千束の元相棒が自殺しかけた   作:曇らせピエロ

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 お待たせ、待たせて済まない。就活マジつらたん。


七話

 

 

 

 玄関で千束が仁王立ちしていた。

 僅かに怒気を含んだ視線で真菜を見ていた。

 

 

「何処行ってたの真菜?」

「……バイク走らせてた。夜ご飯は適当に済ませてって連絡したよね」

「そのあと何処行ってたか返信もらってないけど」

 

 

 バイク走らせるから夜ご飯は適当に済ませてとしか連絡していない。単純に関わらせないようにしてきた腹いせもあったが、千束はご立腹のようだった。今日の当番は真菜だったが、ご飯が無かったことで怒っているわけではなさそうだ。

 

 

「別にいいでしょ。そんな遠い場所じゃなかったし、危険な事もなかったし」

「無断で銃乱射の取引現場に行ったのが危険じゃないって?」

「なんで知ってるの?」

「GPS」

 

 

 背筋が僅かに凍った。

 いや確かにGPSに関しては真菜も了承していた。狙われやすい為、場所を何処でも把握できるようにと千束に教えていた。だが、幾ら何でも過剰過ぎないかと最近は思い始めていた。

 

 流石に居場所が割れた以上誤魔化せる訳もなく、ため息を吐き、真菜は正直に答えた。

 

 

「別に、銃千丁の取引現場に行けば何が分かるかと思ったけど、何も分からなかったから引き返したよ」

「そーじゃなくて!勝手に危険な場所に向かって犯人いたらどうするつもりだったの!?」

「居るわけないでしょ。それに居たとしても撃退ぐらい出来るよ」

 

 

 あの場所でリコリスと撃ち合っていた以上、テロ組織の人間がそこに来る事はあり得ない。そんな事は千束も理解してる筈だ。それにミカにも真菜の腕は認めてもらっている以上、多少テロ組織の人間が居ようと撃退は可能だった。

 

 

「だったらせめて連絡してよ……危なっかしいよ」

「連絡したら行くなっていうでしょ」

「言うよ!今の真菜じゃ危険だし」

 

 

 今の、という言葉に顔を顰めた。

 今の自分が役立たずなら過去の事を思い出させないようにする千束は何なのか。どんな自分ならいいのか。

 

 ずっと危険だからと言って関わらせなかった事が多かった。だけど正直、これはもう限界だった。

 

 

 

「今の、今のってさ……だったら私はいつまで除け者扱いされたらいいの?」

 

 

 

 その苛立ちを込めた言葉を千束にぶつけた。

 千束は狼狽えたかのように動揺した目のまま真菜から僅かに目を逸らした。余りにも冷たい声、二年間の中で一番怒っている声に千束は言葉を返す事が出来なかった。

 

 

「記憶が戻れば解決するのに、過去の境遇とか話してくれないし、それを言い訳にいつまで私を縛り付けるの?」

「そ、れは……」

「私が自殺しようとしたから思い出させるのが怖いって思ってたけど、違うよね。思い出してほしくないって千束の願望も混ざってんでしょ」

「っ」

 

 

 図星だった。

 千束にとってそうでも真菜にとっては違う。あの日記に書かれた悲惨な記憶を思い出す事によって、また死に場所を求めるのではないかと、不安だから言えなかっただけではない。

 

 千束の願望も、混ざっていた。

 このまま知らない方がいいのではないか、そんな事を思って二年が既に経っている。

 

 

「それに襲撃があったんでしょ。硝煙の匂いがする」

「……っ」

「井ノ上さんが来たから私は邪魔者扱い?危険なのは千束も同じなのに、何?そんなに私に関わってほしくないの?いつまで足手纏いって思ってるの?」

「ちがっ」

 

 

 千束にとって傷ついて欲しくないから。

 そんな言い訳はいつまでも通用しない。真菜は人間らしくなったが、それと同時に過去の自分を思い出そうとし始めている。

 

 それが悪いわけじゃない。だが、元に戻ってしまったら真菜はDAとリコリコのどちらを優先するのだろうか。きっと罪悪感からDAを選ぶ。そう思えてしまうのだ。

 

 思い出さない方が幸せなのかもしれないが、真菜にとっては思い出さなければならない大切な記憶だ。碌でもない過去であっても、自分がやってきた事の責任を忘れ続けて生きるのはきっと望んでいない。

 

 千束は思い出してほしくない。

 もう辛い思いをしてほしくない千束の願望は真菜の思いと反発する。真菜にとって、遠ざけられて守られるだけのこの状況は嫌だった。

 

 DAが猛獣を飼い慣らす檻ならこの場所はきっと……

 

 

「ずっと危険な事から遠ざけて、今の私じゃ無理って言って、思い出さなきゃいけないことを思い出すなって言って、私を除け者扱いして、関わらせないのって」

 

 

 鳥籠だ。

 千束が嫌う自由から程遠い、平和という言葉を建前に束縛された人生に思えた。

 

 

 

「全部、千束の我儘じゃん」

 

 

 

 パァン!と、音が玄関に響いた。

 ジンジンと頬に熱が篭ったかのように痛み、叩かれた事で僅かに放心した真菜に対して、無意識のうちに手を出した千束は自分に対して目を見開いている。

 

 意識が覚醒すると真菜は千束を睨みつけた。 

 失望した、と言わんばかりの顔で振り返って玄関のドアに手を掛けた。

 

 

「……っ」

「あっ、ご、ごめん真菜…!」

「もういい、それが答えなんだね」

「ま、待って真菜……!謝るから」

 

 

 部屋から出ようとする真菜を止めようと肩に触れた千束の手を真菜は強く弾いた。その事に千束は戸惑い、真菜は冷たい反応のままただ告げた。

 

 

「触らないで」

 

 

 もう、我儘に付き合うのも限界だった。

 千束にとって、当たり障りのない日常の束縛が都合のいい形だった。それも悪くないと思っていた。

 

 けど、思い出せない過去をいつまでも忘れたい訳じゃない。過去の自分なら頼られてたのに、今の自分が必要とされないなら、もうここにいる意味も分からない。

 

 ずっとこのままでいたくない。

 幸せであり続けるのが幸せではない。束縛を嫌うくせに、自由に生きようとする千束が自分を縛り付ける鳥籠のように感じた。

 

 

 

「暫く千束の顔は見たくない」

 

 

 

 精一杯の拒絶を告げ、セーフハウスから出ていく。

 バタン、とドアが閉まる音だけが遠く聞こえ、千束は伸ばした手とは裏腹に追いかける事が出来なかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 千束は眠る事が出来なかった。

 その日、その言葉が呪いのように頭の中で反復する。頭を抱えて、眠くなるようにホットミルクも淹れたのに、身体は眠る事を拒否する。

 

 真菜を追いかけられない。

 GPSを切られて、バイクに乗って何処かに行ってしまった。ミカに連絡したが、真菜が『暫く有給を貰います』と突如メールで送られてそれっきり、通話は拒否されたらしく、暫くはリコリコで働かないだろう。真菜は二年も働いていて有給なら二週間もある。しかも節約家なので貯金は二年間殆ど使っていない。ホテルを転々としても二ヶ月は帰らなくても問題ないだろう。

 

 真菜の心配と同時に、今日の事を思い出すと身体が震えた。

 

 

『全部、千束の我儘じゃん』

 

 

 その言葉を否定する事が出来なかった。

 あんな真菜の顔は初めて見た。怒っていて睨み付けられて、そして怖かった。あの時どうして手を出してしまったのか、自分の言葉を否定したかったはずなのに、それ以上の言葉を紡いでほしくなかったのか、手が出てしまった。

 

 最低だ、と後悔しても遅い。

 ずっと縛り付けていて苦しかったと思っている真菜を見ていなかったのか。怖くて、踏み込むのを恐れてずっと遠ざけた結果がこれだ。

 

 

「うっ…く……ううぅぅぅ……!」

 

 

 枕が涙で濡れた。

 後悔が嗚咽して満足に泣き叫ぶ事も出来ない。記憶をいつか戻さなきゃいけないって真菜自身が言っていた事は知っていたのに、戻ってほしくないと我儘を続けて真菜を知らずの内に苦しめていた。

 

 

「どうし…て……わ"…だし……!」

 

 

 また、真菜を見てなかった。

 あんな顔させて、本当は真菜の方が苦しい筈なのに。今は心臓がないのに張り裂けるほどに胸が痛くなった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 仕事の依頼が来たらしく、千束は準備を整えて家を出た。いつも朝食を交代で作っていて、二人で食べるのが日課だったのだが、余りにも静かな朝、テレビの音も聞こえなければ家がいつもより広く感じていた。

 

 真菜は家に帰ってこなかった。

 コーヒーを淹れる音とテレビのニュースの音で誤魔化そうとしても心が落ち着く事はなく、寧ろ昨日の事を思い出して涙ぐんだ。

 

 

「……おはよー」

「うわっ、凄い隈ですね……」

 

 

 依頼の為の準備をしているたきなの顔が僅かながら引き攣っていた。

 

 

「真菜は帰ってきてないのか?」

「うん……」

「真菜さんがどうしたんですか?」

「家出だ」

「いえ……はっ!?」

 

 

 たきなは心底驚いていた。

 まさか伝説のファーストリコリスが依頼直前に家出をかましているのだ。依頼は大丈夫なのかと思ったが、真菜が記憶喪失なら実質頼りになるのは千束だ。例の偽の沙織さんの事件で千束の強さは知っていたが、真菜に関しては本当にファーストなのか些か疑問が出てきた。

 

 

「依頼は行けるのか、千束」

「……行く」

「真菜に関してはどうする」

「……帰ってきたら謝る」

「そうするといい、あの子は寂しがり屋だ」

 

 

 寂しがり屋というミカの評価に千束はそれに気付かなかった罪悪感が蘇る。ちゃんと真菜を見てると楠木にも約束したというのにこのザマに頭を掻きむしりたくなった。

 

 

「……ううぅぅぅ……!やっぱり依頼行きたくないぃぃ!真菜を置き去りに仕事してる罪悪感がぁぁ!」

「子供ですか」

 

 

 たきなの端的な言葉に千束は更に沈んだ。

 

 その後、リコリコに依頼されたウォールナットの護衛任務では元気がなくても仕事を行い、死んだと思ったリスによって気持ちがどん底に叩きつけられ、生きていると分かっていても千束の心境は更にぐちゃぐちゃにされて顔が死にかけているのを見て、護衛対象であったウォールナットもといクルミは居た堪れない気持ちで謝っていた。

 

 





 真菜 鳥籠から羽ばたいている
 千束 色々あり過ぎて顔が死んでいる
 たきな 本当に優秀なリコリス…?
 クルミ 作戦を伝えなかったせいか目の前で死なれたと思った千束を見てめっちゃオロオロしていた。

 
 ヨシさん キングクリムゾンッ!!
 
 真菜がいないのでウォールナット編は大幅カット。曇らせは更に力を貯めている。次回がDA編、真菜のSAN値となります。

 曇らせが見たい人、曇らせが足りねぇ…!って人は高評価&感想お願い致します。モチベ次第で曇らせます
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