」

 

「え? カゲノー男爵(てい)だけど。いいよ別に、これくらいなら一人で帰れるから」

 

「頼みを聞いてもらった礼、もしくは、補償(ほしょう)だ。これくらいさせてくれ」

 

「うーん。いや、いくら、いまの僕が子どもだからって、女の子におんぶされるのは――」

 

「では、行こうか」

 

「――は? (たわら)(かつ)ぎ? あっ、景色が流r――」

 

 

ミノルを肩に抱えた私は、ミノルの目的地らしいカゲノー男爵領へ向かって走り出した。

 

 

幸いカゲノー男爵領は、その隣の領地に足を運んだことがある。

 

 

カゲノー男爵領の領都や男爵邸がどこにあるかまで把握していないが、それは男爵領に入ってからミノルに聞けばいいだろう。

 

 

私は、朝焼けが()す荒れ果てた林を背にした。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

走っている途中、肩に抱かれる体勢は辛いからと変えて、背中におぶった。

 

 

「言いそびれていたが、礼を言う。この度の仕合(しあ)い、受けてくれたことに感謝する」

 

「どういたしまして。僕もとても有意義だったよ、ありがとう」

 

 

私は背中のミノルに礼を言った。

 

ミノルはそれに応えて、あっそういえば、と続ける。

 

 

「さっき、聞きそびれたんだけどさ。あの息を使った能力強化って、一子相伝(いっしそうでん)の技とかだったりする? 僕が習得してるとまずいとか……」

 

「協会の者たちのようなことを言うのだな」

 

 

ミノルの()いに協会の者たちのことを思い出し、苦笑いする。

 

みな、同じことを考えるものなのだろうか?

 

 

「そんなことはない。習得したいなら習得しても構わん。いまの私にそれを(はば)む理由はない」

 

「いまは、ってことはまえはあったの?」

 

「昔のことだ」

 

「あったんだ……」

 

 

前世のことだ。

 

あの御方の命で、日の呼吸の剣士を狩っていたからな。

 

 

今世でそんなことをする理由は、いまのところない

 

 

「『私たちはそれほど大そうなものではない』」

 

「なにそれ?」

 

「この呼吸術を開発した、いわば呼吸術の開祖(かいそ)の言葉だ」

 

「へー、あの能力強化、呼吸術っていうんだ。そのまんまだね。で、大そうなものではない、ってどういう意味?」

 

「いまも世のどこかで、その開祖すらもしのぐ才能を持つ者が生まれている。

だから、いずれ自分たちと並び、さらには超える者が現れる、という意味だ。

――自分たちがいなくなったのち、呼吸術を(あつか)いこなせるものが途絶えないか。などと、傲慢(ごうまん)な物言いをする開祖の兄へ、開祖が(おく)った言葉だ」

 

 

――“いつでも、安心して、人生の幕を引けば良い”

 

 

あとを(たく)して安心して死ぬ、ということを私はやろうとは思わないし、できそうもない。

 

が、才能うんぬんに関しては、前世の私をくだした者たちやいま背負っているミノルを見れば、同意できなくはない。

 

 

(――縁壱に届くのかは疑問だが……)

 

 

「開祖がそのような者であった以上、見習うべきだろう。――呼吸術を習得しているからと言って殊更(ことさら)ふんぞり返るようなこともなければ、才能ある者に教えるのを拒むものでもない」

 

「ふーん……」

 

 

「と、カゲノー男爵領だ。男爵邸にはどう行けばいい?」

 

「おっ、早いね。じゃあ、えっと――」

 

 

カゲノー男爵領の境界をまたいでから、ミノルの案内に従って道を進む。

 

 

とは言ってもこのあたりは自然豊かな田舎。

 

馬車やひとの通行の(あと)があるだけで、整備はされていない道は、複雑に入り組んでもいない。

 

大雑把な指示だけもらえば、あとは走るだけである。

 

 

「協会では、『武神』の秘伝と誤解(ごかい)されているのだがな……」

 

つい、ぼやく。

 

魔剣士協会でされている、呼吸術の開発者が『武神』ベアトリクスであるかのような誤解に。

 

 

「さっきの開祖の逸話(いつわ)とか広まってないの?」

 

「呼吸術は『武神』が開発したのではない、と何度も説明を試みているのだが、聞く耳を持たれない。

――いまのところ、『武神』と私しか使い手を見ないからか。秘伝と思われて、触れてはならないもののように扱われる」

 

()されてると思われているがゆえに、秘されていないことを伝えることもできない、かぁ……。

律儀(りちぎ)だねぇ、みんな」

 

「律儀?」

 

「だって『武神』? っていうひとの秘伝とかさ。知れる機会(きかい)があるなら、ぜひ知りたいと思うじゃん。覚えるかどうかはともかく。

僕なら知りたいし、覚えたくなると思う」

 

 

戦いをなりわいにして、力を求めている者なら知りたがるほうが自然に思える。

 

前世の私がその最たるものだったから、理解できる。

 

 

「む……たしかに。では、なぜ(いま)だに知ろうとする者も、覚えようとする者も現れない……?」

 

「それは、たぶん現れてるけど、(あきら)めてるが正しいんじゃないかなぁ」

 

「現れている?」

 

「そうそう、クレアや『武神』ってひとが戦ってる姿とか見て、秘伝を知ろうとしたし覚えようとしたけど。知ることも覚えることもできね~、ってなったんだと思う。

――そんで、表向きは秘伝って話が広まってるんでしょ? 直接聞けないから、ほら、諦めるしかない」

 

 

なるほど。

 

(――ならばやはり、ミノルのような、戦いながら、見るだけで理解し習得するような者は、そう多くないのだな……。

少し安心した。情けないことだが)

 

 

 

そんな話をする内に、地平線に街の外壁が見えた。

 

あれが領都か。

 

もうひと走りだな。

 

 

「誤解を解きたいなら、もっと積極的になってもいいかもね。――さっきみたいな逸話を広める……のは難しいって話だから。

え~と、実際に君と『武神』以外の使い手が現れれば、秘伝じゃないって言いやすくなるんだけど……」

 

 

私とベアトリクス以外の使い手。

 

 

メラを前面(ぜんめん)に出すのは、人生の選択肢を狭めることになるし、ミーコを目立たせるのも過去の罪が明らかになってしまいかねない。

 

 

使い手として喧伝(けんでん)するなら、関わりが薄いものが望ましい。

 

 

ならば、

 

「そうか、道場を開けばいいのか。それで私たち以外に使い手を育てれば、秘伝ではないことの証明になる……」

 

「そうそう。秘伝じゃなくて、新しい武術流派とか、護身術とかって言って教えればね。とりあえず、教えることはできるでしょ(たぶん)」

 

 

道の先の街の外まで着いた。

 

木陰(こかげ)になっているところに、ミノルを降ろす。

 

 

「と、ここでいいよ。ありがとね、送ってくれて。戦いとか、楽しかったよ。――次は勝つね?」

 

「こちらこそ、改めて礼を言う。また、会う機会があれば仕合おう。――歓迎(かんげい)する」

 

 

じゃっ、と手を()げて立ち去ろうとしたミノルは、あっと思いついたように足を止めた。

 

 

東の空を眺めながら、語り出す。

 

 

「?」

 

「――ときは太古(たいこ)の昔。まだ、夜がひとのものではなかった時代。

ある強大な種族に人類は支配されていた。

――それは、人の血肉をむさぼる夜の鬼(ヴァンパイア)。人類が到底、(かな)わぬ超越生命体」

 

「?!」

 

「人類は彼らに一方的に捕食され、たまに気まぐれで見逃される。そんな家畜(かちく)のごとき生活を送っていた。

 

彼らはあらゆる面で、人類の上を行く。

魔力の量では敵わない。

もちろん素の身体能力でも敵わない。

再生力も寿命の長さも人類よりもはるかに優れる。

人類は彼らに敵わない。

太陽という弱点はあるが、それはつまり、夜に出会おうものならその者の最期であるということだ。

 

――だから、魔力に頼らない能力強化の方法が、彼らを殺し尽くすための技術が、人類には必要だった」

 

「?!!」

 

「――そこに、まるで人々の願いを受けて生まれた救世主であるかのように、一人の奇跡的な天才が現れる。

彼こそがそう、呼吸術の開祖……」

 

「?!!! どこでっ、それを……?!」

 

 

「なんてね! ひとに覚えてもらえる話って、面白さも大事じゃん。

開祖を覚えてもらうには、流派の由来みたいな、それっぽくて面白い話があったほうがいいと思ってさ。

――じゃっ、改めて送ってくれてありがとね!」

 

 

今度こそ、笑顔でミノルは街へ走って行く。

 

朝日に照らされた後ろ姿がどんどん小さくなる。

 

 

「…………底知れぬな……」

 

 

一体、どこまで知った上で先程の話をしたのだろう。

 

(――私のことについてはわかって語った、と見ていいか?

わざわざ私に向かって語ったのだものな……)

 

 

すさまじい。

 

 

「また、(おり)を見て会いに来よう」

 

 

新しい武術流派というアイデアももらったのだし。

 

昨晩も、仕合いに付き合ってもらったのだし。

 

次、会いに来るときは何か礼の品を持って来たいところだな。

 

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