シャカール⇆ファイトレ…ファインモーション こんなのね 作:ふぁらんどーる
「ファイン、今年度のエリザベス女王杯の特別ゲストとして軽いイベントに参加出来ないかと向こうの大使館から打診があったんだ。私が外遊で日本へ行く用事があるからそれのお供にとね。彼の国の君主の名を冠したレースでもある。どうだい?悪い話でもないだろう?」
姉からそんな話が舞い込んできたのは丁度、気分の晴れないその日だった。
「日本に…?私が?」
「あぁ、特段公務など無かったとは記憶しているが。駄目かな?」
今思えば落ち込む私に対するささやかな配慮だったのかもしれない。
途端に昨晩夢にまでみた芝の匂いが脳裏に過る。
そして、彼の顔も。
その日開催されるレースに彼の教え子は出るのだろうか?
というかトレーナーをまだ続けているのだろうか?
そんな事さえ知らないのに
…もしかしたら会えるかもしれない。
あのヒトに。
そんな淡い期待を胸に抱いてしまった。
「解ったわ。ご一緒いたします。」
二つ返事で快諾する。
断る理由などあろうはずもないのだから。
………
「シャカールと一緒になった理由は褒められた物ではないんです。」
「ほう?」
ファインが一度、自分の意志でトレセンに戻ってきてしばらく…本当の別れが訪れた。
それまでの期間、何かとファイン、シャカール、俺の三人で集まるという事が日常的になっていた。
言ってしまてば、俺とシャカールの距離が縮んだのは中心人物であるファインが消えたけれど、その名残で余り物の二人が行動を伴にし続けただけのこと。
そもそも最初のうちは…彼女が去ってもしばらくは…映像付きのオンライン通話等で、3人顔を合わせる時もあったけれど…
それはやがて只の国際通話となり…
チャットサービスとなり…
手紙となって…
最後は何もなくなった。
公務、公務の連続で王女が異国の民草に割ける時間は減っていき、そして遂には連続的な繋がりは消えてしまった。
その結果、二人きりになってしまったという事なのだ。
だから、二人の会話の中心は主役が居なくなった後も依然、ファインモーションのままだった。
「このカップ麺アイツが好きそうな味してるなぁ?」
「そうなんだ?この新商品まだ食べてないけど買おうかな?」
「そのビールってアイルランド製なの知ってたか?」
「何得意げに話してんだ?このネット社会そんなのガキでもしってるぜぇ?」
「いや、前にファインが教えてくれたからさぁ…」
アイツが…
ファインが…
まるで二人は失った何かを埋め合わせる様に、互いの中に彼女の残り香を探り合った。
そして、それがいつの間にか互いの匂いを求め合う、そんな関係に移っていっただけなのである。
これは褒められた物なのだろうか?
と言う様な事をお酒の席でライトハローさんに話しているこの状況。
場所はいきつけの居酒屋だ。
「私の前で惚気ですか?羨ましいご身分ですね。」
眼前で生グラス片手にそう言う彼女は少し機嫌が悪そうである。
そう言えばそろそろ婚期がなどと最近よく騒いでいた。
酷な事をしてしまっだろうか。
「それにしても、彼女、現役時代はトレーナーさんにべったりというイメージが強かっただけに意外です。本当に今は何も連絡を?」
ひとまず手に持つグラスを空にして彼女はそう続けた。
「別に学生時代の先生みたいな人ってそんなもんじゃないですかね。自分も思い返してみると学生の時あれだけ仲の良かった先生と今は一切連絡なんてとってないですから。」
「でも、先生とトレーナーとでは違いませんか?」
食い下がるハローさん。
お酒が入ると気が強くなるタイプなのだ。
「逆にハローさんは今でも当時のトレーナーさんとご連絡などとってらっしゃるんですか?」
「…そう言われると…でも、年賀状くらいはやり取りありますよ。」
「それくらいな物でしょう?彼女の場合は公務もありますからそういうのだって難しいんでしょうね。」
「それは寂しいですね何とも…。あっ生ジョキこっちです!」
いつの間にかデバイスで注文したのか、店員から追加のジョッキを受け取りグラスを片手にする。
そんな彼女はどこか釈然としないご様子だ。
「そんなもんですか?」
「そんなもんです。でも…」
「でも?」
「この間、結婚式で久し振りに連絡があったんです。手紙とか電話とかでなく国際電報で。特に結婚したなんて連絡はしてなかったんですけど。流石、一国のプリンセスなだけあります。」
「所謂祝電って奴ですね。なんて書いてあったんですか?」
「ゲール語だったんで何とも…彼女が日本に居た時は少しばかり勉強したんで、ちょっとは読めたんですけどね。今はもう…。回りに英語は解る人間がいても、ゲール語識者なんていませんから。」
「翻訳アプリとか使って訳さないんですか?」
「あえて訳してないんです。」
「それまたどうして?」
良い感じに彼女と話が弾んできた。
「それは…」
その時だった。
「オイ、随分楽しいそうだな?」
俺の真後ろから、聞き慣れだ愛バの声が聞こえたのだ。
「まぁっ!シャカールさん!?お久しぶりです!」
振り向くとサングラスをかけ、パンクがかった私服姿のシャカールが座敷に胡座かく俺達二人を見下していた。
「シャカール…?どうして?」
「どうしても何もお前が家に帰ってこないからだろうがよ?」
怒るというよう呆れる。
そんな口調で言葉を投げつけるシャカール。
でも…
「今日は音楽仲間と飲んでくるから遅くなるっていってたじゃないか?」
彼女の持つもう一つの顔。
それは電子音輝くフロアの主役。
今日はそれ関連の集まりがあり遅くなると言われていた。
だから帰っても食事は用意されてないし、用意する必要もないと思って今日たまたま学園にきていたハローさんとこうして飲んでいる訳だが…。
「今日のは半分付き合いだから早く切り上げてきた。それで愛する我が家でお前の帰りを待っていたけど、なかなか戻ってこないからこうして迎えにきてやった。そんな訳なんだがよ、まさかこんな所で他の女とよろしくやっているとは思わなかったぜ?えぇ?愛しのマイダーリン?」
「他の女とよろしくってぇ…?」
何を言っているんだ?
と言おうとした俺は初めて理解した。
席を挟んで酒席を共にしている相手はライトハロー…。
間違いなく女性だ。
しかも未婚の。
「あっ…」
迂闊。
籍を入れたばかりで、独身気分から抜けられていなかった。
ここに来ておれはようやく初めて、既婚者である男が未婚の女性と二人きりでお酒を飲んでいる。
そういう危ういシチュエーションだと言うことを理解してしまった。
先程までの喧騒は何処へやら…あたりの雰囲気は重くなる。
…先に沈黙を破ったのはハローさんの方だった。
「いやいや!イヤイヤイヤ!違うんです!シャカールさんっ!そんなつもりでなくてですね!普通に!いつもの様に!友達と飲みに行くノリで!今日、誘ったんですよっ!そもそも、まさかあのG1バの男を取ろうなんて度胸、こんな私にありませんって!ねぇっ!トレーナーさん!?アナタからも何か言ってくださいよ!というか、もうこんな時間!すみません!お先に失礼!しますね!」
そして、あっという間に身の回り整えスタートダッシュ。
未勝利といえどウマ娘に相応しい脚速さで退店した。
きっかりと机の上に数千円も置いてある。
割り勘にしてはちょっと足りない気もするけど。
取り残される俺達二人。
「飲み治すか?」
「…おっおう。」
さっきまでライトハローの座っていた席にあぐらをかくシャカール。
ポチポチとその小さな指で、あの黒いビールを注文した。
それにしてもあのスピード‥
「…これはエアシャカールのトレーニングに活かせるかもしれない!とか思ってんだろ?すぐ他のウマのトモおいかけるなよ、エシカルじゃねぇな?」
「…はい、すみません。」