ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ   作:みはいるすーす

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 「結果発表を行う。」

 

 楽園のような豪華客船から降ろされて一週間、全クラスの生徒が真嶋の前に集まった。Cクラスだけは石崎、龍園だけだったが。

 

 

 「すんません、龍園さん。二度も...」

 

 

 「...チッ、まぁいい。」

 

 

 結局龍園は、葛城に口を出した者を特定できなかった。二度の妨害によって、石崎はろくに行動を起こせなかったのである。

 しかし、それはそうとして特別試験自体には自信があるらしい。石崎の謝罪を軽く流し、真嶋をみる。

 

 そうして真嶋は口を開くのだった。

 

 

 「まずは最下位...0ポイント、Cクラス。」

 

 

 「は?」

 

 

 ここで龍園、あまりの期待はずれに顔を硬直させる。とてつもないアホ面にDクラスの例の赤ゴリラが爆笑しながら煽り立てるも、それすら心に入らない。

 しかし、龍園を残して発表は続く。

 

 

 「そして3位、Aクラス。」

 

 

 「え。」

 

 

 今度は、全クラスに一瞬でどよめきが走った。葛城は目を見開き、他クラスの皆も驚いた表情を浮かべる。坂柳派は裏工作など素知らぬ顔で野次を飛ばす。

 

 

 「葛城ー!どう言うことだ!」

 

 

 「俺はお前を信用して任せたんだぞ!」(嘘)

 

 

 葛城は状況を飲み込めたのだろう。固く唇を結んだきり、下を向いた。

 

 

 「そして2位、Bクラス。そして1位はDクラス。以上だ。」

 

 

 真嶋が言い終わった瞬間、Dクラスで歓声が爆発した。その声は他クラスの連中の鼓膜を大きく揺らしたわけだが、みなそれを気に留めずに呆然としている。まさかあのDクラスが1位とは...

 

 

 (なるほど、こりゃあすげえな。)

 

 

 しかし、様子が違う者もいた。Aクラスの連中である。

 

 

 (暁子ちゃんが最も危険と言っていたDクラスが1位。この最も危険という推察、予言なのか、推理なのか...)

 

 

 橋本は薄く笑ったまま、うなじを伝う冷や汗を感じ取った。ちなみにこの推察は予言でも推理でもなく、暁子の勘違いによる結果である。

 

 

 (いや、俺たちには解らねえ思考回路から導き出した答えだろう。)

 

 

 部分的に正解である。確かに暁子の思考回路を理解できる人間は多分この学校にいない。

 

 

 (恐ろしいな。)

 

 

 「以上で終了する。」

 

 

 ざわめきが静まらぬ中、真嶋が終わりを告げる。

 

 しかし、一人が大きく手を上げた。

 

 

 

 「Aクラスを訴える。」

 

 

 待ったをかけたのは、龍園だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「...説明を願う。」

 

 

 ざわつく生徒を一瞬で鎮めた龍園。真嶋の言葉に返すように、黒い物体を見せつけるように掲げる。

 紛れもない、無線機だ。

 

 

 「こいつをAクラスは破壊したはずだ。この試験の前日に説明されてたよな。“他クラスの器物破損”は失格だって。」

 

 

 龍園が笑った。薄汚れた格好に似合わない、不敵な顔だ。そこにすかさず石崎が援護にはいる。

 

 

 「そ、そうなんすよ!持ってた無線機が二度も繋がらなかったんです!」

 

 

 石崎は教師陣に訴えた。しかし、その言葉に一番反応したのは葛城だった。

 

 

 「なに...どういうことだ?」

 

 

 葛城は厳しい目を龍園に向けた。

 

 

 「ククッ、まぁいい、俺らはお前ら全クラスにスパイを送ったんだよ。伊吹、金田、そして石崎だ。」

 

 

 その言葉には葛城のみならず、皆が驚いた。さらに、石崎がなぜ無線機を持っていたかについても察したのだろう。

 

 

 「石崎にはスパイ用の無線機を渡した。だが、ある時間から使えなくなった。一回目は夜、周波数が変えられていた。そして二度目は昼だ。」

 

 

 そういうと、龍園は電源をつけた。

 

 

 「画面は映る。通信はできないが電池切れではない。そして、裏面のネジが少しだけ潰れていた。きっとドライバーが手に入らなかったから、小さなナイフでネジを開けたのだろう。」

 

 

 「つまり、明らかに改造されてんだ。」

 

 

 Aクラスの皆が息を呑んだ。最下位の悪あがきではない、非常に論理的な根拠に基づく訴えだ。

 

 

 「少し調べさせてもらう。」

 

 

 真嶋が龍園から無線を回収した。ドライバーでふたを開けると、

 

 

 「なんだこれは...」

 

 

 基盤、コード、プラスチックカバーの裏にある金属製のアンテナまで、全てがアルミホイルで包まれていた。

 

 

 「成る程、アルミホイルで電波を遮断したのですね。」

 

 

 Cクラスの悪徳教師、坂上がすかさず解析した。さらに付け加える。

 

 

 「法学的な解釈なら(・・・・・・・・)、改造も器物破損の範疇です。Aクラスの皆さん、これを改造した犯人は誰ですか?」

 

 

 すごく良い顔をしながら坂上は訊いた。回りくどくもない、正面からの問いだ。

 

 

 「こんなのお前らの仕業だろ、坂柳派!」

 

 

 戸塚がキレる。さらに葛城も発言する。

 

 

 「俺は断じて、自分の仲間たちにはこんなことをしろとは言っていない。橋本、坂柳に何か言われたんじゃないのか。」

 

 

 教師陣やら他クラスを放っておいたまま、Aクラス内に論争がまきおこる。しかし、葛城の一声で、坂柳派は圧倒的に不利になった。嘘をつかないことだけは、葛城は皆に信用されていたのだ。

 

 しかし、思わぬ形で形勢は逆転する。

 

 

 「いやいや、それはねぇよ、絶対に」

 

 

 「...なぜそう言える、橋本。」

 

 

 「だってさ、そういう物資はお前らが保管してたんだろ(・・・・・・・・・)。」

 

 

 「...ッ!」

 

 

 「アルミホイルなんて俺らはもらってねぇだろ。お前らしか手に入れられねぇんだよ。」

 

 

 「...そうだな。」

 

 

 アルミホイルは便利なもので、キャンプなどでは蓋にしたり、ホイルの包み焼きもできる。しかし橋本が指摘したように、これらの物資は葛城派が厳重に保管していた。理由は前に述べたとおり、坂柳派からの妨害を恐れてだ。

 

 

 「つまり、アルミで加工した奴らは、お前らのなかにいる。」

 

 

 橋本は前髪をかきあげて、その人差し指を反りたたせるぐらいにぴんと張り、葛城を指差した。葛城は目をつむって険しい顔をしている。しかし、

 

 

 「...おい、改造した奴は正直に手を上げてくれ。」

 

 

 「葛城さん!?」

 

 

 葛城は結局、その矛先を自分の仲間に向けた。戸塚が叫ぶ。実質的に葛城派の過失であると認めたようなものだ。橋本は薄く笑った。

 

 ただその一方で、実は橋本は犯人を知っているのだ。ただし、すべてのトリックは分かってはいないが。

 

 

 (しかし、暁子ちゃんはどこにアルミホイルを隠し持ってたんだ?)

 

 

 皆思いもしないだろう。まさか暁子が陰謀論者で、常に帽子にアルミホイルを忍ばせている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)など。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 「誰もいないのか...?」

 

 

 気のせいか、今の葛城は少し小さく見えた。原因は自分の大きすぎる失態か、誰も名乗りを上げないことに対する失望か。

 

 まぁ、実際に改造したのは暁子なので、葛城派のなかにいるわけ無いのだが。

 

 

 「そんなことは後にしようぜ。」

 

 

 そこに急遽、龍園が言葉をねじ込んできた。

 

 

 「この無線機は改造された。つまり器物破損、お前らは失格だ。」

 

 

 ニヤリと龍園が笑う。

 

 

 「そういうことなら、結果が変わりますね。では...」

 

 

 坂上が端末を操作した。そして、操作を終える、瞬間。誰かが坂上の声を遮る。

 

 

 「待ってください。異議があります、先生。」

 

 

 暁子だ。坂上が不審な目を向ける。

 

 

 「なんでしょうか?」

 

 

 「この無線機への処置は、器物破損に当たらないのではないのですか。」

 

 

 「そんなことはありません。れっきとした器物破損です。」

 

 

 坂上は無駄な議論だとばかりに首を振った。目に嘲笑の色が浮かぶ。

 

 

 (生徒会員といえど、所詮はこの程度のディベートしかできないようですね。)

 

 

 「良いですか、関野さん。器物破損とは法学的には改造も含み、ここでの改造には、何かしらを加えて元の状態から遠ざけるという意味を含むのですよ。」

 

 

 嘲笑いながら、わざと子供に言い聞かせるような口調で暁子に反論する。しかし、

 

 

 「先程から法学、法学とおっしゃられていますが、私達は未成年ですよ?それなら私達未成年の責任能力から考えなければならないはずですが。」

 

 

 「...」

 

 

 「少年法の適応者であれば、無知ゆえの責任能力の欠如も議題に上げなければなりません。仮に器物破損という注意に対して改造までを認識できていなければ、無罪として扱われてもおかしくないでしょう。そして、私達は高校一年生なので、むしろ知らない方が自然ですらありますよね。」

 

 

 刑法において、違法性の認識と犯罪の成立は関係ないとされているが、実際には事情を汲んで無罪になった例もある。そして、暁子の主張は、“知らないものはしょうがない。だって、未成年だもの。(あきこ)” というものである。

 

 

 「ッ...」

 

 

 (ふっ、かつて日々レスバに勤しんでいた私に、勝てる道理なんて無いよね。)

 

 

 実際には詰めの甘い論ではあるし、法学士ならばいくらでもこの主張に反論できただろう。しかし、坂上は一介の数学教師である。なにも反論できないようだ。

 それに対し暁子は、元来のスペックの高さに加え、日々5ちゃん○るの国際情勢板でレスバに勤しんだ過去がある。迅速なレスが求められる5ちゃん○るにおいて、何人もの健常者を葬ってきた実力者なのだ。

 

 

 「...確かに、一概に断罪はできないだろう。こちらの説明にも不備はあった。今回は不問にする。」

  

 

 「...チッ。」

 

 

 龍園が悪態を着くが、真嶋は無視して壇上をおりた。残ったのは二度の敗北を喫したCクラスと、蚊帳の外だった他クラス。不祥事を犯した上に暁子にケツ拭きをさせた葛城派(濡れ衣)と、葛城に厳しい視線を送りつつも内心めっちゃ喜んでいる坂柳派だった。

 

 

 

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