おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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22.鬼人(きじん)

 

九割方、推論になるが、何が起こったか説明すると次のようになる。

 

 

まず、魔力を精製するための中核、もしくは魔力を発生させる座標(ざひょう)のようなもの――これを仮に魔力座標と呼ぶとして。

 

出産するまえのヴェラは、体内のどこかにこの魔力座標を保持(ほじ)していた、あるいは、構築(こうちく)していたものとする。

 

 

しかし、何らかの要因で、出産時か出産直前に、ヴェラの魔力座標は実の娘であるメラに移った。

 

 

これにより、自分のものと母親のもの、魔力座標を二つ抱えることになったメラの体内では、別々の魔力同士が反発するような事態が発生。

 

その反発による問題に対処するために、母親の魔力座標に心臓という形を与えて、半ば隔離(かくり)することで、どうにか安定させた。

 

 

そして、その鬼化したメラがヴェラに血を飲ませ、眷族化したことで、メラの身体とヴェラの身体は肉体的・魔力的に接続。

 

メラが体内に保持している二つの魔力座標の内の片方――すなわち、心臓は本来の(あるじ)と接続したことで、融合。

 

 

結果、ヴェラは、メラの二つある心臓の内の一つに宿ることになった。

 

そういうものだと推察し、とりあえずの結論とした。

 

 

メラの血鬼術が突然発現・発動したのは、メラ本人の素質と、ヴェラが融合したことにより鬼としての力が急激に増大したことが原因と思われる。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「うわー、よく燃えてるっすねぇ、あたしの()(がら)

 

 

あっはっは、とベッドの炭を指をさして笑うヴェラ。

 

 

「さすが、あたしの娘、天才っすね」

 

嬉しそうに頷く。

 

ずっと、抱きつきっぱなしの娘の頭を()でた。

 

 

「ママ、ママぁ! ごめん、ごめんなさい!」

 

 

それに対して、慟哭(どうこく)を止めないメラ。

 

 

「何がっすか。あたしはこうやってピンピンしてるっす。謝るようなことなんて、ないじゃないっすか」

 

 

「死ぬとこだった!」

 

「結果よければ、ってやつっすよ。よかったんだから、よかったでいいんすよ、メラ」

 

 

「運がよかったんだよ!」

 

「じゃあ、それでいいじゃないっすか。もしも、こうだったらとかは、気が向いたとき、(ひま)なときに、考えればいいっす!」

 

 

「でもでもでもっ」

 

なおも言い(つの)ろうとするメラから、くぅと腹の虫が鳴く音がする。

 

 

「おなか空いたぁ……」

 

くしゃくしゃの泣き顔で、つい漏れたという風のメラのつぶやきに、

 

「ぷはっ、あっはっは! そりゃ大変っす、泣いてる場合じゃないっすね! あっはっは!」

 

「むぅぅ?」

 

笑ったヴェラにメラが不満げに(ほお)(ふく)らませて、空気が自然なものに戻った。

 

 

とはいえ、いまのメラは鬼化している。

 

たかが腹が減っただけ、と言うには、その内容は不穏(ふおん)なものだ。

 

 

「……お姉ちゃんおいしそう」

 

「……とりあえず、血だな。足りなければ、足りない分だけ肉だ」

 

 

メラの魔力操作、血液操作の練度から『人化』を習得するには二、三年の月日を有するだろう。

 

それまで、鬼としての食事を行うことになる。

 

 

とりあえず、ミーコがやっているのと同じ、プログラム。

 

少しずつ、自力で精製(せいせい)する分の栄養の割合を増やしていき、いずれ『人化』の完全習得を目指す、食事での訓練をやって行こう。

 

 

メラが、ヴェラの胴に回していた腕を解いて、私の首に手を回す。

 

離れていくとき、あぁ、とヴェラが(さび)しげに声を上げた。

 

 

「えっと、どうすればいいの?」

 

「ガブッ、と本能のままかぶり付いちゃってヘーキですよ~、お嬢さま。

ご主人さま丈夫なので、まず死にませんしィ。傷の具合も、こっちが飲みやすいようにチョーセイしてくれますから~」

 

と、ミーコがメラにアドバイスする。

 

ふふん、と得意げだ。

 

 

「じゃあ、いただきます」

 

「ゆっくり、飲め」

 

 

「――ガブッ、んっ……ん、ん、ん……んゃ?」

 

「一旦、飲み込んだほうがいい、(あふ)れている」

 

 

私に言われ、メラは口を離し、その(はし)から垂れている血を(ぬぐ)った。

 

ペロリと指に付いた血を()め取る。

 

 

「ぅん、ん……。もう一口」

 

「好きにしていい。まずは、どれくらいで自分が満足するのか、確認するのがいい……」

 

「うん――ガブッ、んっ、んっ、ん……」

 

 

(――しかし、メラまで鬼になってヴェラもメラと融合、となると、いよいよ私しか人間の血肉を供給できなくなったな……。

ミーコが『人化』を習得するには、もうしばらくかかるし……)

 

 

ただ、逆に言えば私だけが普通に食事を摂れていれば、ミーコとメラとヴェラには私の血肉を与えればいいということでもある。

 

かえって、食事の用意にかかる手間は減った、と言っていいだろう。

 

 

前世では自分がそれをやりながらも、人食いという行為に(おぞ)ましいという感想を抱いていた。

が、こうして見ると、鬼というのは一種類の食物だけで満足する、謙虚(けんきょ)な生きものに……いや、見えないな。

 

やっぱり、悍ましい。

 

 

「ご主人さま~ワタシも~☆」

 

メラに血を吸わせているのとは逆、後ろから黒猫が抱きつく。

 

(――猫なで声のお手本のような声だな……)

 

 

「お前は反省しろ」

 

「そんな無体な~」

 

 

メラはヴェラが許したので、私から何か言うことはするまいが、ミーコが不用意(ふようい)にヴェラの鬼化に協力したことは別だ。

 

 

いろいろな要素が重なって奇跡的にいい結果になったが、何か一つでも欠けていれば、ヴェラは普通に死んでいた。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

ヴェラが鬼化したメラと融合し、ヴェラの健康面での問題も一応は解決した、それから一年。

 

 

日射しに弱いとはいえ、身体が自由に動くようになったヴェラは、しばらく続いた不自由な生活で溜まった鬱憤(うっぷん)を解消するかのように活発に動きまわっていた。

 

 

(はかな)い様子で、死んでもいい、とか言っていたのが嘘みたいに、生命力に溢れている。

 

 

「じゃあ、じゃあ、お母さん、これやってみて! ヘビ! ヘビ!」

 

「ヘビっすかぁ、やたら、しぶとそうっすけど、合成素材としてはどうっすかねぇ」

 

「お母さん、がんばって!」

 

「おっしゃあ! メラが応援するなら百人力! やってやるっす!」

 

 

最近は、ヴェラも鬼の力に慣れて『なんか最初っから使えた』という血鬼術を使っていろいろな実験を行っている。

 

 

ヴェラの目前で縛られているのは、岩石地域のオオトカゲと夜になると飛びまわる普通のコウモリ。

どちらも生きている。

 

さらにそこに、メラがいま捕まえて加えた、こちらもこの辺りではざらに見かけるヘビ。

 

 

(――オオトカゲとコウモリ……前回はここにカメを合わせて、失敗したのだったか……)

 

 

(ひかえ)え目に言って命を(もてあそ)ぶ行為だが、これも経験か。

 

実験結果という(かて)は得ているから、無為(むい)に殺しているというわけではない。

 

 

(――殺されるほうからしたら、同じだろうが……)

 

 

「んじゃ、行くっすよー!」

 

 

血鬼術 天依(てんい)融縫(ゆうほう)魄魄(はくはく)合一(ごういつ)

 

 

ヴェラの指から赤い血の糸が伸びる。

 

 

伸びた糸は、まずオオトカゲ、次にコウモリ、最後にヘビ、に(まとわり)わり付き、

 

「ガッ」「ギィ!」「シィャッ」

 

その(からだ)の中へ侵入する。

 

 

「ここを、こうして……腕はコウモリの骨格でオオトカゲの肌で膜を薄く大きく……」

 

 

三体の生きものに侵入した血の糸をヴェラは操って行く。

 

初めは不規則に(から)んでいた糸は、だんだん規則性を感じるものになり、三体の生きものの躰をつないでいく。

 

 

そして、血の糸に引っ張られて、オオトカゲとコウモリとヘビが一つに合わさって、

 

「クゥァアアアア!!」

 

あとには、前脚が翼になった、トカゲに似た生きものが一体だけいた。

 

 

咆哮(ほうこう)を上げて、自分をこんな風にしたヴェラに攻撃を仕掛けようとしたので、頭を地面に叩きつけて大人しくさせておく。

 

 

「やった成功っす!」

 

「ぉおおおお! すごい! ドラゴン? ドラゴン! すごい!」

 

「ドラゴンっていうよりワイバーンっすかねぇ、意識したのは。いやー我ながら天才すぎるっす、あたし~。才能ありすぎてこわいわ~」

 

 

血鬼術、天依(てんい)融縫(ゆうほう)

 

血の糸で、生きもののパーツを縫合し、融和させる血鬼術。

バラバラになった身体をつなぎ合わせて修繕したり、他者の臓器を接合して移植したりも可能。

 

その応用でいまやって見せたように、別の生きもの同士を融合させて、新しい生きものを作り出せる。

 

かなり強力な血鬼術だ。

 

 

天才、と自分で自分のことを呼んでいるのを、何も否定できない。

 

 

「あぁ~、でも、やっぱり糸の耐久、低くなっちゃうすねぇ、三体だと」

 

「ぁぁっ……ドラゴンがぁ……」

 

 

ただ、この血鬼術は強力だが、明確な弱点があって、

 

「クャアァァ……!」

 

 

血の糸が太陽の光に極端に弱いことだ。

 

 

西日に当たった合成獣――ヴェラが言うにはワイバーンが躰の(いた)るところから血を噴き出す。

 

血を噴き出したところには裂傷ができており、まるで布が裂かれたみたいにほつれた糸のような繊維(せんい)がそこから飛び出ていた。

 

 

それは夕日を浴びた場所を中心に全身に広がっていき、ついには裂傷と裂傷がつながって躰の部位が分裂するようになる。

 

最後には、バラバラになった死体が転がった。

 

 

「完全に融合してたら、血の糸が解けても無事なんすけどねー。今回も失敗っすかー」

 

「いつかドラゴン、作りたいねー」

 

「そうっすねー」

 

 

私は素振りをしていた手を止めて、バラバラになった死体に軽く、手を合わせた。

 

少し哀れである。

 

 

「ご主人さま~! ご飯できました~! 早く食べてワタシたちの血液(ごはん)くださ~い!」

 

 

そのとき、家からミーコの声がする。

 

 

私はそれを聞いて、

 

「メラ、片付けを」

 

「はい! お姉ちゃん!」

 

 

血鬼術 熾火(しか)贈火(ぞうか)

 

 

メラに後片付けを頼んだ。

 

自らの魔力を練った血液を材料にして、他者の魔力もしくは血液へ、()()()()血鬼術。

 

一度、火を着けられたら、圧縮した高密度の魔力や魔力を練った血液でしか消せない、呪いの火だ。

 

 

こちらはこちらで、わかりやすく強力な血鬼術だった。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

メラが鬼化して、主に身体の状態の確認や食事への慣れなど、しばらく家から離れられない期間を経て。

また、街へ下りる日々に戻った。

 

 

目的は、生活用品の調達と魔剣士協会での資金稼ぎだが、久しぶりに街へ訪れた日からここに話の流布(るふ)が加わっていた。

 

 

ミノルをカゲノー男爵領へ送る際、彼から受けた助言を形にするためだ。

 

 

そのため、私は呼吸術と血液操作技術を教えるための武術流派をでっち上げて、流布し始めた。

 

 

呼吸術と血液操作技術を教える武術流派――その名を、鬼人(きじん)流。

 

縁壱が、鬼狩りのために技術として体系化した、すなわち人間のための『呼吸術』。

 

そして、あの御方が、鬼としての奥義として発現させた『血鬼術』、それの入門段階である『血液操作』。

 

この二つを教える流派、ゆえに、鬼人流。

 

 

私はこの鬼人流を、この世界での人々でもわかりやすいように、

 

『――生まれながらにしての剣の天才である剣祖(けんそ)ヨリイチと、

――生まれながらにしての魔術の天才である血祖(けっそ)ムザンの二人の天才が、

お互いに相手を()えんと、しのぎを(けず)った結果、生まれた流派である』

 

と、半分くらい虚偽が入ったエピソードを()えて、言いふらした。

決して、『武神』の秘伝ではない、と。

 

 

このエピソードを考案する際に、相談しに行ったミノルは言っていた。

 

――「みんなが幸せになるなら、嘘は罪じゃないさ」

 

と。

 

 

口だけで言っても、信じてもらえるかわからなかったため、一週間に一度の頻度(ひんど)で、下町の子どもやタダで教えてもらえるならばと習いに来た大人に呼吸術と血液操作を教えたりもした。

 

幸いなことに、いわゆる天才というものがこの街にもいたおかげで、約一年経った現段階で、呼吸術と血液操作の習得者は二人いる。

 

これによりやっと、待望の『武神』の秘伝ではないことの証明ができた。

 

 

そういった一年間の努力の結果、『武神』も習得している武術の流派ということで、鬼人流の名はこの街の魔剣士協会では多くの者が知るところとなった。

 

 

ただ、あまり流行りはしていない。

 

基本的にかなり(きび)しい鍛錬をしなければ習得できない呼吸術と、血液を操作する関係上どうしても傷を作らなければならない血液操作。

 

前者は言うまでもなく魔力で身体能力を強化したほうが手っ取り早いし効率がいい、後者は誰でも自傷に抵抗を覚えるし継戦能力に難がある。

 

受けがよかったのは、呼吸術と血液操作以外の、剣の振り方や立ち回り、身体の動かし方と言った部分ばかりだ。

 

 

まぁ、『武神』の秘伝だという誤解が解け、開祖の名前が少しでも知られるようになったのだからいいだろう。

 

とりあえずはこれで目的は達成、と納得していた。

 

 

だから、鬼人流の話がこの街の外にまで伝わり、こんな依頼が発行されたのは意外なことだった。

 

 

依頼名『王都の孤児院の子どもたちへの剣術指南』

指名:魔剣士見習いクレア

期間:半年

場所:ミドガル王都聖教会 南地区第三教会

依頼主:ミドガル王都聖教会

報酬:………

 

 

「どういたしますか、クレア様? クレア様は魔剣士見習いですので、この指名依頼を拒否(きょひ)することもできます」

 

「王都の、とあるが。これは、王都に移り住め、ということなのか?」

 

「移り住むというより、逗留(とうりゅう)ですかね。孤児院ですから、宿舎(しゅくしゃ)を提供するような形になるのだと思います」

 

「むぅ……それは、困る……」

 

 

剣術指南をすること自体はいい。

 

しかし、半年も家を離れるわけにはいかないし……。

 

 

「では、指名依頼を拒否するということでよろしいでしょうか」

 

 

いや、そろそろメラを街に連れて行ってもいいか、と思っていた頃合(ころあ)いだ。

 

ヴェラの問題も片付いたのだし……。

 

話し合いだけしてみるか。

 

 

「考えさせてくれ」

 

「はい、では、保留ということでよろしいですか?」

 

「ああ」

 

「承知しました」

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「行きましょうっす、王都!」

 

 

と、口にしたのはメラだが、言葉にしたのはヴェラだろう。

 

メラの心臓の片方と同化しているヴェラは、メラが抵抗していなければメラの身体をある程度、動かせる。

 

その言葉は、つい飛び出してしまったといった具合の勢いだった。

 

 

「王都って、どうなとこなの?」

 

 

そして、これを同じ口で言葉にしたのは、メラ本人だろう。

 

ややこしい。

 

「王都はでかくて、ごみごみしてて、何でもあるところっす!」

 

これがヴェラ。

 

「でかい、ごみが、何でも?」

 

これがメラ。

 

 

「お前たち、ややこしいから、ヴェラは|分裂(ぶんれつ)して、しゃべってくれんか?」

 

 

「そっすね」

 

 

血鬼術 天依(てんい)融縫(ゆうほう)膚織(はたおり)

 

 

メラの襟から血の糸が()い出てきて、形を作りヴェラの身体になる。

 

血の糸だけで中身がスカスカの身体の形を作る、ヴェラの血鬼術だ。

 

外に出るために、いちいちメラの服を破くわけにはいかないからと、考え出したと言っていた。

 

 

「メラにひととの関わりさせなきゃいけない、と思ってたことっすっし、いいタイミングじゃないっすか?」

 

「でかい、ごみが、なんでも、ひとなの?」

 

 

情報量が多いからか、さっきからメラの認識が暴走している。

 

 

「ちがいますよ、お嬢さま。ひとは肉です、ごみじゃあありません」

 

「でかい、ごみが、なんでも、ひとで、ひとは肉……」

 

 

そこにミーコが加わって。ますますメラは混乱していた。

 

 

魔剣士協会の指名依頼の話を始めてから、いつの間にか居間からいなくなっていたミーコ。

外に出て行っていたのか、外套を羽織っている。

 

腕に抱えられている茶色のぬいぐるみは……ん?

 

 

「それは?」

 

「ビビンバです」

 

「ビビンバ?」

 

 

言われてみれば、たしかに、ビビンバのにおいがぬいぐるみからしている。

 

 

「フスッ」

 

「ビビンバ、ちっさくなったっすねぇー――なんで?」

 

ヴェラが首を傾げる。

 

 

「ビビンバ! 抱っこさせて!」

 

「はい、お嬢さま」

 

 

メラはぬいぐるみ――小さくなったビビンバを受け取った。

 

 

「わぁ、ビビンバがちっちゃい! かわい――くはないっ! あははっ、ビビンバだもんねっ!」

 

「フスッ」

 

――『どういう意味?!』

 

と、ビビンバの声が聞こえた気がした。

 

 

 

「すっかり忘れていたが……鬼化していたのだったな、ビビンバも……」

 

「え? 鬼って、え? ビビンバが? っすか?」

 

「あぁ、その特異な特性からすっかり意識することがなくなっていたが……」

 

 

 

あれはミーコを拾って、鬼について研究し、私自身も鬼化を試み成功した――その翌日のこと。

 

ビビンバの気配が変化していたので、確認してみると、なんと自力で鬼化していたのだ。

 

 

おそらく、ミーコを見て鬼がどういったものなのか理解し、私を見て鬼になる方法を知ったのだろう。

 

ビビンバは鬼化していた。

 

 

私も、畜生から鬼になった存在を見るのは、初めてだった。

 

だから、ビビンバのことについてはそれなりに調べた。

 

 

ビビンバの特性――つまり、血鬼術に名前を付けるのなら悪食(あくじき)

 

ビビンバらしいその血鬼術は――薬でも毒でも、有機物でも無機物でも、生物でも非生物でも、なんでも構わずに捕食し消化・吸収できる、というものだった。

 

文字通りなんでも食べることができ、もっとも特異な点として“どんな食物からでも栄養を得ることができる”。

 

つまり、ビビンバは鬼でありながら、同族もしくは近似種族を捕食しなくても、栄養を獲得することができる。

 

鬼化するまえと、まったく同じ食事を()るだけでも、問題なく生きていけるのだ。

 

 

その特異性を知った当初(とうしょ)は、すばらしいものだと興奮したものだが、鬼化と人化を繰り返し鬼人になってからはあまり興味がなくなっていた。

 

手軽にひとに戻れるのならば、ひとに戻ってからひとの食事を摂れば栄養を得ることができる。

 

 

そのようなわけで、ビビンバ自身の食生活に気を(つか)う必要がないのも加わり、すっかりビビンバが鬼化しているという感覚が抜けていた。

 

 

 

「肉体を操作して、小型化しているわけだな……。自分も王都へ行く準備はできている、と……」

 

「フスッ!」

 

「ほっといたら、いつの間にか、置いてかれそうなカンジでしたからネ~」

 

 

「さすがに、それは……」

 

(――出会ってから、九年。ずいぶん、大きくなったからな……。留守番を任せるくらいはしたかもしれん……)

 

 

「……それで、王都行きはメラ以外、賛成ということでいいのか?」

 

 

「フスッ」

 

「ワタシは、そのつもりでビビンバちゃんを連れてきましたからネ~」

 

「あたしは初めから賛成っすね」

 

 

ビビンバ、ミーコ、ヴェラのはっきりとした賛成は得られた。

 

あとは、メラだ。

 

 

「メラは初めて行く、ひとの集まりだが……行きたいか?」

 

「ん~、お母さんとお姉ちゃんは行くんだよね?」

 

「メラが行きたいなら、行くって話っすよ。正直に答えていいっす。ここの暮らしは普通に楽しいっすからね」

 

 

「じゃあ、行ってみる」

 

 

メラの賛成も得られた。

 

 

ということで、半年間。

今世では一歳のころ以来の、ひとのまちでの暮らしを始めることとなった。

 





・血鬼術 天依(てんい)融縫(ゆうほう)
……ヴェラの血鬼術。血の糸で、生きものと生きものを縫合して融和させる血鬼術。
バラバラになった部位の接合や代替部品を使った身体の修繕、生きものと生きものの同化などに使える。
血の糸が太陽の光に極端に弱く、血の糸で縫合したもの同士が完全に融和していなければ、簡単に解けてしまうという弱点がある。

・血鬼術 天依融縫・魄魄合一(はくはくごういつ)……血の糸で、別々の生きもの同士を融合させることに特化させた血鬼術。

天依(てんい)融縫(ゆうほう)膚織(はたおり)……血の糸を織って外皮を作る。耐久力は普通の人間程度しかない。
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