「……帰りました。Lv.9相当になったと思います」
「あぁ。アルキュオラを殺してな」
戻ると、レンはルシアを睨む。
ルシアはその視線を嘲笑する。
「なんですか?悪いですか?」
「お前、頭おかしいだろ。俺の仲間のヴィヴィアンの眷属を殺した。俺を敵に回したいのか?」
「強くなってこいと言ったのはレン様です。それに特にその方法を指定しませんでしたよね?ていうか黒竜を殺すことよりも大事なことなんですか?同盟の関係性って」
「……」
レンは黙った。
納得したわけではない。
こいつに何を言っても無駄だと諦めたのだ。
「もういい。次はLv.10相当……と言いたいところだが、もう強くなる方法がないな」
「私がいけない階層まで連れて行ってくれればもっと質のいい魔石で強くなりますよ」
「馬鹿言え。ダンジョンに行ってる間に黒竜が現れたらどうする」
「ですよね。だから、これが現状の最上で。標的はアルキュオラさんしかいませんでした」
「お前……」
全て見通した話術の展開。
結局ルシアを正当化するように持っていかれている。
レンはため息をつく。
「わかった。お前が正しい」
「そうですか。ところでこれからどうするんですか?」
「奴が現れるまで待つしかないな」
「おや。待ちですか。なら行きたいところがあるのでここを離れてもいいですか?」
「ダメだ。好き勝手されて仲間をまた減らされちゃ敵わん」
「安心してください。もう戦う意味の無い雑魚ばかりです。それに【ロキ・ファミリア】以外はアルキュオラさんがいなくても牽制できます。それと……戦闘ではなく、野暮用で出かけたいだけです」
「野暮用?」
私用で出かけるというルシア。
レンに尋ねられると彼女は頷いた。
どうやら嘘はついてない。
【神殺し】のスキルで神に擬態できるレンには嘘を見通す力も模倣している。
だから、わかる。
ならいいだろう。
「わかった。いけ」
「はい」
それだけ言ってルシアは出かけた。
そして、彼女が向かったのは。
「お久しぶりです。ルノアさん」
「ルシア……!」
【ガネーシャ・ファミリア】本拠。
現れたルシアにシャクティもルノアも、ガネーシャの眷属たちも驚愕する。
そして、身構える。
「やだなぁ。そんなに警戒しないでくださいよ」
「……お前たち、武器を下ろせ」
シャクティが指示を出すと皆は顔を見合わせ頷き合い、あっさりとおさめた。
【ガネーシャ・ファミリア】からの好感度は高い。
ルシアは既に秩序を示しているからだ。
だから、彼らはルシアが堕ちたことをまだ受け入れられていない。
「お前が【グウィネヴィア・ファミリア】に改宗して以降、我々との接触を避けてきた。なぜ今になって現れた?」
「……別に。死ぬかもしれないので、最後に会いたい人に会っておこうと思っただけですよ」
「なに?死ぬ……だと?」
「えっ。は?ルシア、どういう意味?それ」
ルノアも困惑する。
久々に会ったと思ったら衝撃発言だ。
ルシアが答える前に……様々な有力な冒険者が駆けつけ、彼女を囲む。
「ルシア・マリーン。探したよ。空中迷宮での戦いの後、行方不明になった君がまさかそちらから現れるとはね」
「すみません。今日は戦いに来たわけではなく。邪魔しないで貰えますか?」
【ロキ・ファミリア】、【アストレア・ファミリア】、そしてフレイヤとオッタル。
ルシアを取り囲む彼らにルシアはため息をつく。
だが、はいそうですかと下がる彼らでもない。
「……今日こそは、貴女を倒す」
「ルシア。貴女を連れ戻す」
「残念ながら、私はLv.9相当になったのでもうお二人共相手になりませんよ」
武器を構えたアイズとリューが瞠目する。
彼女達だけではない。
全員が驚愕した。
ルシアはまた強くなった。
せっかくアイズとザルドが追いついたのにまた突き放されてしまった。
だが、今日彼女たちを倒すつもりはない。
その猛威を振るう気はないから安心してほしい。
ルシアが向き合うのは……ルノア。
「ルノアさん。最後にデートしませんか?」
「はい?」
困惑するルノア。
だが、ルシアは真剣だ。
「私はこれからレン様と共に黒竜に挑みます。今の黒竜は神を食って最強となったモンスター。挑めばLv.11のレン様と私でも殺されるかもしれません。その前にルノアさんと一時を過ごしたいです」
『なっ……』
全員が言葉を失う。
自ら死に戦に立ち向かうと告げるルシアに、特に彼女を失いたいわけではない【アストレア・ファミリア】が反応する。
「ルシア。なぜお前が黒竜に挑む必要がある?」
「逆に都市最強の私が挑まなくて誰が挑むんですか?それに、レン様の力は必要です。ダンジョンを完全攻略るために……」
「ルシア……契約したのね、タレイアの眷属と」
アストレアも悲しい顔をする。
ロキから聞いたLv.12はタレイアの眷属。
それと手を組んだということは大体わかった。
ルシアにとって、本番は黒竜に挑んだ後。
だが、その報酬も黒竜との戦いで2人が生き残らなければ果たされない。
そんな完全にルシアに不利な条件で契りを結んでいる。
それほどまでにルシアは焦っていて、立場が弱いのだ。
彼女は疲れきって乱れた髪に隠れた表情の奥から、ルノアに視線を向ける。
「ルノアさん。私はルノアさんが好きです。なので私に勇気をください。黒竜に挑む勇気を」
「ルシア……っ!あんた……」
久々に顔を出したと思ったら最後に思い出をくれというルシア。
覚悟を決めるために。
いつかルシアが接触してくると思い、【ガネーシャ・ファミリア】はルノアを保護していた。
しかし、やはりルシアはルノアには危害を与えない。
どれだけ堕ちても、ルシアにとってルノアは英雄で、愛を向ける相手なのだ。
「ルノアさん。時間がありません。返事はお早めに。いつ黒竜が復活する―――か……っ!」
言いかけてルシアが止まる。
瞳を大きく見開き、顔を上げる。
彼女は突如辺りを慌てた様子で見渡した。
シャクティが訝しむ。
「どうした?ルシア」
「……っ。そんな……!ありえない。モンスターの気配……それもただのモンスターじゃない!近い!ありえない、こんなに近くに……どうやって接近したんですか!!」
「……?なんの話しをしている」
慌てるルシアにシャクティが困惑する。
だが、ルシアは全て無視して焦燥した様子を露わにする。
これは冗談ではない。
それは誰もがすぐに読み取れた。
ルシアは何かを探して視線を動かし続ける。
「千里眼!!」
見つけられず痺れを切らしたルシアが千里眼を発動させ、天を仰ぐ。
しかし、その目は都市全体をくまなく見ている。
それでも見つからない。
モンスターの気配がするのに。
この都市にその気配の元となるモンスターを発見できない。
「ルシア!!」
「……!!」
ルシアが必死に捜索していると、レンが空を飛んでやってきた。
着地する彼は鬼の形相。
「ルシア!アイツだ!黒竜が現れた!」
『……!?』
全員が瞠目する。
緊急事態だ。
だが、騒いでるのは2人だけで、辺りに黒竜の姿はない。
2人が混乱を生もうとしているようにしか見えない。
しかし。
「オーズの気配がする!俺の【神殺し】が検知してる!間違いない!」
「ですが、肉眼でも千里眼でも確認できません。空も……黒竜が現れれば汚染させるはず!」
ルシアが見上げる。
レンもハッとして気づいた。
確かに空は曇ってるが、汚染されてはいない。
これは前回黒竜が現れた時とまるで違う。
「千里眼でも私の肌感覚でもどこにいるのか特定できません!ですが、絶対にどこかに居ます!」
「わかってる!奴は近く……に―――」
レンが突如固まる。
そして、瞠目する。
その様子に誰もが気づいた。
だから、さっきまで騒がしたかった場が静かになる。
レンは……恐る恐る後ろに視線を向ける。
彼の背後を、ローブの男が悠長に歩き、通過する。
その男をギョロ目で追うレン。
ルシアも……胸の動悸で震え、その男を見つめた。
まさか。
「お前……神を食って、人型になったのか。―――黒竜!!」
「……」
レンが男の名を呼ぶと、男は立ち止まった。
そして、振り返る。
「……そうか。汝は、あの時の……Lv.12か」
「言葉を……!!」
「こいつオーズの知識を……!ふざけやがって!!」
レンが男に飛びかかる。
その手に持つ刀には
「【神殺し】最大解放!!」
「竜人形態モード斬撃竜!
【サラマンドレア・カリバー《ストライク》】!」
本気の攻撃を初手から放つ2人。
しかし、その斬撃波と突きは片手で防がれる。
『なっ……!?』
「……痛みを感じる。一方は我の神の部分に干渉している。もう一方は……モンスターか」
「なっ……あっ……」
ルシアは愕然とする。
今のはLv.9相当の本気だぞ!?
それが全く通用してない。
黒竜は充分驚いている。
手を火傷させられたのは久しぶりだからだ。
だから、自身の手を見つめている。
それもすぐに視線を外して顔を上げる。
「よい。迷宮へ挑む前にこの力を試すとしよう」
「舐めやがって……ここが本番だ!お前を殺す!!」
黒神竜、ジズ。
その男を前に、レンは殺意を込めて睨みつけ構える。
ルシアは……既に戦意を喪失し、呆然と衝撃を受けたまま固まっていた。