神速無敵の|幻想機竜《ファントムドラゴン》   作:晴月

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episode7 襲撃

 

応接室へと入ったライトは、目の前のソファーで眠っているルクスを見つける。

 

(過去の出来事を悪夢として見てたなそういえば···)

 

ルクスを見て、そう結論付けてライトは対面に座る。

 

(ハーレム系主人公は異性にモテやすくなる代償として難聴になるデメリットでもあるのかねぇ···)

 

天井を見上げ、ライトはこれから起こるであろう出来事を思い出す。

 

(ルクスが目覚めた後、本来ならクルルシファーと話をしている最中に襲撃してくる手筈だ···だが、“俺”という原作には居ないイレギュラーのことを考えれば、更に数が増えている、若しくは挟み撃ちの形で襲撃してくるって可能性も考えられるんだよなぁ···どうしたもんか···)

 

と、考えていた所で先程のクルルシファーの事を思い出す。

 

(いくら何でも邪険に扱いすぎたか···?)

 

少しだけ罪悪感を感じたライトは扉の鍵を開けると、また座った。

 

すると、直ぐに扉が開き、入ってきたのは

 

「あら?入ってもいいのかしら」

 

と言いながらクルルシファー本人であった。

 

「···まさか、待ってたのか?」

 

「えぇ、私もルクス君には聞きたいことがあったから。」

 

と、まるで締め出されたことを気にも留めていない様子のクルルシファー。

 

「そうか···だとしても、少し待たないと聞けないと思うぞ。」

 

「そうなの?···あら、そういうことね。」

 

ライトの言葉に疑問を感じたクルルシファーは部屋に入って直ぐにその意味を理解した。

 

「どうやら···俺の読みは当たっていたようでな、ルクスは此処で寝てしまったらしい。」

 

「そのようね···けど、」

 

「?」

 

何か言いたげな様子であったが、少し思案すると彼女はルクスの隣に座り、彼の頭を自身の太ももに乗せる。所謂膝枕をしていた。

 

「なんだ、あんたもルクスに気があるのか?」

 

「そういうわけではないのだけれど···、なんと言えばいいのか少し、言葉に困るのだけれど···そうね、私が彼にしてあげたいって思ったからかしら?」

 

「ふ〜ん···ルクスを見て母性本能が刺激でもされたんじゃないのか?」

 

「母性本能···そういうものかしら?」

 

「恐らくは、な···所で、クルルシファーさん」

 

「呼び捨てでいいわ、今の貴方なんだか言いづらそうだし」

 

「そう···なら、改めて···クルルシファー」

 

ライトは真剣な目をしてクルルシファーの目を見ながら話を切り出す。

 

「ルクスに聞きたいことがあるように、俺にも何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 

一瞬の沈黙が流れた後、クルルシファーは口を開く。

 

「あら?どうしてそう思うのかしら?」

 

「惚けるなよ。俺がルクスを探してこの部屋に辿り着いたとき、俺に話しかけてきたじゃないか。」

 

「えぇ、確かに貴方に話しかけたわ···でもそれは、貴方が何をしているのか気になったからよ。」

 

「成る程、まぁそういう理由もあったんだろうな···だけど今のあんたの“目”を見てれば分かる。」

 

「”目“···?」

 

ライトの言葉にクルルシファーは疑問を浮かべる。

 

「目は口ほどに物を言うって言葉があるんだが···今のあんたの目は、俺のことが気になって仕方ないって言ってるように見えるんだよ。」

 

「······」

 

「まぁ···これに関してはただの俺の勘だからな、気に触ったなら謝罪する。」

 

ライトが真剣な目をし、両手を眼前で組みそんな事を口にした後、

 

「クスッ」

 

「ん?」

 

クルルシファーは失笑した。

 

「俺、何か変なこと····言ったな。」

 

「ええ···貴方の今の発言もだし、今まで見た中で一番真剣な目をしてたから···つい笑ってしまったわ。」

 

と、掴みどころのない何時もの調子に戻ったクルルシファー。

 

「そう、か···まぁ、別にいいか。それよりも、だ···」

 

「?」

 

「あるんだろ?聞きたいこと···何でもは無理でも聞かれたことには極力話すさ、」

 

と、組んでいた手を開いて楽な姿勢でもう一度クルルシファーを見つめるライト。

 

「ええそうね、貴方の言う通り。私は、貴方に聞きたいことがある···答えられないことなら答えてもらわなくても結構なのだけど」

 

「いいよ、話すさ。答えられる限りで、だけどな」

 

「あらそう?なら、何を聞こうかしら···?」

 

と、まるで獲物を品定めするかのような視線を感じながらもライトは気を引き締める。

 

「ならそうね、貴方は何故整備士になろうとしたのかしら?」

 

「えっ···!?」

 

「あら、どうしたのかしら?まさか、答えられないなんてことないでしょう?」

 

「いや答える。答えるが、本当に”そんなこと“でいいのか?」

 

「“そんなこと”···ね、貴方にとってはそうでしょうけど、私にとっては気になることの一つよ。」

 

ライトの何でもないような言い方にクルルシファーは少しだけ悲しげな顔を見せたが、直ぐに何時もの物憂げな表情に戻った。

 

ライトは少し疑問に感じたが、特に期にする様子もなく自身の過去を話し始めた。

 

「今から数年前の話だ、俺は記憶喪失の状態でこの街に流れ着いた。」

 

「記憶喪失···?何も憶えてないの?」

 

「···憶えてたのは、自分の名前とか···まぁ、それくらいだったな。」

 

(あの時、何故か“子供”の姿でこの街に居たんだよな···まぁ、原作との差異が無くて助かった部分もあるが···それにホントは記憶喪失ではないんだが···此処で俺が別の世界から来たなんて話しても信じられないだろうし、そういう事にしておいたんだったな)

 

「話を戻すぞ、何の目的もなく散策していた時に俺に声を掛けて来た人が居た···それがここの理事長であり、アイングラム財閥のご令嬢 レリィ・アイングラムだ。」

 

「ということは···貴方、養子なのかしら?」

 

「あぁそうさ、俺と姉さんとの間に血の繋がりはない···だが、俺は本当の姉のように思ってる。」

 

「そう。」

 

ライトの真剣な眼差しにクルルシファーはそれ以上何も聞かなかった。

 

「そんなある時、俺はトーナメントで神装機竜を知った。」

 

話している内に、ライトは過去の記憶を思い出していた。

 

――――――――

 

その時まだ子供だったライトは、義姉であるレリィに連れられてトーナメントへと来ており、試合の開始を今か今かと待っていた。

 

そして始まった試合では”紅い“機竜を纏い、対戦相手を翻弄する女性の姿。

 

『ふわぁ······!』

 

その時のライトは、“紅い”機竜を見てただ一言

 

『綺麗だ······!』

 

そんな感想を抱いていた。

 

その時の姿は、まるで一種の芸術作品のような美しさをライトに感じさせており、まだ幼かった彼を魅了してやまなかった。

 

――――――――――

 

「それから、俺は姉さんに頼んで整備士としての修行をさせてくれる整備工場を紹介してもらい、それから数年間其処で修行を積んだ。」

 

「ちょっと待ってもらえるかしら···?」

 

「ん?」

 

見るとクルルシファーは、不思議そうな顔をして首を傾げていた。

 

「それから、とあなたは言っていたけれども···まさか”子供の頃“からずっと整備士として修行していたの···?」

 

「?···あぁ、そうだが···?」

 

「!」

 

ライトの言葉にクルルシファーは驚きを隠せなかった。

 

まさかとは思っていたが、そんな頃から整備士として修行をしていたのだ。あの対決の時、彼の手際の良さ、そして技術の高さの理由を理解したクルルシファーは少なからず納得してしまった。

 

(幼少期から整備士として腕を磨いていたのならリーシャ姫よりも整備士としての技術が高い理由も頷ける。)

 

「成る程、ね···」

 

「?···これが、俺のルーツなんだが···納得してもらえたか?」

 

「ええ、あなたの事がまた一つわかったわ。ありがとう。」

 

開いていた窓から入ってくる風を受け、髪をかきあげたクルルシファーが浮かべた笑みにライトは、自身の胸が高鳴るのを感じた。

 

「!···お、おう···まぁ、満足してくれたんなら···それでいいが···」

 

「それで、次の質問なのだけれど···」

 

「おいおい、まだあるのかよ··· 」

 

クルルシファーの言葉にげんなりした様子のライトは、仕方ないと思いながら次の質問に対して無意識に構えをとる。

 

「あなた記憶喪失と言っていたけれど、”何処まで憶えているの“?」

 

「···!」(そう来たか···)

 

クルルシファーの質問はライトに冷や汗をかかせるほど彼に緊張を走らせた。

 

それは、ライト自身が“記憶喪失では無いのではないか?”といった意図がある質問であったからだ。

 

「······」

 

「あら?どうしたのかしら?···まさかとは思うけど、”答えられない“···なんてことはないでしょう?」

 

「···」(···やけに含みのある言い方をするじゃないか、さてどう答えたものか···)

 

少しの間だけ思案したライトは、口を開いた。

 

「そうだな、憶えているのは自分の名前とかの個人情報。後はさっぱりだな。」

 

嘘である。だがしかし、此処で真実を話した所で信じてもらえる訳が無い。そう考えたライトは、そう答えるしか無かった。

 

「へぇ、そうなのね」

 

と、納得した様子のクルルシファー。

 

(この女、原作でも掴みどころが無さ過ぎて裏があるようにしか思えないんだよな···まぁ、今の質問にはそういった思惑がないことを願うばかりだが····)

 

そんな彼女の様子にライトはそう考えをまとめるのだった。

 

「俺のことは兎も角として、何故ルクスにまで興味を示すんだ···?何も珍しい“男子生徒”だからとかそういったありきたりな理由じゃないんだろ?」

 

とライトがクルルシファーに質問する。

 

「ええそうね、理由については···その何故なのか分からないのだけれど···」

 

と、困ったような態度を示すクルルシファー。するとライトが一言、

 

「まぁ理由は不明だが気にはなってる訳か···そうだな、第六感とかの直感的な”何か“···言うなれば···そう、“勘”かな?」

 

「“勘”?」

 

「ああ、”直感的“だとかそういった表現がされているあの“勘“だ···まぁ、あくまでも俺がそう思っただけでそうとは限らないがな。」

 

と、答えるとクルルシファーは

 

「フフ」

 

とまた笑みを浮かべた。

 

「おや、お気に召したかな?」

 

「さあ?どうかしらね?」

 

とこれまた試すような態度を見せるクルルシファー。

 

これはお手上げかなと感じたライトは頭と同じ位置に挙げて降参の意思を見せた。

 

「まぁ、それよりも···そろそろルクスの奴目覚めるんじゃねぇの?」

 

「あら、そうみたいね。」

 

と、話をすり替えたがどうやら本当に目覚める一歩前だったようでその後直ぐにルクスは目覚めた。

 

目覚めたルクスが立ち上がろうとした時、

 

「―――うわあっ!?」

 

自分に膝枕をしていたクルルシファーに気付いて思わず叫んでしまう。

 

「まだ早朝よ、ここが女子寮ではないとはいえあまり大声を出すのはどうかと思うわ」

 

と、髪をかき上げながらクルルシファーは告げる。

 

「そうだぞ、それに人の顔を見て悲鳴を上げるのも駄目だ相手に失礼だろ。」

 

「それもそうだね···ってライト!?ってクルルシファーさん!?なんで此処に!?」

 

ルクスの言葉に対してクルルシファーは、

 

「聞きたい?」

 

何処か含みのある妖しげな笑みを返す。

 

彼女のスカートから覗く長い足が目に入り、ルクスはドキッとしてしまう。

 

「気にしないで、別にあなたが妄想しているようないやらしい目的ではないから」

 

「まだ何も言ってないでしょ!?」

 

「え···!?まさか、俺に···?ごめん。俺、ソッチの気はないから···気持ちだけ受け取っておくね···」

 

「ライトには何も言ってないでしょ!?というか僕の事を同性愛者みたいに扱うのはやめてよ!?」

 

「まぁ、それよりもだ…ルクス、此処はお前専用の個室では無い。それは分かってるか?」

 

「え、あ、うん。」

 

話をすり替えられたことに物申したかったが、今しがたライトの口から出た言葉が正論じみていた為に毒気が抜けたのかルクスはそう返すしか無かった。

 

「彼の言う通りだわ。私も時々寮を抜け出して過ごしているの、そしてたまたま今日来たのがこの応接室だった…そしたらあなたが此処で寝ていた、それが私が此処に来た理由。ただ、それだけの話よ」

 

と、クルルシファーが溢した言葉にライトは、

 

(嘘付きだな···ホントは気になってるだろうに…)

 

と、思ったが口には出さなかった。

 

「嘘だと思う?」

 

 (嘘だと思う。)

 

そう思ったが口には出さないライト。

 

「ううん。僕もたまに…そうしたくなるから、ひとりになって星空を見上げたり、雑用の仕事をしてる時もそうだから…」

 

「ロマンチストね…と言いたいところだけど……不用心だわ、私が帝国に恨みを持つ暗殺者だったら疾うの昔に殺されているわよ」

 

(…最近は油断しすぎと忠告してる訳か…まぁ以前のルクスならそこら辺はしっかりしていた訳だしな…)

 

クルルシファーの言葉に込められた想いにライトは理解を示す。

 

「そういえば、クルルシファーさんも神装機竜を使えるんだよね?」

 

(話題をすり替えたな…)

 

「持っているだけなら宝の持ち腐れよ、どうせ私は此処では戦えないしその気もないから」

 

そう発したクルルシファーは自身の腰に差した機攻殻剣に視線を落とす。

 

「その気がないって、どういう事?」

 

「私は戦うことを望んでいないということよ。昔は自分が大切な誰かのために努力して、戦って――。そうして私は神装機竜《ファフニール》を手に入れたわ。でもある時、私は全ての理由を失ってしまったのよ」

 

「それって……」

 

どういう事?そう聞こうとしたルクスだったが、思わず口籠る。

 

大切なものを失ったことの辛さ、それは興味本位で聞いていいことじゃないと思ったからだ。

 

「ただ一つ、私の中に残っている真実。それを知る鍵の一つが『黒き英雄』なの…だから私は、それを追っている。」

 

「………」

 

「ねえ、あなたに聞きたいことがあるの」

 

それを聞いた瞬間、ドクン、と胸が高鳴りルクスの息が止まる。

 

(今ルクスはあの革命の日を思い出してる筈、この後直ぐに襲撃してくるであろう旧帝国軍を相手に大立ち回りしてくれるとは思うが…まぁいい今は二人の話を聞くか。)

 

と、今は静観することにしたライト。しかし、襲撃してくることは事前に知っている為すぐに動けるように少しだけ扉の近くの座席へと移動した。

 

すると、

 

ゴォオオン、と大きな鐘の音が響いてきた。

 

場所は一番街区の時計台からであろう。

 

「この音は……!?」

 

時刻を告げる音色ではない、激しく打ち鳴らすような音。それは、敵の襲来を告げる警報であった。

 

ルクスの戸惑った様子を一瞥し、ライトはいち早く扉を開けた。

 

「先に行く!」

 

そう言って直ぐに走っていくライト。それに続いてクルルシファーが追いかけるようにして部屋を出る。そして彼女を追い掛けルクスも廊下へと出ていく。

 

そして、相部屋で眠っているであろうフィルフィの下へと向かうのだった。

 

―――――――――――――

 

朝焼けの城塞都市に、警戒を伝える鐘の音と機竜の咆哮が響いている。機竜使い数機が街中を飛んでいるがそれは幻神獣の襲撃を伝えるためである。

 

その頃、学園では教官と都市の上層部を集めた緊急会議が直ぐに開かれていた。

 

その間、ライトとルクスを含めた士官候補生たちは装衣の着用と待機の指令を受けて機竜格納庫に集まっていた。

 

城塞都市クロスフィード、第四機竜格納庫にて

 

学園の敷地内にあるこの建物はそれ自体が広く、分厚い石壁のシェルターであり同時に転送前の装甲機竜の保管所である。

 

有事の際はここが待機所となり、避難場所にもなるという場所である。

 

「では、全員が揃ったところで、士官候補生の諸君に通達する」

 

警鐘の理由は幻神獣の出現によるもの。

 

斥候の機竜使いの報告では種類は大型の一体のみ。

 

出現場所は南西の遺跡、出現時刻は深夜のうちと推定される。

 

城塞都市から遺跡の間には三つの砦が存在しているが、遺跡周辺の警備網と第一の砦は既に突破され事態は急を要するとの話だ。

 

「現在は第二、第三の砦に常駐している警備部隊の機竜使い数名が討伐に向かっている。だが、敵は大型だ。突破され城塞都市にまで被害が及ぶ可能性に備え、我々も遊撃部隊を編成し戦闘に備える。各自、指令があるまで準備を整え待機せよ」

 

いつになく真剣な声音でライグリィ教官がそう告げて話は終わりを告げた。

 

既に王都にも救援要請をしているとの説明もあった。

 

何人かの女生徒はそれを聞いて安堵の息をついていたが、

 

「随分と平和ボケしているわね、この学園のお嬢様たちは」

 

「全くだ、危機管理能力が欠如してるとしか思えない反応だな」

 

「え……?」

 

格納庫の壁際に佇んでいたクルルシファーとライトの呟きに、ルクスは思わず聞き返した。

 

「王都からの応援なんて、そう簡単に期待できるものではないはずよ」

 

「ただでさえ、人手が足りないんだよ。…もしかしたら来ない可能性だってあり得るからな…お前も元王子なんだからこの国の軍事情勢についてやらその辺の事情なんて知ってると思ったんだがな…」

 

ライトからそう言われ、ルクスは何も言えなくなってしまう。

 

そして、シャリス、ティルファー、ノクトが此方へと歩いてくるとそのままゆっくりと、外へ出る扉の方へ歩いていく。

 

「何処へ行くつもりですか?

 

「我々は『騎士団』だからね。有事の際には率先して出張らないといけないのさ。ここに所属すれば確かに厚遇が受けられるが、何も楽しい話ばかりじゃない。」

 

軍の機竜使いがほとんど出払ってしまった今、幻神獣に対抗できる戦力は少ない。

 

シャリスはくすりと笑顔を返し、そのまま三和音の三人は出ていった。

 

恐らく、演習場で機竜を纏いそのまま幻神獣討伐へと向かうのだろう。そう思ったルクスの肩に手を置いた人物が一人。

 

「おいルクス、それじゃ行ってくるぞ」

 

それは装衣を身に纏ったリーシャだった。

 

大型の幻神獣の襲来、その緊迫した状況にも関わらずリーシャの表情には余裕があった。

 

「気をつけてください」

 

「平気だぞ、わたしは強いからな…しかし、お前が同行出来なくて残念だよわたしが攻撃の仕方というものをこの機会に教えてやろうと思ったのに」

 

昨日落ち込んだことなど無かったようにリーシャは笑顔をルクスに見せた。

 

この分なら大丈夫だろう。そう思ったルクスは安堵してリーシャを見送った。

 

 

ふと、ルクスが周りを確認すると『騎士団』のメンバーのほとんどが消えていた。

 

神装機竜を扱えるフィルフィだけは、城塞都市の防衛の為に残るようだが、他のほぼ全員は幻神獣の討伐の為に出撃したようだ。ライトを除いて。

 

「ライトは行かないの?」

 

 

「あぁ、俺?もう少ししたら出るよ。」

 

と、軽くそう言った。

 

「そういえば、クルルシファーさんは『騎士団』なのに、討伐に行かないの?」

 

ルクスは彼女に歩み寄ってそう尋ねる。

 

「私のような外国からの留学生には、校則で独自の戦闘基準が定められているのよ」

 

と、表情を変えずに淡々と語る。

 

「幻神獣との直接戦闘に私が関わる義務は無いわ。協力するのは、命の危険が及ばない情報伝達や物資補給、その他の支援くらいよ。自分から望めば手伝えるけど、私の国からは文句を言われるし、そうするつもりもないわ。」

 

彼女、クルルシファーは北の大国 ユミルからの留学生だ。

 

機竜の技術と知識を学ぶ事が目的だとすれば、他国の危機に率先して戦い、命と機竜を失うなどもってのほかということだろう。

 

つまりその分リーシャ達『騎士団』が危険に晒されるということだろう。

 

「………」

 

その事実に気付き、ルクスが言葉を失っていると

 

「いや、別に気にする必要なんてないだろ」

 

「え……?」

 

声を掛けてきたのはライトだった。

 

「例え今は戦えなくても今は自分に出来ることを精一杯やればいいんだからさ、なんなら後から追い掛けて一緒に戦ってくれたって言いわけだし」

 

なんてことをライトは笑いながら口にする。

 

「兄さん、行っちゃダメですよ。」

 

その時、ルクスの妹 アイリがルクスの目の前に現れた。

 

「あの《ワイバーン》では攻撃はできませんし、もう一方の剣も使えない。今の兄さんに出来る事なんてないんです。リーシャ様と『騎士団』がいれば、大型の幻神獣が相手でも倒せるでしょう。ですからー」

 

 

そう続けようとした瞬間、

 

「いくら何でもその言い方は無いだろ」

 

と、言葉を発した人物が一人いた。

 

それはライトであった。どうやらアイリの言い分にムカついたのか少し怒ったような表情を見せていた。

 

「聞かれていましたか、ですが貴方も理解しているでしょう?兄が所持している機攻殻剣では幻神獣には太刀打ち出来ない。」

 

「”もう一方の剣“はどうだ?」

 

「!?」

 

「そっち使えば可能性はあるだろ?」

 

「で、ですが…」

 

「あ〜成る程、使えない(・・・・)んじゃなくて使ってはならない(・・・・・・・・)剣か」

 

「!?」

 

ライトの的を得た発言にアイリは戸惑いの表情を見せた。

 

「というか、最初二人の会話を見たときから思ってたんだけどさ、幾ら何でもルクスに厳しすぎやしない?お前らたった二人の兄妹なんだろ、少しは仲良くしたら?」

 

「ラ、ライト。これは僕らの問題だから…」

 

なんとかライトを宥めようとしたルクスだったが、

 

「貴方には関係ない話じゃないですか、それにこれは私達兄妹の問題です。迂闊に口を挟まないで貰いたいんです。」

 

「あぁそうかい、わかった…だけどな、“何も出来ない事は何もしない言い訳にはならない”しそれに、今のルクスは悩んでる。自分が何をすべきかということにな…」

 

「!ですから、何もしないほうがいいと…」

 

「そんな訳あるか。」

 

「!?」

 

「なぁルクス、お前はどうしたい?」

 

「僕は…」

 

「”為すべきことを為せ“それはもうお前の心が決めている筈だ。」

 

「僕の、心…?」

 

「あぁ、お前自身の“心に従え”、それが、今お前が一番やらなきゃ行けないことのはずだ。」

 

「ちょっと貴方、さっきから兄に対して焚き付けるような事…」

 

「んじゃ、俺はもう行く。ルクス、どうするかはお前が決めろ。お前の選んだ“選択”が人を生かしも殺しもする。それをよく考えてから決めろ。」

 

そう言ってライトは、演習場へと走り、辿り着いた瞬間に自身の機竜 《メリュジーヌ》を纏い、リーシャ達を追い掛ける。

 

「あ〜もう!なんなんですか、あの人は!!」

 

ライトが飛び立った後、アイリは見れば分かるほどお冠状態となっていた。

 

「ふふっ…彼、言いたいことだけ言ってそのまま行ってしまったわね」

 

と、不敵な笑みを浮かべてクルルシファーはルクスを見る。

 

「ライトがあんな風に怒るなんて…」

 

「それだけ、あなたに期待してるんじゃないかしら?」

 

「僕に、期待…?」

 

「ええ、あなたの代わりにあなたの妹さんに怒った。それは裏を返せば、期待しているあなたを貶めるような発言をした彼女に怒りを抱くのも納得がいくわ。」

 

「そう、なんだ…」

 

クルルシファーがルクスにそう告げるとルクスはまだ迷っているような素振りを見せる。

 

「…私は、今から離れた位置から様子だけ見てくる予定だけど何か、気になることでも?」

 

「いえ…」

 

「それじゃ、あぁそれと一つだけ」

 

「?」

 

「先程の彼の言った言葉、信じるに値する言葉だと思うわ」

 

と、それだけ言うと彼女は偵察の為外へと出ていくのだった。

 

―――――――――――

 

城塞都市から離れた、3キロほど離れただだっ広い荒野にて。

 

かつては草原の絨毯が敷かれ、いくつかの村と集落があったが、十余年前に出現した遺跡と幻神獣の影響によりその全ては滅び、打ち捨てられた残骸だけがある。

 

遺跡から最も近い第一の砦と、次にある第二の砦は既に突破されていた。

 

交戦可能な王国軍の警備部隊は、周囲の兵を集め部隊を再編成している最中だという。

 

つまり、城塞都市に向かう幻神獣を止めるのは『騎士団』の活躍に掛かっていた。

 

「こいつが…例の幻神獣か?」

 

目標から200メートルほど離れた大地と上空から、『騎士団』のメンバー十数名は幻神獣を確認する。

 

足はなくゼリーの様な台形の巨体から尖塔の如き2本の腕が左右に伸び、眼球らしき紫の球体が2つ天辺近くの体内に浮いている。

 

ただ、それだけの生物。

 

知性を持たないと言われているスライム型。

 

しかし、その幻神獣は大型という情報通り城一つを呑み込まんばかりの途方もない巨体を誇っていた。

 

半透明の身体の奥には、うっすらと赤黒い球体――所謂核と呼ばれるものが見えていたが、それに攻撃を当てるためには分厚い粘液の層を突破しなくてはならない。

 

そして、恐るべき事にその城の様な巨体は動いていた。

 

例えるならば子供が走る程度の速度に見えたが、その巨大さを考えれば速すぎる程だ。

 

果たして、どうやって攻略すべきか――。

 

皆がそう思案した時、

 

「よし、ぶっ放すぞ」

 

ふっと口元に笑みを浮かべ、部隊長を任されたリーシャが機竜息砲を構える。

 

幻創機核からのエネルギーを、キャノンへ充填。

 

《キメラティック・ワイバーン》の主砲が、幻神獣の核へ照準を合わせた。

 

「いきなり撃つ気ですか!?」

 

背後にいた『騎士団』のひとりが怯えたようにそう叫ぶ。

 

「やってみなくちゃ始まらないだろ、行くぞ!」

 

リーシャは物怖じもせず、キャノンのトリガーを引く。

 

ドン!と放たれた巨大な光柱が、スライムの土手っ腹に命中する。

 

『ゴボッ……グバァッ!』

 

直後、衝撃が幻神獣の体表を波打たせる。

 

そして、ドバッとその粘液が飛び散った。

 

「ッ……!?」

 

十分な距離を取っていた為、粘液は『騎士団』には届かない。

 

だが地面に散った粘液が草に降りかかると、あっという間に溶けてしまった。

 

それを見たシャリスは、竜声を使って『騎士団』全体に声をかける。

 

『奴の身体に触れるとああなってしまうようだね。機竜の障壁も、あまりアテにしない方が良さそうだ』

 

『YES.接近戦は避けた方が身のためです。全員、射撃武装の用意をするべきかと思います。リーズシャルテ様』

 

ノクトが同意し、指示を仰ぐ。

 

だが、リーシャの返事より先に、

 

「ちょっと!?そんなことより、見てよアレ!?」

 

ティルファーが慌てた声を出し、手にしたブレードで一点を指す。

 

そこには――

 

『ゴポッ、ゴポポポポポ……』

 

リーシャの砲撃など意に介さず、幻神獣は前進を続けていた。

 

いや、攻撃に反応し、更に移動速度が増している。

 

目の前にあった第三の砦を乗り越え、最後の防衛地点―――城塞都市二番街区の城壁へと確実に迫っていた。

 

「砲撃が、効いていない……?」

 

《キメラティック・ワイバーン》は、汎用機竜が持てる機竜息砲の中では、一番威力が高いものを使用している。

 

しかし、砲撃は体表の一部を弾いただけで、核には全く届いていない。

 

その身体に穿たれた穴も周囲の体液に埋められ、十秒と経たずに再生する。

 

「ちぃ……どうやらあのデカブツの身体は、めんどくさそうな粘液でできてるな。衝撃や熱を周囲の体液全体に伝えて、威力を散らしているようだ」

 

リーシャは静かに舌打ちするも、平静を保っている。

 

「で、作戦はどうする?部隊長殿」

 

隣に滞空するシャリスの問いにリーシャは鼻を鳴らすと、

 

「決まっている。核を目掛けて主砲での一斉射撃だ、全員二百mlの距離を取ってエネルギーを最大充填しろ。離れすぎると威力が落ちる、秒読みはわたしがやる。いいな?」

 

竜声を使って地上の『騎士団』達にも声を掛けるとリーシャは自らのキャノンにもエネルギーを充填させる。

 

(これで確実に倒せる…!わたしたちの勝ちだ…!)

 

リーシャは自分たちの勝利を確信する。

 

十数機の機竜使いから放たれる集中砲火

 

先の砲撃による体液の散り具合を確認した限り、この威力なら貫けるはず。

 

「秒読みを始める、ゼロで斉射だ。5.4.3……」

 

リーシャの指示に従い、全機が最大充填したキャノンを構える。

 

「2.1…発射――!」

 

――――――ィイイィィイイイイ!

 

その時何処かから、奇妙な笛の音が辺りに響いた。

 

(何だ…!?この音は!?幻神獣の後方から――)

 

リーズシャルテが頭の片隅でそう思った時、一斉射撃の衝撃が大気を震わせる。

 

「何っ………!?」

 

照準を合わせていた、幻神獣の体内の赤黒い核。

 

それが破滅を孕んだ泡の様に、急激に膨れ上がる。

 

「ゴァァァアアァアアアアアア!」

 

直後砲撃が当たるよりも先に、幻神獣が自ら弾け飛んだ。

 

核の爆発は騎士団達の予想を遥かに上回る高熱と衝撃が、視界ごと塗り潰して押し寄せる。

 

『障壁展開だ!機竜咆哮も使え!』

 

リーシャの叫びが、轟音に掻き消されて吹き飛んだ。

 

――――――――――――

 

「今の轟音は、まさか…!?」

 

メリュジーヌを加速させて現場へと向かう途中、突如響いた轟音に全てを察したライト。

 

 (‘奴ら’の策にまんまと嵌った訳か…急がないとな)

 

そう察して更に加速する。

 

原作の内容を知っているライト。

 

勿論この後の展開もどうなるかを理解している。しかし、懸念点が一つだけあった。

 

(前回の学園襲撃の一件と同様、今回もイレギュラーが発生する危険もある。だからこそ、急がないと…!)

 

そう、前回幻神獣が学園へと襲撃してきた際、原作ではたった一匹だけだったのが数百匹も襲撃に参加していた。

 

今回も同様のケースでのイレギュラーが発生する可能性も考えていた。

 

「急がないと……!」

 

メリュジーヌを駆り、現場へと急行するライト。

 

果たして間に合うのだろうか…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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