ただのしたっぱを自称する主人公を襲うのはただならぬお化けの悪意!
天の意思によるガチンコ勝負は免れない主人公は、果たして、そこで出会った少女を守りながら、夜の学校を脱出できるのか!?
これは、作者の性癖だけを込めようとして失敗したホラーバトル物である!
全くもってエンディング部分が思い付かなかったので半分に分けて延命します。
つまり前半です。
ちょっとでも性癖を共有できたら.....なんて。
腕が隣を歩くクラスメイトの臓を貫いた。
信じられないような表情だけは覚えている。
吹き出した血に汚れた。
胃液は臓物すら溶け落とし、
伸びた舌は朱色の甘美に震えた。
その姿に、先程までの連続性は見当たらない。
正気のようにみえて、
それは一つ、位相のズれたもの。
しかし、そこまでヒトとは違わないのだ。
ただ、少し、時間と変異によって劣化した
在り方も、価値観も、性格も、変わることはない。
友達は大事だし、クラスメイトもそこそこ大事。
家族はもっと大事。私より出来の良い妹も....まあ、大事だ。
でも、ごめんね。
私達に出会ってしまったら、もう関係がないのだ。
そういうものだから。そういうものになってしまったのだから。
だから、頑張って逃げて。
見つからないように隠れてて。
息を殺して。震えを止めて。
臭いを他の血で消して。暗闇の中で潜んでて。
それならば、見つけられない。
見つけなくて済むのだから。
▶
ふと、夢をみていたような気がした。
それは嫌な予感と同義で。
目を逸らしてはならないヒント的なもので。
因果のような、この先を暗示するものなのだと、
誰かがそう教えてくれたことが、あったような。
眠りから覚めてなお、重い瞼をそのままに、
着たままの作業着の裏、ホルスターに仕舞われた相棒に触れる。
重い鉄の塊。近代文明の殻に封された神秘。
約束の魔弾。絶対の信仰原理。
名を、アライアス・ケースクラフト。
または、ルーデット・シルバー。
祈りの一射。最後の銀弾。
名前は数あれど、その意味は、たった一つの役割に集約された切札。
人知れず励起状態に入ったそれに、今回の任務への警戒度を数段引き上げる。
"約束"を冠するこの兵装は、
嫌な予兆だ。決して少なくない代償を強いる武器を使用する場所なんて、一つだって訪れたくないのに。
溜め息を吐いて、車のリクライニングを戻す。
そろそろ裏に積まれた機器の情報収集及び解析が終わっている頃だろう。
肉体の疲れもとれた。精神状態もフラット。
バンのバックドアを開き、機器が算出した情報と装備の確認、装着を始める。
さて、一仕事だ。
▶
『怪異』
そう在れと想われて、または決めつけられてそう在る、情報存在群。つまり概念体。
神話、宗教、学術から、民話、都市伝説、果ては思い込みまで。
ありとあらゆる概念端子を用いて発生するお化けの類。それが怪異である。
今回の仕事では、その中の地縛霊に対応する。
まあ対応といっても情報収集及びキャンプ設置のためのマウス代わりだ。
地縛霊の本体と殴り合うわけじゃあない。ただのお兄さんには過ぎたる仕事である。最悪死ぬ。....というのは建前で、実際は情報取集すら危険過ぎて無理めな所に投入されがちだ。刺し違えても対処しろってか?
地縛霊、そう地縛霊だ。果たして今回の相手はどんなタイプなのだろうか。
いやなんとなくわかってはいるが、ただでさえ怪異には例外が多すぎる。逆に言えば例外的なナニカを持たない怪異など現代社会の中で存在の維持などままならないので当たり前といえば当たり前であるのだが。
逆に普通の怪異ほど危険だ。だって例外がいらないほど地力が高いといえる。シンプルイズベストとは笑えない話である。
ともかく、地縛霊といっても多くのタイプが存在する。
マンションの一部屋や階段、エレベーターなどの小規模エリアでのみ顕現ができるタイプ。例えるなら霧に近い。霧という状態を維持するために狭い空間に閉じ籠っているようなものだ。
次に交差点などの中規模エリア....少々の人通りがあり、ある程度の存在情報の集積と保存ができるタイプ。通りすがる人々を文字通り襲ったり、思念ベクトル.....
所謂精神エネルギーを吸いとって存在を維持する、我々が対応する主な相手である。
で、今回の主題である学校などの大規模エリア。そこまで成長してしまえば、それはもうごちゃ混ぜの有り様だ。様々な噂、思い込み、恐怖、溜まった気、子供などに釣られてきた怪異が混ざり混ざって自己改造の繰り返された異界領域。
我々したっぱ職員の簡易潜入調査ですら殉職率が余裕の60%越え。侮るなかれ、そこそこの怪異特効装備でそれである。軽く死ねるが常のブラックさ、切実に辞めたい。
まあ給料や(仕事以外での)待遇が破格だしやりますけど。
深夜2時。月明かりもあるというのにイヤに薄暗い校門付近で、俺は機材の最終チェックを行っていた。
各種装備を指差し確認し、外殻式存在情報維持装置のランプ点灯も確認。
空間座標パラメーターをチェック。重力変動、空間歪曲、時間流動は....全部微妙にプラスよりと。....本部のデータリンクを元に再検査。検査結果変わらず。マジかー。アクティブかー。イヤだなー。
ヘッドセットのカメラ、音声機能と認識共有機能、現実歪曲フィルターもチェック。
本部のオペレーターとの通信強度も良好。
んーーーーー、他の小物もオッケー。
唯一の物理的な怪異特効武装であるソルトカラム拡散光式の特殊拳銃も腰にくくりつけて準備ヨシ!
まあ怪異特効武装なんてカッコつけているが、効かないヤツが多すぎる点もヨシ!
では簡易潜入調査を開始する! イクゾー!
校門を乗り越える。各種センサーがカリカリジジジと言い始めているが無視だ無視。
まずは校庭と校舎外部の異常発見を目標とする。
駐車場を横切り、花壇に沿ってぐるりと校舎を回り込めば、前と奥にそれぞれ昇降口が見えてくる。多分前が低学年、奥が高学年の入り口だろう。
そしてその中央辺りから伸びる道の先が校庭だ。
やだなあ、マジで暗い。不自然過ぎるってマジ。もう来るかー? こんなところでバトらされる我が身よ。
まあ、ただでさえ人手不足のこの社会、任期が終わればトントン拍子で昇進らしい。
生き残り、怪異経験者は貴重だ。逃がさない意思を感じるが、このまま2,3年しぶとく働き続けてれば老後は安泰_______
「お兄さん、ここは危ないよ。」
昇降口に背を向けて校庭に向かおうとしたときだった。
少女。
ゆっくり振り向いて、観察を開始する。
..........あー。こりゃあアカン。母ちゃんごめんここで俺は死にます。
重力変動は子供一人分。空間歪曲は正常値の範囲。時間流動もグリーン。
んー、でもねー、現実歪曲フィルターさんがものすごく情報を遮断してるのねー。
汚染情報と思われるものは顔と手に持っているもの。
各種観測機器から送られた情報は自動的に統合処理され、仮想現実がコンタクトレンズ越しに展開される。汚染された情報はある一種観測に有効なものが多い。つまり汚染された観測情報を破棄し、汚染されなかった多種観測情報を元に仮想観測結果を演算することで、汚染情報を目にせずとも、その情報自体はリアルタイムで仮想観測できるわけである。なお意味は半分以上わかってません。研修期間の詰め込みつらい。
「やあ、こんばんは、お嬢さん。私は大丈夫、仕事でここに来たんだよ。」
認識はフィルター越しだ。相手に与える影響は最低限で済むはず。精神エネルギーが全く吸えない点から同類と勘違いしてくれれば御の字だが、まあ話しかけてくる時点でその可能性はほぼゼロ。
今重要なのは相手を興奮させないこと。
情報を可能な限り収集することだ。
「仕事?」
「ああ、パトロールといってもいいかな。このところ
パトロールは嘘。人がいなくなる事件は本当である。
「そうなんだ。じゃあ早く見つけないとね。お兄さんも気をつけてね。ここの学校、怖いのがいっぱいいるから。」
「え、ちょっ」
速い。てか追い付けない。空間歪曲がアクティブ。少女の異常というより校舎側の異常か。それを少女が上手い具合に利用している....と。
異界領域の分体?いや簡易現実強度測定器によると少女は±0.13~0.16。
闇夜に見えなくなった少女の方向へ走りながら、オペレーターに取得データの再解析を依頼する。
.....解析結果が返ってくる。少女は普通の人間だ。問題はあの顔....なぜ顔がフィルターに引っ掛かった?
一旦少女は諦め、再度校庭に向かう。
フィルターデータを参照する、重要なのは部位。最も汚染値が高かったのは.....目か。怪異によって思考汚染、洗脳されているパターンか?。目はいわば思念のアンテナ的部位に等しく、今回のようにその異常性を発見できるケースがある。面倒だ。
とはいえ今回は簡易潜入調査だ。保護は正規部隊に頼むことにして一旦放置だ。
ああいうのに釣られて突っ込むと普通に死ぬ。てか死んできた。
校庭に出た。
校舎に原因体がいるからか、異界強度は-1.03。弱めだな。
ぐるりと見渡すが、そこまで強い揺らぎや怪異は見当たらない。殆どが喰われたか?だとしたら厄介だな.....。
安全確保したら正規部隊のためのベースキャンプを設置予定だったんだが、こりゃ多分気を抜いた瞬間に引っ張り込まれるな。
現にここ、点々と転がる雑魚怪異どもの血糊や肉片周りの異界が濃い。多分校舎内のが捕食の際に漏れた分だ。こえええっ。
オペレーターにその辺の懸念事項を伝える俺。
オペレーターに申し訳なさそうにキャンプ設置を実行するよう言われる俺。デスヨネー。
デカい餌である。デコイとも言う。
死ぬ死ぬ叫んでいても更に死が近づいてくるだけなので、
ため息一つ、諦めを吹き飛ばして動き始める。
測定器片手に最も異界強度が低い地点を探し出し、その地点の四方に黒鉄の楔を打ち込む。オペレーターに合図を送れば、俺が背負ってきたバカでかいリュックサック....中継機を介して結界が展開される。検出できた校舎内の異界強度を参考に、+2.00以上を維持するよう臨時調整した代物なのだが.....。
途端、
名状し難い呻き、悲鳴、怒号、そして寒気。
校舎から爆発的に広がった波動に縮みあがる俺。
オペレーターに泣きつくが想定内ですと払われる俺。
ヤツのヘイトは完全にこの結界か俺だ。
なんせ狩り場....ナワバリを荒らしたからな。そりゃあ怒る。
震える手で撤収の準備を始める。
周囲に使い魔、所謂式神も展開。
『御浄護艇五路八法 此れ非ざるは印の境にて 人囲いし四方 築きは今も都にて』
っと、『見』、『護』、『命』、『縛』を2つずつ、合計8つを侍らせる。
それぞれが索敵、障壁、身代わり、拘束の機能を持ち合わせるが、携帯式の簡易作成なので効果は低いし一回限りだ。
嫌になるほど重かった中継機は結界内に置いていけることで、素晴らしく軽くなったリュックサック内の装備を再点検を終わらせながら覚悟を決める。
校門までそう遠く.....いや結構遠いなあ!!
多分絶対確実に襲われて攫われて殺されるフラグがビンビンである。だからこその式神だ。頼りないけど! 主に俺とというエネルギータンクが。式神の性能は製作者の力量と仕える者の力量に依存するからな!
深呼吸一つ。神様仏様星々運命奇跡等々に祈りと願いを込める。
言の葉に力を込め、ある程度運命をいい方に廻そうとする。
まあ効果はほぼない。そりゃあ願いと言葉だけで色々できるのはエリートだけだ。
結界から一歩踏み出し、二歩踏み出し、走り出すための三歩目を踏み出したその時。
ずぶりと嵌まり込む三歩目。完っ全に罠にハマった形である。
気がつけば周囲の地面が蠢く血肉へと変わっている。
生えてくる屍の手。偽りの大地がニヤリと、確かに嗤った。
渦を巻く生臭い大気と、落ちこんでいく口のような地面。
童の笑い声。各種観測機器からの全判定がerrorとレッド。
これは......無理か。
諦めて、少しでも情報を本体に送るために周囲を見回す。
通信障害も発生しているが、これらの機器にはある程度の耐性がある。本体 が回収してくれるだろう_________________
と、いうことで俺は死んだ。残り残基は一。
只今俺は校庭を走り抜け、昇降口を通りすぎようとしていた。
多分俺の死体で好き勝手に遊んだあと、偽装術式が解けたそれを見て更に荒ぶるだろう。
まあそれの対応は本隊の役目。俺はこのまま退散するぜ______
「お兄さんっ! そこは危ないよ! 早くこっちに!」
まずい、やられた。
殺意が剥く。術式が破綻し、偽装が丸裸となった。
ああ、失態だ。確かに、お嬢さんがいたか。
低学年用の昇降口、その影に、少女は立っていた。
切迫した表情。血の気の引いた顔。
恐れ。不安。それでも微かに瞳に灯る使命感と、大きな覚悟。
フィルターが、少女に寄生する悪意をさらけ出す。
俺の式神の効果対象は単体だ。校庭に顕現した端末にそれをかけている時点で、少女を対処する余裕もリソースもなかった。
少女は謂わば
少女は
あそこまで侵食されてしまえば、怪異にとって操りがいのある生き人形と化してしまう。精神活動も、記憶も、認識も、何もかも、違和感がないように調整されていると思われる。糞が。
校庭の
瘴気の手は俺へと迫りくる。
残り残基は一。それが散れば次は我が身。
躊躇はなかった。迷いなど置いてきた。
『外道には外道を。』なんて先輩が言っていたが、
こういう意味じゃねえよなーなんて苦笑しながら。
「え。」
「悪いな、嬢ちゃん。」
銃声が哭いた。
昇降口に、少女が綺麗な血の花を咲かせた。
俺は八つ裂きになった。
式神の偽装が一瞬で破綻し、残基は終わった。
中々の威力だろう?組織の特別製だかんな。
と、いうことで俺は昇降口を抜けて校舎内を爆走していた。
腕には右目を中心に首から上が崩壊した少女が死んでいる。
ばちゃちゃ色々服に飛び散るが無視だ無視。
俺が撃ち抜いてこうなったかんな。仕方ない仕方ない。
だが、安心したまえお嬢さん、今の弾丸は霊基情報のみを貫通する隠し球。
そう多くは量産できんし、兎に角飛ばん当たらん遅いの三拍子揃った改悪霊装だ。
異界強度が高いと霊基が肉体に強く影響し、このように撃ち抜いた霊基情報に対応する肉体が吹き飛び死にかけるが、ただ
そう内心高笑いしながら黒く焼け焦げたソルトカラムを銃身から排出。
回転式弾装の状態をチラ見。残り五発。
霊基貫通弾はそのうち残り一つ。シリンダーを雑に回転させ固定、少女の汚染部位にもういっちょ撃ち込む。
腕の中でビクンと跳ねる身体。飛ぶ脳髄と血潮。
ごめんなー。多分痛いだろうけど我慢してなー。
これで対処法は尽きた。次は霊基洗浄が可能な装備を本部に乞おう。
流石に罪悪感で胸が痛い。腐った部位の切断手術じゃないんだからさ。
拳銃は拳銃で中々の骨董兵装だ。まっこと扱いにくい。
なんで回転式弾装なん?早う自動化と願っても、したっぱには骨董品がお似合いだとさ。糞が。
苛立ち交じりに、そこらじゅうに携帯式の拡散型反異界膜を炸裂させまくる。
地縛霊特攻の目鼻潰しだ。校庭に設置したデカブツの小型バージョン。
奴らにくっそ効くし暫く異界強度が
追ってきていた
適当な教室に駆け込み、駄目押しのもう一発。
異界強度が下がる、ヒヤリとした感覚が通り過ぎ、少女の肉体の損傷がある程度
それでも、喋れる程度にはなるだろう。
気付け一発。術式を載せた拍気を鳴らす。
ピクリと少女の体が動き、目蓋が開かれる。直ぐさま覗き込んで確認。
フィルター、ポジティブ。汚染度数+0.04。うーんまだ危ないか?荒療治じゃここが限界か。適当に持ち合わせの術式で邪気避けを組んでみる。フィルター、ネガティブ。汚染度数+0.012。うーんまあよし。
お嬢さんの様子は......なんか顔面を真っ白にしながら口をパクパクしてる。
.....声が出ないっぽいな。ちょっと痙攣も起きてる。
精神状態も最悪だろうに、それでもパニックになってない時点でスゴい。スゴいぞお嬢さん。
ちょっと感動したので霊基情報の修復術式と霊基影響の遮断術式を組んでやる。
これでなんとか....喋れんか?
ヤツの目が効かない内に情報が欲しいのだが。
「私に、何を、したんですか?」
「悪いな、ちょっとお化けが取り憑いてたんで殺した。お嬢さんは自分の異常行動は理解していたか?」
カマかけしてみる。思うに少女は長いことここにいる。ここでヤツの駒となっていた。時間流動異常がアクティブな理由がコレだろう。そろそろセンサーがイカれそう。まーた天引きかー?
「わかりません。本当に、わからないんです。えと、なんで、わ、わたしは。」
ん、マズイ。精神崩壊はやめてね。
汚染され、ねじ曲げられていた認識が正常化したのだろう。グロッキーに近い顔色を見て、精神状態を測定するセンサーの警告が出る前に記憶封印を施す。いつもは一般目撃者にかける代物だが、こういう時にも便利だ。
「まあそれはいい。兎に角ここからの脱出が最優先だ。ついてくるかい?」
「________っ、あ。うん。」
声をかけ、記憶封印により呆けた意識を切り替えさせる。ちょいと暗示術式も込めて、俺に対する警戒心を下げればオッケー。思い出しかけた推定
少女には未だヤツの"感覚"が残っているようで、なんとなく
元々把握していた小学校のマップと照らし合わせて脱出ルートを算出する。
「理解したか、今から帰るぞ。」
「え、」
今から進むルートは、
二階の渡り廊下を抜け、
旧校舎も抜けて、その奥の裏門に向かうというもの。
校舎周囲や正門はガン待ちされているようなので、
比較的安全という判定となった校舎を駆け抜けて裏門に向かうルートとなった。
校舎が比較的安全とは頭イカれてんのかと思ったが、
ヤツさん、少女に寄生していた『目』を潰された挙句、反異界膜の効果で大きく俺たちを見失い、正門から俺が脱出していないとわかるないなや唯一の俺の在処である校庭のベースキャンプを襲撃しているようである。馬鹿が。
と、いうわけでスニーキングの開始だ。実は反異界膜の在庫切れが近い。
少女というお荷物がいるなかでの強引な脱出は不可能だ。
故の気配遮断。そっち方向のサポート機器の方が多いくらいだし、なんとかすっきゃねーのだ。
ところで、
「お嬢さんは何時からここに居るんだ? ああ、思い出せないんならそれでいいが。」
「え、えーと、多分数年は経ってるかも。なんでか、ここを出ることも、ここを不思議がることもなくて、ただすっと人を探して.......まって、すう、ねん.....?」
「ああ、なるほどな。じゃあ探し人の名前はわかるか?」
稼働中の暗示術式で思考ベクトルを誘導。時間異常への固執を阻む。そっちのことは、あー、その....後でいっぱい泣いてもらうことになるだろう。ごめん。
「名前、な、まえは......らいか。そう、らいかちゃん。......一緒に探してくれるの?」
「悪いな、俺にその余裕はない。今は兎に角脱出が最優先だ。今日はお嬢さんも帰ろうぜ。次の機会に手伝うからさ。」
「ご、ごめんなさい、私は探さなきゃ。お兄さんだけ、先に帰ってて。」
まあそうなるか。流石の精神強度。伊達に異界領域で生き続けてはいないな。
だが、今回はそれが邪魔だ。どうっすかなー。ぶっちゃけノリと勢いで保護しちまったけど、そういった義理はないしなー。
という、いつもの冗談は捨てておこう。
なりより飯がマズくなるし、死ぬ確率が高くなる。
覚悟がキマったやつなら、少女の命を代償として消費し強くなれるが、俺はただのしたっぱ。少女を捨てれば心理防壁に綻びが生まれる。そういう意味での死亡率上昇だ。
しかたねーなー、さっさと死体を見つけて帰るか。
お嬢さんレベルの耐性を持ったやつがごろごろいるわけもなし。数年単位とかどうせ死んでるだろうし。
「わかったわかった、探すの手伝うわ。少しだけな。」
本当に少しだけ。
正確にはヤツさんが校舎外に夢中でいてくれるまでの間だ。
そんな僅かな時間で、目標物を発見できるかと訊かれれば....可能だ。これでも術者である。失せ物探しぐらいはちょちょいだ。
「じゃ、ちょっと周辺をサーチしてみるわ。」
用意するは、熊野の社から正式に取り寄せた梛の葉。
『第三の提言 参照』
使用する意味は、花言葉。
神話体系からも関係を引っ張ってブーストを掛ける。
"脈紋、第一層を展開。代謝変換。生体要素の転化を確認。
第一層、奮起。神話体系参照。因果事象補足。モデルサンプル、結合"
梛の葉とその奥の神様に断りをいれ、ライターで炙る。
薄く煙があがったところで、少女の頭をぶち抜いた時に採取したサンプル____主に血液のケースを開く。
煙を誘導し、血液に触れさせた途端。
"サンプル、確認。データ抽出完了。"
『縁理検索 開始』
糸が張った。
真っ赤に染まった霞の糸。
よく聞くあれだ、赤い糸の伝説。
ダメ押しとばかりに伝承作用に乗っかり、可能な限り精度を上げる。
「よしよしよし、お嬢さん、その糸の端っこを持って、可能な限り探し人を念じな。記憶が曖昧でもいい。大事なのは気持ちの強さだ。糸の
「これ、大丈夫なの? 大丈夫なのね、わかった。......頑張ってみる。」
ふわふわ空中を漂う糸の先端に触れて、少女は目を瞑った。
瞬間、伸び始める赤い糸。んー、一応
伸び続ける糸の先端には、小さな銀の鈴を括り付けてある。
これは霊波による周囲へのレーダーにも、位置情報を知らせるマーカーにもなるお手軽霊装だ。ちょいと壊れやすいのが欠点である。
空間と境界がねじ曲がっているのだろう、鈴から送られてくるデータの数値が安定しない。神様にも力を借りた強力な赤い糸なので、そこら辺の時空間異常程度は無視できるのだが、鈴のほうが耐えきれんようだった。データがガビガビだ。正直スマンかった。
仕方がないので走ることにする。
追いかけている途中で、赤い糸のエネルギーが尽きたらそこで消えてしまう。そうなる前に早めに先端に追いつかないと行けないのだが.........
「....無理ゲーじゃね?」
先程言った時空間異常である。
赤い糸が無視できても俺等は無視できない。
下手に触れたりすれば一瞬で捩じ切れる。
「こっちだよ、お兄さん。」
「おい、待てって。」
足が止まった俺の横を少女が走り抜けていく。
迷いのないその足取り。障害物をやすやすとすり抜けていく。
「おいおい....道がわかるのか? あの歪みとか見えてんの?」
「うん、いつからか見えるようになったんだ。道は、糸が教えてくれてるよ。この糸すごいね。」
うーん、術式との親和性も高いっぽいな。
俺だと糸は大雑把に方向しか教えてくれないほどに弱体化する。
とことん恵まれた子だ。生き残るべくして生き残ったというべきか。ま、今回は都合がいい。
「道案内任せた。」
「うん、こっちだよ。」
駆け抜けていく少女の体を一心に追う。
未だ絶えることのないものを辿りながら、
俺は、最終確認を開始した。
式神からの伝達。
ヤツの動きが変化した。
明確に俺たちの方向へ進み出している。
多分、臭い消しに使っていた反異界膜の効果がきれたのだ。
_______________
"脈紋より、第一層から第二層を展開準備。
炉心奮起。触媒投下。エネルギー弁、順次開放。
臨界状態で待機。以上。"
一本、走りながら霊薬を飲み干す。
効果は
ヤツレベルの大物を相手にするには、俺の演算能力と通常演算補助じゃあ足らんので、機械様に術式制御の大部分を頼むわけだ。
"アクセス権、獲得。IDを認証。
コンタクトを開始します。
... ... ... ...成功。パイパーリンクを確立。
術式制御権の委託を確認。
エイジ様。ようこそ、ARUMAへ。"
懐からもう一本、拳銃型のデバイスを取り出す。
トリガーもマズルも、グリップはあるが、それ以外はのっぺりした、白金色の金属体。
術式補助機能を軸に設計された"杖"。
アークリアルなんとかかんとか....通称『ARUMA』。
戦闘になるとすればこれを用意しとかないと俺は死ぬ。
なんせ素面での攻撃手段はあのリボルバーだけだ。
大物が当たり前に保有する防御理論を突破するには威力や機能が足りて.......いるのだが不安過ぎる。その突破手段は3度だけだからだ。しかも一対一専用。普通に"杖"に頼るのが無難だ。
というわけで、虎の子の起動触媒を、装填するのでありました。
あーあ、これは高くつくぞー?
▶
ああ、本当に馬鹿らしい。
そう思ったのは、いつだったか。
遠い過去、一緒に肝試しに来たクラスメイトを襲ったナニカ。
耳を塞いでも届く悲鳴、命乞い、助けを呼ぶ声。.....恨み声。
残された血溜まり、壁に跳ねた肉片、延ばされた皮膚、零れた眼球。
縮こまって、階段裏で震えていた幼き私には、到底
頭は茹で上がったように虚ろで、それでいて突き刺さるように寒くって。
悲鳴じゃない、カチカチと震える歯を通る呼吸は、まるで下手な笛のようだった。
何故か安全性を保たれていた階段裏から這い出る。
月明かりに照らされた辺りを見回す。青い霧は見えない。
慎重に踏み出して、
真っ白なプリッツミニスカートが赤黒く染まっていく。
よくわからない笑いが込み上げそうになって、慌てて口を塞いだ。
血の感触は不愉快極まりないが、血の香りは悪くはなかった。
その時の私は、侵入口に利用した窓を目指すことにした。
他の窓は内側からなのに開かず、非常口も機能していなかった。
しかし、あの窓は確か開けっ放しにしておいたのだ。
ヨタヨタと体を引きずって、それでも健気に私は歩きだした。
窓はすぐそこだ。そしたらこの悪夢は終わりだと、
そう思い込めるように。
幼き私は気づいた。
一向に窓に着かない。一向に窓の景色が変わらない。
迷宮化、または拡張されているというべき業に、私はまともでいられただろうか。
焦りと恐怖と怒りと滑稽さで頭がどうにかなっていた私は、それでも愚直に歩き続けていた。
無限に並ぶ教室、無限に入り組む廊下。
理科準備室は6度目。窓を見れば移動距離の数十分の一程度進んだ様子と、動かない月を知ることができた。
私は何かを感じる様子は無かった。
全ては夢のようにちぐはぐだった。
未だナニカはクラスメイトで遊んでいるらしい。
笑い声と悲鳴が何処からか木霊する。
その度に青い霧が現れたので、私は教室に身を潜めた。
『青い霧は危険の証拠。隠れたり逃げたりすること。』
大好きな祖父から教わったことだった。
祖父の、珍しい鮮やか過ぎる碧眼に見つめられながら、私はよくそういう話を聴いていた。
あの時、私だけ隠れられたのもそういう理由だった。
青い霧はじっと隠れていれば、いつもは消えていく。
上手く隠れられないと、クラスメイトの仲間入り。
それはイヤだ。
震えは治まれど、嫌に感覚がささくれだっている。
それが青い霧の動きを教えてくれた。
息を潜め、視界を閉ざし、耳は鼓動で潰されて。
その唯一の感覚で、私はここまで進めていた。
いつの間にか膝をついていた。
何十回目の階段裏、そこに隠れていた不幸な死体の隣で、
トクトクと鳴らす胸の音を聴いていた。
体力はある。気力は....削れてはいるが保っている。
けれども、体を酷い倦怠感が襲っていた。
「あ、そうだ.....水。」
緊張状態は、それを忘れさせていたらしい。
お隣さんから滴るそれをぼんやり眺めていて、やっと気がついたレベルだった。
お腹はまだ大丈夫。というか今食べたら吐いてしまいそう。
周囲を見渡し、そんなことを思い浮かべながら、水源を探す。
蛇口、またはトイレでもこの際いい。
ちょっとだけ、お隣さんを美味しそうと思ってしまったことを、無意識に忘れながら、私は歩いていく。
窓に写る私の顔は、今思うに、酷い顔だった。
喉が渇いた。
周囲に蛇口もトイレも無かったので我慢した。
水源を見つけよう。
喉が渇いた。
周囲に蛇口もトイレも無かったので、我慢した。
あれ、こんなに無いものだっけ。
酷く、喉が、渇いた。
蛇口があったので、捻ってみたら、暖かい水が勢いよく飛び散った。夏の筈なのに、体はとても冷えていたので、その暖かさが嬉しかった。
手で救い、こくこくと飲み干す。
喉を潤わせる
洗面を叩く赤色が、クラシカルワンピースに散っていく。
手に滴るそれも舐めあげる。
垂れた雫は、美しいコントラストを描いていく。
喉奥から溢れた香りを、十分に味わって、私は息を吐いていた。
滲み出る妖気。正真正銘の堕落。
現代社会においての禁忌は、そこで起こった。
未熟な果実を腐らせるもの。知らない快感。知ってはいけない快楽。
拡げられた虫食い穴からの濃密な汚染が、果肉を蝕んでいく。
ゾクゾクと、恐怖とはまた違う震えが襲う。
真っ青を通り越し、真っ白になった頬が上気する。
それは正に、帯びてはならない魔性そのもの。
全てが壊れていく。
仕掛けられていたちょっとしたお遊びで、私は転がり堕ちていく。
最初から狂気の端に手をかけていた私には、どうしようもない罠だった。
いつの間にか青い霧は私を包み込み......いや滲み出始めていることすら何か楽しそうに、私は月明かりの届く窓辺の廊下から、暗い迷宮へと歩いていく。
もう、私は、その時には、終わっていたのだ。
外からすれば数年が経ち、私からすれば数時間。
実際のところ、お兄さんの言い訳も暗示も、私には効果はありませんでした。そっちの方が、お兄さんは都合が良さそうでしたので、合わせたまでなのですが。
ショックはそこそこ大きかったのです。
頭を吹き飛ばされて、痛みと恐怖の中で修整された中身。
記憶と認識の齟齬、そこに
だって、私のお腹には、あの化け物の食べかすが、詰まっているのですから。
もう、私は人間とは呼べないでしょう。
少女の皮を被った、異常者。
精神だけ年を重ねてしまった人形。
それでも、お兄さんの色を視るに、私はまだ大丈夫のようです。
おかしいですね。不思議ですね。
もう、手遅れだと、今更思いながら、
普通に接して貰えている今にしがみついて、
私はお兄さんと行動しています。
嘘だってついてしまいました。
もう少しだけ一緒にいたくて、理由に使ってしまったらいかちゃん。
唯一、狂った私から逃げ切っている人。
多分、何処かで死んでしまっている人。
いつものように仲良くなって、
油断した背後から、いつものように殺そうとして、殺せなくて、
逃げていくのを見送った人。
なぜあの時だけ、殺せなかったのでしょう。
おかしいですね。不思議ですね。
不思議だから、探したい。という、とても馬鹿らしい理由です。
お兄さんも、私も、こんな危険な場所に長くいる必要はありません。
もう、お兄さんが怪異と呼ぶそれの影響が無いはずなのに、
私はまともじゃなくなっているのでしょう。
凄まじく衝動的。どこまでも短絡的。
.....これは不思議ではありませんでした。
中学も高校も大学も行けていない私は、年を重ねても子供なのでしょう。
ちょっと頭が回るようになったり、
図書室の本で語彙は増しても本質は変わらないようです。
ああ、どこまでも滑稽。
子供の皮を被って、年を重ねた風を装った、ただの子供とは。
ああ、本当に馬鹿らしい。
きもちわるいにもほどがある
▶
「居た。」
少女の声がした。聴いたことの無い、冷たい声。
ARUMAに危険予測を全振りし、
肉体機動に専念していた身としては唐突な異変だ。
しかし、その異変の理由を、多分予想できている。
今俺達が走っていたのは、体育館に向かう二階連絡通路。
そのまま二階のギャラリー駆け込んで階段を降りれば目的地_____っておいっ!
あろうことかお嬢さん、ギャラリーから飛びやがった俺もこのままいくかーっ!
スピードを落とさず、エネルギーを無駄なく前方へ送り出す。
綺麗な走り幅跳びを、狭いギャラリーの手すりで繰り出した。
お嬢さんが。
俺は多分危ないので慎重に上に乗って飛び降りる。
足裏が痛いし飛距離が絶望的だがまあいいだろうってお嬢さんどこ行った_____
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ある程度、怪異の考えと動きは予想できていました。
私たちという人形を潜り抜けたプレイヤーで、怪異は直々に遊ぶのです。
出来るだけ悲鳴を、涙を、血を、畏れを搾り取って、
もがき逃げる様子を嘲りながら、生への呪いを吐くまで可愛がって、
最後は丁寧に、生きたままバラしていくのです。
小指の骨にいたるまで、解剖していくのです。
その快楽を、私たち人形は知っています。
その快感を、私たち人形を蝕みます。
そうして、誰も彼もが知らぬ内に狂っていくのです。
爛れて、捻れて、堕ちて、擦れて、終わっていくのです。
その中で、私はそこそこ良い方でした。
飲と食。共有されたのは、それだけでした。
だからって、今の私にとってそれが地獄だったことには変わりません。
さて、体力も限界。下がる道無し。手札は尽きた。
瘴気と歪んだ空間、怪異の多足多腕に全方位を阻まれた状態。
それでも、それでも諦めていない女の子。
私とは違う、
完全に気力だけで絶望と汚染を跳ね除けているあの子を。
今起ころうとしているように、もし穢されてしまったら。
もう起こってしまったように、もし歪められてしまったら。
あなたはどこまで堕ちるのか。
考えただけで、意識は冴えていく。
人形は、もう十分でしょ?
だから離してよ。ライカを。
おじ×ロリ(精神非ロリ)はいいぞ。イイゾイイゾ。
後半はできたら.......投稿するんで.......
感想乞食です。よろしゅうお願いします。