ある日何気なしに自室の外を覗いていたら、向かいの窓から何か光るものを発見した
咄嗟にそれが双眼鏡が反射している光だと気づく。
なぜ俺の部屋を見ているのか、いつから俺の部屋を覗いているのか、そしてその意図は何か。
尽きぬ疑問はそのままに――取り敢えず服を脱いだ。


1 / 1
閲覧ありがとうございます!
天啓が下りたので短編で書きました。
それではどうぞ


一日目

「あ~……明日も学校あんのだるぅ……」

 

 夕食と風呂も済ませた俺は二階の自室で愚痴を漏らしていた。当然誰もこの独り言を聞く者はいない。

 

 毎日6時間程の授業と、その後に控える時代が昭和か大正時代にまで遡ったようなコーチと先輩が待ち受ける部活に精を出している。おかげで家に着くころにはクタクタだ。だがまぁ、その分夕飯が美味く感じるのでそこだけは良い点だ。

 

「来月もスタメンに入れねぇし、土日も部活三昧……あーあ、せっかく高校生になったんだからもうちょい自由時間が欲しいぜ……」

 

 ブツブツと文句を言いながらも俺の手は既にゲームの電源ボタンに触れている。高校生になったお祝いにと買ってもらったテレビとゲーム機を起動して、ベッドに腰かける。ベッドに腰かけたまま画面を見れるようにしてもらったのは、ゲームをしたまま寝落ちすることが出来るという考えがあってのことだ。

 

「だぁーッ! 全然勝てん!! 誰がやるかこんな糞ゲー!!」

 

 相も変わらず全く勝てないゲームに腹を立てた俺は、コントローラーをベッドに投げ捨てる。

 

 

 こんなことをしている間にも周りの連中は、少しでも成績を上げようと勉強をしたり、恋人がいるリア充は互いに連絡を取り合っているんだろうな。アイツとかアイツとか……。

 

「なぁーんか……つまんねぇなぁ」

 

 自室の天井を眺めつつ、瞼を下ろしても一向に眠れない。まだ眠気という眠気が来ないのだ。

 数分間、瞼の裏に映る暗闇を見つめていてもやはり、眠れない。

 

 ただ時間を無駄に浪費するのが癪だと感じた俺は、上半身をベッドから起こして勉強机の上に乱暴に置かれた学校のカバンに目を向ける。中には今日使ったばっかの教科書やノート、ワークがそのまま。弁当や部活のユニフォームなどを出し忘れると烈火のごとく猛り狂った母の制裁を受けることを体験しているから、出し忘れは無い…………筈だ。

 

 一抹の不安を抱えつつ、ベッドから全身を起こしてカバンの中身を確かめるべく机の上のカバンに手を掛ける。

 

「……帰って来た時に出した覚えはあるが……ほっ、よかった。ちゃんと出したままだった……」

 

 気になっていたことが解消されたことで安心していた。しかし改めてその中身――特に苦手だから家で何度も復習しようと思って持って帰った科目のテキストを取り出した時のことだった。

 

 

 ふと視界の隅に何か光るものが映りこんだのだ。具体的には俺の右側、月光が差し込んでいる窓の向こうからだった。

 

 一瞬、こっちの部屋の中にある鏡か何かが月光を反射しているんだと思っていたが、そもそも俺は大のホラー嫌いだ。鏡に映る自分の背後に何かがいると考えるのが怖いから、と普段は布が被さっている姿見が置かれているだけだ。もちろんそれはさっき部屋に入る時に布が被せていた。

 

 では、他の要因かと思いゆっくりと視線を動かすと……。

 

 

(み、見られてるッッ!?)

 

 

 突如として突き刺した殺気じみたプレッシャー。そしてそれは幻覚では無いことがわかる。間違いない。俺は見られている。

 現に今もどこかから俺を見つめる様な視線を感じる。ねっとりとしかし、じっと見つめる第三者の視線が俺を貫いている。

 

(ど……どこだ……部屋の入口じゃない……かといって押し入れでもテレビでもない……)

 

 気配のする方、向かいにある家の二階のベランダからキラリと光る物体が見えた。

 

 それを見て俺は咄嗟にその光が双眼鏡のレンズが反射する光であることに気付いた。どっかで見聞きした内容だからあまり断言はできないが、明らかにこちらに向けられている。間違いなくこの部屋を、ひいては俺を見ているのだ。これがただの自意識過剰であればいいのだが良かった。しかし、そんなことは無かった。

 

 向かいの家の窓に、こちらを見つめる何者かがいることが分かった。

 

 

 俺は慌ててその双眼鏡の主に背中を見せるように視線を逸らしつつ、息を整えた。

 

(やべぇ……やべぇよ……これが噂のストーカーって奴か!? な、なんで俺なんだよ……い、一体いつから……いや、そんなことより、見てたのがバレていたら……!)

 

 まさか自分がストーカーの被害に遭うとは思いもしなかった。頭の中が混乱して思考がまとまらない。

 

 今の俺は窓を背にしたまま棒立ちの状態。これはあまりにも不自然過ぎる。しかし背中に長い棒を入れられたように全く体が動かない。

 

(ま……まだ、見てるのか……!? クソッ、俺に何の恨みがあってこんなことをしてやがるんだ……! あぁ何か腹立ってきたなぁあああ!!!)

 

 混乱のあまり自分でも情緒がおかしくなっているが、とにかく俺はこの見知らぬ視線の主に怒りを覚え始めていた。

 

(だが流石にここで通報して、それが本当に気のせいだったのなら、俺は一生モノの恥を背負うことになる。まずは本当にこの視線の主が本当に俺のことを見ているのか……確かめてやるッ!!)

 

 

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

「……ふふ」

 

 一方こちらは向かいの家の二階。

 

 双眼鏡片手に窓から向かいの二階にいる青年を見つめるその影の頬は二やついていた。

 

「ふふふ……固まってる固まってる……ふふふ……」

 

 青年が固まっている様子を眺めて悦に浸っている様子のその影は、今も棒立ち状態に陥った青年の背中をマジマジと見つめていた。青年の表情は見えないまでもただひたすらに見つめる影であったが、ふとその視線の先の青年の纏う空気が変わったかのようにピタリと動きを止めた。

 

「……ん?」

 

 

 すると青年は――

 

 

「……え? え、いや……ちょ……」

 

 

 パジャマの裾を掴み――

 

 

「ファッ!? えっ!? どういう……ファアアアアアアア!?」

 

 

 脱いだ。

 

 この奇行にはたまらず影も戸惑いを隠せない様子で双眼鏡を握る手が強さを増す。その困惑振りが判る声も漏れ出した。

 

 部活で鍛え抜かれた上半身をさらけ出した青年を目にした影は、流石に動揺した。青年が服を脱ぎ始めることは何度も目撃している影だが、しかし突如何の前触れも無く服を脱ぐ瞬間などある筈が無かったのだ。

 

「え、え、え……嘘……菅原(すがはら)君にそんな趣味あったっけ!? あ、あれぇ!?」

 

 青年もとい菅原の奇行に驚く影だった。しかし双眼鏡越しにでもわかるそのガタイの良さを前にして思わず影はごくりと息をのむ。

 菅原と同じ学校である影……もとい彼女は体育の際にちらっと目撃したことはあっても、こうしてマジマジと見せつけられるようにして突然見せられたその裸体に目を奪われていた。

 

 テニス部に所属している菅原。その資本である足の筋肉は勿論、上半身、主にその腕周りの筋肉や腰回りはとてもよく鍛え上げられていた。それは菅原の部活の成果だけではなく、彼自身がなんとかしてチームに入ろうと自主練をしていることの証明でもあったのだ。そしてそのことを彼女は知ってはいた。

 

 

 しかし、次の瞬間菅原は

 

 

 

 ――きさま! 見ているなッ!

 

 

 

「ひょぉおおおあああああああああ!!」

 

 慌てて彼女は両脇に備え付けられていたカーテンを閉じた。

 

 どこぞの逆探知された吸血鬼のように一瞬でこちらに振り向き、右手を顔の前に、そして左手の人差し指でこちらを指すようにして取られたポーズは、彼女の肝を冷やすのには十分だった。顔の辺りもちょうど暗やみに包まれていたのもさらに恐怖の度合いを上げるのに貢献していただろう。

 

 彼女は息を整え、緊張の糸をほぐしていた。

 

「はぁっ……はあっ……き、気づかれた……!? ど、どうしよう、と、と取り敢えず――お休みなさいッ!!」

 

 咄嗟にカーテンを閉めたこと、そして菅原にバレたこと、そのことが頭を駆け巡る中、彼女は――ベッドで横になった。

 

 

 

 

 

「……取り敢えず、見られていることは確定か……」

 

 カーテンが閉められた瞬間を目の当たりにした菅原は思わずそう呟いた。




主人公
行動力の化身。割と良い体してる

彼女
護衛(ストーカー)。物は言い様

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。