支配の個性。
 比類なく強力で凶悪なその個性を持った少女は、血溜まりの中でヒーローに出会った。チェンソーのエンジンを吹かせた彼。地獄のヒーロー『チェンソーマン』。

 何度倒しても起き上がる不滅の彼は、しかしある日消え失せた。助けを求めても、最早エンジンの音は聞こえない。
 いつしか人は彼への恐怖を過去の物とした。
 誰もが彼の名を忘れ去り、彼の名を呼ばなくなった。助けてチェンソーマン、と叫ぶ者は居なくなった。彼らは今や叫ぶのだ。助けてヒーロー、助けてオールマイト、と。


 唯一人、彼の名を忘れなかった彼女だけが、今日もその名を呼ぶ。彼女のヒーローを待ち望んで。

 「助けてチェンソーマン」と。


 これは、彼女が彼に再会する為の物語。
 ヴィラン『マキマ』の憧憬と妄執──そして愛の物語。

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 ███にとって、世界とはゲーム盤のようなモノだった。

 彼女が最初にその力を使ったのは、三歳の時。低俗で下劣で、どうしようもなく矮小な、親を名乗る下等生物を殺した時。以来、彼女はありとあらゆる人間を『支配』した。
 個性『支配』──格下である、と彼女自身が認識した相手を支配することが出来る。
 彼女は自身の類稀なる個性を、そう名付けた。

 凶悪な犯罪者も。英明な権力者も。勇敢なヒーローさえ。
 視界に入る全ての存在は、███にとって支配対象。ゲーム盤の上に置かれた駒でしかなく、世界の全ては文字通り思いのまま。
 そのはずだった。



 彼は突然現れた。
 ブウン、ブウンと。不吉な音を響かせて。

 真っ黒な異形。見上げる程の巨体。首には腸のスカーフ。
 そして、両手と頭に五つのチェンソー。

 助けを求める声に応えて、やって来た。
 ブウン、ブウンと。エンジンを吹かせて。

 気付いた時、既に███の首と胴体は離れていた。███から逃れようと、助けを求めた男は縦真っ二つに切り裂かれていた。周囲に居た███の部下たちは、サイコロステーキ状に細かく切り刻まれていた。
 悉くを鏖殺した彼は再びエンジンを吹かせて、そして消えた。現れた時と同じように、唐突に。
 超常黎明期、彼は混沌の時代に現れた。
 その滅茶苦茶な行動にある者は怒り、ある者は逃げ惑い──そしてある者は崇拝した。

 彼の名は、地獄のヒーロー『チェンソーマン』。



 意識を取り戻した███は、確信した。
 彼こそが、自分の生まれてきた意味であり運命なのだと。世界とは正しくゲーム盤なのだ。彼と彼女の、どちらが勝つか。たった二人の為の舞台なのだと。
 
 その日、血溜まりの中で一人のヴィランが誕生した。
 裏社会に潜む巨悪の根源『AFO』と並び、史上最も恐れられたヴィランの一人。善悪問わず万人を支配し、その余りの強大さ故にいつしか人ではなく地獄より蘇った悪魔なのだと噂されるようになった、世界を裏から操ったフィクサー。正義や邪悪といった尺度を超えた、絶対的な恐怖の象徴。
 
 彼女の名は、支配のヴィラン『マキマ』。

 嘗て███と呼ばれた少女の、そのなれの果てである。
 



ヴィラン『マキマ』

 

 

 

「......遅かった、か」

 

 抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』──本名、相澤消太。

 公安からの特殊任務を受けた彼は、郊外の廃倉庫にやって来ていた。中では相当に苛烈な戦闘が起こったのだろう。まだ建物からは随分離れているというのに、車を降りた途端に凄まじい血の匂いがした。

 

「こりゃヤバそうだな...。今時ヴィランとヤクザの抗争なんて滅多聞かないが...急ぐぞイレイザー。生存者がいるかもしれねぇ」

「...あぁ」

 

 公安からの情報によると、元から危険因子として監視していたとあるヤクザが、凶悪な個性『ゾンビ』を有するヴィランと揉め戦闘が起こったらしい。

 ヒーローにしてみれば潰し合い自体は結構だが、『ゾンビ』の個性を有するヴィランに死体を大量に得る機会を与えるのは危険すぎる。しかも下手をすれば、ミイラ取りがミイラになるように、止めに入ったヒーローまでもがゾンビにされてしまう危険性がある。

 そういう訳で、個性を消せる個性、という極めて強力な個性を有するイレイザーが選出され、貴重な休日にも関わらず駆り出されていたのだ。

 

 同じく休日返上で駆り出された雄英時代からの友人にして、良き相棒たる『プレゼント・マイク』の言葉にイレイザーは頷き、二人は建物の中へと入る。

 

「──これは......」

 

 想像を絶する光景に思わず絶句するイレイザー。

 倉庫の中にはバラバラに切り刻まれた何十人もの死体が、そこら中に転がっていた。床は血で埋め尽くされ、元の色は殆ど赤で覆い隠されている。

 ヒーローとして長い間活動し、数々の悲惨な現場を経験して来たイレイザーでも、その凄惨さには驚きを隠せなかった。

 

「──っ! イレイザー!」

 

 イレイザー同様、床の死体に気を取られていたマイクだが、彼はイレイザーより先に薄暗闇の中に立ちすくむ人影に気付いた。

 上半身は裸で、血塗れ。頭と腕にチェンソーが付いた狂気的な異形の姿。

 マイクの声に反応したイレイザーは、即座に目を見開き個性を抹消。更には相手に動く隙を与えず、首元の操縛布を投付け、捕縛する。

 

「......う゛ぅ」

「随分と...若いな」

「だな。血はコイツのじゃなくて、倒れている奴らの返り血らしい。それに弱っているみたいだが、心臓はばっちし動いてる。少なくともゾンビじゃねぇ。──コイツ、一体...?」

 

 個性を解かれ、鉄がドロリと溶解するように頭部と両手のチェンソーが消えると、現れたのはまだ顔付きに幼さの残る少年だった。

 ツンツンとした金色の髪の毛は見るからに痛んでおり、体は筋肉こそあるが骨ばった、と言う形容詞がピッタリな程に痩せ細っていて、栄養状態の酷さが伺える。身体中の小さな切り傷も相まって、まるで被虐待児だ。

 個性の解除と同時に力なく崩れ落ちる少年を、マイクは床に倒れる寸前で止め、生存を確認する。心臓の音は正常であり、個性と思しき胸から飛び出たスターターロープの他には、特に異常は無い。

 

「......ぅ、あん、たら、誰、だよ」

 

 意識が少しハッキリしてきたのだろう。

 少年は薄く目を開けて、途切れ途切れながらも言葉を発する。

 

「ヒーローだよ。...コレは、お前がやったのか?」

「そう、だけど、俺ぁ、ゔぃらんじゃ、ねぇ。あいつが...ゔぃらん、だぜ...」

 

 相手が未成年とはいえ、プロヒーローとして警戒を解こうとしない二人にデンジは辺りに転がる死体の一つを指差す。

 その外見は二人が公安から入手したヴィランの写真と全く同一のものだった。

 唯一違ったのは、そのヴィランもまた他の死体同様に真っ二つに切り裂かれて絶命しているという事。

 

「お前がゾンビのヴィランを、さっきの個性で倒したのか?」

「俺は...ヤクザとヴィランに巻き込まれたんだ。言っとくけど、せい──正義防衛? ってやつだぜ。殺され...かけたんだ。俺はポチタのお陰でまだ生きてるけど...。ポチタはアイツのせいで...死んじまった......」

 

 自らの発した言葉自体に、酷くショックを受けた様子で少年は俯く。

 イレイザーとマイクは目を見合わせた。

 

「...お前は何者なんだ?」

 

 二人の疑問を統括したイレイザーの問い掛けに、少年は答える。

 

「俺は...デンジ」

 

 二人の求める答えとはズレているのだが、デンジはそれ以上何も言おうとしない。推し黙るデンジに、これ以上の詰問は無意味と判断したイレイザーはやっと目を閉じ、操縛布を解いた。

 

「いいのか、イレイザー」

「...少なくとも、ヴィランじゃないだろ」

 

 懐から取り出した目薬をさしてから、イレイザーは、デンジに話し掛ける。

 

「お前、まだ未成年だろ。...連絡できるような保護者は居るのか? 学校は?」

「母ちゃんは昔に死んでて、親父はヤクザの借金だけ残して首吊った。学校は行った事ねぇ。ヤクザはみぃんなヴィランの個性でゾンビにされちまって、オレん事殺しに来たから、俺が全員ブッ殺してやった。......俺には...ポチタしか居ねぇ。他は何もない。けど、そのポチタは居なくなっちまった...」

「そう、か...」

 

 ある程度ではあるが、デンジの置かれた状況を理解したイレイザーは眉を顰める。

 

「...おい、イレイザー。コイツ、完全に被害者だよ。どうする...?」

「あぁ...やった事は兎も角、保護対象には違いない。ただどこに預けるにせよ、一回公安を通すべきだろうな」

 

 マイクと互いに耳打ちで会話したイレイザーは、彼にしては珍しく安心させるように、口調を柔らかくしてデンジに告げる。

 

「...いいか、デンジ。取り敢えずお前は一度公安に連れて行く。体調のチェックと取り調べだけで、逮捕じゃないから不安に思わなくていい。その後は...然るべき施設に預けられる。少なくとも、お前を傷付ける奴はいない。少し落ち着いて、お前が望むなら学校に行く事だってできるし、そうじゃなくてもお前の好きな事をしていいんだ。もう、親の借金なんて背負わなくていい」

「......」

 

 デンジは、諦めきっていた人生の中に突然現れた、新しい選択肢に暫く呆然とした様子で口を開けて、長い沈黙の後にやっと一つだけ尋ねた。

 

「...公安って、朝メシはどんなの?」

 

 イレイザーとマイクは、再び顔を見合わせる。

 

「朝飯? ...そりゃあ、食パンにバター、ジャム、サラダ、コーヒー。後はガキだし、甘いデザートだって出てくるぜ! あ、おかわり自由な!」

「...コイツの言葉の信憑性は微妙だが、まぁきっと普通に美味いだろ。......どうしても食べたい物があるなら、差し入れでも持ってってやる」

 

 悲惨な生活環境の上に、唯一の家族だったのであろうポチタ、とやらを失ったデンジを元気付けようとするマイクと、それに呆れながらも気遣いを見せるイレイザー。

 二人の言葉を聞いたデンジは、ポツリと呟く。それはきっと、彼の本心からの言葉だった。

 

「......はは、そんなん..最高じゃあ、ないっすか.....」

 

 





 消えてしまった地獄のヒーロー『チェンソーマン』を追い求めるヴィラン『マキマ』さんが、片手間にAFOやらオールマイトとドンぱちしつつ、『チェンソーマン』っぽい匂いのする少年を追っかけ回す話。尚少年はヒーロー『チェンソーマン』を名乗る模様。強火厄介オタクにとっては公式が解釈違い案件である。

 アニメ一気見した勢いで書きました。続かない。

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