どけ!!!俺は(姫様の)お兄ちゃんだぞ!!!   作:ジャギィ

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第24話

フィオレーネに案内され、着いたのはひとつの小屋

 

扉を開けると夜の暗黒をランプの光が切り裂く。中には巨大なテーブルの上に見覚えのある地図が置かれていて、そのテーブルを囲うようにシキ、ガレアス、バハリ、アルロー、多くの騎士と、そして…

 

「あ……お兄ちゃん…」

「ヨモ…!?ここにいたのか!」

 

さっきの病院内では見掛けなかった妹分の姿に思わず駆け寄る。だがヨモギの左腕には包帯が巻かれており、体調が悪いのか、良くない顔色の状態でソファに寝転がっていた

 

「まさか、ヨモもキュリアに…!?」

「だ、大丈夫だって。1回咬まれただけだし、薬も飲んだからちょっと体がしんどいだけだよ」

「そ、そうか…」

 

一瞬俺を気遣って嘘をついてるんじゃないかと思ったが、俺は彼女を信じることにした

 

振り向けば、普段以上に顔を強ばらせたガレアスと、飄々な表情をなくしたバハリ(ブラザー)の姿が

 

「っ……王子…」

「かなり早かったねテッカ。…その様子だと、随分無理したんじゃない?」

 

軽口を叩くバハリ(ブラザー)だが、頭のいい彼が眉間に皺を寄せている状態から見るに、どうやら相当ヤバい状況なのだと見て取れる

 

そう考えていると、テーブルの奥にいたガレアスが前に出てくる。そして膝を着き、こうべを垂れて、俺に謝罪してきた

 

「王子、誠に、申し訳ありません」

「提督…!?」

「貴方様から忠告を受け取っていたにも関わらず、我々はエルガドを守る切るどころか、チッチェ姫にも重傷を負わせてしまいました…恥ずべき失態で」

「ガレアス…今は、そういうのは……いい」

 

ガレアスの謝罪を無理やり打ち切る。あんな事があった後だというのに、優秀な部下が頭を下げて謝ってくる事実に心が締め付けられる

 

違う、お前達は何も悪くない、みんな頑張ったじゃないか。こんな異常事態、何も知らないお前達の誰が予測出来るというのか。今回の襲撃を唯一予測出来る情報を持っていながら呑気に茶を飲んでいた、俺が悪いというのに

 

「王子…?」

「それより、状況はどうなっている?…早く」

「……ハッ!」

 

立ち上がったガレアスが元の位置に戻ると、バハリ(ブラザー)が咳払いをしてから情報を伝え始める

 

「まず、今回群れを成して現れたキュリアは、エルガドを始めとした近辺の村にも出現して、被害を齎している。幸い、今のところキュリアに咬まれた者は多くいれど死者は出ちゃいないが…被害域の拡大を考えれば時間の問題だろうね。それに、人間への被害はその程度で済んでいるけど、逆にモンスターや家畜への被害は凄まじいの一言だ。竜車を引っ張るメルクーやアプトノスは全滅だし、フクズクだって何匹かやられた」

「…キュリアの規模は?」

「分からない……いや、正確には数え切れない。なんせ短時間でエルガド全域の空を覆い尽くすレベルの数なんだ、あの数が全部だったと仮定しても、簡単に減らせる数じゃない…」

「そうか…城塞高地の様子は?」

「それなら数時間前に…」

 

“キャ─────ッ!!”

 

「「!!」」

「今の悲鳴は!?」

 

ガレアスが指示を飛ばす…よりも先に、扉を蹴り開けて声がした方角へ最短距離で突っ切る。その後ろから、コンマ数秒遅れて反応した弟子が追走してくる

 

そして辿り着いた先には、街に侵入したティガレックスが、今にも住民を喰い殺さんと言わんばかりに大口を開けている姿が見えた。馬鹿な!人が住む街にも、狩り場のキャンプと同じようにモンスターを寄せ付けない臭いで囲っている!それなのに何故!

 

「シキッ、合わせろ!」

「はいっ!」

 

謎は一旦捨て置く。ティガレックスの真ん前に立ち、同時に“水月の構え”をとる

 

迫り来る轟竜の(アギト)を刀身と糸で受け止め、2人で放ったカウンター斬りが、ティガレックスを誰もいない街の外にまで吹き飛ばす

 

「よし!このまま操竜して遠くまで…」

「待ってくれ師匠!あれは…」

 

運ぶ、と口にしようとしてシキに遮られた。そしてシキが向ける視線の先に追従すると、ただ吹き飛ばすという軽い攻撃を受けたにも関わらずティガレックスは四肢を崩れ落とさせて倒れ、徐々に悲鳴が小さくなり…

 

ズズゥン…

 

「…は?」

 

俺は思わず呟いた。だって、轟竜だぞ?飛竜種の中でもタフさと獲物を諦めない執拗さは指折りなモンスターだぞ?なのに、あれだけの攻撃で絶命するなんて

 

だがそんな俺の疑問は、轟竜の死体から飛び出した、複数の紅く光る飛翔体を見る事で解決した

 

「キュリア!」

 

命の簒奪者は悠々と空高くまで飛んで、城塞高地の方角へ去っていった

 

「ティガレックスが暴れていたのはキュリアが原因か…!」

「だから街に侵入して…」

「王子!シキ殿!」

 

キュリアへの予測を考える最中、遅れてやってきたフィオレーネが冷や汗を垂らしながら膝をつき、その緊急事態を伝える

 

「城塞高地を中心とした近辺にて、50は優に超える数の大型モンスターが暴れているとの報告が!」

「50…!?」

「何それ!?いくら何でも多過ぎじゃない!?」

「しかも暴れているのはリオレウスやベリオロスの他、ジンオウガやセルレギオス、ヤツカダキ亜種にエスピナスなどの生態系でも上位のモンスターばかり…!更には王域三公のガランゴルムやルナガロンも確認されていますっ!!」

「バカなっ…!!」

 

家臣から聞かされた報告に俺は戦慄する。だって、どう考えても想定を遥かに上回る被害なのだから。しかも城塞高地を中心という言い方だということは、周辺も似た被害が出ている可能性があり、範囲もこちらの予想以上のスピードで拡大しているという事になる

 

「っフィオレーネ!城塞高地周辺の地域に騎士達を配置し、モンスターの進行を食い止めるよう指示を!」

「それならば既にガレアス提督が!」

「…判断が早いな…流石ガレアス」

 

やはりアイツは、今後の王国にも必要な人材だ

 

ならばやはり…俺のやるべき事は一つ

 

「っ…!? 王子、どちらへ!?」

「騎士達がモンスターの軍勢を抑えている間に、城塞高地内で暴走しているモンスターを全て()()してくる」

「討、伐……!?よ、よろしいのですか!?」

「何がだ?」

「いえ…王子は…その…」

 

言い淀むフィオレーネの様子に、彼女は普段から命を狩る事を避けている俺が、それを行うことで俺が心の傷を負う事を心配しているのだろうと悟る

 

確かに、俺は余程の事がなければモンスターを殺す事を避けている。しかしそれは、殺すのが嫌なのではない。()()()()()。二度と同じ過ちを犯さない為の、己に課した縛り、自縄

 

それに、今がまさにその余程の事態だ。今ここでキュリアの吸命行動を止めなければ、城塞高地どころか、王国全域の命がガイアデルムの糧にされるだろう

 

「大丈夫だフィオレーネ、ちゃんと割り切れる。お前が考えるような状態にはならないさ」

「………分かりました。しかし、決してご無理はなさらないようお願い致します」

「…善処する」

 

分かった、とは言わなかった。これから為す事を考えれば、命が幾らあっても足りない。しかし、その犠牲を絶対に民に押し付けてはいけない。騎士達にも死んでほしくない。俺がやらねば…!

 

「行くぞ、ついてこい」

 

フィオレーネとシキを連れて、城塞高地に向かう

 

 

 

骸がそこらに散見していた。小さな生き物(環境生物)から大型モンスターまで、見境なく散らばっていた。中には互いに牙と爪を食い込ませ、喰い合う形で力尽きた亡骸も転がっている

 

地獄という言葉を実体化することが出来るならば、目の前に広がる光景こそ、まさにそれだと言えた

 

「ひどい…」

「…これほどとは…」

 

2人が端正な顔を歪ませながら呟く

 

だが、まだだ。死体は夥しいほどあるが、大型モンスターのものが極端に少ない。他のエリアに散らばっていたとしても、かなりの数が生きているだろう

 

「おそらくキュリアに蝕まれたモンスターは、さっきのティガレックスみたく死ぬ一歩手前まで弱ってるハズだ。ここは3人に別れて各個撃破する。フィオレーネはこの近辺の城塞エリア、シキは向こうの森林エリア、俺は1番離れた氷山エリアに向かう。終わった後の集合地点はこの広場。もし欠けていた者がいる場合、最も近いエリアに救援に向かい、それでも尚戻ってこない者がいれば2人で最後の1人の救援に向かう…何か提案はあるか?」

「一つだけ」

 

スっと手を挙げるのはフィオレーネ

 

「もし自分の実力でどうしても対処出来ないモンスターがいた場合は、即座に引いて他の者と合流する許可を」

「良いだろう。…決して無理はするな。いいな?」

「師匠こそ」

 

弟子の軽口を笑って受け止めながら、足を力を篭める

 

「では、やるぞ!」

 

直後、俺達は三方向に散っていったのだった

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