ようこそ猿ども!地下迷宮に挑むモノたちよ!受領しよう、拝領しよう!退屈なこの世界に、新たな贄の血が宿る!そして覚え讃える時だ!死の運び手にして冥界の王――――生者の首を刈る翼、カマソッソの威名をな! 作:食卓の英雄
原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト クロスオーバー ダンまち FGO 黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン 勇者王 カマソッソ
―――『人類の脅威』―――
そう呼称される存在を問われれば、この世界では皆が口を揃えてある存在を指す。
オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなければいけない三大クエストの一角にて、最後の一つであり最強の一。
太古の昔、ベヒーモスやリヴァイアサンと共に大穴より放たれた漆黒の竜。御伽噺に謳われる存在であり、『黒き終末』『生ける厄災』と恐れられている存在だ。
神々が下界に君臨する以前に、英雄史上最強と謳われる人物により片眼を奪われ、しかして未だこの年に至るまで生き続け、世界の果てに存在するとされる竜。
現在の世界最強を凌ぐ傑物が両手の数では効かないほどいたその時ですら、彼ら全てを撃滅させた、恐るべき脅威。
神ですらその存在を恐れ、紛れもなく人類が倒さなければならない絶対的な脅威であることは、疑いようもない。
それこそ、超越存在にして全てを知る神ですら、そう自信を持って答えるだろうそれ。
―――だがしかし、
確かに、黒竜は人類の敵だ。長年の宿敵にして災厄。歴史上のどのような英雄英傑ですら為しえぬ偉業であり、悲願である。
つまり、人類の敵対者。故に
では、では、ではではではではでは。黒竜を差し置いて何が人類の脅威足り得るか。
それは、先史文明の遥か遥か遥か以前の話。現行の人類の祖先すら誕生していない那由多の向こう。
年代にして6600万年前、138億光年より彼方から、
生物分類ワン・ラディアンス・シング。異なる星から飛来した星喰のバケモノ。侵略型飛行生命体ORT。
正史においては、この星にすら降り立たない究極の一だ。
この惑星に落下したORTは6000万年もの眠りについていたが、600万年前、一度覚醒した。
放っておけば、文明どころではなく天球を破壊し尽くすであろう天災は
10万年前より生まれ、今の今に至るまで暮らしていたヒト型の人類の総力によって。
彼等は現代とは比べ物にならないほど超越的な科学技術を持ち、自らの肉体を不死へと改造し、それでも敵わず、それでも諦めず最後の一兵になるまで戦った。
そして最後に、10億の民の命を一つに抱えたカーンの王は、ORTの心臓を抉り出し、その存在をこの星から退却させることに成功したのだ。
とはいえ払った犠牲はあまりにも多い。繁栄した文明は徹底的に破壊し尽くされ、生き残りは王ただ一人。これ以上数の増えようがない。つまりは絶滅したのである。
人知れず、そのような戦いが起こり、更にそこから年月が経ち、またも類人猿は生まれた。新たな類人猿はみるみるうちに進化し、今の人類となった。
現代では、神話と言えば神のくだらない話であると流布されているが、とんでもない。今の人類は知らぬだけだ。神ですら知り得ぬほど遥か彼方の話だ。
この星に今生きる生命すべてを守った、この星最初の神話を―――――
偉大なるカーンの王。蜘蛛殺しの蝙蝠。勇者王カマソッソの名を!
◎◎◎
この世界の中心、迷宮都市オラリオ。
その名が示す通り、かつて人類を襲ったモンスター蔓延る地下迷宮に蓋をし、その上に築かれた都市。
神と人の営みが育まれるここで、また一人、また一人と。富、名声、力、そして未知を求めて命を賭した冒険へと踏み出すのだ。
そしてここにも、誰よりも力を渇望する一人の少女がいた。
強くなる手段を求め、何より苛烈に、誰より貪欲にモンスターを殺す力を得ようとしている少女が。
彼女はレベル2。この都市の冒険者としては最下層ではないが、まだまだ弱い。しかし、ただ一度のレベルアップすらせずに生涯を終えるものが多い中、冒険者になって一年、弱冠7歳という若さとも呼べぬ幼さで至っていることが、少女の底知れぬ思いを物語っていた。
それでもまだ足りぬと、さらなる高みを求め、本来であれば適正ではない階層への道を踏み出そうとしていた。そのとき、奇っ怪な声が届く。
「愚計。哀れなほど愚計。己の身の丈に合わぬ行進、己の炎のみの無謀な突撃。即ち蛮勇。蛮勇は死を呼ぶものだ。オレは死を呼ぶものだ。ならば殺す他あるまい。迷宮にて死する他あるまい」
「は。はは。はははははははははははは。ははははははははははははははははは…………!」
「っ何!?」
咄嗟に剣に手を当て、周囲を警戒するが、見つからない。遠方のことかと警戒を示して……その正面に現れた影に瞠目する。
「ようこそ猿ども! 地下迷宮に挑むモノたちよ! 称賛しよう、嘲笑しよう! くだらなき神時代に、新たな使徒の火が灯る! そして称え奉る時だ! 死の源泉にして冥界の王――――生者の腹を掻く翼、カマソッソの威名をな!」
現れたのは手脚が異様に長く、複雑な形状をした
「……誰?」
その異形の姿ゆえか、それとも得体の知れなさからか、いつでも攻撃できるように構える。
「ん? オレのことが気になるか、女。いいだろう。答えてやる。地上の神々と違い、カマソッソは気前がいい!」
「神様…ですか?」
「そうだ。猿どもの仲間ではない。オレは神話の生き物。ヤツらの同類だ」
あんまりにもあんまりな言い方にムッと顔を顰めるが、それよりも、なぜ神がダンジョンの中で、このように武器を持っているのだろうかと気になった。
「女。オマエのその目、オレには覚えがある。復讐を誓う目だ。怨嗟を叫ぶ慟哭だ。化生どもと殺しあい、傷つけあい、魂を磨きあい、悲しいかな、最後には同じように野垂れ死ぬ。楽しみだ。実に楽しみだ」
「貴方に何が―――っ!」
勝手知ったると告げる存在に、激情の黒き炎を瞳に宿らせるが、その幼さとは似ても似つかぬ気迫を叩きつけられて尚、カマソッソと名乗った神は動じない。
「そうだな。本来であれば、ここでオマエの首を斬り、その血の味を味わうのだが……生憎と、神は地上で力を振るわぬ。そのほうがカマソッソらしい」
「しかし、その瞳には同情しよう。憐れみを抱こう。比類なき力の渇望に賛同しよう! ふふ。うふふ。はははははは! もっと見たい。もっと見よう! この愚かな猿に相応しい試練を与えよう!」
恐るべき哄笑を叫ぶ蝙蝠は、その爪で、その牙で、高らかに声を上げる。
「出でよ! 黒き怪物よ! 戒めの神の力に応えよ!」
「っ―――――!」
眼前の神から圧倒的な力が解放される。その力に当てられ、ダンジョンは地響きを上げる。轟音と激しい揺れ、恐ろしいまでの力に少女はバランスを崩すが、嗤う男神は構わず去ってゆく。
「オマエの試練はこいつに任せよう。殺すか、殺されるか――――楽しい方を選べ! 復讐者の女! それがオラリオで生きるコツだ!」
最後にそう言い残して、少女の前から神は去っていった。どういうわけか、レベル2の知覚であっても直ぐに気配を感じ取れなくなる。
「いなくなった? いや、でもこれは――――っ?」
そして。
ピキピキピキッ!
迷宮の壁が割れる。モンスターが現れる。
『キャキャキャキャキャキャキャ―――ッ!』
「ハーピィ…!?」
人頭鳥体の、醜き怪物。ただでさえ下層と呼ばれる場にのみ出現するモンスターであるのに、その体色は漆黒。悍しき猿叫を放つそれは、常以上の威圧感を放っている。
(あの時と、同じ――)
己がレベル2に至った要因と同じく、何かの異常事態。いや、あの神が引き起こしたものの筈だ。けれど、一つ違う所がある。
あの時は勧誘を断ったがために発生させられたものだが、これは、あの神が己を見て試練を与えると宣ったのだ。
愉快犯であるのだろう。きっと誰でも良かったのだろう。
今の己よりも強いと思えるモンスターが相手だ。無事では済まないだろう。
けれど、誰より力を求めている彼女は、仄暗い心で歓喜した。
また一つ、強くなることが出来る―――と。
◎◎◎
「ステイタス上昇値600オーバーやと…!?」
「ランクアップはしてないの?」
結論から語ると、少女は勝利した。これまでのどの戦いよりも苦戦し、己の全てを出し切って勝ち取った勝利だ。この上なく偉業とも言えるそれを打破したからには位階の昇華を期待していたが、叶わなかったことに落胆を覚えている。
そんな少女に対して、彼女の主神たる赤髪の女神は真剣な顔で問う。
「なあ、アイズたん。今日はいったい何したん? 上層までしか行かへんって話やったよな。それがボロボロで帰って来て早々ステイタスの更新って、そりゃ邪推くらいさせてや」
「……上層にしか行かなかったのは本当。そこで、変な神様に会った。その神様が試練って言って、出てきた黒いハーピーを倒した」
「何やて?」
齎された作為的な異常事態。それが神のせいであると知れば、子煩悩な彼女は怒り、その真意を、いや神意を推測する。
「舐めた真似してきよる…。ダンジョンの中にいたっちゅうことは
「…確か、冥界の王って言ってた」
「冥界の王ぅぅ? っちゅうとハデスか?」
「ううん。カマソッソ、って言ってた」
「カマソッソぉ〜?」
その名に、当てはまる神物を、ロキは知らない。いや、確か過去に、いつかの機会で名前だけは口伝で聞いたような気がしなくもない…。といった非常にあやふやな記憶である。
生憎と、アステカの方の友人は少ないのである。
でも、知り得た情報だけでも千金ではある。どうせあの
ともあれ、闇派閥に関わると思わしき、新たな情報が手に入ったとしようと、納得させようとすると、少女が言った。
「あ、そういえば、あの神様、何だかおかしかった」
「そりゃ、闇派閥の神なんてどっかおかしいもんや」
「ううん、そうじゃなくて…。神様達はどんなところでもヒューマンと同じ見た目なのに、そのカマソッソだけ、手足が凄く長かったし、背中から何かが生えてた」
「うぅーん…? 何や、それ。着けてたとかやなくて? ほら、アレスんとこみたいに武器やら鎧やらつける神もおることやし…」
「違う。多分、だけど…」
ロキの疑うような視線に、顔を俯かせるが、本人も何分衝撃的なことだったので、今更ながらに確信は持てないのである。
「ま、アイズたんがそう感じたんなら、気にかけとくわ。ありがとうな」
未だ完全に信じきれないまでも、情報も揃ってない中で否定する気もない。何より、その神を知らないからこそあり得るのかと考えていた。
そしてこちらは少女。位階昇華に至らぬまでも、上がった能力で更に上の領域へ至らんと研鑽を積もうとして、主神に伝えていない情報を思い出した。
(そういえば、あの
そう疑問に思ったのだ。あれが中身のないがらんどうであるのならインパクトこそあれ不思議に思わないのだが、幼いながらも戦いに身を置いている彼女は知っている。
あれは戦うために磨かれた武器だ。獲物を切り裂き、敵を断つ実戦の代物だと。
並の者であれば、その疑念を神に突きつけているところだが、この少女は、それよりも上がった己の力と上げられる己の能力への関心が上回っていた。
そうして、鍛錬に励む彼女の頭からその疑問は追いやられた。やがて、時が経つに連れてその記憶も風化する。
復讐という吹き荒れる嵐が、そのような些事は忘却させる。
果たして、その神は何者なのか。混乱を迎える先の時代に関わるのか。それは、天上の神ですら計ることは出来ないのだろう―――。
「ウフ、ウフフ、キャハハハハハハハハハハ!!」
蝙蝠が飛ぶ。死の鎌が振るわれる。それだけで深層のモンスターが為すすべなく塵と化す。
稀々運良く即死しなかったモンスターを掴み上げ、蝙蝠は溢れる血を飲み干す。
「くははははははははははは! 不味い、不味い!」
異様に長い舌を伸ばし、不味いと宣い嘲笑う。その姿は正気でないように見える。
「モンスターの血はどの種もまずい。好奇心から口にするものではないな」
そう言って、神であるはずの男は音すら超える速度で
神は地上において常人を超える力を使えば、即座に天界へ送還されるのではないかと、見物人がいれば瞠目しそう問うだろう。
だが、違う。カマソッソは神を凌駕する力を持ちながら、神を演じているだけで、神ではない。
あまりの肉体改造の結果、もはや死ぬこともできず、正気を失い、今も迷宮を飛び回る死の蝙蝠――――
――――勇者王カマソッソ。
いるはずのないカーンの民を探し続ける、狂気の王の名である。
続かないとカマソッソは言っている!