無職転生〜2周目だけど本気だす〜   作:そこらへんの競走馬

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第二十一話「ネゴシエーション」

 

 

 

 

 ギルドの執務室

 そこは、色々と不自由な魔大陸にしては中々の部屋だった。

 しっかりとした長椅子が2つと長机が1つあり、その下には獣の皮で作られた絨毯が引かれている。

 まぁ流石に絵画などは無いが上出来と言えるだろう。

 

 バーディガーディは長椅子の1つにどっかりと腰をおろす。

 それに対して俺たちは立ったままだ。

 一応長椅子は3人全員が座れるサイズだが、

 未だ敵かの判断がつかない相手の前には流石に座りにくいな。

 

「それでは私はギルドの方に出向いております。なにかあればお呼びください」

「うむ!」

 

 ギルド長はそう言うと、先程から騒がしい声が響く扉の方からギルドに戻っていった。

 恐らく冒険者たちがさっきの出来事について騒いでいるのだろう。

 さしずめそれを鎮めに行ったといったところか。

 

 

 ギィィィバタン。

 

 

「ルーデウス。貴様は座らんのか」

 

 ギルド長が部屋を出ると、バーディガーディがそう口を開いた。

 

「いきなり殴りかかられても困るので」

「我はそういったことはしない主義だ! キシリカが好まんからな」

「なるほど……」

 

 これは本音だろうな。

 俺の記憶の中でもバーディガーディとはそういう男だ。魔王らしいと言える。

 それに座らないと話も進まなさそうである。

 ……仕方ない。座るとしよう。

 

「では、失礼します」

 

 俺はそう言うと椅子に座った。

 お、予想通り悪くない椅子だな。

 ふかふかというよりかはパリパリタイプ。俺は嫌いじゃないよ。

 まぁどうでもいいかそんなこと。

 

 あ、ちなみにエリスとルイジェルドは椅子の後ろ立っている。その方が何かあった時に対応しやすいからなのだろう。

 ……マフィアのボスってこんな気持ちなんだろうか。

 

「うむ。では話してもらうか。貴様がヒトガミに狙われる理由を」

「分かりました」

 

 さて、ここからは一言一言に細心の注意を心掛けねば。

 バーディガーディの言う通り殺害が目的でないとすると、彼はなんのために来たのか。

 それは偵察員の可能性が高いと俺は予想している。

 具体的な内容というと、転移前の出来事といったところか。

 ヒトガミも見えなかったと言っていたしな。

 

 人選がバーディガーディってのもまたそれらしい。

 彼は嘘も普通につく。不死魔族の中ではかなりの知恵者だ。

 それに自身を偵察員だと把握してようがいまいが、彼は俺が会話せざるを得ない状況を作りやすい男だ。

 つまり今もまんまと術中にハマっている状況だと言える。

 

 だがまぁ仕方ない。これがベストだと俺は決めたんだ。

 今はこのまま突き進むのみ。

 変わりにこちらとしても探りを入れさせてもらおう。

 

「お話するところでまずは陛下。前世というものはあると思いますか?」

「前世……ふむ、考えたこともないな!」

 

 ふむ。まずは知らないと。

 嘘か本当か分からんがひとまず記憶は無いとみえる。

 まぁ今世でも永遠と生きそうな種族だ。前世を考えなくても全く不思議でない。

 話を進めるか。

 

「実はですね、僕には前世の記憶があります」

「ほう!」

「ルーデウスとしてこの世に生まれ、今と同じ時代を生きた。そんな記憶です」

「ん?」

「ヒトガミとはですね、その頃からの関係でして」

「……少し待て」

「はい?」

 

 おっとびっくり。いきなり話を止められてしまった。

 まだ始まったばかりだよ魔王様。

 バーディガーディは首を傾げながら口を開く。

 

「それは果たして前世なのか?」

「……と言うと?」

「それは前世と言うより、別の貴様、といったところではないのか?」

「え、あー、そ、そうですね。別の僕、その方が近いかもしれません」

 

 その忠告いるのか? 

 わかりやすいように前世という言葉を使ってみたんだけれど。

 もしや不死魔族なりの前世に対するこだわりでもあるのだろうか。

 あまり聞いたことはないが。

 

 だがそれにしても別の自分か……。中々鋭い表現だ。

 俺の中での『前世』はクズでニートの████がしっくりくる。

 ルーデウスだった方は、なんて言うか、今の自分と地続きだ。

 だって今もルーデウスなのだから。

 

 というか、今更ながら考えると俺は、いや俺たちはどういう状況なんだ? 

 俺が記憶を持って再びルーデウスと生まれた理由。

 当初は『オルステッドが負けたから』と決めつけていたがそれは異物である俺に限った話なんじゃなかろうか。

 ヒトガミは置いておくとして、シルフィ、ロキシー、エリス、それにルイジェルドまで覚えているこの状況。

 もはやそれだけで説明がつく範囲を超えている。

 

 いい事だからと肯定的に受け止め、記憶を引き継ぐ条件なんかも考えていたけど、まず根本的に理屈が分からない。

 ルーデウスとしての人生のリスタート。

 特定の人物が同一の世界線の記憶を引き継ぐ。

 オルステッドは転生法と名付けていたが、これは転生なんてものじゃない。

 一種の時間遡行だ! 

 そんな大それた事が複数人に起きるのは何故なのか。

 そもそも理由は1つのなのだろうか……

 

「それで、それと貴様がヒトガミに狙われている理由にどういった関係があるのだ」

「あ、えっと、それはですね……」

 

 いかんいかん。今は会話の途中だ。それも今後を左右する重要な。

 でも、何か核心に触れていたような……

 いや、やめよう。どうせ考えても浮かびやしない。

 この話はオルステッドに会ってから考えるべきだ。

 今は今に集中! 

 

「えー、それなんですが、実は別の僕……ここでは彼と呼びますが、彼も生きていく中でヒトガミに狙われていました」

「ほう、何故だ?」

「どうやら僕が生きているのは奴にとって都合が悪いようです」

「ふむ」

 

 バーディガーディが2本の手で腕を組み、1つの手で顎をさする。

 何を考えているのだろう。

 どこら辺が都合が悪いのか、といったところだろうか。

 

「ルーデウス、貴様。……大変だなぁハハハハハハ」

「ほんとですよ。迷惑極まりない話です」

「フハハハハ。前世でも殺され、今世でも命を狙われるとはな」

「いやまぁ仲間の助けもあり、前世では生きながらえたんですけどね」

「…………なに」

 

 笑っていたバーディガーディから笑顔が消えた。

 変化にすぐ気づきエリスとルイジェルドも臨戦態勢に入る。

 場にピリついた空気が流れだす。

 

 だが、この反応は俺の予想通りだ。

 ヒトガミを知る者にとって奴を出し抜く難易度というのは周知の事実だからである。

 そしてこの反応から見て記憶の方は白確……という事にしておこう。

 そこら辺は再三疑ったが特にしっぽは出てこなかったのでな。

 

「それはつまり、貴様はヒトガミから生き延びたということか」

「そうなりますね」

 

 俺がそう答えるとバーディガーディは再び考え始める。

 そして数秒後

 

「……使徒に我輩はいたか」

 

 きた! 

 この流れを俺は持っていきたかった。

 そしてここからが勝負どころだ。

 

「いました」

「つまり我を倒したのか」

「……そうですね。封印させていただきました」

「封印……」

 

 俺との会話をする事に腕を組み替えるバーディガーディ。

 いい調子だ。

 俺の勝利条件はバーディガーディとの和平。

 敵ではあるが攻撃意思のない今、こちらに引き込むことで大きなアドバンテージになることは間違いない。

 ヒトガミが何も伝えていないのが少々気になるところではあるが、それだけの理由で会話を捨てる訳にはいかないのだ。

 寧ろ今しか会話のチャンスはない! 

 攻めるならここだ! 

 

「陛下、私は一騎打ちで、全力の陛下に勝利しました」

「なんと! 全力だと!」

「そうです。全力です」

 

 あえて闘神鎧については口にしない。

 いわなくても俺は貴殿の全力を分かっているという意思表示。

 それだけでなんかかっこよく見えるだろ。

 勿論理由はそれだけでは無いが。

 

 一騎打ちという嘘を隠すために別の方に思考を傾けさせるのだ。

 そう。つまりミスディレクション。

 俺こそが幻のシックスマンである。

 

「陛下。それを踏まえてお願いがございます」

「ふむ。言ってみろ」

「僕と敵対関係をもたないで欲しいです」

「…………」

 

 魔王バーディガーディ。そう、彼は魔王なのだ。

 魔王は負けた相手、つまり勇者の願いを聞き入れる。

 これは特に誰かに決められたものでは無い。

 だがバーディガーディは守るはずだ。

 なぜならキシリカ・キシリスはそういった男を好むから。

 

「……ならん」

 

 

 

 重たい一言が放たれる。

 

 ダメか。

 まぁ勝率は低いとは思っていた。

 覚えていないバーディガーディにとって今の俺の発言は単なる妄想でしかない。勇者うんぬんの話では無いのだ。

 ヒトガミが何も伝えなかったのもこれが理由なのかもな。

 

 さて、どうするか。

 今のメンバーで勝てないとは言わない。

 だが倒せはするが殺せないのだ。永遠に着いてくる魚雷。実に厄介である。

 

 

 

「なんでよ!」

 

 突然後ろからそんな声がした。声の主はエリス。

 

「負けたんだから従いなさいよ!」

 

 彼女は怒りを顕にしながら怒鳴った。

 あぁエリス。それは通じないんだ。

 彼は負けた記憶が無いんだから。無駄なんだ……

 

「別に従わん訳では無い」

 

 ほら、……え! どゆこと! 

 ダメなんじゃないの? 

 予想外の言葉に戸惑う俺。だがエリスはそのまま質問をする。

 

「でも断ったじゃない!」

「敵対関係をもたない。それはつまり如何なる場合でも我はルーデウスに手出しできないということであろう? 

 それはならん。我も守らねばならぬ時は戦わなければならんからだ!」

 

 え、つまり……

 

「それ以外なら聞き入れよう。例えば……ヒトガミの味方になるなっ! とかならな。それならどうだ、ルーデウス」

 

 そう言ってにっと笑う魔王。

 いきなりの急展開に脳みそをフル回転される。

 本心? トラップ? 色々な考えが頭に浮かぶ。

 しかしそれでも俺の返答は決まっていた。

 

「それで、お願いします!」

「ワハハハハハ。良かろう。ではこれをもって我は使徒をやめる!」

 

 通った。単なる妄想が。俺は賭けに勝ったんだ。

 最悪の敵を消したんだ。しゃー、ざまぁみろヒトガミ! 

 

「やったわねルーデウス」

「ありがとうエリス!」

 

 この展開は彼女のお陰だ。あの時点で俺は諦めていたのだから。

 俺はエリスを抱きしめる。

 

「べ、別に何もしてないわよ」

「いや、エリスのお陰だよ」

「そう? ならそうね。私のお陰ね。感謝しなさい」

「ありがとうございますエリス様。大好きです」

「…………知ってるわよ。ほら、離れなさい」

 

 そう言われ俺は離れる。

 目の前には顔を赤くしているエリス。

 非常に満たされた気持ちだ。

 

「上手くいったなルーデウス」

「ルイジェルドさん! ルイジェルドさんもありがとうございました」

「俺こそ何もしていない。それにまだ終わってないだろう?」

「え?」

「試験がある」

 

 ああ〜。試験ね。そういやあったわそんなの。

 魔王襲来で一気に記憶から吹っ飛んでた。

 

「なんだ試験とは?」

 

 バーディガーディがそう聞いてきた。

 まぁ別に伝えても問題ないか。

 なんせ彼はもう使徒をやめたのだから。

 ま、それに何をやっても今はヒトガミに筒抜け出しな。

 

「実はギルド長に実力をみせればBランクにしてもらえるとの話で」

「ほう」

「ここにもその為に……」

 

 ガチャッ

 

 俺が話をしようとしたタイミングで扉が開いた。

 

「お話は終わりましたかな?」

 

 現れたのはギルド長。

 気づけばギルドは静かになっていたのだ。

 

「今ちょうど試験の話をしていた」

「おお! そうですか。それで、どのように?」

「試験内容を教えてくれ」

「えっと、今でよろしいのですか?」

「あぁ頼む」

 

 ルイジェルドが話を進め、トントン拍子で試験の内容を聞くことになった。

 一体どんな試験だろう。

 クエストか? それとも現Bランクとの模擬戦か? 

 まぁどっちでも問題ないと思うが。

 

「試験内容は赤喰大蛇(レッドフードコブラ)のとうば……」

「待て」

「はい?」

 

 いきなりバーディガーディが話をとめた。

 一体なんだ。何か問題が…………いや、まさか……

 

「試験は我輩との戦闘といこうではないか」

「は?」

 

 そう呟いたのはギルド長。

 俺も嫌な予感を感じていたが内心は「は?」だ。

 

「1体2で試合をし、合否は我が決める。それでどうだ」

「で、ですが……」

 

 困り果てるギルド長。負けるな。ここは強気に反対するだ! 

 でないと……

 

「ルーデウスもそれでよかろう」

 

 く、早々に話をふられてしまった。

 ここでNOと言いたいのだが、

 

「本気の我にサシで勝ったのだ。余裕であろう」

 

 そうは問屋が卸さないのである。

 ずっと一方的に話を進められているが、もはや俺に選択肢は無いのだ。

 

「……いいでしょう」

「うむ! 本人もこういっているのだ。いいだろうギルド長」

「わ、わかりました。ですが、街の外でお願いしたく存じます」

 

 ギルド長は恐れているのだろう。

 ギルドがバラバラにされるのを。そりゃそうだ。さっきの一瞬で壁が吹っ飛ばされたのだから。

 

「別に構わんぞ。ルーデウスも構わんな」

「……はい」

「では参るか。フハハハハハ!」

 

 笑いながらギルドを出ていくバーディガーディ。

 周りの冒険者たちはその様子を見て共にギルドを出ていった。

 残されたのは俺たちだけ。

 

「ごめんエリス。魔王との戦いになった」

「そう来なくっちゃ! 久々に全力でやれそうね!」

「………………」

「魔王が相手か。相手にとって不足なしだな」

「………………」

 

 俺たちは続くようにしてギルドを出た。

 魔王、冒険者、デットエンド、皆の顔がウキウキしている。

 俺だけを除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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