【ティル・ナ・ノーグ(投槍魔法)】+【ココノエ(詠唱連結)】
【ヘル・フィネガス(高揚魔法)】+【ダインスレイブ(人格改変魔法)】
これで派閥大戦も余裕だな、うん
その後、祝賀会は続行し夜遅くまで美味しい食事に興じた翌日。空が青く澄み渡り気持ちの良い風が吹いている街中を俺とベルは揃って歩いていた。
大事な大事な装備類の悉くをあの忌まわしき翼竜に破壊されてしまったため、その補充をバベルにある【ヘファイストス・ファミリア】の武具屋で行うつもりだった。
もうこの際多少高ついても構わないから頑丈なヤツが欲しい。だが鎧の類はどうも肌に合わない。……俺もベルと同じヤツにしようかなぁ。考えるの面倒くさくなってきた。
「良い装備があるといいですね」
「だな」
通りかかるテナントの前で何度か足を止めながら、以前にも来た防具屋へと到着した。
店内は相変わらず鎧の森。隅の方には魔導士用と思われるローブが並んでいる。
「ゴライアスの素材でできたヤツとかないもんかね。多少重くてもこの際我慢するんだけど……」
だがそんな都合の良い物はないらしく、結局前回と同じく黒を基調にしたコートとその他装備品を一式購入することで落ち着いてしまった。
昔から服装選びは苦手なのだ。センスとかよくわからんし、マネキンが着ている物を購入した方が楽でいい。
そもそも防具なのだからデザインよりも性能を重視するべきである。その点で言えばアイズの装備は全くダメだ。悪いのは10:0で主神のせいなんだろうけど。
「お買い上げありがとうございまーす!」
店員さんの声を背に店を出る。
購入した物品を収めたバックパックを背負い、ベルと合流するべくバベルの中を歩き回ることにした。
◇
「おお、お前が噂の【
「褒めてるのか貶してるのか分かり辛いお言葉どうも。……ベル、こちらは?」
ベルを探すこと凡そ5分。八階に設けられた小さな休息所で赤髪の青年と喋っている姿を発見した。
「えっと……こちらの方はヴェルフ・クロッゾさんといいまして、僕が使っていた防具を作成した【ヘファイストス・ファミリア】の
「ヴェルフでいい。家名は嫌いなんだ。よろしくな!」
人のいい笑顔で右手を差し出してくる赤髪の青年、ヴェルフ。
一瞬だけ逡巡して、まあ別にいいかと目の前の右手を掴み取った。
「タチバナ・コウスケだ、よろしく。それでヴェルフさんはベルに何か用でも?」
がっしりと鍛えられた右手を握りながら訪ねると、ヴェルフは苦笑を浮かべて頬を掻いた。
彼のことは原作知識で知っている。ベルに何の用があるのかも当然。
だがあまり原作知識でマウントを取っていると痛い目を見るということが24階層の一件で身に沁みてわかった。これからは我が身を守るためにも適度に自重していこうと俺は誓ったのだ。誓ったのだ!(大事な事なので二回言った)
「おいおい、さん付けか? ……まぁ、今はいいか。単刀直入に言うと、このベル・クラネルが俺の防具を買いに来てくれたんでな。俺の作品の価値を認めてくれたこいつを離したくなかったってわけだ」
「ほほう」
ヴェルフが饒舌に語る。作る作品には自信があるが、なぜか購入される一歩手前で返却されると。
それはどう考えても武具の名称のせいだとは思うが、話を遮りたくないため飲み込んだ。
「貴重なんだぜ、冒険者の方から下っ端の作品を求めてくれるってのは。『認めてくれた』、俺達みたいな下っ端の
不敵な言葉とは裏腹に、ヴェルフは気持ちのいい笑顔を浮かべる。
些か正直すぎる気もするが、むしろ好感が持てた。裏でコソコソと企む輩よりずっとマシだ。
「じゃあ、僕にこれからも顧客でいてほしいっていうことですか?」
「間違いじゃないが……もうちょっと奥に踏み込ませてもらう」
ベルの問いに対し、ヴェルフはもう一度不敵な笑みを浮かべた。
「俺と直接契約しないか? ベル・クラネル」
冒険者と
持ちつ持たれつ。鍛冶師と冒険者の助け合いだ。
「ふぅん。つまりベルの専属
「別に【リトル・ルーキー】だけじゃない。お前さんとも契約できたらと思ってる。将来有望の冒険者と契約できれば箔が付くしな!」
まじまじとヴェルフの横顔を見つめる。
こんなことを言ってはいるがその全てが本心というわけではないだろう。表向きビジネスの関係であることを強調してはいるが、本当はベルが数ある防具の中から自分の作品を選んでくれたことが嬉しいのだ。可愛いやつめ。可愛くはないけど。
「いいね、俺は反対しない。後はベルが決めるといい」
「……わかりました。ヴェルフさんと、契約を結ばせてもらいます」
「よし、決まりだ! 断られたらどうしようかと思ったぞ!」
ヴェルフの大きな手が俺達の手を掴み激しく揺らしてくる。
先程から周囲の鍛冶師たちの視線を感じていた。それに対する牽制もあるだろう。
そしてその光景を目にした
「ああ一つ言い忘れてた。契約に際してお願いがあるんだが」
「おう、なんだ? 装備なら俺がタダで新調してやるぞ?」
「それは助かるよ。けど今お願いしたいのは装備じゃなくてさ……」
目線をベルに移す。
視線を向けられたベルはきょとんと首を傾げ、俺の意図に気付いたのか一拍置いてから「あっ……」と声を零した。
それにニヤリ、と笑みを返すと再びヴェルフに向き合い今度はこちらから手を差し出した。
「ヴェルフ・クロッゾ。俺達のパーティに入ってくれないか?」
◇◇◇◇◇◇
「うおっしゃー!」
「モンスターがなんぼのもんじゃーい!」
大刀がモンスターを引き潰し、黒刀が斬り刻む。
モンスター共の断末魔を押し返す様に二つの狂笑が轟くのはダンジョン11階層。今日も今日とて大暴れだ。
「ゲラゲラゲラゲラ! ランクアップの恩恵ってスゲー!」
「コウスケ様。こっちに来て正座してください」
「もう誰も俺を止められねぇ!」
「コウスケ様」
「あっ、はい」
冷たい声色を無視するのにも限界が訪れ、俺はリリの目の前でダンジョンの冷たい床に腰を下ろす。
なぜ彼女はこれほどまでに怒っているのだろうか。俺はただランクアップ後の感覚のズレを修正していただけだというのに。全くもって解せぬ。
「……新しいお仲間が増えたと聞いてみれば、はぁー、リリは悲しいです。とてもとても悲しいです。お買い物に行かれただけなのに、見事リリの
「厄介事? おいおい言いがかりは止し子ちゃんだぜ。ベルは新しい防具が手に入り、俺たちも新しい仲間が出来た。俺は最良の結果を持ってきたと思うのだが如何か」
「喧しいです! 『アビリティを獲得するまでの間だけ』なんてっ、リリ達は都合よく利用されているだけです!この誰とも知らない
「お、おう……」
思わぬ気迫に少し仰け反る。
全く言い返すこともできない。ヴェルフをパーティに誘ったのは俺だが、そこに条件を加えられたのは本当のことだ。
だがそれを加味したとしてもヴェルフ・クロッゾは欲しい人材であるということを理解して欲しい。こうなったら俺がプレゼンして納得させるしかないか。
「何だ、そんなに俺が邪魔か、チビスケ?」
今まで傍観に徹していたヴェルフが口を挟んだ。
リリはチビ呼ばわりされたことが気に食わないのか、栗色の瞳を一層尖らせる。
「チビではありません! リリにはリリルカ・アーデという名前があります!」
「そうか。じゃあよろしくな、リリスケ」
「……ベル様っ。もうベル様だけが頼りなんです! なんとかしてください!」
まるで小馬鹿にするように腰を折って笑うヴェルフに、リリはそっぽを向いてベルに泣きついた。
「……えーと、リリ。今更だけど紹介するよ? この人はヴェルフ・クロッゾさん。【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師なんだ」
本当に今更になってヴェルフの本名を伝えた。朝からリリの機嫌が急激に悪くなっていったため話をするどころではなかったというのもある。
だがベルとは違い博識なリリは、その名の意味を正しく理解していた。
「クロッゾ?」
ヴェルフの名前を耳にした瞬間、リリは弾かれるように振り返りこう呟いた。
「呪われた魔剣鍛冶師の家名? あの凋落した鍛冶貴族の?」
「え、あの……『クロッゾ』って?」
ばつが悪そうな顔を浮かべ、口の形をヘの字にしているヴェルフと、瞳を見開いているリリ。別々の表情を浮かべる二人を交互に見ながら、ベルは尋ねてきた。
「説明してしんぜよう。『クロッゾ』とは一昔前、とある王家に『魔剣』を献上することで貴族の地位を得た鍛冶一族の名前だ。彼等が世代を通して王族に贈った剣の数は数千、数万に及んだとも言われてるが、最も特出していたのはその性能。魔剣の第一人者と言って過言ではない彼らの鍛えた魔剣はオリジナルの『魔法』すら超えて『海を焼き払った』なんて謳われたと言われている」
「ですがある日を境に王家からの信を失ってしまい、今では完全に没落してしまって……」
俺の言葉に逡巡してから、リリが小声で後を続けた。
「……ま、今はそんなことどうでもいいだろ? ダンジョンにもぐってるんだから、することは一つだ。なっ?」
「あ……は、はい」
ベルの心情を察してか、ヴェルフは髪をグシャグシャとかきわけた後、ぱっぱっと手首を振るった。
「その通り。魔剣鍛冶師だろうが貴族だろうが関係ない。今ここにいるのはただのヴェルフで俺たちの新しい仲間だ。くだらないことでグチグチ悩む暇あったら周囲の警戒してな」
「そんなこと言われるまでもなくわかってますよっ」
不貞腐れ気味に頬を膨らませるリリの頭を撫でてから前を見据える。
会話は一時中断。正面の壁からビキリ、という音が届いた。
それが何の音か、俺たち冒険者は考えるまでもなくその不吉な裂音の正体を察した。
「ククク、ほぅらお出ましだぞ」
ダンジョンの壁が罅割れ、破れる。壁面を内側からこじ開け出てきたのは、脂ぎった茶色の太腕だった。
『プギッ……ォオオオオオオオオオ……!』
潰れた産声を上げながら、オークが完全にその姿を現す。
それをきっかけに四方八方の壁から一斉にモンスター達が突き破ってきた。同地帯上での瞬間的なモンスター大量発生。巷では『
無論、これは大変危険なものだ。特に今のようにルームの中心にいると一瞬でモンスター達に囲まれることになる。だがランクアップの恩恵か、それともパーティだからか分からないが、あまり脅威には感じない。
「よし、オークは俺に任せろ」
「お、いいのか?」
ヴェルフの申し出に眉を上げる。
オークの怪力は凄まじい。Lv.2の冒険者でも直撃を受ければ戦闘不能に陥る可能性がある。Lv.1のヴェルフだと死ぬ可能性も。
「むしろ大歓迎だろ? 動きはトロイし的はでかい。俺の腕でも楽勝に当てられる」
「ん、それもそうだな。じゃあ任せた」
【ヘファイストス・ファミリア】は鍛冶の派閥ではあるが戦力も高く、構成員の多くが戦える鍛冶師だ。そもそも『鍛冶』の発展アビリティを獲得するには最低でも一度器の昇華を果たさねばならない。そう考えるとメチャクチャ怖いな。何が彼らをそこまで突き動かすのか。
ま、考えたって仕方がない。それより俺達はオーク以外の有象無象のお客さん方を片付けることに集中しよう。なんだっけこのアルマジロみたいなモンスター……ああそうだ、『ハード・アーマード』だ。長い。お前達は今日からアルマジロ君と呼ぶ事にしよう。
今回初めてランクアップによる感覚のズレというものを体感したが、これが意外と厄介だ。自分の身体の動きとイメージに差異が生まれる。肉体がイメージより遅いのではなく、イメージが肉体より遅いといった感じだ。前衛で剣と魔法の両方を扱う魔法剣士にとってコンマ一秒でもズレが生じるというのはあまり喜ばしくない。
が、それも大分調整出来てきた。剣を一振りするごとに俺の中の動きのイメージを再構築し直す感覚だ。この調子なら今日中に修正できるだろう。
「……あれ?」
ふと気が付けば辺りが沈黙していた。俺の周囲にはモンスターの死骸と思われる大量の灰が積みあがっている。なんだこれ。アルマジロ君たちはどこに消えてしまったんだ。
「まさか新手のモンスターが……!」
「いや、一部始終見てたが全部お前が斬ってたぞ」
ヴェルフの言葉に俺は肩を竦め、やれやれと首を振る。
確かに調整するのに夢中で結構斬った気はするが、それでも二、三体……いや四、五体……? おかしいな、なんだかもっとたくさん斬った気がしてきたぞ。夢中になり過ぎるのも良くないな。反省しよう。
改めて周囲を見渡してみればベルやヴェルフも戦闘を終わらせて武器を仕舞っていた。おっかしいなぁ。さっき戦闘開始したばかりだと思ったのに。
「やっぱり頭一つ飛び抜けたやつらがいると戦闘は楽になるな。頼り切るのも駄目なんだが」
「俺としては全然頼ってくれてもいいんだけどな。けど負担を分散することでパーティ全体に余裕を持たせられるのはありがたい。連携やら信頼関係やらは冒険している内に勝手に出来るようになってるだろうしさ」
「急造のパーティにしては良かったんじゃないか? ……ま、このあたりはリリスケのおかげか」
今のステイタスだとこの階層のモンスターは正直相手にならない。まぁ、ミノタウロスやらこの間のワイヴァーンみたいなのが現れても困るんだが。
「リリはサポーターとしてかなり優秀だからな。ダンジョンに潜って来た経験もそうだが、なにより周りがよく見えてる。優秀過ぎて俺たちは頭が上がらないよ。日頃の感謝も込めて拝んどこっと」
このパーティがスムーズに回っているのは単にリリという縁の下の力持ちのおかげだ。俺やベルではここまで気配りはできない。今もせっせとモンスターの魔石を回収してくれている。いやぁ、優秀なサポーターがいるとほんっっっとラクだわぁ。
ふと周囲を見渡してみると、随分他の冒険者も増えてきたように見える。これだけ密集してくると余計ないざこざも起きかねない。
そうヴェルフと話していた時だった。視界の端に異変を感じ取ったのは。
「おいベル、その右手……」
ベルの右手に白い光の粒が明滅していた。
「……えっ?」
ベルが目を丸くして間抜けな声を落す。
手首から上に収束する、雪の結晶より更に小さい光の粒。それがリン、リン、と高くか細い鈴のような音色を奏でている。
なにがなんだか分からず困惑しているベルとヴェルフに俺は声をかけた。
「ベル、それは───」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
しかし、耳を弄するほどの凄まじい猛り声にかき消される。
俺たちは揃って顔を振り上げる。ルームにいた冒険者全員が驚愕の眼差しを同じ方向に差し向けた。
視線の先に見えるのは琥珀色の鱗。そして長い尻尾に鋭利な爪、無数の牙。
体長は四Mを超すであろう、小竜。
「へぇ、あれが『インファント・ドラゴン』か」
『インファント・ドラゴン』。
11、12階層に出現する
四足で地を這うあれは、数あるモンスターの中でも最強を謳われる竜種だ。とはいえ感じる圧からはこの間のワイバーンに比べて遥かに格下であることが伺える。
とはいえその能力値は個体によってはLv.2にカテゴライズされることもある。『階層主』が存在しない上層においてあの小竜こそが事実上の階層主だ。
今この瞬間だけは冒険者間の暗黙の了解も捨てて一丸となる。パーティの垣根を越え複数の魔法の詠唱が始まり、大剣や斧を持ったアマゾネスとドワーフ達が一斉に駆け出した。
「コウスケさん、僕たちも……!」
「あー………ベル、ちょっとこっちおいで」
「え、ええ!? なんですか!?」
突然の小竜の襲来に動揺しているベルを手招きする。
視線を俺と小竜の間でキョロキョロさせながら近づいてきたベルの右手を取り、視線の先にいるインファント・ドラゴンに向けて照準を合わせる。
んーと、このくらいの角度かな?
「ほいベル、魔法撃って」
「ええ!? い、いやっ僕の魔法じゃ……!」
「いいからほれ、はよ撃てって」
「あ、ああもう! 【ファイアボルト】!!」
言われた通り、あらん限りに叫ぶベル。
直後、全ての音が消えた。
「──────」
純白の閃光。
視界を白く埋め尽くす光輝が弾け、炎の雷が駆け抜けた。
かつてゴブリン程度しか倒せなかったあの炎雷が、今度は白光を纏ってインファント・ドラゴンに驀進する。
そして瞬く間に小竜を撃ち抜き、そのまま遠く離れたダンジョンの壁面ヘと着弾した。
「クッククク……」
琥珀色の鱗がボロボロと剥がれ落ちる。
炎に耐性のある筈の竜の皮膚は焼け落ち、その巨体の周囲には黒煙とともに炎の残滓が舞っている。
「ダハハハハハッ!! スゲェ威力だな! インファント・ドラゴンを瞬殺したぞベル! ワハハハハハッ!」
「は、ははは……」
静寂が支配するルームに、俺の爆笑とベルの乾いた声が響く。
動きを止めた冒険者達の視線が集まる中、俺は高揚する気分を押さえつけることなく解き放ち続けた。
魔石を回収できなかったのは残念だが、致し方なし。ワハハハハハ、やばい横腹攣った……。
◇
ベルの新スキルのお披露目が終わったところで今日の探索は切り上げることになった。
ホームに戻ってシャワーを浴び、ステイタスの更新を行うと今日の探索で起きたことを三人で話し合う。ヴェルフという新しいメンバーが加わったこと。ランクアップ後の感覚のずれが大分なおったこと。そして、ベルの発動した新スキル【
日課になっているステイタスの更新が終わるとあとは食事を摂って寝るだけになる。明日も朝からダンジョンに行かなければならない俺とベル、そしてアルバイトのあるヘスティアは早々に夢の世界へと意識を飛ばした。
そして深夜、目が覚めた。
寝袋に包まれた身体を微動だにさせないまま視線だけを動かして周囲の気配を探る。
ヘスティア。ベッドの上で熟睡中。
ベル。ソファーの上で同じく熟睡中。
「……よし」
全員寝ていることを確認した俺は極力音を立てないよう細心の注意を払いながら身を起こし、近くに置いていた『炉神の刀』を手にホームを飛び出した。
わずかな街頭だけが灯る夜のオラリオ。その中を少し駆け足気味に駆け抜ける。そうしてようやくたどり着いたのは昼間にも行ったばかりのダンジョンだった。
「さすがに
わざわざこんな時間にダンジョンに来たことには理由がある。先日獲得した新たなスキルを試すためだ。
以前ベルが魔法を習得した際、一人でダンジョンに潜ったことを咎めたがそれとは理由が異なる。ベルはただ早く魔法を使いたくて夜中にダンジョンに行ったが、俺はスキルを使う場面を第三者に見られないようにする目的でこの時間帯を選んだ。だから俺は悪くない。悪くないったら悪くない。はい、言い訳終了。
自分を納得させた俺はポケットに突っ込んでおいたステイタス用紙を取り出してもう一度その内容に目を通していく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【
・
・魔法発動時、任意による詠唱破棄権
消費
魔法効果減衰
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【
ヘスティアも言っていたがそんなスキルは前代未聞、神々が降臨してから千年という途方もない時間が流れたこの世界において誰も発言していないであろう
ま、とはいっても詠唱をせずに魔法を発動するというのが今一よくわからないんだけど。
「
考えていても始まらない。時間もそう多くはないのだから早速実験を始めてみよう。
「【不変の王。無窮の旅人】……」
詠唱を始めた途端、足元に白く輝く
「【我が声を聞け。我が手に降くだれ】───【スペルズ・マギナ】」
魔法名を唱えることで足元に浮かんでいた
「それじゃあとりあえず……」
目の前の何もない空間に向けて右手をかざす。行使するのは翼竜戦でもお世話になったリューさんの魔法だ。
「【ルミノス・ウィンド】────あれ?」
しかし魔法名を唱えてみても魔法は発動しなかった。
あれ、詠唱破棄できるんじゃなかったの?魔法どころか
もう一度ステイタス用紙に目を通すが、やはり内容に間違いはない。ヘスティアが読み間違えたという線も僅かにあるが、可能性としてはやはり低いだろう。
「となると何かが足りなかったのか?
魔法が発動しなかった原因について、真っ先に思い浮かんだのは魔法のイメージ不足といものだ。
通常の魔法であれば魔力が暴走しないよう制御しつつ詠唱を完成させれば魔法は発動する。だが今回はその詠唱を無くすわけだ。通常のプロセスと変わるのは仕方がないことだろう。
兎にも角にも可能性があるなら片っ端から試していくしかない。リューさんの攻撃魔法【ルミノス・ウィンド】は光を放つ球状の風を生み出す魔法だ。その見た目からわかる通り属性は光と風。詠唱文は【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】となっている。
以上のことを踏まえ、イメージしながら魔力を流動させもう一度右手を前方に突き出した。
「【ルミノス】──」
刹那、足元で緑光が爆ぜる。それが魔法円の光であると確信しつつ突然荒れ狂い始めた魔力を制御下に置きなおした。
「──【ウィンド】」
魔法名を唱え終えると目前にはあの日、白いワイバーンと戦った時に見た風球が五つ出現した。
魔法の発動を確認すると、俺は細く息を吐き発動させた魔法を霧散させる。別に周囲にモンスターがいるわけでもないし。
ともあれ、実験は成功だ。
「試した感覚だと確かに普通に使うより
ヘスティアが見ていたらきっと『反応薄くない!?もっと喜ぼうよ!』とか言ってきそうだが、こんなことで一々はしゃいでいられない。このスキルにもう少し慣れておかないとせっかく詠唱破棄できても咄嗟に使えないし、それに『魔導』による魔力の増幅とそれに伴う
その後もスキルについて検証を続けた結果、わかったことがいくつかある。
一つ、詠唱破棄に必要な条件は魔法発動の具体的なイメージと詠唱文を脳内に出力すること。
二つ、破棄する詠唱は必ずしも全文である必要はない。【ルミノス・ウィンド】を例にすると『【今は遠き森の空】(以後省略)【ルミノス・ウィンド】』ということも出来れば『(前略)【星屑の光を宿し敵を討て】【ルミノス・ウィンド】』というようなことも出来る。
これのメリットは魔導士最大の弱点である詠唱を囮にカウンターを狙うなど戦略が大幅に広がること。それと破棄する詠唱が少なくなる分消費する
大丈夫、俺はまだ強くなれる。
その確信と手応えを得られることができたのが一番の収穫だった。
手数が増え、戦いの選択肢が増えるとそれはそれで大変なのだがそれはあまりにも贅沢な悩みだ。この【
「結局やることはこれからも変わらないな。またリューさんに頼んでみるかねぇ、アレンさんたちには出来る限り見られたくないし……」
あまり考えたくないが女神フレイヤがベルを狙う以上いずれ敵対することになる可能性がある。いつまで伏せていられるか分からないが無暗に手札を晒さない方がいいだろう。
かなり今更ではあるし、やむを得ない事態になれば俺は迷わず手札を切る。だが一応気を付けるという意識を持つことは悪いことではない、はずだ。たぶん。
そう自分に言い聞かせて俺はダンジョンを後にした。
なんとアベンチュリン氏が我が駄作の三次小説を書いてくださったとのことです!ありがとうございます!
英雄の誕生まで駆け抜けて
https://syosetu.org/novel/413317/
ソード・オラトリア16巻とコミカライズ版を読んで創作意欲が湧いてきたため書きかけだったこちらを投稿しました。次がいつになるか自分でもわかりませんごめんなさい。