おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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24.特別司教

 

「あたち、ネネ! はちさいです!」

 

 

とりあえず、分断された上半分の岩――石碑と下半分の石碑の分断面を、布で覆って保護していた。

 

そこに、女の子が大きな声で話しかけて来た。

 

 

「おなまえ、なんてゆんですか!」

 

 

自己紹介をし合いたいらしい。

 

 

「クレア」

 

「クレアちゃんってゆうんだ! かあいいね!」

 

 

女の子――ネネは、満面の笑みで手を取って握手した。

 

 

「どこのへや?」

 

「部屋?」

 

「あっ、はい。そうですね。まずは、宿舎にご案内しましょう。半年間、住むことになる場所です、何かありましたら遠慮なく――」

 

「いや、すまない。宿を取っているから、寝泊まりはそこでする」

 

 

「ほぉー、そうでしたか。本当にしっかりしていらっしゃる」

 

「剣術指南は、明日から、ということでよいか?」

 

「はい。明日から、昼まえか、昼過ぎ、夕方ごろに来ていただければ」

 

「明日は昼過ぎ以降になると思う」

 

「かしこまりました」

 

 

まだ、王都に来たばかり。

 

慣れていないから(いそ)しくなるだろう。

 

 

「クレアちゃん、どっか、行くの?」

 

「また明日、来る」

 

「そうなんだー。わかった。げんきでね!」

 

 

ネネが手を振るのに、軽く振り返して平屋――孤児院の門へ。

 

 

「では、また明日」

 

「はい。お気を付けてお帰り下さい」

 

 

無事ではないながらも、初日の挨拶(あいさつ)を終えた。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

剣術指南のために孤児院に通うようになって一月。

 

 

孤児院にはまだ言葉をしゃべれないくらいの幼児から、成人一歩手前の児童、青年まで年齢幅は広い。

 

その中でも、剣術の習得に熱心なのが、もうすぐ孤児院を出る子どもたちと剣を振るのに(あこが)れがある一部の子どもたちだ。

 

 

今世では意外なことでもないのかもしれないが、剣に興味があるのは男子だけではなく女子もだった。

 

 

たしかに、男子は素の身体能力は高いが、魔力を宿しているのなら、男女の肉体的能力の差はあってないようなものだ。

 

『武神』を始めとした、名が知れた女の魔剣士も数多く存在する。

 

 

その結果、剣に憧れを持つ者は、男子だけではなく女子にも一定数存在した。

 

 

呼吸術の訓練は、()びはねさせながら行う方法を取った。

 

 

息を常に止めさせずに、一定のペースでの息遣いを保ちつつ、跳びはねさせる。

 

そうすることで、吸うこと・巡らせることができる息の量を増やし、どれだけの息の量が自分にとって適切(てきせつ)かも自覚させる。

 

また、全身にまんべんなく、息を巡らせる訓練にもなる。

 

 

一定のペースでの息遣いを(たも)ったまま、跳びはねさせながら、何か運動を行う。

 

 

一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、走らせる。

 

一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、剣を振らせる。

 

一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、拳を振らせる。

 

一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、脚を振らせる。

 

一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、いろんな体勢を取らせる。

 

一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、子ども同士で剣の打ち合いをさせる。

 

 

息遣いに乱れがあったり、姿勢に歪みがあったり、身体の動かし方に歪みがあったり。

そうして、息の流れ・巡りに(よど)みや(かたよ)りが生まれていたら、その都度指摘(してき)し修正させる。

 

 

だいたい30分ずつ、合計三時間くらい。

 

 

ヘトヘトになったところで一旦、休憩を取る。

 

 

そして、最後に、跳びはねさせず、地に足を着けた状態で行う模擬戦。

 

息を吸い、全身に巡らせ、吐き出すという深呼吸を一定のペースで行いながら、子ども同士での剣の打ち合いをする。

 

 

この際も、息遣いや姿勢や動き方に、乱れや淀みや偏りがあったのならば、いちいち指摘して修正させる。

 

 

私との打ち合いは、希望するなら訓練が終わったあとに可能ということになっている。

 

なかなか負けん気が強い子どもが多くて、訓練後一時間くらい、ひっきりなしで子どもたちと打ち合うことになる。

 

 

しめて五時間くらい、ほぼ毎日、昼過ぎからみっちり呼吸術の訓練を実施している。

 

 

そうやって呼吸術を教え込んでいる。

 

 

 

この一ヶ月で、私は『地獄の鬼』と呼ばれるようになった。

 

『スパルタ教官』→『鬼教官』→『鬼』→『地獄の鬼』と、呼び方が変化して行ったのだ。

 

半年後の依頼終了時には、何と呼ばれるようになっているのだろうか。

 

 

こうやって、本格的に呼吸術の指導を行って実感することがある。

 

それは、前世に比べてこの世界には、剣の才能を持っている者が多いということだ。

 

 

まだ教え始めて一月であるにも関わらず、もう呼吸術を習得しかけている者が、二十人の中に二人もいる。

 

 

これは前世で言うならば鬼才と呼べる者が、無作為に集めた二十人の中に二人もいる、という異常事態なのだ。

 

 

しかし、王都に来るまえの、もといた街の下町の子どもなどに訓練を(ほどこ)していた私は知っている。

 

このレベルの才能の持ち主は、探せばいる程度であると。

 

 

剣の才能を持つ者が、子々(しし)孫々(そんそん)とその才能を引き継ぎ、()くして行ったのだろうか?

 

何が原因なのかはっきりとわからないが、この世界には剣の才能を持つ者が多いらしかった。

 

 

 

それと、呼吸術とは別に魔力を宿している者には、剣にエンチャントすることを課題として、魔力の操作を教えている。

 

 

単に剣に魔力を込めるだけではなく、まんべんなく行き渡らせたり、表面に薄くまとわせたり。

()にだけ魔力を流させて斬撃を強化させたり、剣と身体とで魔力を行ったり来たりと循環させたり。

 

 

緻密(ちみつ)さに、重きを置いた魔力操作を訓練させている。

 

 

いずれ血液の操作を教えるために必要な過程だ。

 

人体をいじる関係上、大雑把(おとざっぱ)な魔力操作では大事故につながる。

 

だから、魔力操作は緻密さを追求する形で訓練を行っている。

 

 

この緻密な魔力操作が、鼻歌を歌いながらこなせるようになったら、血液操作の訓練に移る予定だ。

 

こちらは、暇があれば、いつでも剣のエンチャントをやるように、言い渡してある。

 

そして、三日に一度、上達具合を確認している。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

孤児院に到着すると、

 

「こんにちは」

 

その日は、見慣れない細目の司祭風の男が立っていた。

 

 

「よい日和(ひより)で……」

 

「ハイ、ほどよい日射(ひざ)しで過ごしやすいですな」

 

 

細目を歪ませた男が、言葉を返してくる。

 

 

そこから特に話を展開するということはなさそうで、にこやかにしているだけだったので、私は軽く会釈(えしゃく)をしていつもの庭の真ん中に足を進めた。

 

 

(――背中に視線を感じる……。観察されているな……)

 

 

少し気持ち悪く感じながらも、私は今日も集まった子どもたちに剣の訓練を施した。

 

 

 

 

「――ハイ。では、本日はお(いとま)させていただきます、オセロ司祭」

 

「はい。ご足労いただき、誠にありがとうございます、メッセージ司教」

 

「では、また」

 

 

子どもたちの剣の訓練を終えたのち、散らかった庭を片付けて。

教会の司祭――オセロ司祭に挨拶しに行くと、あちらも細目の司祭風の男と別れの挨拶をしているところだった。

 

 

子どもたちの訓練中、ずっと私を含めた子どもたちの様子を観察していた、あの細目の男も帰るらしい。

 

オセロ司祭に背を向けると、護衛と思しき鎧を着た連れの男と共に、教会まえの馬車に乗り込み、去って行く。

 

 

「あの男は?」

 

私は走り行く馬車に眺めつつ、オセロ司祭に(たず)ねた。

 

 

「――これは申し訳ないことをしました。言っておりませんでした。彼はメッセージ特別司教。聖地リンドブルムの教会からの視察(しさつ)です」

 

「視察……?」

 

「はい。毎年のことなのですよ。聖地リンドブルムから、ミドガル王国の各地方の教会へ視察が訪れて、きちんと務めを果たしているのか、悪事を働いていないか、確認する」

 

「なるほど……」

 

「それだけ聞くと、なんとなく気後(きおく)れしてしまいそうになるものですが、困ってることや要望なども聞いて下さる機会でもあるのですよ。ありがたいことです」

 

「それで、訓練を見ていたのも、悪いことでないのかの確認のためということか……?」

 

 

品定(ひなさだ)めしているように見えたが……。

 

 

「はい。そうですね。それもあるかもしれませんが、おそらくは聖地への“(むか)()れ”のために子どもたちを見ていたのでしょう」

 

「聖地への迎え入れ?」

 

「はい。毎年、視察の際には、将来有望な素質や才能がある子どもを見つけ出し、聖地リンドブルムに迎え入れるのです。――より高度で、専門的な教育や訓練を受けさせて、未来の聖騎士や高位の聖職者を育てるのです」

 

「それでか……」

 

 

品定めしていたのは、まさしく子どもを評価していたわけだな。

 

 

「実は、クレア様をボクに(すす)めて下さったのも、先ほどのメッセージ司教だったのですよ」

 

「私を……?」

 

「はい。メッセージ司教が子どもたちのいい刺激になるのではないか、と幼くして魔剣士として活躍(かつやく)しているクレア様のことを教えて下さったのです」

 

「そうだったのか……」

 

 

たしか、依頼主の名義はミドガル王都聖教会――このミドガル王都の聖教会を取り締まっている、本部だったな。

 

 

聖地リンドブルムに所属するメッセージ司教が、オセロ司祭に私を薦めて。

オセロ司祭が上層部に確認を取り、上層部の許可が出て。

そのまま、上層部が魔剣士協会を通して私に依頼を出した……といったところか。

 

 

(――おかしなことではない……か? 遠回りで……何か違和感があるが……)

 

 

 

 





一定のペースでの息遣いを保ったまま、跳びはねさせながら、~。


竈門家は神楽で呼吸を受け継ぎ続けたのだから、こんな感じの方法でも呼吸術を習得できるんじゃないかな、と
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