おとうとはセカイのバグ   作:カタカタタカタ

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25.浮かれるとやらかすタイプ×n

 

冬。

 

王都に来てから五ヶ月のこと。

 

 

「はい。特例規則による15歳以前の魔剣士の魔剣士協会本登録、手続きが完了しました。――おめでとうございます、クレア様。本日から正式に協会所属の魔剣士となります」

 

「……ん。礼を言う」

 

「こちら、登録証です。すでに十分な実績と実力が証明されているため、中位ランクからでの登録となります。よろしいですか?」

 

「問題ない。たしかに登録証は受け取った」

 

 

「はい。それでは、本登録手続きは以上になります。魔剣士協会職員として、これからも活躍を期待しています」

 

「うむ。では、改めて礼を言う」

 

 

誕生日はいつだったか、覚えていないので、とりあえず年が明けたら一つ歳を数えるようにしている私は、11歳になった。

 

 

魔剣士協会の本登録は15歳からだが、十分な実績と実力があれば11歳から特例での登録が許可されている。

 

それを覚えていた私は、王都の魔剣士協会の一つで本登録の手続きを行った。

 

 

これで、正式に魔剣士協会所属の魔剣士となり、できることが大幅に増える、らしい。

 

『武神の弟子』という称号で、これまでさんざん特別扱いを受けてきたので、あまり変わりは感じられない。

 

本来なら請けることができない討伐依頼を請けていたし、本来なら請けることができない指名依頼もいまこなしている真っ最中だ。

 

できるようになったことと言えば、金を借りることと、高ランクの昇格への挑戦くらいだろうか?

 

必要になったらやるだろうが、いまのところ必要性は感じない。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

孤児院での剣術指南を始めて、数ヶ月の間に珍しい客が訪れるようになっていた。

 

 

「こんにちは! 今日もよろしくお願いします!」

 

 

炎のように紅い髪に勝ち気な表情。

彼女こそは、ここミドガル王国の現国王の娘――第一王女のアイリス・ミドガル。

 

 

そして、彼女よりも背が高く、年齢が上なのにも関わらず、常にアイリスの一歩後ろを付いて歩くのが白銀の髪の少女。

 

 

「お邪魔します。よろしくお願いします」

 

 

ペコリ、と頭を下げる十代半ばの少女は――ミリア・オルバ。

ブシン祭の本戦出場経験者を父に持つ、子爵令嬢。

 

父親の縁でアイリスと関わり友人になって、ここには毎回、アイリスと共に訪れている。

 

 

そして、

 

「本日もお世話になります」

 

きちんと姿勢を正して挨拶をしたのが、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大柄の男――騎士グレン。

 

アイリスとミリアの護衛をしている騎士である。

 

 

この三人がここ数ヶ月、ここに通って剣術の訓練を受けるようになったメンバーだ。

 

 

思いのほか高くついた石碑(せきひ)修繕(しゅうぜん)費用を立て替える()わりに、剣術を指導することになった。

 

 

指導する人数が増えることに問題はない。

 

子どもたちもはしゃいで、(うわ)つきながらもいつもよりやる気を出すから、こちらも良し。

 

 

(ことわ)る理由はなかった。

 

 

 

「よろしくおねがいします!」

 

 

と、今日はそこにさらに一つ、小さな人影があった。

 

年齢的にはメラと同じ、9歳くらい。

 

白銀の髪は光をつやつやと反射して、色合いは同じながらも、ミリアよりも明るい。

 

 

「クレア! 今日は妹を連れて来たのよ。ほら、アレクシア」

 

「初めまして! アレクシア・ミドガルです!」

 

9歳くらいの白銀の髪の女の子――王女、アレクシア・ミドガルは、そう気張(きば)って自己紹介をした。

 

 

(――たしか、第二王女だったか……?)

 

 

自己紹介に応える。

 

 

「魔剣士協会の依頼で、ここで剣術指南を行っている。魔剣士の、クレアと言う」

 

「く、え?」

 

 

私が自己紹介をすると、アレクシアは鳩が豆鉄砲(まめでっぽう)を食らったような顔をした。

 

ギョッとしているようにも見える。

 

 

「あっはっはっは! 驚くわよね、アレクシアも! クレアったら、誰に対しても丁寧な口調なんてしないんだから!」

 

アイリスが笑う。

 

 

これを見ると、気持ちがいい性格をしているように見えるかもしれない。

 

だが、初めて会ったときは、

 

――「目上の者に対しての礼儀作法も知らないようね。この国の王女として看過(かんか)できないわ。

――戦いましょう。上に立つ者が誰なのか直接身体に教えてあげるわ」

 

 

気持ちがいいくらいに喧嘩腰(けんかごし)だった。

 

……そのときから、気持ちがいい性格ではあったか。

 

 

「今日はこれで全員、か……?」

 

私は庭にいる子どもたちに声をかける。

 

王女たちが来てから、私たちが会話するのを遠巻(とおま)きにしていた孤児院の子どもたちは、一斉(いっせい)(うなず)いた。

 

 

「では、今日も訓練を始める」

 

「「「はい!」」」

 

「えっ? あっ、はい!」

 

 

私が訓練の開始を宣言(せんげん)すると、アイリスもミリアも、孤児院の子どもたちも力強く返事をした。

 

(おく)れて、初めて来たアレクシアの返事も。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「打ち合い、止め。――休憩」

 

「「「っはぁー……っ!」」」

 

 

走り込み、剣の素振り、拳の素振り、脚の素振り、体操(たいそう)、打ち合い。

これらを、一定のペースの息遣いを保ちつつ、跳びはねながら行う。

 

今日もこの、呼吸術の基礎訓練を一通りこなして、あとはペアを組んでの模擬戦――となるまえに、いつも通り休憩を取る。

 

 

休憩を宣言すると、訓練参加者全員が各々の姿勢で身体の息を、一気に吐き出した。

 

はぁーっ、はぁ、はぁああ! と音は様々だが、誰もが()れなく、陸に打ち上げられた魚のように必死に口をパクパクさせている。

 

 

「あたま……おかしい……。ばかでしょ……こんなん……」

 

常人には聞こえないような、かすれる声で(うめ)くのは、今日初めて参加したアレクシア。

 

 

彼女の体力も肉体も、もうとっくに限界を超えている。

 

訓練中、何度も倒れながらも、すさまじい精神力で、動けるようになる度に訓練に復帰(ふっき)していた。

 

 

土煙(つちけむり)(くもら)らされた白銀の髪が、ボロ雑巾(ぞうきん)のように庭に転がっていた。

 

 

「大丈夫ですか、アレクシア様?」

 

白銀のボロ雑巾に声をかける、もう一人の白銀の髪。

 

ミリアがアレクシアを抱き起こして、服や髪の土の汚れを(はら)った。

 

 

さすがに、三カ月以上やっているだけあって――前世基準ではおそろしい早さだが――回復が早い。

 

こちらの白銀の髪はあまり曇っていなかった。

 

 

()れタオルです。よかったら、お使いください」

 

「はぁ、ふぅ、ふぅはぁ……。ありがとうございます、ミリアさん。使わせてもらいます」

 

 

ミリアが差し出した、水筒(すいとう)の水で湿(しめ)らせたタオルを受け取るアレクシア。

 

 

「……あっ」

 

「おっと」

 

しかし、指に力が入らないのか、アレクシアの手から受け取ったタオルが落ちる。

 

ミリアは、それが地面に着くまえに、(つか)まえた。

 

 

「私が拭かせていただきますね」

 

「ごめんなさい、たのみます……」

 

 

いまのアレクシアでは自力で身体が拭けないと踏んで、ミリアが捕まえたタオルを使ってアレクシアの髪や身体や服などを拭き始めた。

 

 

「ああしてると、歳が離れた姉妹みたいでしょ?」

 

こちらも短時間で身体を回復させたアイリスが、話しかけて来る。

 

ミリアに身体を拭かれる、アレクシアを見遣(みや)りながら。

 

 

たしかに、白銀の髪は微妙に明るさが異なるが、遠目(とうめ)に見るとわからない。

 

いまは特に、砂煙で曇っているから同じ色に見える。

 

パッと見ると、血のつながりがあると判断する者は多いかもしれない……。

 

 

「実の姉としては、複雑(ふくざつ)か……?」

 

妹が、他の者を姉のように(した)うのは。

 

 

「まさか。ありがたいことよ。

あの子は自分を()(つくろ)うところがあるから、なかなか他人に甘えれないのよね。

ミリアみたいに甘えれる相手は貴重(きちょう)だわ」

 

そう語るアイリスの目は、優しげで、温かく二人を見守っているようだった。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

今日の訓練を終えて、私との打ち合いを望む者のみが孤児院の庭に残る。

 

 

アイリス一行は、アレクシアの体調もあって、帰った。

 

 

これから、子どもたちと打ち合いをするというときに、彼は現れた。

 

 

「ミナサン、お疲れさまです。少し、よろしいですかな?」

 

 

いつぞや、聖地リンドブルムから視察のためにここに訪れていた細目の聖職者――メッセージ特別司教だ。

 

 

「メッセージ司教……」

 

「おや、ワタクシの名前を覚えて下さっていたのですか。確か剣術指南役の――クレアサン」

 

 

(――相変わらず、品定めするような視線……いや、あのときよりずっと明らさまか……?)

 

 

「実は、今年の視察は早めに行われることになりましてね。こうして、年が明けてまだ一月の本日、王都に到着したのですよ」

 

「……別に(たず)ねてないが……」

 

「おや、ワタクシがなぜここにいるのか気になったのではないかと、説明したのですがな」

 

 

ペラペラ、ペラペラと楽しそうに、メッセージ司教は口をまわした。

 

 

顔は笑顔だが、細目の(おく)の瞳は冷たく、私の身体から目を離さない。

 

 

「本日は提案があってこうして、声をかけさせていただきました、クレアサン」

 

 

なぜだろうか、この司教に名前を呼ばれると嫌悪感が()く。

 

 

「これから、子どもたちと打ち合いをすふとこだったが……」

 

「それはちょうどいい!」

 

 

まだ、剣術指南が終わっていない。

 

それで断ろうと思ったが、この司教の反応を見るにどうやら無理らしい。

 

 

「本日はね、ぜひ、クレアサンの実力を見たい、ということで。ワタクシの護衛に付いて来た彼と、模擬戦をしてもらいたいのですよ!」

 

 

司教は、連れの、鎧を着た聖騎士をまえに押し出した。

 

おお、と庭に残った子どもたちから、驚きと感激(かんげき)歓声(かんせい)が上がる。

 

子どもたちにとっては、メッセージ特別司教は聖地リンドブルムから訪れた人材発掘家――彼に実力を試されるということは、将来要職(ようしょく)に就くための切符(きっぷ)を、手に入れるためのチャンスなのだろう。

 

 

「聖騎士になるつもりも、聖職者になるつもりも、ないが……」

 

貴様(きさま)、それは聖教に対する侮辱(ぶじょく)かっ!」

 

 

ただ、実力を測っても勧誘を受けても、私は宗教家になるつもりはない、と言っただけ。

 

なのだが、メッセージ司教が模擬戦の相手に、とまえに出した聖騎士の反感を買ったようだ。

 

 

「怖じ気づいたなら、素直にそう言って、謝ればいいものを! このような栄誉(えいよ)な機会を無下(むげ)にするとは、何事かっ!――俺様が叩き斬ってくれる!」

 

一方的にまくし立てた聖騎士の男は、宣言通りに腰の剣を抜く。

 

(あふ)れる魔力を、黄色く光らせて斬りかかって来た。

 

 

「死ねや、クソガキがぁあああ!」

 

「開始の合図もないのに、斬りかかるのは――」

 

 

聖騎士の男が放つ無駄にたくさん溢れる魔力を、高速循環する魔力を表面にまとわせた手刀(しゅとう)で斬り払う。

 

 

斬り払い、()いた魔力のすき間に身を(すべ)り込ませ、

 

「なっ」

 

「――実戦、ということでよいのか?」

 

 

男の剣を身をそらして(かわ)して、すれ違い様に手刀を脇に入れて、片方の腕を斬り落とした。

 

 

「ぅ、っ、ぅぁああああ?!」

 

 

付け根から斬り落とした腕は、まだ、剣の柄を握ったまま、ぶら下がっていた。

 

 

聖騎士の男は、ぶらんぶらんと振りまわされる腕を地面に落とすまいと、もう片方の腕で必死に抱え込もうとしている。

 

 

「ぅぁあ、ぅああ、ぁああああ!」

 

「戦意喪失、か……」

 

 

男は、腕を抱えて叫び()らすだけ。

 

さっきのような敵意も害意も、もう、ない。

 

 

唖然(あぜん)とする子どもたち。

 

何も言わない特別司教。

 

 

「メッセージ司教、これは、どういう扱いになる……?」

 

 

私が声をかけると、メッセージ司教はハッとした。

 

 

そして、わざとらしく、

 

「おーっとっと! これは大変ですねー! ワタクシの大事な護衛が、もう戦えそうにない!

いや、クレアサンは悪くありません! 安心して下さい!」

 

(さわ)ぎ出した。

 

 

(――笑っていたな……。声を上げずに、でも、心の底から楽しそうに……)

 

 

「悪いのはこの――」

 

司教は、落ちた腕を肩の切り口に押し当ててつなげようとする男の背中を、踏み付けた。

 

ぐぇ、と男がうめき声を出す。

 

 

「――聖騎士もどきですからぁ! 本当にっ、模擬戦開始の合図もないのに斬りかかるとはっ、聖職者でも騎士でもないっ!」

 

 

ゲシッゲシッゲシッ、と容赦(ようしゃ)なく男への踏み付け。

 

もはや、その男を聖騎士とは認めないらしい。

 

 

「いやー、『武神の弟子』と聞いておりましたが、まぁ、名に()じぬ実力ですなぁ! 本当に、申し訳ないことをしました! このような賊が聖教に(まぎ)れ込んでいることに気が付かなかった、ワタクシの不徳(ふとく)です!」

 

「…………それで? 子どもたちの訓練に戻ってよいか?」

 

「えぇ、えぇ! よろしいですとも!――あっ、そのまえに一つ、よろしいですかなぁ?」

 

「……手短(てみじか)に、済むならば」

 

 

「では、一言で済ませましょう――クレアサン、聖騎士になる気はありませんかな?」

 

「断る」

 

「たっはぁ! やはりですか!」

 

 

私が聖騎士の誘いを断ると、子どもたちが信じられないような顔をして、メッセージ司教は(あん)(じょう)といった反応をした。

 

司教は、たいして(くや)しくはなさそうだ。

 

 

「用は、これで終わりか」

 

「ハイ! もちろん今回の本題は、クレアサンのことでしたとも! ハイ! では、ワタクシは賊を牢屋(ろうや)に入れないといけませんからぁ! お暇しますねぇ!」

 

 

メッセージ司教は最後まで騒がしく、何が一番の原因か、ぐったりして動かなくなった男を引きずって、門へ歩いて行った。

 

 

「あぁ! 気が変わって、聖騎士になりたくなったら、いつでも、ワタクシに――王都聖教会の本部に滞在している、ワタクシにぃ、おっしゃって下さいねぇ!」

 

 

門の向こうでそんな声が聞こえて、馬車が走り去る音がした。

 

 

今度こそ、いなくなったようだ。

 

 

「きな臭くなって来たな……」

 

 

ちなみに、聖騎士の男が流した血で汚れた庭で、打ち合いをしたいという子どもは、いなかった。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

翌日、泊まっている宿に、魔剣士協会からの使いが来た。

 

 

至急(しきゅう)、伝えなければならないことがある、と言うので魔剣士協会の建物へ向かう。

 

 

すると、

 

「ミドガル王都聖教会様から、指名依頼が取り下げられました。依頼は中断となります。――依頼主側からの一方的な取り下げということで、依頼の達成報酬として支払われるはずだった100万ゼニーが、違約金として支払われています」

 

剣術指南の依頼が取り下げられていた。

 





ミリアとアレクシアを見ながら、

アイリス「ああしてると、歳が離れた姉妹みたいでしょ?」


いずれ、血がつながった(注入された)姉妹になるなんて……

まぁ……愉悦ってやつですかね
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