太陽がさんさんと照りつける休日の空。空模様も良好で実に気持ちの良い朝の目覚めを俺は迎えた。
身支度を済ませて俺が向かう先はとある珈琲店。ほろ苦いコーヒーの匂いに惹かれるかのように、俺はこの店に入っていった。俺がここに来た理由はこの店のコーヒーを堪能するため
………ではなく、アルバイトがあるためだ。
店に入り、オーナーとその奥さんに朝の挨拶を済ませて、ロッカーに足を運ぶ。エプロンを身にまとい、水を口に含みながら髪を整える。
髪を整えた俺は、水を飲み込み、待機場所の壁に貼ってある働く前の心得を読み始めた。
「今月の目標……」
緊張をほぐすために準備体操をやりながら読み終え、俺はお客様達がいる部屋に繋がる扉へ向かった。ここを開ければ、俺はお客様と接するこの店の一店員だ。
「すぅ〜……はぁ……」
緊張して少し高鳴っている心臓を深呼吸をして落ち着かせる。そのまま胸をなでおろして、「大丈夫」、そう自分に言い聞かせる。
「…………よし」
そして、俺は扉を開けた。今日もまた、俺のアルバイト店員としての日々が始まる。
…………………とここまでが今朝までの回想。
「…………………なあ、なんで俺はこんなところにいるんだ?」
「さあ?なんでだろうね?」
目が覚めるとほんのり甘い香りのする部屋。そして、その部屋のベッドに茶髪の女の子が座っていた。
「いや、俺は本気でお前に言っているんだ。なぜ、俺はお前の部屋にいるんだ。答えてくれ、つぐみ」
つぐみ「いやいや、蒼真君は私に逢いに来てくれたんでしょ?だからこうしてお互いの手を繋いで2人きりの時間を過ごそうとしてるんだよ?」
いやいやいや、してるんだよ?じゃないんだが。……おっと、自己紹介が遅れたな。俺は小栗蒼真。呼び方は読者のみんなに任せる。
俺はこの店、『羽沢珈琲店』のアルバイト店員だ。今年の3月からこの街の近くに引っ越して一人暮らしをしている。
あと、地元の岐阜の田舎の実家からの仕送りで生活をしている。実家が農家であるため、仕送りはトマトやじゃがいも、キャベツといった野菜類が多い。そのため、食料に関しては問題ない。
だが、金銭面に関しては、家賃を払ってしまえばもう尽きてしまうくらいの額しか貰えていない。お金を送ってくれる分はありがたいが、このままでは何かあった時にすぐに対応できない。
そう思って、俺はこの商店街に赴いてアルバイトを募集している所を探し回った。
この商店街にはいろんなものがある。コロッケが美味い精肉店や、食欲をそそるような匂いを漂わせるパン屋。どこもいいところだった。このふたつの他にも気になったところは全て訪ねたが、何処も人が足りていると採用を断られてしまった。
そして、最後に気になっていたこの店に来たのだ。アルバイトの応募を申し込んだ日に面接を受け、即日採用。理由は娘と同い年で真面目そうでいい人そうだから。面接官はオーナーだったのだが、そんな理由で大丈夫なのだろうか。それでも、こんな俺を採用してくれるだけありがたい。そうして、俺はこの珈琲店でアルバイトをすることになったのだ。
つぐみ「はぁ……やっぱり私と蒼真君って運命なのかな……///」
そして、今、目の前で顔に片手を置いて照れながら自ら付けた手錠と目線をチラつかせている少女は、羽沢つぐみ。
この子はなんと、この店のオーナーの娘だという。俺としてはこうして同じ空間にいるのも気の引ける話なのだが、気にしないでいいよ、と彼女の優しい性格のお陰でなんとかこの店の雰囲気に馴染むことが出来た。
彼女はすごい努力家だ。
失敗してもめげないで、反省して次に生かす。
常に周りを見ていて誰にでも優しくフォローをする。
俺は彼女のそんなところが好きだし、尊敬している。商店街の人たちもそんな彼女のことを好きだと口を揃えて言う。
俺もバイトを始めたての頃は彼女に何度も助けられた。彼女の周りの人達も彼女のそんなところに引き寄せられていくのだろう。
また、彼女は幼なじみとバンドを組んでいるらしい。アフターグロウ……と言ったかな?まだ見たことは無いがいつか見に行きたいものだ。
つぐみ「もう、好きだなんてそんな……///あ、今度ライブやるからチケット良ければどうぞ」
蒼真「うん。ありがとう」
都会の人は人の心が読めるのか。都会の人は凄いな。
と最初は優しく接してくれていたのだが、ある日、いつの間にかこんな風に変わってしまった。
いや、優しいところは変わりないのだが、俺を彼女の部屋に入れて閉じ込めたりするようになった。後は、後をつけまわしたり、他の人(特に女の人)と話しているとスっと出てきたり、L◯NEの通知が沢山きたりと色々だ。
今だって手錠を付けて俺と離れられないようにしている。もしかしてだが、
…………………………つぐみは引っ越してきたばかりの俺の事を心配してくれているのだろうか?
と俺は思っている。
都会には変な場所が多いし悪い人も多いと父と母が言っていた。そんな悪い人達に関わらせないように俺のあとをつけて俺の身の危険を回避してくれているのか。
本当に優しいな、つぐみは。
蒼真「だとしても、この手錠は外してくれ。行かなきゃ行けないだろ」
つぐみ「え? 蒼真君、私に逢いに来てくれたんじゃないの? せっかくの休みなんだし色々したいなと思ってたんだけど……ってどこに行くの?」
蒼真「今日は俺、アルバイトの日だろ?行かなきゃオーナー達の迷惑になってしまう」
つぐみ「? 今日、蒼真君のシフトじゃないよ?ほら」
蒼真「そうなのか……むむ、本当だ」
つぐみがカバンから俺のスマホを取り出した。そのまま予定表を開き見せると、確かに俺の担当の日ではなかった。来週のシフト表と間違えていた。
それにしても、今日はバイトが無いのか。俺は立ち上がる。なら、やることはひとつ。
蒼真「それなら、俺はもう帰る。お邪魔しました」
つぐみ「ま、待って! 手錠繋がってるんだよ!? どうやって帰るの!?」
蒼真「そうだった。なら、このまま俺の家に来るか? 何も無くてつまらないと思うが」
つぐみ「いいの?で、でも……まだ心の準備が……あんなことやそんなこともあるかもしれないから……///」
蒼真「? 俺の家はそんなに危なくないぞ?」
つぐみ「そ、そういう事じゃなくて…その…///って!逃がさないよ蒼真君!蒼真君は私のモノなんだから」
そう言うとつぐみは俺の手錠の繋がってない方の手を握ってベッドに押し倒す。俺を押し倒したあと、さらにつぐみは俺に体を寄せて顔と顔との距離が吐息がかかるくらいまで近づけた。
蒼真「近いぞつぐみ。それに俺はどこにも行かない。家に帰るだけだ」
つぐみ「嘘だよ。また他の女の人とどこかに行くんでしょ?この間だって蒼真君と同じくらい身長の高い女の人と一緒に歩いてたじゃん」
蒼真「あれは道に迷っていた所を助けてもらっただけだ。その後は何もなかったぞ」
つぐみ「で、でも…… 蒼真君がどこか遠い場所に連れてかれないか心配で…… 蒼真君と離れ離れになったら、私生きていけないよ………」
なるほど、つぐみは俺がどこか悪い人に騙されないかを心配しているんだな。それで、手錠をつけてると。
蒼真「それなら、こういうのはどうだ?」
つぐみ「え?……ええ!?」
俺はつぐみを押し返して再び立ち上がり、手首の骨、そして、指のありとあらゆる骨を外して手錠からの拘束を解いた。つぐみは何か驚いているようだったが俺には造作もないことだ。俺は完全に手錠から手が外れたことを確認して、外した手と手首の関節を入れ直した。
つぐみ「そ、蒼真君……それどうやってるの?」
蒼真「ああ、これか?俺は元から関節が柔らかくてな。これくらいならすぐに出来る」
つぐみ「や、柔らかくてもそんなことできないと思うけど……」
蒼真「そうなのか? さて、話を戻そう。さっきも言ったが安心してくれ。俺はお前の目の前から消えたりはしない。少なくとも、この店のアルバイトである限りはな」
つぐみ「でも、この商店街の中だけでも私よりもっとすごい人がいるし…… ほら、イヴちゃんだってアイドルやってて可愛いし綺麗だし……
それに比べたら、私なんて地味だし……」
確かイヴという人は俺と同じここのアルバイトの人だったな。確かに彼女も綺麗な人だ。だが、
蒼真「つぐみは地味なんかじゃない」
つぐみ「え……?」
蒼真「俺はつぐみの事を魅力的な人だと感じている。優しくて謙虚で、誰よりも頑張り屋で。そんなつぐみが俺は好きだ」
これは俺の本心。彼女のような友人を持てて、俺は心底幸せものだろう。
蒼真「それに、イヴさんもアイドルをやっていて確かに魅力的な人だ。でも、俺はつぐみの方が魅力的に感じている。つぐみだって女の子らしいし、肌もきれいだ。それに……」
つぐみ「わ、わかった!わかったから、もうやめて!///」
蒼真「? そうか。了解した」
つぐみは顔を赤くして目線を合わせずにそう言った。嫌なことを言ってしまったのだろうか。そうだったら申し訳ない。今度から言葉を選ばなければ……
つぐみ「……ちなみに、好きってどういう意味で……?」チラッチラッ
蒼真「好きは好きだぞ?他になんの意味があるんだ?」
つぐみ「やっぱり特に深い意味はないか……」
と、つぐみはため息をつく。俺は何か勘違いをしているのか?
蒼真「まあ、兎にも角にもだ。今度からはこういうことはよしてくれ」
つぐみ「あ、手錠の鍵!いつの間に!」
この鍵はつぐみがため息をついている隙に取らせてもらった。つぐみの手を見ると、やはり、手首に手錠の跡が赤くくっきりとついていた。
蒼真「つぐみが傷つくのは俺も嫌だ。だから、これからはもっと自分を大切にしてくれ」
今度は俺から顔をグッと寄せる。
説教のつもりで先程のセリフを言いながら、俺はつぐみの手錠がかかっている手を握りながら、もう片方の手で手錠の鍵を外す。カチッと音がすると、手錠がゴトッと鈍い音を立てて床に転がった。
蒼真「ほら、こっちの手だってこんなに赤くなって……?」
つぐみの手に視点を合わせて赤くなっている方の手をつぐみに見せると、いつの間にかつぐみの顔はさっきよりも赤くなっていた。そして、そのままベッドに飛び込み、顔を埋めてしまう。
蒼真「!?大丈夫か!?つぐみ!」
つぐみ「~~~~~~!!!!!////////」
よく見てみると、つぐみの頭から煙のようなものが出てきた!それに、足もバタバタさせている!大丈夫なのか!?もしかしたらつぐみは機械だったのか!?
つぐみ「私はロボットじゃないよ!?だ、大丈夫!私は平気だよぉ!?」
赤面させて顔全体から湯気を出しながら、つぐみはそう言う。大丈夫ならよかった。顔の色も元に戻ってきている。目線は合わせてくれないが…うん。本当に大丈夫そうだな。
つぐみ(ああ、やっぱり蒼真君の事……大好きだ……///
でも、心臓がいくつあっても足りないよ///)
蒼真「そうか、なら今度こそ帰らせてもらう。それじゃあまた明日、よろしく頼む」
つぐみ「うん!あ、今日の夜電話かけていいかな?それまで他の人と話しちゃダメだよ?」
蒼真「他の人と話さないのは無理かもしれないが、わかった。だが、一度に沢山の通知を入れるのはやめてくれ。驚いてしまう」
つぐみ「あれでも少ない方だけど……うん、わかった!」
つぐみは笑顔で返事をする。本当につぐみは優しくていい子だ。こんな娘を持ってオーナーも幸せだろう。
そう思い、俺は部屋のドアノブに手をかける。だが、何故だろう?何か聞き逃しているような気がする。
蒼真「………そういえばつぐみ、なぜ俺はお前の部屋にいるんだ?俺は支度を済ませてお客様のところに行く所だったんだが」
つぐみ「ナイショだよ。でも、ひとつ言えるのは蒼真君は誰にも渡したくないから!」
蒼真「なるほど。あともうひとつ。つぐみの部屋のドアってこんな感じだったか?もう少し雰囲気が優しめだったはずなんだが」
部屋のドアを見ると、なんかすごく硬そうな鉄でできたドアが目の前に立ち塞がっていた。何回かつぐみの部屋に (いつのまにか) 上がったことがあるからわかるが、前は普通の木製のドアだったはずだ。
つぐみ「ふっふっふ……パスワード式のドアにしたんだ!パスワードは私しか知らないから誰にも開けられないよ!これで本当に2人きりになれるね!」
蒼真「そういうことか。つまりは帰れない……さてどうしたものか…………あ、開いた」
つぐみ「うそ…………」
つぐみの自慢のパスワードドアも、何故か俺の誕生日を入力したら簡単に開いてしまった。
皆さん始めまして!ここまで長文を読んでくださりありがとうございます!
新人筆者の『ぶるーす』というものです!
今回は初めての単発作品として私が好きな『Bang Dream!』という作品の二次創作を書かせていただきました!いかがでしたでしょうか?
まだ創作の知識が浅く生まれたての子鹿のような私ですが、よろしくお願いします!