優秀な姉を持つ少年、織斑一夏。
姉と比べられ、虐められていた一夏は、姉の元を離れとある組織と関わる事になる。
その組織の名は、『素晴らしき青空の会』。

青空の会の元で成長した一夏だが、そこで事件が起こってしまい……

「変身!」

「その命、神に返しなさい」

悲しみを背負い、青空を守護する戦士。
これは、彼の物語のほんの1ページ。










注意

①ISと仮面ライダーキバ(のイクサ関係)のクロスオーバーです。

②IS学園に入学する前の話です。

③一部キャラの性格が変わっている…と言うか、柔らかくなっています(名護さんとか健吾とか、名護さんとか753とか妖怪ボタンむしりとか)。

④素晴らしき青空の会の過去編(1986年)のメンバーと、現代編(2008年)のメンバーがごちゃ混ぜになってます。
 それに伴い、関係性が親子から姉妹になっている人達がいます。

⑤ファンガイアやレジェンドルガといった、人間以外の種族は登場しません。
それに伴い、種族が変わっている人が居ます。

⑥イクサのナックル起動音ですが、東映の仮面ライダー図鑑では『レジィ』、CSMの説明書では『レ・ディ・イ』、他のサイトではアルファベット表記だったりと作者が混乱し発狂したため、今作では『レ・ジ・ィ』にしています。
 ご了承ください。

⑦人が死にます。

⑧あまりドロドロしていません。

⑨読み切りです。

二次創作なら何でも許せるという方のみ、この先をご覧ください。

1 / 1
なんとなく思い付いたシリーズ第6弾です。
753の面白さとか、音也の格好良さをしっかり書けているのか不安。

別の読み切り作品で

「20000字超えちまったよ!HAHAHAHA!」

みたいな事を言ったら、今回はなんとそれを上回る30000字オーバー(短編とは)。
長いとは思いますが、最後まで読んでくださると嬉しいです。


INFINITE・IXA

「ゴホッ!ゲホッ!はぁ、はぁ…なん、で、こんな、事…」

 

 

日が傾き、綺麗な青空が真っ赤に染まったころ。

1人のランドセルを背負った少年が、トボトボと歩いていた。

 

 

これだけだったら、遊んでいたか、居残りをしていた、ただの小学生が下校しているだけに見えるだろう。

だが、少年の顔や腕は腫れており、痣が出来ていたり、至る所にある切り傷から血が地面に滴り落ちていた。

少年の背後には、歩いていた道のりを示すかの様に血痕が続いており、それ程までに血を流してしまっている為、少年はかなりフラフラで、何時倒れてもおかしく無いような危険な状態だ。

 

 

こんな傷は、ただ転んだだけなどの簡単な理由で出来るものではない。

少年は、暴行を含んだいじめを受けており、この怪我も全ていじめによって出来たものだ。

 

 

少年の名前は織斑一夏。

 

 

一夏には物心つくころから両親がおらず、姉と2人きりで生活してきた。

その姉、織斑千冬こそが、一夏のいじめの原因だ。

 

 

千冬は周囲よりも優秀であり、テストでは常に高得点しかとらず、運動神経も抜群で他を寄せ付けない、まさしく文武両道という言葉がふさわしい存在だった。

そんな姉が優秀な結果を残していってしまったら、弟である一夏には否が応でも、重たく、大きな期待がのしかかる事になる。

 

 

一夏の成績は、周囲と比べれば優秀な部類ではあるものの、千冬と比べればどうしても見劣りしてしまう。

その為、周囲の大人たちは一夏に理不尽な仕打ちをするようになっていった。

 

 

罵詈雑言はもはやスタンダードで、1人だけ課題が多かったり等々、普通に考えたら如何考えても世間に露呈したら問題にしかならない事を、大人から受けて来た。

大人がそんな事をしていたら、いわゆる悪ガキと呼ばれるよな小学生も便乗しだす。

そして、自分達の友達がそんな事をし始めたら、周囲の人間もやり始める。

その様な連鎖が続き、一夏をフルボッコにする環境が出来上がった。

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!ガハッ!!」

 

 

一夏は立ち止まり、咳払いをする。

口の中も切れており、まるで吐血したかのような光景である。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

目の焦点が合っているのかも怪しい状態で、一夏は歩いていく。

姉との2人暮らしの家では、一夏が全ての家事を担当しており、自分が帰らないと料理も掃除も出来ないからだ。

 

 

「ちふ、ゆ、姉…何で、僕が、こんな目に……」

 

 

涙目になりながらそう呟く。

一夏が小学生であるため、生活費などは千冬が全て稼いでいる状態だ。

尚且つ、自身の勉学等もあるため千冬は非常に忙しく、朝早くから家を出て、夜遅くに帰って来るという生活を送っている。

 

 

その為、一夏はいじめられているという事を千冬に相談出来ていなかった。

そもそも顔を合わせる時間が無いというのもそうだが、只でさえ忙しい千冬の時間を使わせる訳にはいかないという、間違った方向での思いやり故だった。

 

 

一夏は千冬の事を尊敬しているし、大切な姉だと思っている。

そして、いじめられる際に投げかけられる

 

『出来損ない』

 

という言葉によって、自分を大事にする価値観など、とっくのとうに無くなってしまった。

だからこそ、一夏はこれ以上千冬の迷惑になりたくないという一心で、耐えるのだ。

 

 

だが、その尊敬する気持ちと相反するような、別の感情も千冬に向けている。

自分がこんな目に合うのは、千冬が優秀な成績を残したからだ。

千冬が無意識ながらも自分にプレッシャーをかけて来たからだ。

千冬が、自分の事を守ってくれないからだ。

 

 

いじめによる暴力を受け、1人になると。

一夏は絶対にこんな事を考えるようになった。

一夏は、いじめの原因の1つである千冬の事が、大っ嫌いだ。

 

 

千冬の事を尊敬している自分と、千冬の事が大っ嫌いな自分。

どちらの感情も本当だ。

こんな状態で、長らく生活していたものだから、今自分が千冬に対してどんな感情を抱いているのか。

今の一夏には分からなくなってしまった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……今日、は、ハン、バー、グ、を……」

 

フラッ…ドシャァ!

 

 

虚ろな瞳でそう呟いたのも束の間。

足元がもつれてしまい、一夏は地面にうつ伏せに倒れた。

 

 

倒れた際の衝撃による痛みなど、もとより傷だらけの一夏は感じなかった。

 

 

「あ、う、が、ぁ……」

 

 

口からは言葉にならないようなうめき声しか漏れず、全身が溶けてなくなってしまったのかと錯覚するほど、身体に力が入らない。

 

 

「あ、あ、あぁ……」

 

 

一夏はなんとか身体を起こそうとするも、もはやそれは叶わない。

最後に、空の端の方のまだ赤く染まってない、僅かな青空を見て、一夏は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約3時間後。

赤かった空も暗くなり、辺りも暗闇に包まれてきた。

とは言っても、街灯が光り輝いており、視界が奪われるという事は無い。

 

 

そんな、少し街中から外れればいくらでもあるような住宅街で、1人の男性がランニングをしていた。

気温も昼より低くなり、風が少しひんやりしてくる時間帯だ。

特に変わった光景ではない。

 

 

ただ、その男性が青地に白で『753』と書いてある、少々独特なTシャツを着用している為、少し目を引くというのはあるのかもしれないが。

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……そろそろ、帰った方が良いかもしれませんね……」

 

 

チラッと腕時計を見ながらそう呟き、立ち止まる。

息を整える為、深く息を吐き、思いっきり吸う。

すると、その瞬間

 

 

ビュォオオオオオオオ!!

 

 

「む、風が……」

 

 

少々強い風が吹いてきた。

男性は咄嗟に目を瞑り、左腕で顔を覆う。

数舜の間そうしていたが、風が止んで来た頃、男性は違和感を覚えた。

 

 

(なんだ、この匂い……)

 

 

風に乗って、とある匂いが漂ってきたからだ。

顔を覆っていた左手を動かし、スンスンと匂いに集中する。

そして、気が付いた。

 

 

「っ!?血の匂い!?」

 

 

これが血の匂いだと。

男性は焦ったように、風上の方に向かって走り出す。

少し移動しただけで、男性はこの匂いの原因を知ることになる。

 

 

ランドセルを背負った血だらけの小学生…そう、一夏が倒れているからだ。

 

 

「君!大丈夫かい!?しっかりしなさい!!」

 

 

男性は一夏に駆け寄り、声を掛ける。

しかし、一夏は気絶しており反応は無い。

 

 

男性は一夏の呼吸と脈を確認。

かなり弱々しいが、取り敢えず生きている事に安堵すると、改めて周囲を確認する。

 

 

一夏の後ろには、倒れている場所にまで点々と続いている血痕。

倒れている箇所にはそこそこな量の血が流れており、一夏の身体にビッシリある切り傷は、時間が経過し血が固まり塞がっているものあるが、大きいものはまだ塞がって無く血が流れている。

 

 

男性に一夏の正確な年齢が分からないが、ランドセルを背負っているので、小学生であるというのは分かる。

そして、見えるだけの出血量なら、一夏がかなり危険な状態だとも。

 

 

「っ……」

 

 

男性は迅速に携帯電話を取り出すと、119番に電話を掛ける。

 

 

『はいもしもし、こちら災害救助情報センターです。火事ですか?救急ですか?』

 

 

「救急です。ランドセルを背負った少年が血まみれで倒れています」

 

 

『分かりました。詳しい場所や目印になるものなどお願いします』

 

 

などなど、落ち着き払った様子で通報を終えた男性。

 

 

「ふぅ…これでいったん大丈夫ですかね…あ、そうだ。連絡はしておかないと…」

 

 

一夏の事を視界から外さないようにしながら、また別の場所へと電話を掛ける。

数回のコールの後、相手が電話に出る。

 

 

『おう啓介、どうした?お前が戻ってこないと飲み会始めらんねーぞ』

 

 

「音也、それどころじゃない事になりました」

 

 

『あん?何があったってんだよ?』

 

 

「ランドセルを背負った小学生だと思われる少年が血まみれの状態で倒れている。周囲に保護者の方も確認できない。私が病院まで付き添う」

 

 

『ハァッ!?大丈夫かよ!?』

 

 

「かなり弱ってはいますが、呼吸も脈もあります。私の事は気にせず、どうぞ飲み会を開始してください」

 

 

『……んな事言われて素直に酒が飲めるわけが無いだろ。この雰囲気、どうしてくれんだ?』

 

 

「自分達でなんとかしなさい。救急車のサイレンが聞こえて来たので、私はこれで」

 

 

『あ、ちょm』

 

 

男性は一方的に通話を切ると、携帯電話をポケットへとねじ込む。

そして再び一夏の容態を確認する。

 

 

「特に問題は無いですね」

 

 

男性は、自分が何故初対面の、名前も知らない少年の為にここまでやるのか、理解していなかった。

 

 

「……」

 

 

サイレンの音がドンドン大きくなってくる中、男性は考える。

そして、口元に微笑を浮かべ、ポツリと呟いた。

 

 

「何故か、放っておけないな」

 

 


 

 

一夏が血まみれで倒れたあの日から、3年が経過した。

 

 

あの後、病院に搬送された一夏は、なんとか一命をとりとめる事となった。

数日間意識を失っていたが、無事に目を覚ました一夏。

だが、ここで転機が訪れる事となる。

 

 

いくら意識が回復をしたとはいえ、血だらけで気絶していたのだ。

しばしば入院をする事になる。

 

 

その入院の期間、一夏は……楽しかった。

周囲から罵詈雑言を言われない、いじめられない、それだけでも十分だったのだが、それ以上に嬉しかったのは、千冬と関わらない環境で生活出来た事だ。

 

 

以前までだったら、何かしらで絶対に千冬の事を考えていた。

それが、入院生活で自分の為に時間を使えるようになり、心に余裕が生まれたからだ。

 

 

月日は流れ、退院する日が近づいてくるにつれ、一夏はとある事を考えるようになった。

 

『このまま千冬の元から離れて生活したい』

 

千冬の事を尊敬しているのに間違いは無い。

だが、千冬の元に居ればいじめられるし、千冬の事が大嫌いな自分もいる。

自分の感情を整理する為にも、1回千冬との縁を切り、織斑一夏個人として生活していきたいと。

 

 

そんな一夏だが、自分を引き取ってくれる親戚なんて1人もいない。

どうしようかと悩んでいた時、1つの団体が病院の一夏の元へとやって来た。

 

 

その団体の名は《素晴らしき青空の会》

世界各国で活動するバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)達が所属していて(バウンティ・ハンターではないバイオリニストも所属している)、綺麗な青空を守る…平たく言えば、世界平和の為に活動している組織で、一夏を保護した男性も所属している。

 

 

そんな青空の会が一夏の元を訪れた理由。

先ず、保護した男性が一夏の事が気になるからと病院を訪れる事にして。

保護した際の通話相手も、気になるからと付いて行く事にし。

2人だけだと言動が心配だからと、会長も付いて来る事になり。

3人が行くならと、残りのメンバーもなんとなくついていく事になり。

 

 

結果としれ青空の会全員が一夏の病室を訪れるという、大変な状況となった。

一夏もいろいろと混乱し、ちょっとしたドタバタ劇が起こり病院の人に全員説教をくらった。

 

 

いろいろとあり、一夏の無事を確認したメンバーは帰ろうとする。

だが、ここで胸の内を話さなかったら、二度とチャンスは訪れないと判断した一夏に呼び止められ、一夏の話を聞く事になる。

 

 

家族構成だったり、どのような環境で生活していたのかだったり…

そして、千冬の元から離れて生活をしたい事を。

 

 

その話を聞いた青空の会のメンバー。

一夏を引き取る事事態は可能ではあるが、バウンティ・ハンターである自分達と小学生を関わらせていいのかという問題に直面する。

だが、一夏の意思は固く、泣きながら懇願され、保護する事を決断。

 

 

千冬との交渉を含めた全ての手続きを引き受け、無事に一夏は千冬の元から離れて生活を送る事になる。

 

 

通っている小学校も転校、青空の会の拠点ともいえる、会長の知人が経営している喫茶店、『カフェ・マル・ダム―ル』にて居候の生活を開始する。

周囲の環境がガラリと変わった一夏。

今まで足枷のように一夏に絡みついていたプレッシャーだったりが無くなった事により、一夏は自分を極端に追い詰める事が無くなり、結果として能力が飛躍的に上昇する事になる。

 

 

千冬と比べれば劣っていたというだけで、元々一夏の能力は高い方だった。

その為、能力が上昇した今、かつての千冬以上の能力を得るにまで至った。

青空の会のメンバーとも関わっていくうち、彼らからも様々な事を教わり、吸収していく事になる。

 

 

そんな、幸せで楽しい生活を送っていた一夏に、再び転機が訪れる事になる。

一夏が居候をはじめ、約1年。

小学4年生の時の事だ。

 

 

白騎士事件が発生した。

 

 

千冬の親友、篠ノ之束が開発したパワードスーツ、IS。

宇宙進出を目的として開発されたが、当初は見向きもされなかった。

 

 

だが、突如として世界中のミサイルがジャックされ、日本に向けて同時に発射される。

もうどうする事も出来ないと思われたその時、後に白騎士と呼ばれる事になる一機のISが、全てのミサイルを撃墜させたのだ。

 

 

この事件こそが白騎士事件。

そして、この事件を機にISは一気に注目を集める事になる。

ただし、軍事兵器として。

 

 

ISは現行の兵器全てを上回るほどの戦闘力を有していた。

軍事転用されない訳が無い。

 

 

あーだこーだ様々な国が揉め、アラスカ条約などだんだんと整備されていくのは、もう少し未来の話。

 

 

そして、この事件は一夏に影響を与えた。

白騎士のパイロットは現状不明とされている。

しかし、事件を中継で見ていた一夏は直感的に理解した。

 

 

白騎士のパイロットは、千冬であると。

開発者である束は、千冬の親友で、一夏とも面識があるし、どういう性格で、どのくらいの交友関係があるのかも、1年前のものではあるが大幅把握している。

そこから考えても、パイロットは確実に千冬だった。

 

 

1年経っても、一夏の千冬に対する気持ちの整理はついていなかった。

白騎士のパイロットを出来るなんて凄いと思う反面、今後IS関係で活躍したら、もう2度と千冬の元に帰る事など無いという冷めた感情も持ち合わせていた。

 

 

そんな反する2つの感情をくすぶらせたまま、1ヶ月程過ごしたのだが、このままではいけないと一念発起。

青空の会の会長に、1人で海外に行きたいと相談する。

 

 

まだ小学生である一夏を1人で海外に行かせるのは、一夏を保護した時以上に躊躇したものの、一夏の意思を尊重する事にした。

青空の会の人脈を駆使し、アメリカで最低限の生活の為の基盤を用意。

最低限の学費と生活費を振込はするが、現地では一夏1人で生活をさせる事にした。

 

 

そうして日本を離れ、言語や文化の壁を乗り越え、アメリカでものびのびと生活していく事で、一夏の能力は更に上昇していく事になる。

そんな、アメリカでの生活を送る事早2年。

長期休暇を利用し、一夏は久しぶりに日本に帰って来る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京にある国際空港の到着ロビー。

此処には、今丁度アメリカから到着した飛行機の乗客が続々とやってきており、出迎えの人達もいる為、そこそこ人がごった返している。

そんな中、大きなリュックを背負う1人の小学生…一夏は、キョロキョロと周囲を見渡していた。

 

 

「えっと、此処にいるはずなんだけどなぁ……」

 

 

2年前よりも伸びた身長、低くなった声、男前と言えるくらいにはイケメンになった顔面等々、成長した姿。

自分でもかなり成長したというのは分かるので、向こうは自分が一夏だと分からないかもしれない。

その為、自分で向こうを発見しようとしていたのだが、

 

 

「おーい!一夏くーん!!」

 

 

如何やら向こうが自分だと分かったらしい。

声が聞こえてきた方向に振り返り、笑顔を浮かべてから声を掛けて来た男性に駆け寄っていく。

 

 

「名護さん!!」

 

 

「久しぶりだね、一夏君。大きくなったな」

 

 

その男性…『名護 啓介(なご けいすけ)』も優しい笑顔を浮かべると、一夏の頭を数度撫でる。

 

 

啓介は、3年前血まみれでぶっ倒れていた一夏を保護した張本人であり、青空の会のメンバーの中で一夏が1番懐いている人物である。

青空の会のバウンティ・ハンターたちはそれとは別の職業と兼任している場合が多いのだが、啓介はバウンティ・ハンター一本の人物で、捕えた相手のボタンをむしり取る癖がある。

他にも、走っている乗用車を足で蹴って止めたり等々のかなりイカレタ身体能力の持ち主であり、一夏の目標の人物である。

 

 

「この場に居ては他の方の迷惑になる。今日は車で来ているので、続きはそっちで話すことにしよう」

 

 

「はい、そうしましょう」

 

 

啓介と一夏は並んで移動を開始する。

その道中、空港内の最新ニュースを映しているディスプレイ前を通ったとき、丁度新着ニュースが入った音が鳴り、2人は同時にディスプレイに視線を向ける。

 

 

そのニュースは色々と述べてたのだが、端的に纏めると

 

『第一世代のISがほぼ完成。世界各国第二世代型の開発を着手し始めた』

 

といったものだった。

そのニュースを見た啓介ははぁ、と深く息を吐く。

 

 

「やれやれ。また面倒な事になりますね…勝手にやってなさい、と言いたいものです」

 

 

遠い目をしながらそう呟くと、そのままスタスタと歩き出す。

 

 

「あ、ちょ、名護さん!待って下さい!!」

 

 

一夏は慌てて啓介の後を追っていく。

因みに、一夏はアメリカから帰って来たばっかりだが、特に時差ボケを感じていない。

これは、一夏の体力が物凄いので、時差ボケによる疲労を無理矢理乗り越えているのである。

 

 

啓介がため息をついた理由。

それはISのある欠点に起因した社会情勢の変化だ。

 

 

現行の兵器などで歯が立たないIS。

その欠点として、女性でしか動かせないというものだ。

 

 

全ての兵器の頂点ともいえるISを、女性しか動かせないと分かるとどうなるか。

一部の女尊男卑過激派集団が騒ぎ出すのだ。

 

 

この世の仕事では男性も女性も必要であり、ISが出たからといって女性のみが優遇されるという事は無い。

が、やはり騒ぎ出す過激派はおり、それに示唆されて過激派になってしまう女性もいる訳で。

 

 

女尊男卑の考え方はじわりじわりと広がって行っているのが現実である。

その為、世界各国を飛び回っているバウンティ・ハンターにとっては、だんだんと仕事がしづらい環境になってきているのだ。

 

 

とはいえ、まだまだ男性も活躍しているのだが。

 

 

駐車場までやって来た一夏と啓介。

青空の会所有の車に一夏の荷物を乗せ、一夏は助手席に、啓介は運転席に座る。

 

 

「それでは、出発!」

 

 

「おー!」

 

 

シートベルトを着用し、車は出発する。

その道中、啓介と一夏は談笑をする。

 

 

「それで名護さん、このニュース。この、3ヶ月前にテロリスト確保したの名護さんですよね?」

 

 

「ほう、やはり分かりましたか。そう、そいつを確保したのは、この名護啓介!」

 

 

「コイツは事件発生後15年に渡って逃げ続けたのに、凄い…!やっぱり名護さんは最高です!!」

 

 

「ふぅん…もっと大きな声で言いなさい」

 

 

「名護さんは最高です!!!!」

 

 

「ははははは…俺のようになりたければ、もっと研鑽を積みなさい」

 

 

「はい、名護さん!」

 

 

「因みに一夏君、今何歳だい?」

 

 

「12歳ですよ」

 

 

「そうだな。そして、今君が通っているのは小学校だったかな?」

 

 

「いや、飛び級したのでハイスクールですよ?」

 

 

「……あ、ああ。そうだったね」

 

 

一夏はキョトンとしながらそう返答するが、啓介は若干頬を引きつらせながら言葉を発する。

一瞬の間、車の中を静寂が支配する。

だが、啓介が意を決したかのように言葉を発する。

 

 

「一夏君、高校での生活はどんな感じだい?」

 

 

「楽しいですよ。入学した時はそりゃあいろいろ因縁つけられたりして大変でしたけど、今ではそんなこと無いですし。あ、後今度の試験で合格点取れば、卒業資格ゲットです」

 

 

「そ、そうか…頑張りたまえ」

 

 

「はい!頑張ります!」

 

 

そんなとめどない会話をしていると、漸く目的地最寄の駐車場に到着。

車を降り、荷物を持って目的地へと歩いていく。

数分後、目的地に到着した。

 

 

「ああ、懐かしいなぁ……」

 

 

「一夏君にとっては2年ぶりですからね。そんな感想が出るのが自然でしょう」

 

 

その場所……カフェ・マル・ダム―ルの前で、一夏は若干遠い目をしながらそう呟いた。

2年ぶりに訪れた、青空の会の実質的な本部にして、1年過ごした一夏の第二の実家ともいえる場所。

懐かしい気持ちが溢れ出て来るだろう。

 

 

「一夏君、入りますよ。ずっとこんなところで感傷に浸っていてはいけません」

 

 

「はい、名護さん」

 

 

啓介に促される形で、一夏は扉を開け、中へと入っていく。

途端に視界に入って来る、懐かしい室内。

そして、

 

 

「おお、一夏!お帰り!」

 

 

〈ワンワン!〉

 

 

「おお、帰って来たか。一夏」

 

 

「一夏君、お久しぶり」

 

 

自分を迎えてくれる、青空の会のメンバー。

一夏は人懐っこい笑顔を浮かべる。

 

 

「お久しぶりです!マスター!嶋さん!ゆりさん!」

 

 

最初に一夏に声を掛けたメガネを掛けた男性、『木戸 昭(きど あきら)』。

カフェ・マル・ダム―ルを経営するマスターで、一夏の親代わりの人。

青空の会の協力者ではあるが、メンバーという訳でもない。

それでも、一夏もかなり懐いている。

 

コーヒーにかなりの自身を持っており、コーヒーを残した客を出禁にした事もあるほど。

おニャン子クラブのファン。

店内ではラブラドール・レトリバーの『ブルマン』を放し飼いにしている。

 

 

次に声を掛けたのは、青空の会の会長、『嶋 衛(しま まもる)』。

合理的に物事を判断する性格で、青空の会のメンバーに厳しい事を言う事も多い。

だが、一方的に切り捨てたりする訳ではなく、真摯に物事を考えるので、メンバーからの信頼は厚い。

 

最近は体脂肪率を気にしており、ジムで汗を流している時間が多くなってきている。

一夏の保護やアメリカ移住のサポートを最終的に決定したのも衛である。

理由としては、

 

『コイツには見込みがある』

 

かららしい。

 

 

3人目は、今店内にいる中で唯一の女性、『麻生(あそう)ゆり』。

普段はマル・ダム―ルのウェイトレスとして働いているが、バウンティ・ハンターとしての顔も持つ。

だが、啓介とは違い、衛からの任務が無い限りは戦闘をしない。

 

男勝りな性格で、喋り方も男口調ではあるものの、気を許した男性には女性らしい仕草も見せる。

以前交際していた男性が居たが、現在は破局。

それ以来誰とも恋愛をしていない。

まだ引きずっているらしい(それを本人以外に指摘されるとキレる)。

 

 

「マスター、珈琲1つ。ブラックで」

 

 

「はいよ。一夏、君の部屋はしっかり掃除してある。珈琲入れてる間に荷物を入れて来ちゃって良いよ」

 

 

「分かりました」

 

 

「一夏君、手伝おう」

 

 

「名護さん、ありがとうございます」

 

 

一夏は啓介と共に、2年ぶりに自分の部屋に入る。

千冬と生活していた時は、何か余計な物を買える程お金に余裕が無かった。

そんな環境で育ったものだから、一夏には物欲という物欲が殆どない。

部屋の中には、ベッドが1つと簡易的な机が1つ、そして本棚が2つだけだった。

 

 

「物が少ない……」

 

 

「そうですか?向こうの部屋に比べると、本棚が1個多いんですよ?」

 

 

「そうか……」

 

 

啓介は頬をピクピクさせながら、本棚に入っている本のタイトルをザッと見る。

『相対性理論』『世界偉人碌』『世界の名曲』等々…いくら飛び級で高校生だとは言え、12歳が好んで読むものではない。

まぁ、この中の数冊は啓介がプレゼントしたものだが、それ以外にも一夏は漫画などではなく、こういった本を読むのが好きだ。

曰く、

 

 

「いろいろな知識をつけておけば、使える場面は絶対に来るから」

 

 

らしい。

元々荷物は多くないし、こっちに引っ越してきた訳ではなく、少しすれば向こうに帰るので、荷解きは後で良いと判断し、店の方に戻る。

 

 

「っ!」

 

 

再び店内の光景が見えるようになった瞬間、一夏は思わず足を止め、驚いたような表情を浮かべる。

理由は至って単純明快。

店内に先程までは居なかった人物がいるからだ。

 

 

「じ、次狼さん!」

 

 

「おう、一夏…久しぶりだな……」

 

 

カウンター席に座る、皮のジャケットを着用している青年…『斬木 次狼(ざんき じろう)』は、視線だけを一夏の方に向けながらそう呟いた。

次狼も同じく青空の会所属のバウンティ・ハンターで、以前は何処かの屋敷で従者をしていたらしいが、あまり自分の過去を語らないので、詳しい事は本人を除き誰1人として知らない。

 

部類の珈琲好きで、不味い珈琲には1円も払いたくは無いが、美味い珈琲には1万円をスッと出す(お釣りを受け取ろうとしない)。

昭と同じくおニャン子クラブのファン。

以前はゆりに惚れていたが、ゆりが元カレと付き合い始めた時に身を引いている。

因みにその人物とは元恋敵の腐れ縁の友人である。

 

 

「何時の間に来たんですか!?」

 

 

「今さっきだ…一夏、見ないうちにデカくなったな」

 

 

「そうですかね?まぁ、2年経ってるんで身長は伸びていますけど」

 

 

自分の頭を軽く叩きながらそう呟く一夏。

そんな一夏を見て、次狼はフッと微笑を浮かべる。

 

 

「それもそうだが、雰囲気もさ」

 

 

「……?」

 

 

次狼の言葉に、首を捻る一夏。

そんな様子に次狼は更に微笑を濃くすると、そのタイミングで

 

 

「珈琲出来たぞ~」

 

 

珈琲が出来た。

一夏が次狼の隣に座ると、2人の前に珈琲が差し出される。

同時にカップを持ち、これまた同時に口を付ける。

 

 

「うん…やっぱりここの珈琲が1番美味しい」

 

 

「おっ、嬉しい事言ってくれるねぇ」

 

 

「今度美味しい淹れ方教えてくださいよ」

 

 

「どうしようかなぁ~~、一夏がうちで働いてくれるっていうなら、この秘伝のノートを見せてやってもいいかもしれない」

 

 

「じゃあ、今はいいです」

 

 

一夏はそう安易に将来を確定させるような行動はしない。

選択肢は多く。

それが一夏のモットーだ。

今までいろいろと行動を制限されていた反動なのかもしれない。

 

 

優秀な跡継ぎのスカウトに失敗した昭は残念そうに肩を落とし、一夏と次狼はそれを無視し優雅に珈琲を飲む。

残りが半分程になったとき、一夏は不意に視線を感じた。

バッと振り返ると、啓介、衛、ゆりの3人が生暖かい視線を向けて来ていた。

 

 

「……どうしたんですか?」

 

 

一夏は若干引きながらそう疑問を発する。

 

 

「いや?一夏君が随分大人っぽくなったなぁって」

 

 

「まだ12ですよ?」

 

 

「まだ12でそんな貫禄を出せる人間なんて一夏ぐらいだと言ってるんだ」

 

 

「そうですかね…?」

 

 

ゆりと衛に言われても、一夏は正直ピンとこない。

一夏にとって半場大人や貫禄=啓介になっており、一夏にとって啓介とは何でもできる万能の人なので、大人っぽいと言われても

 

『自分はまだまだ』

 

と考えてしまう為、こういう反応になってしまうのだ。

 

 

「そう言えば、他の人達は?」

 

 

「もうすぐ来「こんちわーす」噂をすればなんとやら」

 

 

啓介の発言中に扉が開き、人物が2人店内に入って来た。

 

 

「おお、一夏!久しぶりやなぁ」

 

 

「一夏君、お帰りなさい」

 

 

「健吾さん!恵さん!お久しぶりです!」

 

 

今入って来た2人の内、黒髪短髪の若干言動がチャラい青年が、『襟立 健吾(えりたて けんご)』。

以前はプロのロックンローラーを目指していたが、事故にあいギターを弾けなくなってしまう。

そんな中で衛に出会い、バウンティ・ハンターとしての活動を開始する。

 

青空の会に入りたては色々とトラブルを起こしたりもしたが、今現在はかなり丸くなっている。

懸命なリハビリにより、今ではギターを弾けるまで回復したが、青空の会からは抜けずにバウンティ・ハンターを続けながら、音楽活動にも精を出している。

 

 

もう1人、ゆりに似た雰囲気の女性は『麻生 恵(あそう めぐみ)

ゆりの妹で、普段はファッションモデルとして活動しているが、ゆりと同じく衛の依頼を受けたらバウンティ・ハンターとしても活動する。

焼き魚定食が好物。

 

姉と同じく勝気が強く、男勝り。

運動神経が抜群で、一夏を保護したばかりの時はよくお節介を焼いていた。

以前までは啓介とそりが全くと言って良いほど合わず、よく衝突していたが、今現在はなんと啓介と交際している。

 

因みに、本人達以外でこれを知っているのは、メールで恋愛相談を受けた一夏しか知らない。(一夏は『何で自分に?』と思ったとか思ってないとか)

 

 

「2年ぶりだな!でっかくなったなぁ」

 

 

「まぁ、身長は伸びましたよ」

 

 

「雰囲気も結構変わったんじゃない?」

 

 

「そーすか?」

 

 

さっきやったやり取りと似たようなやり取りを繰り広げる3人に、啓介たちはついつい苦笑をしてしまう。

 

 

「この2年、みなさん何してたんですか?メールとかでの範囲しか知らないので、話聞きたいです」

 

 

「ああ、それは話すつもりだし、一夏君の話も聞きたい。けど、最後の1人が来てからね」

 

 

「なるほど」

 

 

一夏の言葉に、ゆりが苦笑しながらそう言い、一夏も納得したかのように半分残っていた珈琲を飲み干す。

しばしの間、店内を静寂が包み込む。

だが、本来喫茶店である此処では、これが通常なのだ。

青空の会の会員がいると騒がしくなるものの、喫茶店としてはこれが正解。

 

 

(今度のレポート課題どうしようっかな…みんなと被ると面白くないし…う~ん……)

 

 

そんなゆったりした時間の中で、今度の課題に関して思案を巡らせる一夏。

高校卒業資格はそろそろ得れそうだが、正直一夏に将来の目標はまだない。

その為、レポートの課題が出ると毎回悩んでしまうのだ。

卒業後の進路も決まっていないので、一夏はこれから将来どういった自分になりたいかにしっかりと向き合わないといけないだろう。

うんうんと1人で悩んでいると、扉が開き、最後の会員が店内に入って来た。

 

 

「ん?なんだ、俺が最後かよ」

 

 

右手にバイオリンケースを持つその男性、『紅 音也(くれない おとや)』は自分以外が揃っている店内を見て苦笑をしながらそう呟いた。

音也は、青空の会の中で唯一バウンティ・ハンターではない人物であり、プロのバイオリン演奏者である。

一夏が啓介の次に懐いている人物でもある。

 

言動は少々いい加減で、お調子者の自由人。

相当な女好きで、色々な女性によくアタックしている。

だが、惚れた女は全力で守ったり、恰好を付ける為に辛いことがったとしてもやせ我慢で乗り切ったりする。

 

フランクな性格で、魂が響き合えばどんな立場の人とでも交流を深めようとする。

その熱い想いにやられて、彼を慕う者も少なくない。

 

音楽への情熱はかなりのもので、バイオリンの腕は1000年に1度と言われる程非の打ち所がない。

 

『人の心は音楽を奏でている』

 

というのが彼の考え方。

 

因みにゆりの元カレ。

別れた理由は音也に他に好きな人が出来た為ゆりが身を引いたからであり、最近になって付き合いだした。

今持っているバイオリンケースの中に入っている『ブラッディ・ローズ』は、その彼女と製作したものである。

 

 

「紅先生!お久しぶりです!!」

 

 

「一夏ぁ!久しぶりだなぁ!!」

 

 

一夏は席から立ち、音也の元に駆け寄っていく。

音也は笑顔を浮かべると、頭をワシャワシャと撫でていく。

 

 

「紅先生、痛い、痛いです。力入れすぎで首ががががが……!」

 

 

「おお、すまんすまん。嬉しくってさぁ」

 

 

一夏に言われ、パッと手を離す音也。

首を摩りながら一夏は視線をバイオリンケースに向ける。

 

 

「真夜さんとは最近どんな感じなんです?」

 

 

「バッチリバッチリ!心配すんなって!」

 

バンバン!

 

 

音也は一夏の背中を数度叩く。

2年前と何ら変わりない音也の様子に、一夏は嬉しくなり自然と笑顔がこぼれる。

 

 

「おいおい、2人で盛り上がるな盛り上がるな」

 

 

「私達もいるんだから」

 

 

「あ、すみません。紅先生、行きましょう」

 

 

「おう!」

 

 

健吾や恵に言われ、一夏と音也はみんなの元に向かう。

そうしてジュースなどの飲み物を全員に配り、啓介が1歩全員の前に出る。

 

 

「えーそれでは。2年ぶりに青空の会全員が揃ったという事で」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、一夏は思わず嬉しそうな表情を浮かべる。

正式な会員証を貰っている訳では無いが、一員として認められているという事がたまらなく嬉しいのだ。

 

 

「一夏君、お帰りなさい!乾杯!」

 

 

『乾杯!!』

 

 

号令に従い、全員が持っているコップを前に突き出す。

そして、ここからはもう無礼講だ。

一夏は向こうで起こった事をいろいろ話したり、逆に啓介たちが一夏にいろいろ話をしたり……

盛り上がった健吾たちはもはや一夏関係ない話をし始め、それに音也も便乗し始め、更なる盛り上がりを見せる。

 

 

騒ぎ始めて約1時間。

 

 

「……確認しますけど、紅先生ってゆりさんと以前付き合ってて別れたんですよね?」

 

 

「ああ、そうだ。何も間違ってないぞ」

 

 

「それなのに、なんで今もフランクに接する事が出来るんです?」

 

 

「まぁ、俺は紅音也だからな。全ての女性の味方なのさ」

 

 

「は、はぁ」

 

 

自分から聞いたものの、理解が出来ない返答が帰って来た。

一夏は苦笑いを浮かべながら曖昧にそう返答する。

 

 

「信じてないな?俺はな、全てに置いて情熱を注いでいるんだよ」

 

 

「まぁ、それは感じてますけど」

 

 

「そう!心火を燃やs」

 

 

「待って下さい紅先生!作品が違います!紅先生とその人は中の人が一緒ってだけで特に接点は無いです!」

 

 

なにか嫌な予感がした一夏は慌てて音也の発言を遮る。

良く分からない事を口走ったような気がするが、そんな事考慮してる場合では無かった。

珍しい一夏の焦り方に、音也も素直に黙る。

 

 

「はぁ、はぁ……話を変えましょう。最近、仕事の方はどんな調子ですか?」

 

 

「あぁ…基本的には問題無いんだが……女尊男卑の奴らが騒いでる地域では演奏が出来なくなりつつある。全く、この俺の演奏を聴かないなんて、人生の8割損してるぜ」

 

 

「8割……まぁ、確かに聴けないのはもったいないですけど」

 

 

流石に8割は言い過ぎなんじゃないかという思いもあるが、音也の圧巻の演奏は、確かに人生で1回は聞いておきたいものだよなぁ、と考える。

そんなワイワイとした飲み会(アルコール類は全員飲んでない)も、そろそろお開き。

後片付けをしている中、不意に衛が切り出した。

 

 

「あ、そうだ一夏」

 

 

「なんですか?嶋さん」

 

 

一夏が衛の方向に振り返ったのを確認してから、衛は続きを語る。

 

 

「2日後に、俺達は青空の会の持ち施設に行くんだが……」

 

 

「えっ!?青空の会施設なんか持ってたんですか!?」

 

 

3年越しの衝撃の真実。

青空の会のメンバーが此処以外で集まっている場面なんて、見たこと無い。

それに、啓介たちも説明する機会が無かったので、こんな反応になるのはいわば必然だ。

 

 

「ああ、持ってるんだよ」

 

 

「えっ、じゃあわざわざ此処じゃなくてそっちに集まれば……」

 

 

「それが出来ないのよ」

 

 

一夏のその当然の疑問に、恵が反応する。

 

 

「なんでですか?」

 

 

「そこ、車で片道5時間かかるのよ」

 

 

「ああ、なるほど…」

 

 

そう、青空の会がその施設を滅多に使用しない理由。

それはシンプルにアクセスが悪いからだ。

車で片道5時間、つまり往復10時間。

移動だけで1日が終わると言っても過言ではない。

そんな場所に普段から通うのは無理があるだろう。

 

 

「なんでそんな所に建てたんですか?」

 

 

「まぁ、それは行ってみればわかる。それで?ついてくるかい?」

 

 

「勿論!!」

 

 

考える暇など必要なかった。

即答した一夏に、衛たちは口元に笑みを浮かべる。

 

 

「良し、じゃあ準備はしておけよ」

 

 

「了解です」

 

 

そうして後片付けを再開し、全てを終わらせた後啓介たちは帰って行き、一夏も部屋へと戻る。

 

 

(あ、そう言えば行って何をするのか聞くの忘れた。まぁ、行けば分かるかぁ)

 

 

ベッドに寝転がって、呆然とそう考える。

流石に、時差ボケ疲れも出て来たのか、そのまま一夏は昭が夕ご飯に起こしに来るまでひと眠りするのであった。

 

 


 

 

2日後。

朝の5時から移動し、途中で休憩を挟んだりしたため出発から約7時間後。

目的地である青空の会所有施設までやって来た。

 

 

「此処が……」

 

 

現在地は、山の奥の奥の奥。

途中で車を降り、歩いてこなければいけない、此処に施設があると知らなければ間違っても辿り着かないような場所。

さっきまでのまるで整備がされていない獣道の先にあるとは思えない、とても開けた空間にそれは鎮座していた。

 

 

「ああ、此処だ。遠いだろう?」

 

 

「遠かったですね……なんですか、この闘技場に研究施設くっつけましたみたいな建物」

 

 

「おお、流石は一夏君。その通り、此処は闘技場兼研究施設だ」

 

 

「は、はぁ」

 

 

啓介の説明でもいまいちピンとこない一夏。

この建物を半分に分ければ、確かに闘技場と研究施設だ。

だが、それがくっついてる建物などいったい何なのか検討もつかない。

それに、青空の会がこの建物で何をするのかの検討もつかない。

 

 

「名護君!一夏君!早く行くよ!」

 

 

「あっ!はい!」

 

 

ゆりに言われ、一夏と啓介も研究施設っぽい方の中に入っていく。

 

 

「汚い……」

 

 

「第一声がそれか。まぁ、確かに掃除はしてねぇからな」

 

 

「こんなに来るのに不便なところが綺麗だったら逆に怖いですけどね」

 

 

健吾の苦笑しながらの言葉に、同じく苦笑しながら一夏がそう返す。

 

 

「おーい!早く行くぞぉ!!」

 

 

「はい!」

 

 

中に入ってちょっと雑談しただけで、衛はもう奥の方に向かっていた。

一夏達は慌てて後を付いて行く。

 

 

「そう言えば、ずっと聞きたかったんですけど、なんでマスターもいるんですか?今日営業日ですよね?」

 

 

「こっちの方が面白そうだから、臨時休業にしてきた」

 

 

「マスター、そんなノリと勢いで行動する人でしたっけ?」

 

 

「いいじゃないのぉ」

 

 

「そんな口調でしたっけ?」

 

 

セルフキャラ崩壊をしている昭に、疑問しか浮かばない一夏。

施設内を歩く事数分、なにやら厳重な扉の前に一行は到着した。

錆び付いているのかなかなか開かず、啓介と健吾と次郎と音也の4人がかりで扉に挑戦し、漸くこじ開ける事に成功した。

 

 

「おい!次絶対に此処の手入れをしに来るぞ!こんな場所じゃ我慢できない!」

 

 

「だったら音也、お前は何故バイオリンを持ってきた。こういう場所だと分かっていただろう」

 

 

「これは俺の宝だ!肌身離さない!」

 

 

「次狼、音也、言い争いしない。時間の無駄」

 

 

「「はい」」

 

 

ゆりに言われ、一瞬にして大人しくなる2人。

一夏はそんな光景を見なかった事にしながら、部屋の中に入っていく。

 

 

アクセスが悪い為滅多に来ず、来たとしてもいろいろやる事が大量にあるため、掃除や手入れまで手が回らず荒れ放題だった廊下と違い、綺麗に整頓されている。

人が居ない為そもそも埃も発生せず、掃除されてからそこそこ長い時間が経過しているが、まだまだ綺麗と言える状態だった。

 

 

「ふぅ…漸く座れるな」

 

 

衛は手に持っているアタッシュケースを部屋の中央の机に置いてから、椅子に座る。

それに伴い、昭たちも順々に席に座っていく。

一夏は律義に最後に座った。

 

 

「そういえば嶋さん、今日やる事とか、此処がどういった場所なのかとか何も分かってない人間が1人いるので、説明お願いしても良いですか?」

 

 

「ああ、そう言えば説明してませんでしたね」

 

 

一夏のその言葉に、啓介がそう反応する。

全員の視線が衛に集まり、衛は頷くと説明を開始する。

 

 

「此処は、我々青空の会が武器等を開発実験する為の施設だ」

 

 

「えっ!?武器の!?」

 

 

「ああ」

 

 

思ってもいなかった施設の正体に、思わず大きな声を出してしまう一夏。

 

 

「それって犯罪じゃ……」

 

 

「何を言ってるんだ一夏君。そもそもバウンティ・ハンターが本来日本じゃ禁止されているだろう?」

 

 

「あ、そう言えば確かに…ここ最近アメリカに居たから感覚がバグってました」

 

 

一夏がそう反応すると、衛は不意に懐を探り紙を取り出すと、机の上に置く。

 

 

「これは……?」

 

 

「武器所持とかの諸々の許可証だ。これがあるからこそ、青空の会は存在出来ている」

 

 

「へぇ~~。何処が発行してるんですか?」

 

 

「『更識』とかいう組織だな…」

 

 

「さらしき?」

 

 

「ああ。日本政府お抱えの対暗部用暗部組織らしい」

 

 

「……なるほど?」

 

 

対暗部用暗部というのを上手く理解できなかった一夏だが、まぁなんか凄い組織だというのは理解した。

 

 

「さて、今日集まった理由はな」

 

 

「はい」

 

 

「これの実証実験だ」

 

 

衛はそうそう言うと、机の上に置いてあるアタッシュケースのロックを外し、蓋を開け中身を一夏達に見せる。

置いてある紙をどかし、現れたのは。

 

 

「……ベルト?」

 

 

そう、ベルトだった。

全面に金色のナックルのようなものが装填されており、中々に格好いい。

 

 

「その通り。これは『イクサベルト』と『イクサナックル』。『イクサシステム』の起動に必要なものだ」

 

 

「イクサシステム…?」

 

 

聞きなれない単語に首を捻る一夏。

そんな一夏に、衛から麻生姉妹が説明を引き継ぐ。

 

 

「ええ。Intercept X Attackerの頭文字をとって、IXA。ISに対抗する為に作られたパワードスーツ」

 

 

「ISに……?」

 

 

「ISが原因で最近女尊男卑の過激派が騒いでるでしょ?それを抑えるんだったら、ISに対抗が出来るものを作るしかない」

 

 

「確かに……」

 

 

2人の言ってる事が理解出来ないものでは無い。

寧ろ、そうでもしないと世界がドンドン過激派の女尊男卑に染まって行ってしまうだろう。

 

 

「でも、そんなもの作っちゃったら、戦争になる可能性がありませんか?それは青空の会の理念に反するんじゃ……」

 

 

「確かに、そこに疑問を持つのは当然の事です。しかし、一夏君」

 

 

「名護さん?」

 

 

一夏は啓介に視線を向ける。

啓介はジッと一夏の事を見ながら、ゆっくりと説明を開始する。

 

 

「そう、このままでは戦争になってしまうかもしれない。だけどね一夏君、力を持つ者は、力を持たない者の声になんて耳を傾けないんですよ」

 

 

「それは…確かに」

 

 

「だから、我々にも力が必要なんだ。ISと対等にわたりあえる、力が」

 

 

「なるほど…」

 

 

自分の過去の経験から、力なければ声すら届かない。

話し合いで解決する為には、先ず武力を身に付けなければならないとは。

 

 

「じゃあ、ゆりさんと恵さんは女性だから、ISを使えますよね?何でわざわざ……」

 

 

「ISってね。女だったら誰でも使えるって訳じゃ無いのよ」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「ええ。IS適正っていうものがあってね」

 

 

「IS適正……」

 

 

特に説明を受けなくても、字面だけで判断が出来る。

文字通り、ISに対する適正である。

 

 

「まぁ、分かるとは思うけど、IS適正が低いとISを十分に稼働させることが難しいの」

 

 

女尊男卑の過激派は、ISを動かせる女性がISを動かせない男性よりも優れているという理論をもとにしている。

だが、同じ女性でもIS適正という優劣がうまれるようになってしまったら。

 

 

「それって…!」

 

 

「ええ。女尊男卑の過激派は、IS適正の低い女性にも矛先を向けているのよ」

 

 

「ただでさえ男性を差別してるのに、同じ女性にも向けるのは絶対に許せない。だからこそ、私達も協力をしているって訳」

 

 

「なるほど…」

 

 

大体納得した一夏。

 

 

「まぁ、色々理由はあれど、やはりイクサが戦争の火種になる可能性は全然ある。だから…」

 

 

「最後には、ISと一緒に捨てれるようになるのが、理想だな」

 

 

最後に締める形で次狼と音也がそういう。

 

 

「そうですね!」

 

 

「ああ。それじゃあ、今日の流れを説明する」

 

 

一夏への説明は、自分達の意識を改めるという副効果もあったようだ。

全員が真剣な表情で衛に視線を向ける。

 

 

「現状のイクサシステムは、ベルトとナックルがロールアウトしたばかり。カリバーやパワード、リオンはまだだな」

 

 

「あれ、これ以外にもイクサシステムってあるんですか?」

 

 

「ええ。さっきイクサはパワードスーツって話したでしょ?イクサベルトとイクサナックルは、そのスーツを展開する為のものなの」

 

 

「ただ、ロールアウト直後だからまだその2つ以外の装備が整って無いんだ」

 

 

「なるほど。因みに、どんなものを開発予定なんですか?」

 

 

「銃にも変形する剣だったり、重機のような戦闘メカだったり…あと、移動手段のバイクとか」

 

 

「バイク……」

 

 

その単語に、一夏は惹かれた。

男の子、何歳でもバイクが大好きだ。

 

 

「そのパワードスーツって、全身を包むものですか?」

 

 

「ああ。顔を含めて全身だぞ」

 

 

「って事は、仮面もあるのか……」

 

 

その瞬間、一夏の頭の中に1つの言葉を思いついた。

 

 

「仮面があって、バイクに乗る…仮面ライダー、ですね」

 

 

その単語を聞いた全員が、何故かスーッと受け入れることが出来た。

 

 

「いいじゃんいいじゃん。って事は、仮面ライダーイクサだな」

 

 

「おお…まるで何年も前からそうやって呼んでいたのかのような違和感の無さ」

 

 

「待って下さい!自分から言っておいて何ですけど、それ以上は危険な気がします!」

 

 

「……進めて良いか」

 

 

『どうぞ』

 

 

さっき一夏に対する説明を終えたのに、まだ全部を説明していなかった。

衛は苦笑いを浮かべながら改めて続きを話す。

 

 

「この後、隣の実験場に移り、イクサの起動実験を行う。装着者は名護。装着後、一通りの動作実験を行った後、名護のバイタルチェック、同時にイクサの整備だ」

 

 

『了解』

 

 

「じゃあ、早速移動するぞ」

 

 

「そんな直ぐ行くなら、最初っからそっちで良かったのでは?」

 

 

「いや、絶対に一夏が質問してくるって分かってたからな」

 

 

「立ったままでも話は出来ますよ?」

 

 

「……足腰が」

 

 

「「ブフッ!」」

 

 

「誰だぁ!?今吹き出したのはぁ!?」

 

 

「だ、誰でも良いでしょう…?プフッ」

 

 

「良くない!」

 

 

『あはははははは!!』

 

 

遂に笑いを隠すことを止め、大笑いし始める。

衛はとてもキレているものの、口元には笑みが浮かんでおり、なんだかんだこの状況を楽しんでいるのが透けている。

 

 

「さて、いい加減に移動するぞ。時間は有限だ」

 

 

「はい。休憩挟むと片道7時間かかるところでの実験なんて、そう何度も出来ないですからね」

 

 

「行きましょう」

 

 

先程装着者に指名された啓介がイクサベルトのアタッシュケースと、先程一夏に見せるときにどかした『イクサシステム取扱説明書』を手に取る。

その際、健吾や、次朗が羨ましそうな視線を啓介に向けるも、

 

 

「……」

 

 

そんな視線、啓介には全く関係なかった。

そうして、全員が席から立ち、部屋の外へと行こうとした瞬間。

事件が起こった。

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

突如として、施設の入り口の方から、信じられないくらい巨大な爆発音が聞こえてきた。

全員が何にも対応できるように…そして一夏を守るように、一夏を中央とした背中合わせの円を造る。

 

 

「…何があった?」

 

 

「分からない。入り口付近からの音だったけど」

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

「ちっ!またか!」

 

 

「施設の入り口の方に何か爆発しやすいものは?」

 

 

「んなもんある訳無いだろ!あるのは汚れとゴミだけだ!」

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

3度目の爆発の直後。

遠くの方から、爆発音以外の音が聞こえてきた。

 

 

『本当にこんなところに居るのか?』

 

 

『指令があったんだ。実践しない訳にはいかない』

 

 

『ああ!バウンティ・ハンター等といった野蛮な連中、今後ISが支配するこの世界に必要ないからな!』

 

 

その声で、全員が全てを理解した。

この爆発は攻撃によるもので、攻撃してきたのは女尊男卑の過激派だと。

 

 

「クソッ!面倒くさいなぁ!!」

 

 

「だが、会話内容から察する限り、青空の会をピンポイントで狙っている訳では無いらしいな。今回が偶々我々だったという事だろう」

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

『本当に此処なの?物凄い汚い…』

 

 

『だが、使用できる施設である事に間違いは無い。破壊しておくだけ破壊はしておこう』

 

 

さっきまでよりも、声が大きくなっている。

つまり、物理的に近づいて来ているという事。

この部屋は施設の奥の方なのでまだ大丈夫だが、見つかるのは時間の問題だろう。

 

 

「不味いな…どうする…」

 

 

衛がそう言葉を発するが、それはこの場に居る全員が思っている事だった。

敵側がどれだけの戦力を有しているかは分からないが、連続して爆発を起こしてきている時点で、かなりの戦力だというのは察する事が出来る。

 

 

だが、今日はイクサの実証実験をする予定だったこちら側は、本当に護身用の最低限の装備しか持って来ていない。

かといってイクサはロールアウト直後。

動作が安定する確証が持てないし、身体への負荷も相当なものであると思われるので、安易に使用できない。

 

 

青空の会をピンポイントで狙った訳で無いのなら、青空の会がイクサを開発しているという情報を漏らすわけには行かない。

そして、今この場に居る一夏を守らないといけない。

全員の思考が、一致していた。

 

 

「…これしかねえか」

 

 

「音也?」

 

 

すると、唐突に音也がそう呟き、部屋の中の棚などを物色し始めた。

約10秒後。

 

 

「おっ、良いのあるじゃねぇか」

 

 

以前に開発の為に用意した日本刀を取り出した。

 

 

「音也?何を…」

 

 

ゆりのその声を無視し、音也は一夏の前に立つ。

 

 

「紅先生?」

 

 

「一夏、俺の宝物だ。託したぞ」

 

 

一夏の困惑の表情を無視し、音也はブラッディ・ローズが入っているバイオリンケースを押し付ける。

反射的に一夏がそれを掴んだ瞬間、音也は視線を扉の外に向ける。

その行為だけで、これからやろうとしている事を理解した。

 

 

「紅先生!待って!」

 

 

「音也ぁ!」

 

 

一夏達のその声は、音也に届く。

だけれども、音也は行動を止める事は無い。

 

 

「大事な奴らを守れなかったら、それはもう紅音也じゃねぇんだよ…!」

 

 

最後にそう呟くと、音也は

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

叫びながら、部屋の外に駆け出していった。

 

 

「紅先生!?紅せんせぇえええええええ!!」

 

 

一夏のその声は、もはや意味の無いものだった。

音也はとっくのとうに声の届かない所にまで行っていたからだ。

 

 

「……アイツだけに、やらせる訳にはいかない!」

 

 

「次狼さん!?」

 

 

次狼は、音也が開けっ放しにしていた棚からもう1本刀を取り出し、

 

 

「スゥー。うぉおおおおおおおお!!」

 

 

息を吸ってから、自分を鼓舞する様な雄叫びをあげると、そのまま走り出す。

 

 

「次狼さぁあああああああん!!」

 

 

一夏は手を伸ばして止めようとするも、まだ12歳故身体が完成していない一夏では、掴む事すら出来なかった。

 

 

「名護君…一夏君の事、頼んだわよ」

 

 

「私達も、行かないとね」

 

 

「っ!?恵さん!?ゆりさん!?」

 

 

麻生姉妹も、部屋から駆けだそうとする。

一夏は止めてくれと言った視線を啓介に向けるも、啓介は止める事はしなかった。

もう、これしか道が無いのは分かっているからだ。

 

 

「…任せなさい」

 

 

啓介のその返答を聞いた2人は、同時に部屋から飛び出していく。

その瞬間に、

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

再び爆発が発生する。

 

 

「俺らも、行くしかないっすね…」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

「此処が踏ん張り時!」

 

 

「健吾さん!?嶋さん!?マスター!?」

 

 

健吾、衛、昭も覚悟を決めたようにそう呟く。

 

 

「マスターは戦闘員じゃ無いじゃないですか!なんで!」

 

 

「いいかい、一夏。大人にはね、時として、本業じゃない所で、命を掛けないといけない場面があるんだよ」

 

 

昭は一夏の頭を数度撫でる。

 

 

「しゃあ!行くぞぉ!」

 

 

「おおお!」

 

 

「あああああああ!!」

 

 

3人は叫びをあげると、音也たちと同じく外へと駆け出していった。

こうして、この場に残ったのは一夏と啓介。

 

 

「一夏君、何故嶋さん達が我々を残し、外に出て行ったのか…無事では済まないと、対等に戦えるわけが無いと分かっていながら戦いを挑んだのか、わかるかい?」

 

 

「っ!それは…!!」

 

 

「そう。一夏君、君を守るためだ」

 

 

啓介はそう言うと、部屋の端の方にしゃがみ込み、タイルを外す。

 

 

「一夏君。この下は空間がある。暫くの間此処に隠れているんだ。出て来てはいけないよ」

 

 

「名護さん!待って!俺も、俺も戦うから!」

 

 

「駄目だ!」

 

 

「っ!名護さん…」

 

 

「此処で一夏君が戦ったら、音也たちの覚悟が無駄になる。だから、一夏君は此処に隠れているんだ」

 

 

「それは…!」

 

 

啓介は、一夏に近付き目線を合わせる為膝を折る。

そして、手に持っていた取扱説明書をアタッシュケースに入れ、蓋を閉める。

 

 

「一夏君。これから、辛い事があるかもしれない。逃げ出したくなる事があるかもしれない。けれども、少しずつでもいい。前に進みなさい」

 

 

「名護さん!何で、何で別れみたいなこと言ってるんですか!」

 

 

一夏のその言葉に、啓介は手に持っているアタッシュケースと、懐から取り出した青空の会の会員証でもある携帯型の接近用武器『ファンガイアスレイヤー』と携帯型の遠距離武器『ファンガイアバスター』を一夏に持たせる。

 

 

「一夏君。我々青空の会の願いを、君が引き継ぎなさい。この、綺麗な青空を、何時までも残していけるような、世界を作りなさい」

 

 

「名護、さん…」

 

 

啓介はそう言うと、一夏の腕を掴み多少強引に開けたタイルの中の空間に押し込む。

 

 

「名護さん!?待って!」

 

 

「一夏君。青空になるには、太陽が必要だ。光り輝く、希望の太陽が。君はそういった存在になりなさい。みなを照らせる、太陽に」

 

 

啓介は笑いながら最後にそう言うと、タイルを戻した。

 

 

「名護さん!名護さぁあああああん!!」

 

 

一夏は頭上に手を伸ばしながらそう叫んだ。

出ようと思えば内側からでもタイルを外して出れはするが、一夏はそれをしなかった。

啓介に諭されたというのもあるが、

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

再び爆発音が鳴ったからだ。

一夏は持っていたバイオリンケースなどを置き、身動きをしないようにジッとする。

これで襲撃者にバレてしまえば、折角自分を匿ってくれた啓介たちに申し訳ないからだ。

 

 

その後、爆発音が大量になり、人の歩く足音と話し声がするも、床の下にいる一夏に気付く事は無かった。

 

 

10分なのか、1時間なのか、1日なのか、1週間なのか。

此処に入ってからどれだけ時間が経ったのか、一夏はとっくのとうに分からなくなっていた。

光も時計も無い、狭い空間でジッといていたら、人間の時間感覚など直ぐに狂う。

 

 

爆発音が鳴らなくなり、周囲から人の気配も消えた。

そろそろ排泄行為をしたくなってきたし、喉も乾いたしお腹も空いてきた。

一夏は出るか如何か悩み、数分。

外に出る決心をした。

手を伸ばし、タイルをずらす。

その瞬間、

 

 

「っ!?」

 

 

一夏は感じた。

 

 

「血の匂いと、火薬の臭い…?」

 

 

一夏は急速に心臓がバクバクしていくのを、感じていた。

タイルを完全にどかすと、先ずありえない光景が一夏の目に飛び込んできた。

 

 

「……星空?」

 

 

そう、星空だ。

一夏がいた場所は、施設の中の地下。

そこから出ても、先ず見えるのは天井のはず。

それなのに、なんで綺麗な星空が見えているのだろうか。

 

 

「……」

 

 

嫌な予感がする。

一夏はファンガイアスレイヤーとバスターを懐に入れ、バイオリンケースとアタッシュケースを先に出してから、一夏も外に出る。

暗い場所から、暗い場所に移動したので目の慣れを気にする必要は無い。

 

 

「なっ…!これは…」

 

 

周囲を見回し、一夏は言葉を詰まらせた。

破壊され尽くした施設。

無事な部分など、一夏の周囲の床以外何処にもなく、大量の残骸が大量に積み重なっていた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

呼吸が荒くなっていく。

地上に出た事で、濃く感じる事が出来るようになった、この血の臭いの正体を知る事を、脳が拒んでいた。

だが、確認しない訳にはいかない。

 

 

バイオリンケースとアタッシュケースを手に持ち、入り口があった方向に歩き出す。

だんだんと、嫌な臭いが濃くなっていく。

目の前の次の瓦礫の山を曲がれば入り口だ。

だが、一夏は足を止めてしまう。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

だんだんと過呼吸になってしまう。

此処で、一夏は啓介の言葉を思い出した。

 

 

(「前に進みなさい」)

 

 

きっと、啓介の意図とは違うのだろう。

けれども、その言葉で決心した一夏は1歩、前に踏み出した。

 

 

そして、見た。

見てしまった。

 

 

「あ、あ、あ、あぁぁああああああ……」

 

 

まるで池のように広がっている、大量の血。

そして、そんな血の中に転がっている、ぐちょぐちょの肉片。

それだけで、一夏は全てを理解した。

啓介たちは、全員死んでしまったんだと。

 

 

フラッと、足から力が抜け、その場に膝をついてしまう。

 

 

「う、ぁ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

一夏は両手で顔を覆い、叫びをあげる。

 

悲しかった。

自分を大切にしてくれた人たちが、死んでしまったのが。

 

悔しかった。

自分が何も出来なかったのが。

 

許せなかった。

こんな事をした、女尊男卑の過激派が……!!

 

 

「許せない…!!」

 

 

顔から手を離した一夏は、拳を握りしめる。

怒りで、自分が如何にかなってしまいそうだった。

 

 

そして、幸か不幸か。

今一夏の手元には、復讐が出来る可能性のあるものが、残されていた。

 

 

「イクサ……」

 

 

一夏は呆然とそう呟くと、アタッシュケースを開き、中からイクサベルトを取り出した。

ズッシリとした重みが、これが玩具なんかではなく本物の兵器だと、ありありと主張をしていた。

 

 

イクサはISに抵抗する為に作られた。

使用すれば、復讐の道具になるだろう。

 

 

その考えに達した一夏は、復讐を誓……

 

 

「……違う!」

 

 

わなかった。

 

 

「違う!イクサは、復讐の為の道具じゃない!名護さん達が、青空の会が託してくれた、青空を守るためのものなんだ!復讐だなんてものに、使って良いものじゃない!!」

 

 

一夏は叫ぶ。

自分に言い聞かせるように。

そして、1歩前へと踏み出せるように。

 

 

「紅先生も、俺に大切なバイオリンに託してくれた!嶋さん達も、俺の為に命を投げ出してくれた!名護さんは、最後俺に話してくれた!みんなの想いを踏みにじるような行為は、絶対に出来ない!!」

 

 

何時からか、一夏の両眼からは涙が流れていた。

ゴシゴシと袖でふき取り、懐から先程託されたファンガイアスレイヤーを取り出す。

そして、それを握りしめながら額に当てる。

 

 

「俺は、想いを引き継ぐ。絶対に、この綺麗な青空を、守ってみせる……!!」

 

 

一夏は、復讐ではなく、想いを引き継ぐ覚悟を決めた。

フラフラとした感じで立ち上がり、ファンガイアスレイヤーを仕舞うと、姿勢を整える。

 

 

「嶋さん、マスター、健吾さん、ゆりさん、恵さん、次狼さん、紅先生、名護さん」

 

 

未だに涙は流れてる。

襲撃者を許した訳では無い。

 

 

でも。

こうする事が、正解だと思ったから。

 

 

「今まで、お世話になりました……!!」

 

 

一夏は、深く頭を下げる。

約10分後、一夏は頭をあげる。

既に泣き止み、覚悟を決めたその表情は。

12歳の少年とは、かけ離れたものだった。

 

 

手に持ったままだったイクサベルトをアタッシュケースに戻し、アタッシュケースとバイオリンケースを手に持ち、山を下山し始める。

夜の山は危険だとか、そう言った事を言っている場合では無かった。

 

 

そうして、まだ幼い戦士は、1歩、前へと踏み出したのだった。

 

 


 

 

そんな事件から、数か月後。

 

 

イギリスのとある場所では、混乱が生じており、それに伴う悲鳴や怒声などが響いていた。

そんな事態になってい理由。

それは、列車の脱線事故だ。

 

 

この列車は、いわゆる高級列車。

一般庶民は座席の値段を調べるのすら馬鹿馬鹿しいと言われてしまう程のものである。

その為この列車を利用するのは、いわゆる上流階級と呼ばれる人達や、貴族等といった人たちばかりだ。

 

 

そんな人達がよく乗車するし、そもそも列車の単価も高い。

その為、運転士や整備員もかなりの経験を積んだベテラン。

滅多な事では事故は起きない。

 

 

けれども、走行中の脱線という最悪な形で事故は起こってしまった。

 

 

「お嬢様!お嬢様!しっかりしてください!お嬢様!!」

 

 

そんな混乱の中、1人のメイド服を着用した少女が、目の前で倒れている金髪の少女に必死に声を掛けていた。

メイド服の彼女の名は、『チェルシー・ブランケット』

その服が示しているように、名門貴族オルコット家に仕えるメイドである。

 

 

そして倒れている少女は『セシリア・オルコット』

オルコット家の令嬢で、チェルシーが専属で使えている主である。

 

 

脱線事故直後。

脱線の衝撃でセシリアとは気を失ってしまったが、なんとか無事だったチェルシーは割れた窓ガラスからセシリアを引っ張り出したのだ。

 

 

「う、んぅ……?チェ、ルシー?」

 

 

「お嬢様!ご無事ですか!?」

 

 

必死に声を掛け続け、なんとかセシリアは目を覚ました。

主の一先ずの無事にチェルシーは心の底から安堵したような息を吐いた。

セシリアは気絶していたからか、今どういった状況なのか直ぐに理解は出来なかった。

だが、何処までも続いていそうな澄んだ青空。

そして周囲の喧騒と、脱線し倒れている列車。

それだけで殆どを察した。

 

 

「脱線、したのですね……チェルシー」

 

 

「どうかなさいましたか、お嬢様」

 

 

「ごめんな、さい。私の我儘で、こん、な、事に、巻き込んで、しまって……」

 

 

セシリアとチェルシーは、本来この列車に乗っている予定では無かったのだ。

 

 

彼女の両親はセシリア視点から見ると、お世辞にも仲のいい夫婦には見えなかった。

母親は、ISが開発される前…もっというと、男尊女卑の時代から家業の発展に尽くした強い人だった。

それに反し、父親は婿養子という立場から、常にへこへこと卑屈になってしまった。

 

 

セシリアは、強い母の事は尊敬していたが、弱い父の事は嫌いだった。

そして、そんな2人だったから、セシリアには仲が悪く見えてしまっていたのだ。

 

 

普段は家でも会話しないような2人。

そんな2人が、唐突に出掛けると言い出したのだ。

その話を聞いた時、セシリアは仕事の用事だろうと思っていたのだが、その予想は裏切られ、なんとプライベートだというのだ。

それを知ったセシリアは、同行する事を懇願した。

 

 

懇願した理由は、実を言うと本人にも良く分かっていない。

ただ、気になったのだ。

どうして仲の悪い2人が一緒に出掛ける事にしたのかが。

 

 

セシリアが出掛けるのに、専属従者であるチェルシーが付いて行かない訳にはいかない。

そんな訳で、セシリアとチェルシーも列車に乗る事になったのだ。

 

 

「いえ、気になさらないで下さいお嬢様。さ、此処にいては危険です。早く移動しましょう」

 

 

「え、ええ……あ、あの、お母様と、お父様は……」

 

 

「奥様と旦那様は、あちらに」

 

 

チェルシーの指し示す方向には、取り敢えず列車から離れた位置にいる、セシリアの両親『ロバート・オルコット』と『ロザリー・オルコット』が、専属の従者と共に避難していた。

2人とも多少の怪我はしているようだが、命の危険は無さそうだった。

セシリアは、両親が無事な事に安堵の息を漏らす。

そうして2人はそっちに移動する。

 

 

「セシリア!無事だったのね!」

 

 

駆け寄ってきたセシリアの事を、ロザリーが抱きしめる。

その瞬間に、セシリアは少し意外そうな表情を浮かべる。

普段から家の中でも厳格で、厳しい人だった母が。

たかだか自分の無事が分かった程度で、こんな反応をするとは思ってもいなかったからだ。

 

 

「奥様、お気持ちは分かりますが、今は此処から離れるほうが先であると考えられます。速やかに移動を」

 

 

「そうね。さ、早く移動するわよ」

 

 

ロザリーはそう言うと、スッと立ち上がる。

それに続くように従者が立ち上がり、ロバートも立ち上がる。

そうして全員が安全な場所に移動をしようとした時。

事件は起こった。

 

 

「いたぞ!こっちだ!囲め!」

 

 

ズドドドドドド!!

 

 

『っ!?』

 

 

全身黒ずくめで、顔を隠している武装した集団が何処からともなく現れると、セシリア達を囲い銃を突きつけたのだ。

その瞬間に、従者の3人は各々の主を守る体勢に移動しようとしたが、

 

 

「おっと待て!全員、円の中でバラバラになるんだ!」

 

 

「「「……」」」

 

 

集団のリーダー(だと思われる男)がそう警告する。

銃を突きつけられている為、大人しく言う事を聞くしかない。

チェルシー達は悔しそうに自らの主から離れる。

 

 

「ロバート・オルコット、ロザリー・オルコット、セシリア・オルコットで間違いないな?」

 

 

その問いに、誰も答えない。

だが、この場に置いて沈黙は肯定と変わりない答えだ。

顔は見えていないものの、リーダーが笑みを浮かべた事が簡単に分かった。

 

 

「…何が目的?」

 

 

リーダーの事を鋭い目で見ながら、ロザリーがそう質問する。

集団にとって、この質問に答える理由等は無い筈だ。

だが、リーダーの男は余裕からか、それとも調子に乗っているからか、丁寧に答えてくれた。

 

 

「さぁな。俺達は雇われただけだからな。よっぽど誰かの恨みでも買ったんじゃないか?貴族様よぉ」

 

 

その男の言葉に同調する様に、集団が一斉に笑い声をあげる。

だが、銃口は相も変わらずしっかりと向けられているし、隙も見せていない。

逃げ出すことは不可能だろう。

 

 

「全く、無駄に生き残りやがって…脱線で死んでろよ。余計な手間かけさせやがって」

 

 

リーダーは心底面倒くさそうな声色でそう漏らす。

 

 

「っ…」

 

 

それを聞いて、一瞬で理解した。

 

 

「まさか…脱線事故の原因は……!」

 

 

「ああ、俺達だよ。俺達が脱線させたんだ!」

 

 

とても誇らしげに語るリーダー。

チェルシーは忌々し気な視線を集団に向けるも、そんな事意味なかった。

 

 

「さぁ、そろそろ死んでもらおうか」

 

 

その瞬間に、集団の全員の銃口が、ロザリーに向けられる。

 

 

「っ……」

 

 

流石のロザリーでも、大量の銃口が自分に向いているとなれば、恐怖を覚える。

そうして、集団が銃の引き金に指を掛け、引く……その直前。

 

 

「待て!待ってくれ!」

 

 

「っ!お父様!?」

 

 

さっきからずっと黙っていたロバートが、覚悟を決めたような表情で1歩前に出た。

セシリアが驚いたような声を発すると同時、銃口がロバートの方に向けられる。

 

 

「なんだ、ロバート・オルコット」

 

 

「私の事は好きにしてくれて構わない!だから、だから妻と娘と従者達は!!」

 

 

ロバートは必至の形相で、集団に訴えかける。

 

 

自分は、殺してくれて構わない。

だから、他の人達は見逃してくれ、と。

 

 

「あなた!」

 

 

ロザリーは、心配そうな声色でそう叫ぶ。

そんな行動を取った2人を見て、セシリアが驚いたような表情を浮かべた。

 

 

何時も頼りなかった父が、武装した集団に訴えかける事も。

何時も強気だった母が、心配そうにロバートを見ている事も。

 

 

普段の様子からは想像も出来なかった。

それと同時、セシリアの脳裏にはとある事が思い浮かんでいた。

それは『自分が見ていた両親の姿は、実は一方からしか見ていなかっただけなのではないか』というものだ。

 

 

「ハハハハハ!!そんなことする訳ねえだろうが!先ずはお前だ!」

 

 

だが、ロバートの訴えをリーダーの男が笑い飛ばす。

 

 

「っ!お父様ぁ!」

 

 

「死ねぇ!」

 

 

セシリアが悲鳴のようにそう叫ぶと同時、集団はずっと引き金に掛けていた指に力を籠める。

そうして、大量の鉛玉がロバートの身体を貫くために、発射される……その直前。

 

 

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!

 

 

そんな足音がこちらに近づいて来た。

2度も発砲を邪魔されたリーダーは、若干イラつきながらそっちの方に視線と銃口を向ける。

 

 

「てめぇ!何者だ!」

 

 

その言葉と同時、他の集団、そしてチェルシー達が一斉にその方向に視線を向ける。

 

 

そこにいたのは、右手にベルトのようなものを持ち、フード付きの黒い全身ローブで顔を隠している人物。

大量の銃口を向けられているのにも関わらず、気にする様子もなくスタスタと近付いて来る。

 

 

「止まれ!撃つぞ!!」

 

 

その堂々とした態度が気に入らないのか、怒気を含んだ声でリーダーがそう叫ぶ。

その声で、ローブの人物は立ち止まった。

 

 

「お前、何者だ?わざわざ姿を見せて、普通に帰れると思うなよ?」

 

 

リーダーの男は、随分と調子に乗っているようだ。

問答無用で撃ってしまった方が早いというのに、わざわざ会話をしようとしている。

まだ素人なのかと疑いたくなるほどだ。

だが、先程のベラベラ無駄に喋った内容から察するに、貴族の抹殺依頼が来るということはそれなりに実績があるという事。

だったらリーダーが素人な訳が無いので、ただただ調子に乗っているという事だろう。

 

 

……仕事の現場で調子に乗るとは、三流未満である。

 

 

ローブの人物は何も喋らない。

ただただ静かに、集団の事を観察していた。

 

持っている武器はどんなものか。

どれだけ身体を鍛えているか。

そういった情報は観察するだけで分かるのだ。

 

 

「お前、何か言ったらどうなんだ!!」

 

 

リーダーの男は、更に怒気を強めそう叫ぶ。

その言葉に、ローブの人物は漸く反応した。

軽く空を見上げ言葉を発する。

 

 

「空が綺麗だなぁ」

 

 

「…なに?」

 

 

急に意味不明な事を言いだしたローブの人物に、リーダーはイライラを隠さずにそう反応する。

 

 

「だが、貴様らのような汚物がいると、折角の青空が台無しだ。だから……」

 

 

ローブの人物は、ずっと右手に持っていたもの……イクサベルトを腰に装着する。

 

 

「貴様らを削除する」

 

 

懐からジェネレーター発動キーでもある電磁ナックルウェポン、イクサナックルを取り出し、左手の掌にナックルの電子接点『マルチエレクトロターミナル』を押し当てる。

 

 

レ・ジ・ィ

 

 

低くくぐもった音声ななると同時、左手をイクサベルトに沿わせ、ナックルを持った右手をそのまま地面と平行になるように右側に伸ばす。

そして、叫ぶ。

その言葉を。

 

 

「変身!」

 

 

右手を1回左胸の前に持って来てから、イクサナックルをイクサベルトのバックル部分のスペースに装填する。

 

 

フィ・ス・ト・オ・ン

 

 

イクサベルトの赤い球体状のパーツ『イクサジェネレーター』から山吹色のエフェクトでスーツのビジョンが投影され、ローブの人物と重なり、変身が完了する。

 

 

聖職者の法衣を思わせるような白い装甲。

そして、顔の金色の十字架が特徴的である。

 

 

「なっなんだ!なんだそれは!お前、いったい何者だ!?」

 

 

唐突に目の前に現れた、得体の知れない存在に動揺したリーダーはそう叫ぶ。

 

 

「俺は、イクサ。仮面ライダーイクサ」

 

 

「かめん、ライダーだぁ?」

 

 

イクサは右手の人差し指をリーダーに向ける。

 

 

「その命、神に返しなさい」

 

 

そうして、イクサは堂々と集団に向かって歩いていく。

 

 

「う、撃て!撃てぇ!!」

 

 

ババババババババババババァン!!

 

 

リーダーの号令と同時、集団がイクサに向かって発砲する。

だが、イクサはそれを避けようとせずそのまま弾丸を全身に受けるも、全くと言って良いほど効いていない。

 

 

イクサの全身の装甲は『イクサプラチナ』という、硬度8.522、ダイヤモンドにも引けを取らない硬度であり、また、全身を包む所謂インナースーツに当たる『ブラックアーマースーツ』は理論上2000℃の熱に耐え、200tの瞬間引き裂き強度を誇る。

 

その為、通常の銃の攻撃等避ける必要のないものなのだ。

やろうと思えば全て避けたり弾いたりも出来るが、避けるのが面倒だと判断したため、そのまま突っ切る事にしたのだ。

 

 

そうして進んで行き、集団の1人の目の前にやって来た。

 

 

「う、うわぁあああああああああ!!!!」

 

 

「黙りなさい」

 

 

バキィ!

 

 

そいつが恐怖によって叫びをあげた瞬間、イクサが殴り飛ばした。

綺麗な形で飛んでいき、地面に転がる。

一発で気絶していた。

その事実に全員が驚愕している中、イクサは言葉を発する。

 

 

「大人しく武器を捨て、捕まりなさい」

 

 

「黙れ!誰が捕まるか!」

 

 

「はぁ…仕方が無い」

 

 

イクサの投降の呼びかけに、誰も応じない。

それを確認したイクサは地面を蹴り、集団に向かって走り出す。

 

 

イクサの攻撃は、生身の人間がまともに受けれるものでは無く、一撃くらっただけで動けなくなっていく。

それにより、そこそこな人数がいた集団も、急激な速度で動けなくなっていた。

 

 

「っ!お嬢様!ご無事ですか!」

 

 

チェルシー達はずっと一連の流れに意識を持っていかれてしまっていたが、ここで集団が自分達に微塵も意識を向けていない事にチェルシーが気が付いた。

慌ててセシリアに駆け寄っていく。

それを見て、他2人の従者も自らの主に駆け寄る。

 

 

「あ、チェ、チェルシー……」

 

 

「お嬢様!?どうしたのですか!?まさかお怪我を…!?」

 

 

普段よりも明らかに元気が無いセシリアに、チェルシーは動揺する。

普段だったらそういった場合でも落ち着いて対応できるが、今は流石に動揺を隠せないようだ。

 

 

「い、いえ、私は大丈夫です」

 

 

「そうですか…それは安心しました」

 

 

チェルシーは言葉の通り心底安心したような息を吐いた。

チラッとロバートとロザリーの方を見ると、そっちでも同じようなやり取りが行われていた。

苦笑を浮かべるチェルシーの横で、セシリアは呆然とした表情で自分の両親の事を見ていた。

 

 

「…ねぇ、チェルシー」

 

 

「はい、どうなさいましたか?」

 

 

「…私は今まで、お父様とお母様の事を、実はしっかりと見ていなかったのかもしれません。あなたは、気が付いていましたか?」

 

 

「それは……」

 

 

「そう、ですか。気付いていたのですね……」

 

 

セシリアは一瞬視線を泳がせたのち、覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

 

「私は、1度しっかりとお父様とお母様と話したいと思います。ですが、その…か、覚悟が決まらない、かもしれないので、その……手伝って、くれますか?」

 

 

「……はい。それは勿論」

 

 

セシリアの言葉に、チェルシーはしっかりと頷いた。

そんな2人の会話が聞こえていたのか、ロバートとロザリーは視線を合わせ、頷いたのた。

 

 

そんな家族の側では、

 

 

ドガッ!ドゴォ!ドガァ!バキィ!

 

 

イクサが変わらず集団を殲滅していた。

ISに抵抗する為に作られたイクサは、人間の身体能力を遥かに上回るスペックを持つ。

無論、戦いにおいてカタログスぺックは関係なくなる事も多いが、流石に生身の人間相手に負ける訳が無い。

 

 

「フッ!ハッ!ハァア!」

 

 

「……凄い」

 

 

そんなイクサに、チェルシーは目を奪われていた。

チェルシー以外のセシリア達もイクサの事を見ているのだが、チェルシーはただ見ているのではなかった。

一挙手一投足の動きにも目を配り、しっかりと見ていた。

 

 

「……」

 

 

なんで自分がここまで集中しているのか、チェルシー本人にも分かっていなかった。

だけれども、何故気になっているのだ。

 

 

起きている集団が片手で数えられる人数にまでなって来た。

 

 

「クソッ!てめぇ!」

 

 

銃が効かない事を分かっていながらも、攻撃を止めないリーダー。

得体の知れないイクサへの恐怖で、逃げるという選択肢が頭から抜けているのかもしれない。

 

 

そんな中、動けないと思われていた1人が意識を取り戻した。

イクサの背後から、不意打ちをしようとしたのだ。

恐らく、不意打ちならイクサにも攻撃が効くのではないかと考えたのである。

無論、イクサプラチナやブラックアーマースーツは背後にもしっかりと配置されている。

背後からの銃撃をくらったとしても、特にダメージは無いし、そもそもイクサなら背後から撃たれたとしても避けれる。

 

 

だが、そんな事イクサ本人にしか分からない。

倒れている人物が発砲しようとした時、

 

 

「危ない!」

 

 

思わずチェルシーが動いてしまった。

 

 

「チェルシー!?」

 

 

主の声をバックに、チェルシーはイクサの背後の人物を突き飛ばした。

 

 

バァン!

 

 

当然ながら、弾丸はイクサから大きくずれる。

 

 

「てめぇ!このアマ!」

 

 

攻撃を妨害された事で怒り心頭。

銃口をチェルシーに向ける。

 

 

「っ……!!」

 

 

だが、それに気が付いたイクサが綺麗な飛び蹴りをお見舞いし、大きくふっ飛んでいった。

 

 

「えっ、あ、その……」

 

 

「…助けてくれて、ありがとうございます。ですが、今後は危険な事はやめておきなさい。命は1個しかありませんよ」

 

 

イクサは優しい声色でチェルシーの頭を数度撫でると、視線を残っている数人に向け、走り出す。

 

 

「ハァ!」

 

 

ドコォ!ボカッ!バキィ!

 

 

「……」

 

 

チェルシーは今しがたイクサに撫でられた頭部に、自分の右手を乗せる。

頬がほんのり赤くなっているのは、見間違いでは無いだろう。

 

 

「チェルシー!?大丈夫ですか!?」

 

 

「お、お嬢様…ご心配をお掛けて誠に申し訳ありません」

 

 

そんなチェルシーにセシリアが駆け寄っていく。

チェルシーは自分の主に要らない心配を掛けさせた事を謝罪するが、セシリアはそれに反応せずただただチェルシーを抱きしめた。

 

 

「おっ、お嬢様!?」

 

 

「チェルシー!心配させないで下さい!」

 

 

言葉は短かったが、その言葉にセシリアの想いが全てつまっていた。

 

 

「はい。申し訳ありませんでした」

 

 

チェルシーは一瞬悩んだが、セシリアを抱きしめ返すことにした。

その後、2人はそのまま視線をイクサに向ける。

 

 

ドゴォ!

 

 

丁度そのタイミングで、イクサが1人ブッ飛ばした。

これで、残るはリーダーただ1人。

 

 

「……」

 

 

イクサは無言でジリジリとリーダーに近付いていく。

リーダーは未だにイクサに向かって銃口を向け、トリガーを引いているが、とっくのとうに弾切れになっている。

リロードをしていないのは、恐怖によりその思考が抜けているからか。1

 

 

「う、うわぁあああああああああああああ!!」

 

 

「終わりなさい」

 

 

バキィ!!

 

 

リーダーが恐怖の叫び声をあげた瞬間、イクサのアッパーが炸裂し、リーダーは意識を刈り取られた。

 

 

襲われそうになった貴族の一家とその従者。

倒れている襲撃犯と、襲撃犯を殲滅したイクサ。

 

 

良く分からない、なんとなく気まずい空気が辺りに漂っていた。

 

 

「え、あの、その……た、助けてくれてありがとうございます」

 

 

そんな空気の中、チェルシーがイクサに感謝を述べる。

イクサがベルトからナックルを取り外すと、スーツがビジョンへと戻り、イクサジェネレーターに格納されるようにビジョンが収束し、変身が解除される。

 

 

「気にするな…俺はただ、通りすがっただけだ」

 

 

「それでも、です。我々の命を、助けて下さって、ありがとうございます」

 

 

チェルシーが頭をペコリと下げる。

その後ろで従者2人も頭を下げる。

ローブの人物は懐から長めのロープを取り出すと、チェルシーに向かって放る。

 

 

「それを使って縛っておけ」

 

 

「え、あの、その…この人達は…」

 

 

「『その命、神に返しなさい』とは言ったが、別に殺してない。気絶させただけだ。殺したら、中々に面倒なのでね」

 

 

ローブの人物はそう言うと、顔の向きをセシリアの方に向ける。

ローブの下の顔は分からないが、視線を向けられているというのは分かるセシリアは若干緊張した面持ちになる。

 

 

「なんとなく話は聞いていたが……話せるうちに、しっかり話しておくんだな。今回は運が良かっただけだ。人間、いつ死ぬのか分からないからな」

 

 

「……は、はい!」

 

 

セシリアはローブの人物の言葉に、しっかりと頷く。

ローブの人物はそのまま視線をチェルシーに向ける。

 

 

「アンタにはさっきも言ったが、自分の命を大事にしておけ。こういうリスクのある行為をするのは、一部だけで良い」

 

 

「…………はい、肝に銘じておきます」

 

 

チェルシーがその言葉に、頷いた瞬間。

遠くの方から人がやって来る音が聞こえてきた。

 

 

「案外早かったな…そろそろ行かないといけないな」

 

 

ローブの人物はそう呟くと、身体の向きを変え走り出そうとする。

その直前に、

 

 

「待って!」

 

 

チェルシーが引き留める。

此処で律義に止まる必要は無いのだが、何故かローブの人物はチェルシーの言葉を無視できなかった。

 

 

「あ、あなたはいったい何者なんですか?」

 

 

その質問に、ローブの人物は思考を纏める為に1度深呼吸をしたのち、告げる。

 

 

「俺は仮面ライダーイクサ…ただの、バウンティ・ハンターだ」

 

 

ローブの人物はそう言うと、チェルシー達が何か言う前に走り出し、あっという間に見えなくなった。

この場に居る全員がしばし呆然としていたが、チェルシーが受け取ったローブで襲撃者を拘束した。

 

 

その後、消防や警察に保護されたり襲撃者を引き渡す事になったのだが、いろいろ話を聞かれる事になったのは、当然だっただろう。

 

 

そしてセシリアが両親と会話している時など、チェルシーが1人になる時。

チェルシーは何故かローブの人物の事を考えてしまう時間が多くなったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェルシー達の元から走り去ったローブの人物は、建物の物陰にいた。

 

 

「う、ぐぅ…」

 

 

右手で心臓を抑え、建物に寄り掛かりながらその場に蹲る。

その際に、顔を隠していたフード部分がめくれ、素顔が空気にさらされる。

黒髪のまだ少年といった容姿の日本人……織斑一夏は、呼吸を繰り返し息を整える。

 

 

「くっそ…やっぱ負荷デカすぎるな……」

 

 

一夏はローブの懐からイクサナックルを取り出すと、それを眺めながらそう呟いた。

 

 

イクサはISにも対抗でき、武装した集団であったとしても、武器以外生身だったら制圧できる程の力を秘めている。

しかし、その代償として装着者への負担が凄まじいのだ。

それこそ、一夏が初めて使用した時、直ぐに変身が解除されて吐血をしてしまった程だ。

 

 

「……あの人、なんか印象に残ってるな………」

 

 

先程の出来事を思い返してみる。

本当に偶然だった。

たまたまイギリスに用があったから来てみたら、あんな場面に出くわすとは。

 

 

だが、そんな事よりも、一夏の印象に一番残っているのはチェルシーだった。

一夏からすれば、名前も知らない初対面の人。

それに、自分は顔を隠していた。

特に何かが起こった訳ではなのに、何故か印象に残っていた。

 

 

「……」

 

 

一夏は何故か数年前に音也に言われた言葉を思い出した。

 

 

(「いいか一夏。初対面でビビッと心に来る女性に出会ったら、その人を追いかけろ。その人が、お前にとっての運命の人だぜ)

 

 

「……まさかな」

 

 

一夏は苦笑し、ナックルを仕舞いローブを脱ぐ。

そして一般的な服装に戻った一夏は、若干まだふらつきながら街へと繰り出していった。

 

 


 

 

数年後。

一夏が15歳になった年。

 

 

とある国の山奥にある、違法研究機関の施設。

此処では生体兵器の実験が行われており、裏社会ではそこそこな有名違法機関である。

 

 

そして、この機関のトップはまだ若い女ながらも、高額の懸賞金が掛けられている。

生死は問わず、また、使用している施設の破壊許可も出ている。

だが、保有している戦力が凄まじく、簡単に返り討ちに会う上、そこそこ場所を点々としているのだ。

その為、警察や軍もおいそれと手を出せない機関なのだ。

 

 

そんな機関の施設は、今現在たった1人のバウンティ・ハンターによって破壊されていた。

 

 

「クソッ!このっ!」

 

 

何処で手に入れたのか不明だが、違法に改造されたISを使用し、施設のトップが襲撃者に攻撃する。

だが、その純白の装甲を持つ襲撃者……『イクサ バーストモード』には、全くと言って良いほど効いていなかった。

 

 

「今まで、命を弄んでいた罪人よ……」

 

 

イクサは右手に持つ『イクサカリバー』カリバーモードを左手に持ち帰ると、右腰に存在するフエッスルホルダーから『カリバーフエッスル』を取り出すと、イクサベルトの『フエッスルリーダー』に差し込み、ナックルを押し込む事でリードする。

 

 

イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ

 

 

「これで終わりだ」

 

 

イクサカリバーを右手に持ち直し、燃え盛る太陽(イメージ)をバックに、トップの乗るISの右肩部から左腹部に掛け、一閃。

 

 

「ハァア!!」

 

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

 

 

乗っているISが強制解除され、トップが大きく吹き飛び、気絶した。

イクサは吹き飛んでいったトップの側に近付く。

周囲に意識がある人間がいない事を確認すると、ベルトからナックルを引き抜き、変身を解除する。

 

 

「ふぅ…一丁上がり」

 

 

変身を解除した一夏は、懐からロープを取り出すとそのままトップを縛っていく。

 

 

青空の会襲撃事件の後。

青空の会の経費等を拝借し、ブルマンを保健所に預けたりなど後処理をしてからアメリカに戻った。

 

 

そのまま高校を卒業し、工科大学に進学。

僅か1年で卒業すると、バウンティ・ハンターとして活動を開始した。

 

 

負担の大きかったイクサを使いながら、工科大学で学んだ事を生かし、イクサ取扱説明書に書いてあったイクサシステムのアップデート予定表に従い、ドンドンとアップデートを重ねていった。

 

 

バウンティ・ハンターとして活動していく中、いろいろな事を知った。

ドイツ軍のIS部隊は全員がデザイナーズベイビーである事とか。

IS世界シェア3位の企業の社長には愛人との子がいるとか。

亡国企業という、かなり前から活動をしているテロリスト集団がいるとか。

 

 

月に安定して1億ドル以上稼げるようになり始めてから、バウンティ・ハンター『イクサ』の名は、裏社会で活動しているのなら誰でも知っている名前になった。

時には、世界中の警察からも依頼が来るほどに。

 

 

今の一夏の目標は、ISの軍事利用を止めさせる事。

そうすれば、青空の会が襲撃された原因を無くすことになるし、世界から争いの原因が1つ減る事になるからだ。

『全部のISをぶっ壊す』とか言わないのは、ISの開発者である束が元々宇宙に行きたくて開発した事を知っているし、一応束と顔見知りだからか。

 

 

機関のトップを拘束し終えた一夏。

不意に周囲に視線を向けると、破壊された施設が目に入った。

 

 

「……」

 

 

まだ15歳ではあるものの、相当な場数を踏んで来た一夏。

でも、こういった施設の破壊は未だに慣れなかった。

あの時の光景を、思い出してしまうからかだ。

いくら許可されている事をしているとはいえ、どうも気分が優れない。

 

 

「…とっとと帰るか。他の奴らが戻って来ても面倒だ」

 

 

一夏の目的は、あくまでトップのみ。

機関の構成員は標的外なので、殺したり拘束したりせずに逃がした。

もしかしたら、様子を見に戻ってくるかもしれない。

その為、さっさと去ろうとしたのだが……

 

 

「あれ?まだIS残ってたのか」

 

 

その際に、破壊した施設の奥の方に、まだ未使用のISを発見した。

 

 

「つくづく、他の奴らを逃がして良かったって思えるよ」

 

 

逃がしてなかったら、IS2機と同時に戦う事になっていた可能性が高い。

そうなったら流石に骨が折れる。

 

 

「……」

 

 

此処から早く離れた方が良いと自分で判断しているのに、何故か一夏はこのISから視線を離せなかった。

一夏は導かれるかのように、拘束したトップを引きずりながらISの前にやって来た。

そして、トップをまるで物を捨てるかのようにその場に寝かせる。

 

 

「お前も、大変だな。宇宙に行くための翼として造られたのに、地上の戦争の道具になっちまうなんて」

 

 

苦笑を浮かべ、右手を伸ばしISの装甲に触れる。

すると、その瞬間。

ISが光り出した。

 

 

「なっ!?これは……!?」

 

 

急な光に、一夏は思わず左手で目を覆う。

その際、頭の中に大量のデータが入って来るかのような感覚を覚えた。

 

 

光が止んだ時、一夏の目の前からISは消え去っていた。

何故なら。

そのISは、今現在一夏が身に纏っているのだから。

 

 

「なん……だと……!?」

 

 

流石の一夏でも、流石に予想外だ。

ISは女性にしか動かせない。

だからこそ、女尊男卑の過激派がISの登場以降騒いでいるのだ。

 

 

だが、男である一夏が、何故か今ISを動かしている。

 

 

「どういう事なんだぁあああああああ!?!?」

 

 

一夏は混乱から絶叫する事しか出来なかった。

 

 

青空を守護する戦士の、IS学園での物語は。

この瞬間に、始まる事が決定したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡単な設定

 

 

〇織斑一夏

 

主人公。

イクサシステム装着者。

バウンティハンター『イクサ』として活動している。

 

自分の大切な仲間を殺されて、復讐に囚われることなく、想いを引き継ぐ事がその場で出来るなかなかイカレタ精神力の持ち主。

原作よりも筋肉質になり、身長も高くなっている。

普段は優しい少年だが、仕事になると一気に冷徹になる。

普段は原作に近い口調だが、戦闘中は啓介に近い口調になる。

 

アメリカにて、12歳で高校を卒業。

その後1年間で大学も卒業してしまう程の頭脳を誇り、また、走っている2tトラックを蹴りで止めたりする事も出来る強靭な肉体を持つ。

これは、生まれ持っていたものでは無く、青空の会で過ごすうちに手に入れたもの。

 

バウンティ・ハンターとして、ISの軍事利用を止める為に日々様々な犯罪者を捕獲している。

また、その過程でまだ未完成の域を超えていなかったイクサを、自分でアップデートしていっている。

 

趣味はバイオリン演奏と身体を鍛える事。

特技は家事全般、珈琲を淹れる事。

嫌いな事は理解力と読解力の無い馬鹿と会話する事。

 

素晴らしき青空の会に誇りを持っており、ファンガイア・スレイヤーとファンガイア・バスターは肌身離さず持っている。

また、周囲はいろいろやっているのに、自分だけが何も出来ないという事にトラウマがある。

姉である千冬に向ける感情の整理はまだついていない。

 

音也から預かったブラッディ・ローズは何時か真夜に返却しようと思っている。

 

 

〇素晴らしき青空の会

 

原作では対ファンガイア組織だったが、今作ではバウンティ・ハンターの集団。

メンバーが全体的に原作より柔らかくなっている。

 

ファイガイア・スレイヤーやファンガイア・バスター、イクサシステム等の開発元。(ファンガイアがいないのに、ファンガイアスレイヤーなの?とは言ってはいけない)

設計者である麻生茜は、一夏が10歳の頃に事故で死亡している。

 

ロールアウト直後のイクサの実験をしようとした際、女尊男卑の過激派に襲撃を受け、一夏を残し全滅してしまう。

 

 

〇名護啓介

 

素晴らしき青空の会所属バウンティ・ハンター。

原作2008年におけるイクサシステム装着者兼妖怪ボタンむしり。

今作ではかなり性格がまともになっている(原作の後半に近い)。

 

倒れていた幼い一夏を保護した人。

その後、青空の会にて過ごす一夏を鍛えたり、いろいろな知識を与えていったりした。

その結果として、一夏は啓介に一番懐いており、一夏が戦闘中に彼の口調になるようになった。

 

青空の会が襲撃を受けた際、一夏に最後に言葉を掛け死亡。

 

 

〇紅音也

 

素晴らしき青空の会所属バイオリニスト。

原作1986年におけるイクサシステム装着者兼主人公紅渡の父親。

今作では、渡がうまれていないので一夏を自分の子供の様に可愛がっていた。

性格に原作からの大きな変更点は無い。

 

今の恋人である真夜と作成したバイオリン、ブラッディ・ローズを常に持ち歩いている。(真夜とはまだ結婚していない)

一夏にバイオリンを始めとする音楽に関する事と、自身の恋愛観を教える。

一夏が恋愛相談を自分にしてくれないのが気がかり(そもそも一夏に好きな人がいなかったので、する必要が無かった)。

 

彼の影響で、一夏の趣味にバイオリン演奏がはいった。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

 

 

〇嶋衛

 

素晴らしき青空の会会長。

原作と特に変わった所は無し。

 

倒れている一夏を保護する事を決めたり、一夏をアメリカに送り出す最終決定をした人でもある。

普段は厳しいが、青空の会メンバーの話をよく聞いたりしており、慕われている。

体脂肪率を気にしている節がある。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

 

 

〇木戸昭

 

カフェ・マル・ダム―ルのマスター。

原作と特に変わった所は無し。

 

一夏が青空の会に保護された際、自分の店を居候先として提供し、尚且つ一夏の世話を見る懐の深さを見せる。

家事が得意な一夏に店を継いでほしいが、一夏にそれを断られるのがお決まりの流れとなっている。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

飼い犬であったブルマンは、一夏によって保健所に引き渡され、その後新しい飼い主の元に。

 

 

〇麻生ゆり

 

素晴らしき青空の会所属バウンティ・ハンター兼カフェ・マル・ダム―ルのウェイトレス。

イクサシステムの設計者である麻生茜の娘。

原作では恵の母親だが、今作では姉。

 

音也の元カノ。

音也と別れてからは恋愛する気が無くなったらしい。

 

一夏からは伯母さんがいたらこんな感じなのかなぁ、と実は思われていた。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

 

 

〇麻生恵

 

素晴らしき青空の会所属バウンティ・ハンター兼ファッションモデル。

原作ではゆりの娘だが、今作では妹。

 

啓介の彼女。

青空の会に保護されたばかりの一夏にお節介を焼いていて、一夏からは母親が居たらこんな感じなのかなぁ、とか思われていたりする。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

 

 

〇斬木次狼

 

素晴らしき青空の会所属バウンティ・ハンター。

原作ではウルフェン族だったが、今作では人間である。

その為無事に苗字が追加された(苗字の命名理由は中の人繋がり)。

 

珈琲が大の好物。

彼に褒められたいが為、一夏は独自で珈琲の勉強をしていた。

 

元々ゆりに惚れていたが、ゆりが音也と付き合い始め身を引く。

それ以来、音也とは腐れ縁の友人。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

 

 

〇襟立健吾

 

素晴らしき青空の会所属バウンティ・ハンター。

原作よりも性格は軟化している(原作で言う、改心した後)。

外見は短髪の時の方。

口調は関西弁ではない。

 

一夏を除いた場合最年少なので、よく一夏とつるんでいた。

一夏にギターを教えようとしたが、一夏はバイオリンに夢中だったため、教える事は叶わなかった。

 

青空の会が襲撃を受けた際死亡。

 

 

〇織斑千冬

 

一夏の姉で、IS世界最強。

幼少期一夏が虐められる原因に間接的になってしまった。

だが、忙しく一夏と碌に話を出来なかった為その事を知らない。

 

一夏は彼女の事を、尊敬していると同時に嫌っているという、自分でも良く分からない感情を抱いており、家から出て行く原因ともなっていた。

だが、一夏が血まみれで倒れてからは1度も顔を合わせていない為、是が非でも一夏に会いたいと思っている。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

作者はもっとよくできたんじゃないかなぁ?って思ってます。

間違っている点などありましたら、優しく指摘いただけたら嬉しいです。

評価や感想、アドバイスもよろしくお願いします。

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