おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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23.浮かれるとやらかすタイプ

 

「ついに――ついに! あたしは帰ってきたぞ、王都ー!!」

 

 

ヴェラはメラの心臓として同化してればいい、ビビンバは私が持ち運べばいい、として。

ミーコとメラのペースに合わせなければならないため、移動は半月かけて行われた。

 

 

半月間でいろいろあったけども、その間の一番の成果はメラがひとが多くいる場所に慣れたこと。

 

宿に泊まるため、初めて町に入ったときなどは酷かった。

 

「たくさん(たか)ってて気持ち悪いね」「ちょっとくらい狩って(ころして)もバレないよね?」「あの女の人、おいしそうだね」。

 

王都に来るまえに、法という人間の群れの(おきて)を理解させられたことに、ホッとしている。

 

 

王都に入るまえに、大人がいたほうが面倒事が少ないということで、ヴェラに出てきてもらい、四人と一体で王都に入った。

 

 

街に入るなり、ヴェラが、目深(まぶか)(かぶ)ったフードの奥から叫んだので、

 

王都(ここ)の生まれだったのか?」

 

と私が聞くと、いや、とヴェラは首を振った。

 

 

「足を踏み入れるのすら初めてっすよ?」

 

「ならば帰って来たというのは?」

 

「なんとなくっす。ウン年ぶりの都会って感じの場所っすから」

 

 

ということらしい。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

初めて訪れるまちでやることと言えば、まずは宿を取ること。

 

 

この半月で何度もやったことで、問題なく済ませることができた。

 

 

今回、問題がなければしばらく泊まることになる宿は、商人が長期間逗留(とうりゅう)するのによく利用される宿だという。

 

市場で話を聞いてまわっていたヴェラが選んだ。

こういうところは、さすがだ。

 

 

そして、宿の部屋で金銭を四等分にして、宿のまえで(わか)れる。

 

 

「じゃあ、決めてた通りに、別行動っすね」

 

「あぁ、しばらくは、なるべく相互(そうご)干渉(かんしょう)はしない――と言っても、(めし)の関係で同じ部屋だが、な……」

 

 

「お姉ちゃん、依頼がんばってね」

 

「夜には帰ってきてくださいね、ご主人さま。血液提供(あ~ん)してくれないと、浮気しちゃいますからネ~」

 

 

ここからはしばらく別行動だ。

 

今日だけではなく、これから半年間、必要以上にお互いの生活に干渉しないようにする。

 

 

 

“王都についたら、しばらく別行動を取る”。

 

王都に来るまえに、話し合って決めていたことだ。

 

 

私たちの関係が何か、と訊ねられると、はっきりと何なのか、これという言葉を考えつかない。

 

 

ヴェラは成り行きで行動を共にすることになった元盗賊で、メラはその娘。

ミーコは(ひろ)った凶悪犯で、ビビンバは(なつ)いた動物。

 

 

家族と呼べるほど、信頼し合っていないのは確かだ。

 

メラを除いて、各々が自分以外の誰かがいなくなった場合のことを考えて、備えている。

 

 

たとえば、ミーコなら、ビビンバと行動する機会を増やしていた。

私という食事(えさ)がいなくなったときに自分が()えないように、悪食の血鬼術によってあらゆる栄養を体内に精製できるビビンバと仲を深めていた。

 

たとえば、ヴェラなら、時間があれば()いものをしていた。

あの、ひとの集落から離れた環境では、手に入れることが難しい衣服の供給により、自分の価値を示し続けた。

 

ビビンバと私は言うまでもない。

いつも孤立した場合を想定して、単独でも生きれるように備えている。

 

 

歪な関係である。

 

 

だから、一旦距離を取って、自分が何者なのかはっきりさせよう、関係を整理しよう、ということになった。

 

 

自己の存在を証明できれば自分の価値がはっきりする。

自分の価値がはっきりすれば、他者との関わり合いにおける自分のスタンスもはっきりさせられる。

 

 

血を提供する関係で同じ部屋で暮らすが、それ以外ではなるべく関わらない。

 

メラはさすがに幼いからヴェラと行動を共にするし、ミーコも放っておくには不安だから、しばらくは二人と行動を共にするが、徐々に依存度合いを低くしていく予定だ。

 

宿代(やどだい)以外の必要金銭は自分で稼ぎ、買いたいものは自分の金で買う、行動も自分で決める。

 

 

小難(こむずか)しい話を抜きにして簡潔(かんけつ)に言うと、王都に滞在する半年の間でそれぞれ自立をしようということだ。

 

 

 

ということで、私は魔剣士協会へ、ヴェラたちは仕事を探しに表通りへ、足を進めた。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

王都に複数ある魔剣士協会の建物の一つで、依頼証と仮登録証を提出して、依頼の手続きをした。

 

依頼の目的地である、聖教の教会の場所を聞き出して、そこへ向かった。

孤児院は、そこに併設(へいせつ)されているらしい。

 

 

その建物は、王都の中でも市民の住居が多く集まっている区画の、近くに建っているように見えた。

 

 

王都の中には聖教の教会はいくつもあるらしいが、市民が通うならかなりいい立地なのではないだろうか?

 

 

両開きの扉を()けると、ズラリと並んだ長いすに、その奥にある女神と三人の英雄の像。

 

 

「ひとの気配は……ないな」

 

 

いまは昼時、食事のために休憩でも取っているのだろうか?

不用心だが。

 

 

「子どもの声……孤児院のほうか?」

 

 

この教会の裏手(うらて)に、煙突(えんとつ)が突き出た赤屋根の平屋(ひらや)がつながっていた。

 

こことは違う雰囲気の建物だから、おそらくあれが孤児院だろう。

 

 

また、扉を空けて外に出ると、裏手に回った。

 

 

カコン、カコン、と棒を打つ音がする。

 

赤屋根の平屋の庭から聞こえているようだった。

 

 

「スーパーウルトラバーニング最強ソード!」

 

「ダークドラゴンスケイル無敵バリア!」

 

 

カコン、カコン。

 

 

少年たちが呪文のようなものを唱えながら、木の棒と木の棒を打ちつける。

 

活発に動きながら、格好をつけて打ち合う様子から、どうやらチャンバラごっこをやっているらしい。

 

 

意気(いき)はあるようだな……」

 

 

技術とか心構えとか経験とか、当然のことながらないのだろう、まるで剣術の稽古とは呼べない。

が、やる気があるなら、私の依頼がやりやすくなる。

 

いいことだ。

 

 

「いけー! トロール召喚!」

 

「あ! ずりー! いわ、たてにすんなしー!」

 

 

棒を打ち合っていた少年の一人が、庭にある岩の裏に隠れた。

 

どうやら、あの岩を“トロール”と呼んでいるらしい。

 

 

「いわじゃないですー! トロールですー! ほら、おれのトロールは無敵だ! 倒せるなら倒してみろ!」

 

「はー?! この! この! この!」

 

 

もう一方の少年は、回り込めばいいのに、律儀(りちぎ)に盾にされた岩を突破しようと棒を打ちつけている。

 

 

「ふむ……目標があったほうがやる気は出るか?」

 

 

パフォーマンスというやつである。

 

 

私は、閉まっている門を()びこえ、平屋の敷地へ侵入する。

 

岩に棒を打ち据えている少年の隣に着地すると、その肩を叩いた。

 

 

「うん? なに?――は? おまえ、だれだよ?!」

 

「棒を()りるぞ」

 

「だれが――あれ? ない! どこだ!」

 

「イメージとしては、薄く細く物体(もの)のすき間を通すように。エンチャントする魔力は常に流動(りゅうどう)させることで、表面に(すべ)って反発する力場(ひきば)を発生させ続ける。

――この状態で余計な力も剣筋もなくして、振るうと――」

 

言いながら、少年の手から(うば)った棒で、岩を()ぐ。

 

 

使っている魔力はほんのわずか、魔境でもない草原にいる野ねずみ一匹が、たまに持っている程度の量。

 

ウワバミのウロコの魔力の流れを参考に作った、ぬるぬる滑る魔力を、物体の粒子(りゅうし)のすき間に滑り込ませて、斬ることに特化させた技術。

 

 

果たして、私が振るった棒は抵抗なく、岩を通り過ぎた。

 

 

「――魔力が込められていない、たいていの物体は斬ることができる」

 

「え……?」

 

「うそぉ……」

 

 

指で押すと、さっきの棒の軌跡に沿って岩が上下に別れて、ドス、と地面に落ちた。

 

 

「すっ――すげー!」

 

「最強ソード?! 最強ソードか?! その棒!」

 

 

少年たちは何度も斬り別けられた岩と、私とを見比べて、ぴょんぴょんと跳んで、キラキラした目で私を見た。

 

 

「二人も、がんばればできるようになる、いずれ」

 

「まじで?! うそぉ?!」

 

「ほんとにできる?! ぜったい?!」

 

 

「魔力はあるようだから、できるようになるはず……いずれ」

 

 

かなり練習しても難しいかもしれないが、理論上はできる技術だ。

 

 

「あの~、よろしいでしょうか?」

 

と、少年二人がはしゃいでいるところに声をかけてくる、老人。

 

 

白い装束に身を包んだ、聖教の司祭らしき老人だ。

 

彼が教会の管理者だろうか。

 

 

「もしや、魔剣士協会の依頼でいらっしゃった、『武神の弟子』のクレア様でしょうか?」

 

「うむ。初めて会う。剣術指南に来たクレアだ」

 

「あっ、そうですか。ボクは、この孤児院を運営する教会の司祭をしています。ホロ・オセロと申します。よろしくお願いします。

それにしても、本当に子どもで……そんな歳でもう、立派でいらっしゃる」

 

「歳は関係なく。称号も関係なく。ただの魔剣士として接してくれれば、助かる」

 

「あっ、はい。これは失礼しました。ならば、ええと、ただの魔剣士のクレアさんに訊ねたいのですが……――その石碑(せきひ)は直るのでしょうか?」

 

「せきひ……? ふむ……?」

 

 

なんとなく、地面に目を落とす。

 

上下に別れた、上半分の岩、さっきまで見えなかった岩のあちら側。

 

そこには文字らしき――いや、たしかに文字が()られていた。

 

 

『ミドガル王都聖教会 南地区第三教会

   祝 孤児院開院30周年   』

 

 

「…………。…………ふぅー」

 

 

私はため息を吐いた。

 

 

同行者がいる王都までの道のりで、知らず疲れが溜まっていたのだろうか?

 

力をひけらかすなんて、らしくない。

 

 

「……弁償(べんしょう)しよう」

 

「はぁ……」

 

 

私の降参(こうさん)の言葉に対して、司祭は困惑(こんわく)の反応で返した。

 

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