「ピッチピチの若い女奴隷! いまならたったの500万ゼニー! 服も靴も付いてくるオプション付き奴隷だー!」
いくら混乱しているからってこれはない。
何言ってるんだろ、あたし。
頭のまだ冷静な部分で、これ終わったわ、と
そんなことをするのも、本日三度目のことだった。
一度目は、アナコンダ盗賊団を仕切るアニキが「女が足りねぇ」と言い出したとき。
最近、増えた団員の相手をするのに女が足りないから、下っ端のあたしが相手をすることになった。
あたしの盗賊団での役割は、あの手この手を使って町で情報を集めること。
うまそうな獲物を
だから、一人二人相手にするなら問題ない。
女の身体はそういう方法で情報を集めるのに向いているから、慣れている。
でも、三人四人五人、そんな数になれば無理だ。壊れる。
実際に壊れた女は何度も見たし、
だから、宴の最中、「女が足りねぇ」と言い出したアニキと目があったとき。
これ終わったわ、と人生の終わりを
二度目は、なんとか男どもの
あたしって意外と
だから、気付くのが
「……っめ、っくしょっ! …………!?」
「――っぁぃじゃ! ぁっ?!」
あたしが気付いたのは、ボシュッ、と音がして
なんだ? まだ続きやってるやつがいたのか? と液が飛んできたほうを見ると、上半分がないひとが立っていた。
上半分がないひとが立っていた。
「なんだってんだ! このくそがぃぁ゛?!」
「ぃあ゛あ゛あ゛!!」
また、ボシュッ、と音がしてそっちを見た。
あ゛あ゛あ゛、と汚い悲鳴を上げながらアニキがお腹を押さえて――そのまま腰から下だけ残して地面に落っこちる場面だった。
それを為したのは、アニキの手前に立っている小さな影だろうか?
手、のようなものを構えて、目を赤く光らせている。
悪魔だ、と
悪魔なんて見たことないけど、きっとこれが悪魔だと。
その赤く光る目が一瞬、こっちを向いた。
目があった。
これ終わったわ、とあたしは今度こそ死を確信した。
しかし、悪魔は言葉を残して、その場を去っていった。
三度目は、いま味わっている。
一度目と二度目はどうにか助かったんだから、三度目も助からないかな。
いや無理だなこれ、だってもう殺意しかないもの。この悪魔さん。
あぁ、こんなんだったら、一か八か町に向かってたらよかったな。
でも、さんざんアニキたちに
しかも、他の心を壊した女を処分する様子も目の前で見せているし。
恨まれていないわけがない。
町に着いたら、間違いなく盗賊の生き残りとして捕まって
そうじゃなくても、悪魔が広場を去ってから起き上がった女たちの、あたしを見る目はヤバかった。
あのままだと正直、町まで無事にたどり着けたかも怪しい。
だから、
やっぱり、無理だったけど。
初め、言葉を交わせたから、これは行けるかもしれないと期待した。
しかし、ドジを踏んでしまった。
あたしが盗賊の一人だったと知られてしまった。
まぁ、それならやっとくか、みたいなノリで悪魔さんはあたしを殺そうとしている。
あぁ、なんでこんなときに反射的に出てくる言葉が、ずっと聞いてた奴隷商人の言葉なんだ。
もっとなんかあっただろ、あたしの
「としは?」
「へっ? とひ」
知らず閉じていた目を開いた。
まだ、首に冷たいものがあたっている。
「としはいくつだ……?」
「とし……歳……? じゅういちれふ……」
口がうまく回らない。
こわい、死にそう。でも、どっちにしろ死ぬ。
ああ死にそう。
「え……?」
剣を引いた?
どういうこと?
「ものに罪はないか……
悪魔さんがつぶやいた。
「え?」
もしかして、助かった?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
奴隷、という言葉を、今世で使っている言語で初めて聞いた。
が、金銭を出して取引できる道具とか、しもべといった意味だろう、と
これで成熟した大人なら、主とともに
もしくは、賊ではなく
殺すところだ。
しかし、奴隷とは家畜のようなものだろう。
しかも、訊ねてみれば、歳は十一。
肉体は成熟しているように見えるが、そう言われて“よく
――内臓を少し悪くしているな。なにより、……、……………。
嘘を
おそらく、本当にまだ11歳の子どもなのだろう。
そこまでわかったところでもう、殺す気は失せていた。
意思決定の権がない道具。
善悪の区別も、世のこと人のことにも
そんな子どもを意味もなく殺すことに意義を感じない。
多少邪魔になったところで。
森にあふれる無数の気配に、珍しい獣が一体増えたと思えば、許せる。
(――鬼ではないから、食えば強くなるわけでもなし)
私は剣を
後ろから足音がついてこない。
「ついてこないのか……?」
「ぇ、ぁ、ぅぅ、行くっす」
女は
再び歩みを進めていくと、後から足音は付いてきた。
「どこに向かってるっすか、これ?」
後ろを付いて歩く女が訊ねてくる。
「ふっ」
「っ?!」
私は短剣に手をかけ、振り向きざまに抜き放った。
振るった剣から赤い斬撃が女へと飛ぶ。
赤い斬撃は、女――の頭上を
大口をあけたヘビの頭を落とした。
「ヒィッ!! なんすかなんすかなんすか!」
「川だ」
力をなくして落ちてくる頭を遠くへはじき飛ばす。
まだにょろにょろと動いている胴を、木の枝から引きずり下ろす。
「かわぁ?! なにが?! いや川か!
違う! そうじゃなくて、ヘビ! 剣! あっぶな! え? あっぶな!」
「ながれる水の音がする、においも。おそらく、川だろう」
動いていても、頭がなければ
巻きついてくる胴は無視してよさそうだ。
切り口に爪を立てて、皮を
「はぁ……えっと、魚でも獲るんすか?」
「いれば獲る。が、まずは水をあびる」
「ああ……。
皮を剥ぎ終えた。
短剣の剣先をむき身になったヘビに立てて、腹を開く。
「そのヘビ、どうするんすか?」
「団子にして魚かねずみのえさにする」
「食べるんすかね? そんなもん」
「食わせる。毒があれば死ぬだろう。死ななければ、残りは焼いて食う」
一直線に開いた腹から、内臓をこそぎ出して地面へ捨てる。
においという意味では手遅れだが、一応、雑に土をかけて埋めた。
「……あぁ。毒見なんすね。
「ヘビの肉は精がつく……。このあたりの
「香草っすか……? アカヨモギならよく使うっすけど……」
「どこにある……?」
「これっすね。木の根っこに、必ずといっていいくらいに生えるんっす」
女に示された赤いまだら模様の葉を持つ草を採取する。
土や虫が付いていないのを確認。
開いた腹に香草を
これを三度繰り返して、新しい香草を開いた腹に挟み、木の枝にぐるぐる巻きにする。
剥いだヘビの皮をねじり、ヘビの身を木の枝に縛りつける紐にする。
でき上がった棒を、新しい麻袋に詰めた。
「行くか」
「あっ、持つっすよ」
重くはないが荷物が増えると動きづらい。
女の提案はありがたいので、同意して、ヘビが入った袋を投げて渡した。
「盗まないっすよ?」
「当たりまえだ……」
また、歩みを再開した。