シャカール⇆ファイトレ…ファインモーション こんなのね   作:ふぁらんどーる

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第4話

エリザベス女王杯

 

京都レース場で開催される。

その年の女王の座を賭けた芝2200mの戦い。

彼の国の女王の名を関するレース。

私、ファインモーションが幾年振りに来日したのはそんな女王決定戦の前週だった。

空港に私と第一王女の乗する専用機が到着し、タラップを降りる。

瞬間、掃射されるのは溢れんばかりのフラッシュ。

薄目で笑い、手を振ると弾ける光はさらに増す。

自分でも嫌になってしまうけど、私の立場がどういうものなのか再認識する瞬間だ。

ざっと目を通すと様々な国のプレスがいる。

殆どは日本の主要報道社、そして我が国の現地駐在員…。

 

それに次いで多いのが、あの国のメディア。

 

──やっぱり気になるのかしら…。

 

あの国では私は一体どんな報道をされているのだろう。

暗い考えが頭の中に湧き出るのを感じながら、そのまま横付けされた専用車へと乗り込む。

 

「失礼します。」

 

革張りのシートへと腰を降ろすと、間髪いれずに隊長も乗り込む。

何かあった時の為に姉とは別の車。

だから、大きな車にもかかわらず車内には私と隊長、運転手しかいないのだ。

 

「隊長、今後の予定は?」

 

「はい、一度このまま京都迎賓館へ、お姉様はそのままそこへ滞在されますが、殿下は京都レース場近くのホテルへの宿泊という手はずになっております。そして、明日はURA主催のメモリアルイベントにご出席いただきエリザベス女王杯の出走予定者達や関係者との対談が予定されております。つきましては…資料を作成させていただきましたので、お目通しの程よろしくお願い致します。」

 

そう言うと隊長はホチキス止めされた資料を手渡してくる。

見るとイベントのスケジュール、概要、予想される質問等が記載されていた。

 

「…あれ?」

 

何ページか捲り私の指は止まった。

丁度、出席者の欄。

私の目は釘付けになる。

 

「ふふっ…やった!やった!まさか!まさか、久し振りに会えるなんて!でも…やっぱり!優秀ですものね!そうなるのは当たり前かしら!きっと教え子さんといっしょにエリザベス女王杯を目標にしていたんだわ!」

 

自分でも驚く位にはしゃいでしまう。

口調はいつの間にか十代の少女の様になっていた。

普段の私を知らない運転手は異様なはしゃぎようにその顔をこまった感じに強張らせる。

 

「それにしても、隊長?どうして内緒にしていたのかしら!」

 

「…サプライズと思いまして。」

 

「うん!うん!すごく!すっごく、びっくりしたわ…!はぁ〜それにしても久し振りに会えるのね…!ふふっ楽しみ!」

 

郊外を進みつづける黒塗りの車。

その中で私は明日のイベントに想いを馳せ続けた。

 

───

 

「トレーナー!あのファインモーション殿下とお知り合いなんですよね!」

 

「…あぁ。」

 

そう短く首肯する。

11月の京都。

今、オレ達二人はエリザベス女王杯のメモリアルイベントへ出席する為に開催まで日があるというのにワザワザトレセン学園から会場となる京都レース場付近のホテルへやって来ていた。

 

ファインモーション第二王女の来日。

それに伴ってのメモリアルイベント。

女王杯の出走予定者とそのトレーナーの出席要請。

 

今週頭に会長室へと呼び出された時は何かやらかしてしまったんじゃないかと冷や汗をかいたんだが…。

なんて事はない。

少しおべっか使って外交をしてこいとの指示だった。

だからこそ前泊の為にこうしていつもより高いホテルで寝泊まりする。

勿論これは経費で落ちる。

 

ニュースで来日する事は知ってたが…。

 

まさか面と向かってアイツに会えるとは想像もしていなかった。

 

「あぁ…アイルランドの王女様なんですよね!王女様なんて絵本の中でしか見たことないです!粗相ない様にしなくっちゃ!」

 

キャリーケースを引きながら、ホテルの廊下ではしゃぐ担当。

そんな彼女を見て少し微笑ましく思う。

余程異国の王女様に合うのが楽しみと見える。

この娘もイベント招待者。

女王杯の出走予定者だ。

 

はて?コイツは果たして世界地図を渡してアイルランドが何処かと指させるのだろうか?

 

…流石にそこまでの教養はあるか。

 

そういう自分はどうなのだろう。

いきなり会えるという衝撃に襲われた物だから…。

ぶっちゃけ、ただただ驚いている。

 

嬉しい…嬉しいんだけれども。

 

(あーっ、何て話せばいいんだ…?)

 

久し振り?

げんきにしてたのか?

最近どうなんだ?

 

そんな事を開口一番言えばいいのだろうか?

 

なんたって数年振り…。

それこそ直接顔を合わせるのは。

ただ、親友に合うというだけなのに頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。

 

…もしかして緊張してるのか?オレ?

 

思わず視線を床へそらしてしまう。

足元にはビジネスホテルとは違う高級そうな赤い絨毯が視界に広がっていた。

きっとふわふわしていて寝転んだら気持ち良いのだろう。

現実逃避気味にそうかんがえ始めた。

 

そんな時だった。

 

「…え?」

 

まだ、泊まる部屋についていないというのに、担当のキャリーケースを引く音が消えた。

 

「…?まだ部屋は先だぞ?」

 

「ト、トレーナ…前。」

 

「あ?」

 

声を震わせ前方を指差す担当バ。

それに従い視線を再び前方へと戻す。

 

「ふふっ、お久しぶりですね。」

 

一見して高貴な雰囲気を感じさせる白を貴重とした勝負服。

背丈はあの頃と変わっていない。

顔に少し残る幼さも、背伸びした様な大人っぽさも。

全部そのまま…。

 

「…ファイン?」

 

「久し振りね、シャカール。いえ、シャカールトレーナーと言った方がよろしいかしら?」

 

………

 

「トレーナーさん…本当に良かったんですか?」

 

「何が?」

 

「だってぇ…」

 

不安気にこちらを見つめる担当。

その指先のタブレットに映る女性が安の原因だった様だ。

 

「この方、トレーナーさんの元担当だっだんですよね?王女様。ニュース映像でご一緒されてるの見ましたぁ…それに、理事長さんが言ってました。メモリアルイベントに招待されていたのに参加を断ったって…。」

 

隣を歩く担当バが声を震わせる。

映る映像はライブ実況。

エリザベス女王杯前日のメモリアルイベントだ。

レース参加予定者やURAの重鎮達と対談をしているかつての教え子の姿があった。

 

「随分大人になったなぁ。」

 

思わず独り言る俺。

そこには勿論、エアシャカールの姿もあって…なんだが昔の二人を見ている様だった。

学園のカフェテリアで一緒にいた。

ファインと言葉を交えて画面越しにも顔が鋭い眼が緩んでいるのが解った。

 

「参加されなくて良かったのですか?」

 

「って言ってもなぁ〜福島と京都の瞬間移動は流石にしんどいよ。」

 

「すみません。私のせいで。」

 

「仕方ない、ファインの来日は急に決まった事だ。キミのレースほ前々から決まってたしさ、今の俺にとっては昔の教え子との再開よりも今のキミの針路のほうが重要だ。」

 

「でも…。トレーナーの奥さんだって京都にいますよ…。3人は非常に仲良しだったと聞いてますう。たづなさんから。」

 

肩を落とす担当バ。

何だろうレース前なのにテンションが絶不調になってしまっている。

 

「でもじゃないっ!」

 

「ふぁっいっ!?」

 

だから俺は彼女に発破をかけるため大声を出す。

 

「キミは俺をファインに会いに行けば良かったと後悔させたないのか!」

 

「ひえっ!そんなつもりは!」

 

「じゃあ!?」

 

「じゃあ…?」

 

「勝つしかないだろっ!」

 

「ふはぁっあい!!」

 

肩を叩いて担当バをダートへと送り出す。

 

「さぁっ勝ってこい!」

 

福島の第11レースそれが今日の俺にとって代えられない瞬間だった。

 

解ってくれるよな?ファイン?

 

 


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