思いつき次第短編として投稿していきます。

非常に不定期です。

読みづらかったりする場合はお伝えいただけるとありがたいのですが、反映できるかどうかはわかりません(作者の技量不足故)。

どうぞよろしくお願いいたします。

現在のタイトル
・缶コーヒー

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下校途中に思いついたので書いてみました。
誇張表現はありますが、内容的にはほぼほぼ実話です。





夕方の帰り道の独特な雰囲気っていいですよね


缶コーヒー

 学校からの帰り道、ふと自販機を見つけた。

 

 高校入学からはや二年が経とうという2月の夕暮れ。

 時刻は午後五時を回り、少し肌寒くなってきた。

 そんな折、見つけた自販機の先には「缶コーヒー 微糖」の文字。

 

 値段は110円と手ごろで、空いた腹には魅力的な提案だった。

 

 たまらず財布に手を伸ばしたものの、あいにく手持ちの小銭は7円と寂しく、仕方なしにお札を切った。

 自販機にお札を差し入れる際の、何とも言えぬ万能感と一抹の寂しさに襲われ、少し目を背ける。

 

 

 ガチャン、ガチャン。

 

 

 ガシャッ、チャリチャリチャリン。

 

 

 落ちてきたお釣りを回収し、心の裏側で淡い期待を交えながら数を数える。

 

 890円の正しさに眩暈がした。

 

 逃げるように缶コーヒーを取り出せば、温かさが手袋を通して指先を焼く。

 その熱に確かな信頼を覚え、たまらずプルタブを開ければ

 

 

 プシュッ

 

 

 という小気味の良い音とともに、ふんわりとした風味が鼻腔をくすぐる。

 缶に口をつければ、少々の熱さの中に柔らかな甘みが広がり、得も言われぬ高揚感とともに、冷たい熱が全身を駆け巡る。

 急くように2口目、3口目と口をつければ、充足感で全身が包まれる。

 

 ここにきて僕は、最強の力を手に入れた。

 すなわち、缶コーヒーを。

 

 家路を急ぐ理由などない僕にはその温かさと甘さが心地よく、ゆったりと歩き出す足を止める理由もなく。

 

 片手に缶コーヒーを持ち、我が家への帰路をたどる。

 

 小さな川を渡り、工場の脇を抜け、ゴルフ場を間近に見据えれば、家までは一直線。

 道路の左右に並ぶ田んぼの上で、平たい鷹が風を受けて鳴いている。

 

 山の端へと消えゆく残光が目を焼き、たまらず顔を上げる。

 すると、飛行機雲が風に流れるのが見え、思わず頬がほころぶ。

 

 それはまるで秋の夕暮れのようで、時をさかのぼったかのような錯覚を覚えた。

 

 

 一歩一歩、足を踏みしめ。

 

 一口、また一口と缶を傾ける。

 

 時は嘘のようにゆったりと進み、世界(ぼく)は静寂で満たされた。

 

 

 吹き抜ける風の心地よさに、「あの頃」を幻視する。

 

 5時の鐘が遠く響き、輝く黄金の光の中で、友人とともに家路を急ぐ小さな背中。

 

 

 そこに懐かしさを感じるのは、未熟な心の表れだろうか。

 

 

 そんなことを思い、少しずつ近づく家々の明かりをぼうっと眺め、歩を進める。

 

 残り少なくなった缶コーヒーの余韻に浸りながら、ふと前を見ると、女性が歩いてくるのが見えた。

 

 

 そこにわずかな違和感を覚える。

 

 

 距離が近づくにつれ、脳内の点同士が線を結び、朧気ながら像を形作る。

 彼女が小学校時代からの知人であるということに気づいたころには、彼我の距離は10mほどまで縮まっていた。

 

 

 遠い日の彼女を想う。

 

 彼女とは、小学校時代に少々の縁があった。

 しかし、中学へ進学し、年を重ねるにつれて徐々に疎遠になり、高校に入った今では連絡を取ることもなくなっていた。

 

「声をかけるべきだろうか」

 

 しかし、2年以上顔を合わせていなかった相手に急に声をかけるというのも気が引け、ただ歩みを進める。

 

「それに、僕のことなど覚えていないだろう」

 

 そう思いつつも、若干の希望を込めて彼女を見る。

 

 そこに、ほんの少しの奇跡を期待して。

 

 

 かくして視線が交錯する。

 

 

 そこで僕は、自らの浅はかさを知る。

 

 刹那、交わした視線の先の瞳には、何も映っていなかった。

 過去も、現在も、そしておそらく未来さえも。

 

「僕」を透過して景色を眺めているような、自分が無にでもなったかのような感覚。

 

 何のことはない。

 

 彼女の中で、「僕」という存在は色あせ、路傍の石になり果てていただけのこと。

 惜しむべきは時間か、己の浅さか。

 

 それは間違いなく後者であった

 

 交わさなくなった言葉、合わせなくなった視線、振り向かなくなった瞳。

 

 

 そこには確かに ()() があったのだ。

 

 

 

 そしてそれは僕も同じだった。

 

 

 触れ合おうとしなかった。交わそうとしなかった。振り向こうとしなくなった。

 

 断ち切ったのは僕だったと今更ながらに気が付いた。

 

 

 繋がりが消える。交わった瞳は離れ行き、二度と交わされることはないだろう。

 

 すれ違い、進みゆく君と僕の距離は、無限に別たれた。

 

 

 

 

 やがて行き場を失った視線は落ち行き、手元に残る缶コーヒーに注がれる。

 

 熱の残り香を求めて大きく傾ければ、閉じた瞼の裏に張り付いた過去が、形を結ぶ。

 

 残りいくばくかのコーヒーを飲み干すと、甘さとともに「あの頃」が揺蕩い、消えていく。

 

 

 

 香る寂寥が頬をなぜて、わずかに残った熱をさらう。

 

 

 

 

 

 

 缶コーヒーの冷たさが、ほんの少し、腹に響いた。


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