「すぅ……、はぁ……」
吸って、吐くと、
二度、三度繰り返せば、
「ぅむ……。もんだぃなぃ」
とりあえず、人の形は取り戻した。
しかし、たった一歳の女子の身体に大した力はない。
前世の人間の身体で同じ状況に立たされていたなら、
問題ない。
解決する
一つ。
この身体は、もしかすれば前世の鬼狩りをやっていた頃より、呼吸術に馴染んでいる。
細い
二つ。
必死になって制御した呪いの流れ。
これも何がしかのエネルギーであることは間違いない。
たとえば、このエネルギーを腕に集めて集中させれば、ヒュッと風を切る速さで右手が振れた。
外に出せば
力を出せるし、耐久性も問題ない。
この二つがあれば、この鉄の
私は右手を手刀に構え、
放った斬撃がスパンと、檻の
――キン、ヒュンッ……。
――カラン。
――カラン、コロン、カラン……ドサッ。
「誰だっ?!」
「っ! 襲撃か!」
「とっ討伐隊か?!」
「……おもったよりかるい手ごたえ……。力かげんが、むつかしい……」
あと、喋りづらい。
舌が発達していないのだ。
呪いの力は想定したよりもずっと強力だった。
檻を上下に斬り分けて、静かに立ち去るつもりだったが、思ったより
横へ振ったときに生じた風だけで、斬り分けた上半分の檻が
そのせいで、それなりに大きな物音がなった。
それが、まず火の番の男を、そして、火の番の男の叫びに反応した多くの盗賊の目を覚ました。
まだ落下音がした森の奥に気をとられ、こちらに気が向いていない。
だが、それが斬り分けられた檻だと気付き、檻を放置した場所に気が向くのは、時間の問題だろう。
「おらっ、起きろ!」
「襲撃だ!」
「火ぃ、
「ためし斬りにはちょうどいい、か……」
この小さな身体で正面戦闘は不安だったが、これだけ力があるならなんとかなるだろう。
相手は
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「っぁ、だずげでだずげでだずげぇっ――」
「あぐま゛ぁ゛――」
「こんなものか。……たあいない」
相手の裏をかいたり、無抵抗の相手を殺すのにばかり慣れていたのだろう。
盗賊たちは意外なくらい弱かった。
血のにおいがそれなりに
たかが盗賊ということか。
脇が甘く、詰めが甘く、立ち回りがまずかった。
これなら呼吸術だけで皆殺しにできただろう。
もっとも、十日近く食事を摂らなかったにしては、不自然に体力が満ちていた。
おそらく、呪いの力が作用しているのだろう。
これなしではこちらの体力が切れていた。
さて、本気で戦うということはできなかったが、本気で攻撃することはできた。
盗賊から奪った剣を何度か振るうちに、力加減ができるようになった。
ひいては、力の扱いに最低限慣れた、と言えるだろう。
おかげで、
せっかくだから、盗賊の
盗賊の住み処は洞窟のはずだから、もうこの広場には用はない。
が――
「食りょうはもらっていく……。あとは、好きにしろ」
「っ」
悪魔憑きというよくない立場で運ばれていたことだし、これからしばらくは森に
で、ある以上は、食えもしない
武器と、いずれ使うかもしれない金銭はいくらかもらっていくが、かさばらない範囲でだ。
だから、私が立ち去ったあと。
盗賊の
死んだフリをして震えていた女らを
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
腕は自由に使えるようにしておきたいの
で、身体に巻きつけるのは
できるだけ質がいい布に穴を空けて、頭を通し、腰をひもで
いくらかの食糧、見慣れない
他に何枚かの麻袋も詰め込み。
たっぷり中身が入った水袋と一緒に、肩に
盗賊から奪った短剣は逆の肩にかけて、これで準備はいいだろう。
追っ手がいつ来るのかはわからないから、出発は早いほうがいい。
身体を休めるのならこの場から離れてからにしたい。
幸いまだ、身体は動く。
私はせめて体力の足しになればいい、と蓄えられていた黒色のパンを
森に
においと気配で辺りを探って、通りやすい道を
獣や獣のようだが少し違う気配をいくつも感じる。
これらをいまは、移動することを優先して極力避ける。
しばらくそれを続けて、辞めた。
あまり、意味がない。
このままだと。
「なんのつもりだ……?」
ついて来る者がいる。
森に入ったときからずっと。
正体もわかっている。
目的ははっきりしない。
ただ、目的が何にせよ、ついて来るなら邪魔だ。
いないほうがいい。それははっきりしている。
(――斬るか)
背中の短剣に手をかける。
斬り殺そう、そう思いながら剣を抜――こうとした。
剣を抜こうとして、剣を抜く手が動かなくなった。
(――剣が抜けない……?)
なぜだ? なにかの術にかけられている感じはしない。
未知の何かか、いや、自分の意思で抜かないように腕を止めている。
――
そういえば、慰み者になっていた女らを殺さなかったのはなぜだ?
追っ手を
(――これは…………誰の意思だ?)
「あぅあっ、てきっ、敵じゃないっす!
ほんとっす! 何か企んでたとかじゃねぇっくて!
ごめんなさい、許してくださいっす!」
私が己の行動と感情に戸惑っている間に、背後、
両手を挙げて抵抗しないとアピールしている体勢。
古布を着た、いまの私で三人分くらいの
においからも、盗賊に慰み者になっていた女の一人で間違いない。
「盗みではないのか?
「とんでもない! そんなことしないっすよ! 命知らずな!」
「では、なんだ……? もし町へかえりたいのなら、私は森のおくへむかっている。……ぎゃく向きだ」
「いやいやいや、町とかは、あ~」
「町でないなら、ものごいか……? 賊のすみかからは、大したものは持ちだしていないが……」
「そっちは否定できないかなぁ~。当たらずとも遠からずっていうか」
なるほど。
斬るか。
「あっ、いや、待ってくだせぇっす。食べものとかお金とかくれってことじゃなくって。行くあてがないから、付いていかせてほしい、っていうことっす」
「いらん」
「そういわずに一人より二人のほうが」
「じゃまだ」
「きっと役に立つっすから。こう見えて、けっこういろいろできるっすよ」
「いらん。――手に職があるなら、それで食えばいい。それとも、できないわけが、あるのか……?」
「あははは……」
問いに、女は目をそらして曖昧に笑った。
誤魔化そうとする感情を感じる。
なるほど。
「賊に、かたんしていたか……」
「あ~と、っすねぇ」
斬ろう。
賊なら躊躇う必要はない。
今度こそ腕は思ったとおりに動いた。
躊躇っていたのは、あくまで罪なき、あるいは、害なき相手を手にかけることだったようだ。
躊躇いの理由は後ほど考えよう。
短剣を少し傾けながら、滑らかに音なく剣を抜く。
刀とは勝手が違うが、前世、両刃の剣の使い手は何人も相手にした。
使い方に問題はない。
いつかは刀を振りたい。
そうして、足をかけて女の体勢を崩し――
抜いた剣を――
余計な抵抗をされる前に、余計な痛みを感じるより先に死ねるように――
振り抜――
「ピッチピチの若い女奴隷! いまならたったの500万ゼニー! 服も靴も付いてくるオプション付き奴隷だー!」
そんなことを
首に触れる直前の剣を私は止めた。