結局、ウロコは麻袋一つに
寝袋と毛皮にはさまれて、たぶん、
せっせと、私がウワバミからウロコを
私はこの女の正気が二度と戻らないことを
ひと思いに殺してやったほうが……と、私が刀に手を掛けたとき。
「わー、違うっす! あたしのじゃなくって、ヘビの目ん玉っす! ヘビの目ん玉!
ヘビのモンスターの目ん玉は高く売れるんす!」
「……なるほど」
私は
この森の奥地において。
売れるだの売れないだの、王都の貴族にマニアがいるだの。
そんな
どうやら、正気を取り戻したらしい。
「なんかすげぇ失礼なこと考えてることは表情でわかるっすよ!
でも、ヘビのモンスターの目ん玉がすげー高いのは本当なんすよ! こんなでけーヘビの目ん玉、ぜってーめちゃくちゃ高く売れるっす!」
「売れると言ってもどこで売る……? 第一に、運ぶにしても大きすぎる」
「うーー、それは、その、なんかいい感じに運べないんすか?」
「すくなくとも、わたしにそんな手段はない」
「悪魔クオリティーでも無理っすかぁ。うーん……」
「悪魔くおりてぃ……」
また
お
「じゃあ、
ヘビの牙っていうと
「ふむ。キバを剣に……それはたしかに、ありか」
「っすよ!」
半分になって転がる頭の
その半開きななった口からのぞく牙は、
あれだけ大きければ、太さも武器にするのに十分なものだろう。
毒がある
「三つに折って、そのうちの一本を運ぶのが、げんかいだ」
重いだろうから、私が運ぶことになる。
背中に掛けている剣を下ろすにしても、一本、背負うのが限界だ。
「う。うーん、まぁそれは仕方ねぇっす」
そのようなわけで、ウロコに加えて牙も持っていくことになった。
ちなみに、ビビンバはヘビの肉に
毒があったらしい。
そのまま、死ぬかと思いきや、麻袋に詰めるウロコの
自力で
すさまじい生命力である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
左手の谷底を流れる川を上流方向へ
途中で、左手の谷に
川の先は滝になっていて、
せっかくなので、そこで休憩を取り出発。
谷底を流れる川は、どうやらこの幅広の川を
進行方向を真横に変え、今度は幅広の川に
方角でいえば、これまで北へ歩いていたところを、東へ方向転換したことになる。
森の多様な生態系に触れながら、
森の
「森があざやかになっているな」
「え? 森……? あぁ、言われてみればカラフルになった気がするっすねぇ……。葉っぱとか」
「フスッ」
ヴェラは言われて初めて気がついたようで、キョロキョロと森の木々に目を配らせている。
対して、ビビンバは
野生動物の感覚か、言われなくても気付いていたらしい。
「わずかに、あたたかくもなっている」
「クソ暑いことしかわかんねぇっすよ?」
「わからないか……。まだ夏だものな」
さらに、三日、森を歩いてそこにたどり着く。
一日目。
東へ東へ、と歩を進めれば進めるほど、植生の変化はますます
気温も徐々に高まった。
二日進む頃には、さすがに変化も
最近、使えるようになった魔力による他者の
歩みを遅くしながらも三日目。
私たちがたどり着いたのは
ぼこぼこ、ぼこぼこと
「ジャァアアア!!」
「ブズッァアアア!」
――ザンザンッ、ザンッ
熱水湖のほとり。
森から抜けた途端に襲いかかってきた巨大なザリガニに、尾が平たく板のようになった大ねずみが
ビビンバだ。
ザリガニからはまるで相手にされていないから、意味もなく
私はビビンバの後ろから斬撃を放った。
ふぅ、と一息吐く。
「ほんとに
「ここなら、冬でもあたたかそうだ……」
「夏はクソあちーし、安全のあの字も見当たらないっすよ?」
会話している間にも。
ザリガニの血のにおいに誘われたのか、トゲトゲしい
――次の瞬間には、横合いから飛び出てきた巨大なヘビに三体ごと
巨大なヘビはそのまま、湖の中へと飛び込んで消える。
「あのヘビは……」
「赤っぽかったっす……。見覚えがある色だったっす」
「ウワバミはここから
ウワバミは、さっきのヘビよりはるかに巨体だったが……。
おそらく
あたたかく、水に困ることはなさそうだが、住むのには
「ほかを当たろう」
「でっすよね~」
熱水湖が住むのに
しかし、なにも、あの湖のそばでなくてもいい。
少し離れた湖の周辺地域も、植生に変化をもたらすくらいには温暖化しているのだ。
冬場でも十分に暖をとれると見れる。
住む場所の探索は、熱水湖を中心にして回るようにして、行っていった。
まず、この熱水湖に来るために歩いた森に、住みやすそうな場所を探した。
住みやすそうな場所はなかった。
森は相変わらず、植物も動物も、土も水も風も、隙あらばこちらを殺しに来るような
森を南に進んだところには、壁と見まがうような巨大な樹木がそそり立ち、そこに蜂の
ヴェラ曰く、ビッグツリー・ビーズ。
魔剣士協会では、
それがいくつもの群れを形成して、一つの巨大な樹木のあちこちに巣を作っている。
無論、そんな凶悪な化生のそばで安全な生活など望めるはずもない。
森の中で、蜂の巣がある南部のほかは、これまで歩いてきた西部、熱水の湖がある東部、川が横断して行き止まりになる北部。
この森に安全地帯はない、と結論した。
では、熱水の湖より東へ向かってはどうか。
それこそ、あの湖に熱水を湧かせている
活動している火山があり、そこなら
じゃあ、我々はそんな環境でどう生きていくのか。
そんな疑問はひとまず置いておいて、熱水湖の東に向かった。
住みやすそうな場所はなかった。
熱水湖の東は盛り上がった地層がむき出しになった岩石地域だった。
そこに生息しているのは主に二種類。
一種は、鉱物でできた
一種は、常に群れで行動し、付かず離れずの距離を保ちながら獲物が
どちらも厄介だが、オオトカゲのほうは特に
与えられるプレッシャーから、ヴェラとビビンバが寝不足になったため、もちろんここに住むのも
岩石地帯に安全地帯はない。
よし、川を越えよう。
そう、ヴェラは死んだ魚のような目で言い出した。
あとは、川を越えた先にある森しかあるまい、と私は同意した。
仮称、北の森――川の先に住みやすそうな場所はなかった。
まず川を越えることが苦難だった。
ちょうどよく高い木があるのだからこれで橋を渡そう、と私が斬り対岸まで木を渡すと――。
――水面に触れた瞬間に、削り取られた。
川の中から体が透けた小さな魚。
――小さいが口を開けばノコギリのような歯が覗く、小魚の群れが水面に触れた樹木に食いついて
無言でその光景を眺めていると、まもなく樹木の橋の
そのときにはもう、残骸としか言えない状態だった。
私がヴェラを抱えて、水面の上を歩いて渡るのも明らかに危険だった。
川岸の木のてっぺんまで登って、対岸の木のてっぺんまで、私がヴェラを抱えて跳ねて渡ることになった。
途中、大口を開けて川から飛び出して来た赤い目の怪魚は、足から斬撃を飛ばして追い払った。
くつを
そして、肝心の北の森。
熊の群れ、猿の群れ、鹿の群れの三すくみ。
語る必要もない。
北の森に安全地帯はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は認めなければなかった。
こんなところに安全地帯なんてあるわけがない。
熱水湖周辺。
このあたりの生きもののいいところは、何もせずともあちらから襲いかかってくるところ。
このあたりの生きものの悪いところは何もせずともあちらから襲いかかってくるところ。
返り討ちにし続ければ食べるものに困らないが、返り討ちにできなければ食べられる。
熱水湖の周辺地帯は無理と結論。
もう
今いるのは、
蜘蛛とトカゲがいる岩石地域から
――つまり、熱水の湖から見て川を越えた先にある山。
その山の途中に、高原が広がっていた。
ここは熱水の湖から
だから、湖からの熱は大分、
それでも、標高を考えればかなりあたたかい。
ここなら、冬でも氷づけになるほど寒くならないと思いたい。
高原の野生の生きものが襲って来る頻度は、これまで回った熱水の湖の周辺と比べればはるかにマシだ。
生息しているのは、黒毛の
たまにぶつかることはありながらも、互いに
他にはヤギやウサギも息づいているため、獅子は必ずしも大牛を狙う必要はない。
比較的、競争が穏やかで、積極的に
仮に襲いかかって来ても、こちらのほうが強いと分かれば、逃走に切り替えられるだけの落ち着きと
住むならここだろうか。
高原の真ん中を流れる小川まで歩いて
ウワバミの頭と同じくらいの大きさの、白くて滑らかな岩だ。
とりあえず、これを切り抜いて
「手ごたえが
四角い穴が空いた岩を
「なんていうか……遠くまで来たっすねぇ」
そんな光景を、いつか見たよりもますます濁った目で眺めるヴェラ。
「フスゥー!」
ここ最近で一回り大きくなったビビンバは四角い穴を出入りしながら跳ねまわっている。
私はうむ、と頷く。
「湖までヴェラのあしで三日はかかる」
「そーいうことじゃないんすけど……。
っていうか、近くても、あんなおっかねー湖にわざわざ行きたくないっすよ」
「
この高原の冬が、けわしいものでないとよいが……」
「えらくこだわるっすねー、悪魔さん……。
そりゃー、あったかいのは大事っすけど。寒いのが悪魔の弱点だったりします?」
「いや……悪魔うんぬんはわからん、が……。
――
――だから、できるだけ、よいところで産むべきだろう……。
母も、生まれた子も、けわしい環境では辛かろうしな」
「…………。…………? ………………え?」