シャカール⇆ファイトレ…ファインモーション こんなのね   作:ふぁらんどーる

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第1話

「新郎新婦、二人は互いをパートナーと認め、その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」

 

傍らに立つ神父の声が近く聞こえる。

きっと彼はアルバイトか何かで雇われた本物の神父ではないのだろう。

でもそれは、二人ともキリスト教徒ではないからお互い様だ。

あの娘と違って俺達二人は生まれも育ちも日本だから。

俺達二人を引き合わせてくれたあの娘は、確かに島国だけれどもこの日本とは随分遠く離れた所にある。

 

「…っおい?今余計なこと考えたろ?」

 

俺があの娘について数瞬…誓の場だというのに考えてしまったからだろう。

察しの良い彼女はその鋭い目をとがらせる。

その髪の色とは対象的な純白のドレスに包まれた姿を見て、一瞬でも他の女性を考えてしまった自分が恥ずかしくなる。

例え邪な気持ちがなくたって。

 

「ゴメン‥あの娘の事を考えてた。あの娘がいなければ俺はきっとキミとこんな関係にはなれなかっただろうから…。」

 

「あっそ…」

 

俺の言葉に彼女は俺への視線を下へと逸らす。

怒らせてしまったかな?

 

「…オレもだよ。」

 

だが、心配は杞憂だったようだ。

 

「え?」

 

「オレもアイツの事を、今こんな時なのに考えてた。これからの将来とかよりも、まっさきにアイツがいたときの事を思い出しちまった…。」

 

恥ずかしそうにそういう彼女はいつもと違ってなんだか塩らしい。

 

「お互い様かな?」

 

「浮気したら許さねぇぞ?」

 

「もうキミしか見えてないさ。」

 

「あっあの…お二人共?」

 

誓いの場だというのに、式を余所に勝手に話をし始めた俺達を見て慌て始めるインチキ神父。

あぁ、そうだった。

 

「まだ途中だったな。」

 

「くだらねぇ…今更宣誓したってオレとお前の距離は変わんないだろう?全くロジカルじゃねぇ…。」

 

「式を挙げたいと言ったのはキミじゃないか?」

 

「…うっせぇ!」

 

次の瞬間。

 

「…なっ!シャカぁむう!?」

 

俺の唇は彼女によって塞がれる。

なんの前触れもなく、唐突に。

誓いの言葉をすっ飛ばし行われた接吻に色めきだつギャラリー。

だけどそれはすぐに高鳴る鼓動に掻き消された。

 

「ぷはぁ…。」

 

ほんの少し、短い口付けから解放されると白衣の彼女は俄に顔を赤らめる。

 

「シャカール…唐突だな。」

 

「アイツだったら多分これぐらいの事はする。」

 

「本当に…?」

 

「多分…?まぁでもオレが言いたい事は解るだろう?」

 

「あぁ…。」

 

彼女と…エアシャカールと俺は真っ直ぐに目を合わせる。

インチキ神父の前だって…例え信じていない宗教であっても…今こそはちゃんと二人で誓うのが筋なのだ。

 

「「私達二人は永遠の愛を誓います…。」」

 

息をあわせ二人でそう宣誓すると、本日二度目の口付けを交わす。

 

もうインチキ神父は目には入ってこなかった。

 

 

───

 

「殿下…非常に申し上げ難いのですが…。」

 

眼前の白衣に身を包んだ人物は酷く緊張している様子である。

 

「構いません。覚悟はできてます。」

 

自身もウマ娘かつ、我が国の中でも最も優秀だと言われるウマ娘専門の女医ではあるが、今はその緊張のせいか普段の聡明さは欠片も感じる事ができない。

 

「その殿下…殿下の御身はウマ娘としては…生物としては大変健康体なのですが、その…。」

 

多分、今の彼女の心持ちは残頭台にくくりつけられ、処刑される直前とたいして変わらないのかも。

でも、それは私だって同じ事だ。

 

「はっきりと仰って?それがどんな結果でも、貴女のせいではありません。私に流れる血の問題でもありません。単純に私自身の問題です。」

 

だから私は、そんな彼女の緊張を解す為に幾度となく作ってきた作り笑いで語りかける。

 

「でっ…では…、単刀直入に申し上げます。」

 

「はい。覚悟はできています。」

 

「殿下の御身体では…残念ながらご子息を成す事が…」

 

 

───

 

肌が焼けるんじゃないかと錯覚する様な熱い熱いシャワーを浴びる。

 

「ふぅ…」

 

水栓を閉じてもまだ身体が熱い。

鏡を見ると顔が汗で滲んでいる。

これではシャワーを浴びる意味など無かったではないか。

 

「ファイン…。」

 

バスローブに身を包み寝室へと戻ると、今の夫が申し訳なさそうに出迎える。

それが、先程までしていた行為を思い出させ、何故か熱くなった筈の身体が冷めていく様な感覚に包まれてしまう。

 

「もう、やめましょうこんな無駄なコト。貴方ももう知っているんでしょう?」

 

私が一言そう言うと彼の顔はいっそう悲愴さを増していく。

 

「きっと何か方法が…。」

 

まるで、ブドウの種から油を絞り出す様に彼は声を捻り出す。

そう、引けないのだ。

彼の出身はこの国ではないから。

 

「方法も何もありません。これは私の身体の問題ですので。」

 

「僕とキミの子供はお義父さんと我々、両国の臣民望んでいる事だよ?」

 

そう、彼の出身地は長年係争が絶えなかった我が国の隣国なのである。

向こうの王族の出身だ。

そこの王族と私とを融和の象徴として婚姻させ、子を産ませる。

それが、両国の主脳部の考えたなんとも時代錯誤な計画だった。

でも…そうだ…彼女の言葉を借りればロジカルな方法なのだろう。

 

何よりも、解りやすい。

 

解りやすいからこそかつてはよく行われ、解りやすいからこそ両国民も納得する。

 

「その計画もおしまいです。これは先天的な物ですから…。残念ですが子供は諦めて下さい。それに、もう疲れました。全くロジカルではありません。」

 

「…ロジカル?」

 

普段私が使わない様な言葉を受け、夫は少し怪訝な顔。

それを尻目にキングサイズのベッドへ彼と距離を取るように横たわった。

そして、目を瞑る…。

 

何故だろう鼻にふと久方嗅いでいない、芝の臭いが蘇った。

 

あぁ…夢ね。これ。

 

明晰夢。

夢が夢と解るその夢は…私が一番楽しかった頃の記憶。

 

シャカール…トレーナー…グルーヴさん…みんな…

 

懐かしい…顔が浮かんでは消えていく。

また、いきたいな日本へ…。

 

悲しい夢を見終わった翌日。

枕は涙で濡れていた。

 

 

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