アルファ(予定)視点三人称
→オルバ視点三人称
→シド視点一人称
→オルバ視点三人称
→アルファ(予定)視点三人称
素質も才能も、努力も能力も少女にはあった。
世に、どうにもならないと言われている悪魔憑きの症状を
なかったのは心。
いかに大人びていても、神童とうたわれようと、年齢相応の幼さも少女はきちんと持ち合わせていた。
不幸、不運、悲劇、惨劇。
そういった衝撃が幼い心を
――少女は鬼になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『オルバ、仕事だ』
「はっ!」
うなじで一本にまとめた銀髪。
身体中に浮き出た黒い
いつも通り、己が力を
声の主はこの場にはいない。
オルバの中にある、細胞――オルバを鬼たらしめている力の核を通じて、声を届かせているのだ。
『出所不明の、元エルフと思しき鬼が確認された。クィモーノ領の付近だ。現れた場所から、断言はできないが――』
「…………」
オルバは、声が頭に響いた瞬間に手を止めていた。
仕えている主の言葉だ、一言一句、聞き逃すわけにはいかない。
『――行方不明になっていた『英雄の子』、
「はっ!」
そして、聞き終えたのならば、その言葉の通りに、命令を遂行するのみである。
オルバは振っていた剣を降ろし、遠征の準備を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「月が明るい。今日は、るろうにミノルの日だっ!」
ということで、今日はさすらいの
カゲノー領からダッシュで二時間、馬車で三日か四日くらいのところ。
僕はいつも通り、盗賊狩りに来ていた――今日は当たりだ。
盗賊というより害獣かな。最近たまにポップするようになった人外だ。
進化したゾンビの上位種みたいな見た目をした、もっぱら人肉を食うために行動する――鬼に行き当たった。
「貴様、いつの間に俺様の後ろにいやがるぅううう!」
「我はるろうにミノル……さすらいの、ただの剣士……」
「食ってやるるるる!」
「ィァァァ」
飛びかかって来た顔、というより頭に口しか生えていない鬼の、食らいつきをあしらう。
「なっ、いねぇ?! いた! 貴様何をしやがった?!」
「ィァァァ」
人間の呼吸 其の一
髪も目も鼻も耳もない、頭にパカッと開いたやかましい口に斬撃を叩き込む。
「ギャァア!」
特にこれ以上手があるとか、力を隠しているということはなかったようで、あっさり鬼の頭は上下に分断された。
「なで、な、で、ざいぜいじない?!」
「練りが甘い、魔力も血も」
斬られた頭が再生せずに、それどころか
それに対して僕は短く、的確に原因を教えてあげた。
鬼は再生力が強く、やたらとしぶといが
一見、隙がないように見えるその不死身の肉体。
だけど、その肉体を維持している魔力や血液の流れを絶ち切ってやれば、ダメージを与えることは可能だ。
魔力の密度を高めた斬撃を叩き込むと、原理は不明だけど、しばらくは再生しなくなる。
そして、それが致命的な部位で起こった場合、そのまま死ぬ。
致命的な部位というのは、鬼によって違うけど、大抵は心臓や頭や首など、人間にとっても重要な器官であることが多い。
今回は頭で正解だった。
一番、魔力密度が高かったもんね。
「クソァアアアァ………」
というわけで無事、口だけデカかった鬼は
後片付けとか――いつも考えてないけど――考えなくてもいいのは、いいね。
「ふぅ。さてと」
僕はたっぷり、雑魚にも油断しない感じの武士っぽさを出しながら、
そのあとで、刀を降ろした。
鬼は素晴らしい生きものだ。
何と言ってもお金にほとんど興味がない。
いや、人肉への興味がありすぎる、といったところだろうか。
まがりなりにも、二足歩行していることが多いにも関わらず、その精神性は獣そのもの。
人間の言葉を
そんなのだから、ひとの町に上手く
そして、溶け込めないのなら、お金なんて使う機会がない。
だから、彼らは基本的に金銭には手を付けないということだ。
お金なにそれおいしいの? 人肉のほうがおいしいよ。って感じ。
「金に汚くないのは、鬼にある数少ない美点だね」
どんどん湧いてほしい。
「おかげで、僕みたいなどうしてもお金がほしい、まともな人間がお金を手に入れることができる――っと」
おっと、つい素が出てしまった。
いまは狐のお面を付けて、なんとなく旅人っぽい薄めの外套を――薄くないと、なかなか格好よく風になびかないのだ――
いまの僕はさすらいの剣客。
そんな
「村人たちが
ん? なんか違うな?
微妙に悪役っぽいぞ?
「村人たちが遺したもの……か。フッ、遺す気などなかっただろうがな……」
皮肉げに笑いながら、鬼が荒らした民家で金目のものを
んん?
セリフとやっていることが
「まぁ、いいか」
誰も見ていないし、実はひとが見ていないところで努力している、みたいなものだろう。
うん、いけるいける、
「けっこう、あったな」
一番大きな家だったとはいえ、そこそこ
景気がよかったのだろうか。
これは、ほかの家も期待できるかもしれない。
「っ?」
――と、村にあるほかの家も探ろうとしていたとき、魔力の圧、のようなものを感じ取った。
かなり遠い、けども、確かに強い力の揺らぎを感じる。
目を向ければ、その方向の夜空が不気味に赤く染まっている。
まちの光が空に映っているとか、何かの気象現象とか、というのとは違う気がする。
「これは、陰の実力者的イベント……」
そうに違いない。
村人が
(――余裕があったら、あとで取りに戻って来よう)
バサァッ、と僕は薄い生地の外套をひるがえし、赤い夜空のほうへ向かって走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこそこ大きな町だったのかな?
モンスターでもないただの獣なら、乗り越えるのが難しそうなくらいの、7~8メートルくらいの壁。
それで囲まれた町。
日常生活を送る人間の気配はなく、ゴーストタウンの寂れた雰囲気と、いま起こっているナニカによる物騒な雰囲気が
物騒な雰囲気、と
「鬼が群れている……?」
こんなことは初めてだ。
鬼というのは大抵単独でいる生きもの。
集まって何かをしているのは、共食いしているところしか見たことがない。
同族は敵もしくはエサ、それが鬼の生態。
そう思っていたのだけど、違ったのだろうか?
(――気配を探る限り戦っているのは二人。それをほかの鬼が囲んでいる……?)
「それに、この赤い霧……もやか? 魔力を感じるが……」
ゴーストタウンに立ち込める煙。
重たい動きで、かたまりになって
「? 魔力を吸収しているのか、この赤いの」
赤いもやに触れた身体の魔力が薄まった。
何度か魔力を放って、その赤いもやに浴びせたり、注入したりしていると、だいたい性質はわかった。
触れた魔力を吸収して、成長しているみたいだ。
成長した赤いもやは流れて、ゴーストタウンの中心へ向かっている。
「ふむ」
僕は、そんな赤いもやとゴーストタウンの様子をしばらく観察して――決めた。
「赤いもやの発生源はあそこか」
突然現れて、圧倒的な実力を見せつけて、立ち去る。
陰の実力者たるもの、まずは物事の中心地に降り立つものだ。
「なんとなくわかってきた」
赤いもやの発生源、ゴーストタウンの中心へ向かうに連れて、赤いもやの密度は上がる。
触れなければ何ともなかった赤いもや。
しかし、物理的に、触れなければ前へ進めない場所が増えてきた。
何回か赤いもやにぶつかっている内に、対処の仕方もわかって来た。
対処の仕方は、四通り。
一、もやの質量が軽いから、風で飛ばす。
二、もやの魔力の密度を越す密度で魔力を練って、もやを斬る。
三、もやの魔力の密度を越す密度で魔力を練って、体表にまとわせる。
四、大まかにしか魔力を吸収できないみたいだから、細かく緻密に魔力を操作する。
ここはあえて、三かな。
場所を荒らさずに
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この赤いもや、想像以上に厄介だったが、私レベルの鬼ならば斬ることができるらしいな」
「ぐっ、ぅぅ」
――ガギャン! ガギャン!
と、乱暴に剣を叩きつける音がする。
それは剣が爪に受け止められる音。
片や、太い腕の先に分厚い剣を生やして、叩きつける男。
片や、叩きつけられた剣を、伸ばした爪で受け止める幼い少女。
その周りには、身体のどこかが人間とは違う異形の鬼が、数十体も倒れていて、
「しかし、それにしても優秀だ。我が主もお喜びになるだろう。貴様を持って帰れば、なっ!」
「っぅあ!!」
男の剣が、少女を爪の防御ごと
吹き飛ばされながらも、少女は即座に受け身を取り、転がってから起き上がる。
「私、は……あなたたちのものにはならない……従わないっ!」
「なぜ、
「私は、進んで鬼になったわけじゃない!」
少女が手刀を作って、爪で男の胸を貫こうとする。
太い剣を挟むことで、男は爪を防いだ。
ギュリギュリと、爪が剣に
「進んで鬼になったわけではないとして、それがどうした。行方不明になって今日まで、貴様はどうやって生きてきたのだ?」
「っ!!」
男の問いかけに、少女は痛ましげに顔を
「私は、鬼しか――」
少女が苦しい言い訳をしようと口を開いたとき、男――オルバの両腕が地面に落ちた。
「――ぇ?」
「は?」
あったのは無骨な黒い刀。
いたのは、少年と思しき身長の狐面の人間。
――刀を構えた黒衣の剣士が、少女とオルバの間に入り込んでいた。
血を
「何者だ?!」
「我はるろうにミノル……さすらいのただの剣士……」
オルバの問いかけに、黒衣の剣士は静かな声で答えた。
「ルローニ? そんな名前――どこかで聞いたような――っう、頭がっ?!」
黒衣の剣士の名前に、何かを思い出しそうになり、しかし思い出せないオルバ。
生やした剣ごと切断されたままの腕で、頭を押さえた。
だが、すぐに頭を振って気を取り直す。
「まぁいい。これほどの力。どこの勢力の者かはわからないが、見られたからには、生かしておけん」
切断された腕から分厚く太い剣を再び生やす。
まるで、何の
「ィァァァ」
人間の呼吸 其の六
オルバが振った両腕の二本の剣が、黒衣の剣士の刀に触れてピタリ、と止まった。
ヒュー、と剣が起こした強い風だけが、黒衣の剣士の後ろへ吹き抜ける。
黒衣の剣士にはまったくダメージはない。
「ふむ、再生ではない……この剣は、変形した腕ではない。本当に生やしてるのか……」
「ど、どうなっている?! なぜ、剣が進まない?!」
オルバが体重をかけて、剣を押し込むも、黒衣の剣士の刀はビクともしない。
黒衣の剣士は、オルバの腕の半ばから生える剣を見て、冷静に考え事をしていた。
「すごい……」
思わずという風に、黒衣の剣士の後ろで少女が声を漏らした。
さっきまで少女自身が苦戦していたから、オルバの
技術では、少女のほうが勝っていたが、それでも並の腕前ではなく。
膂力は、少女ではまるで歯が立たず、圧倒的にオルバが上だった。
だから、その恐ろしいほどの怪力を正面から受け止めるのを見て、驚愕していた。
「ぉらぁあああ!!」
剣を押し込むのは不可能と判断したオルバが、剣を一度引き、黒衣の剣士の頭に勢いを付けて振り下ろす。
が、
「ィァァァ」
ピタリ、と刀に受け止められて、そこから先へ進まない。
「ぉら、おら、おら、おら!!」
「ィァァァ」
オルバが連撃を叩き込むも、すべてが音もなく剣を止められる。
まるで、そこに見えない壁があるみたいに、剣が進まない。
「くそっ、くそっ、くそっ!!――おい、雑魚ども! 起きろ!」
オルバは連撃を叩き込みながら、叫んだ。
周りで倒れて呻いていた異形たちが、オルバの声で一斉に起き上がった。
そのうちの何体かは
「ガキどもを殺せぇ!」
オルバが連撃を叩き込み、黒衣の剣士を
数十体の異形が、黒衣の剣士と、ついでにその後ろの少女にも、一斉に襲いかかる。
「私のことはいい! あなたはあなたを守って!」
少女が叫ぶ。
いかに優れた剣術があったとしても、腕は二本、刀は一本だ、全方位から同時に攻撃されては
もちろん、他者を守る余裕もないだろう、と少女は
一時とはいえ自分を守ってくれた者のために、黒衣の剣士に襲いかかる異形を、一体でも多く倒そうと爪を伸ばした。
自分の身も
しかし、黒衣の剣士は冷静だった。
「ィァァァ」
人間の呼吸 其の八 剣界・熱水
「っあ……なん……だと……?」
――ビチャビチャビチャ。
襲いかかっていた異形、すべてが
小指の先ほどの肉片が、地面に散らばっていた。
「ぐ、ぁっ、ぁ」
それはオルバも例外ではなかった。
無事なまま立っていたように見えた身体は、実際は肉片が辛うじて人間らしい形を保っていただけ。
鬼の血がしぶとく、肉片同士をつなぎ止めようと
少し揺れただけで、とっくにバラバラになった身体が崩れていく。
「ぁぁ……」
もはや、喋ることもできなくなって、滅びていくオルバ。
何も言わず、油断もしない黒衣の剣士。
すぐに、その姿も見えなくなる。
ただ終わりを待つだけの暗闇に放り込まれた、オルバの心に浮かぶのは、
(――ミリア……)
鬼になってから
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
剣を腕から生やした鬼を筆頭とした、鬼の集団。
彼らが細切れの肉片となり、それすらも塵となって消えた場所。
ゴーストタウンの中心。
残った動くものは、狐面をかぶる黒衣の剣士と爪を伸ばした金髪の少女だけだった。
「助けてくれて……ありがとう……」
少女がかすれた声で剣士に礼を述べた。
とても、悲しそうに、苦しそうに。
黒衣の剣士は何も言わない。
「でも、私は鬼よ」
無言の剣士に、少女の爪が繰り出される。
当然、その爪は剣士の刀に止められる。
「せっかく、助けてもらったけど、ごめんなさい。――もう、終わりにして」
「…………」
剣士はやはり、何も言わなかった。
ただ、刀を少女の首に突きつける。
青紫色の魔力が渦を巻く。
「何から何まで、あなたに押し付けて、ごめんなさい」
少女は抵抗せずに、身体から力を抜いた。
「リカバリー・アトミック・お
青紫の光が、赤く染まった空を塗り替えて、少女に一つの奇跡をもたらした。
本当は、鬼化オルバさんはグレンと戦わせて、「鬼にならないか」「ならない」問答とかしたかったんだけどね。
書いてみたら、シドくんが強すぎて鬼化オルバさんが死んでしまった。
逃げることもできなかった。
〇オリ呼吸紹介
・
……武器耐の耐久力の超強化、体表の
一言で言えば、受ける衝撃のすべてを自分以外に受け流す技。
原理は違うけど、あの水の呼吸最強の型、凪とほぼ同じ結果をもたらす。
・人間の呼吸 其の七
……武器の耐久力の超強化、反射神経の超強化、体表の摺動性の超強化、身体の靭性の超強化、身体の超柔軟化、あらゆる攻撃の全方位受け流し。
一言で言えば、どんな衝撃も吸収・操作してカウンター攻撃に転用する技。
・人間の呼吸 其の八
……武器の耐久力の超強化、攻撃威力の超強化、五感の超強化、反射神経の超強化、体表の摺動性の超強化、身体の靭性の超強化、あらゆる攻撃の全方位受け流し。血液操作で飛ぶ斬撃or魔力操作で飛ぶ斬撃(飛ぶ打撃や飛ぶ刺突でも可)。
一言で言えば、魔力を含めて、範囲内で少しでも動くものの運動エネルギーを、吸収・操作してカウンター攻撃に転用する技。魔力か血液操作を使わないと、範囲がかなり狭くなる。
無職転生ファンのひとなら、水神の剥奪剣界を少し攻撃的にした感じ、と言えば伝わるかも。