ランチラッシュのサイドキックは正義の味方 作:アイン_BD’sR
というわけで17話です。前回の終わり方的に今回はあの人の回ですが……ちゃんと書けてるか不安で不安で……(毎回言ってる気がする)
「お、いたいたー!初めましてアーチャー君!」
「お待たせしてすみません、初めましてホークスさん。」
「あいやいや!俺が早く着きすぎただけです!ささ、行きましょ!」
手をひらひらと振りながら衛宮を迎えるのは赤く大きな羽を持つプロヒーロー。新進気鋭なウィングヒーロー ホークスである。
数ヶ月前、突如衛宮の元へ一通のメールが届いた。ヒーロー協会を通して送られていたそのメールは一度も関わったはずがないホークス本人からだった。メールの内容は簡単に言えばヒーローアーチャーに対しての簡単な依頼。たった1人と話をして欲しいというだけであった。しかし、衛宮はその相手の事を知っていた。
「レディ・ナガン……最強の遠距離個性と言われ、逮捕されているヒーロー……」
「そう、よく知ってますね。もしかして元ファンだったり?」
「いえ、スナイプさんに以前少し伺った事が。」
ホークスは「あーなるほど」とそこまで気にしていないのか簡単な反応をし、厳重な門の前に備わった受付へと向かう。そこはまるで黒鉄の城……重々しい雰囲気を醸し出すそこは『対個性最高警備特殊拘置所』通称タルタロス。衛宮はその光景に思わず息を呑んだ。
「あー……アーチャー君……」
「はい?どうしましたか?」
「ちょっと早く来過ぎたみたい。」
苦笑いを浮かべるホークスが受付のガラスに指を指すと、そこにはカーテンと1時間後の受付開始時間が書かれたパネルが置かれていた。
「……早めの昼飯にでもしますか。」
「お!いい焼き鳥屋知ってるからそこ行こうか!」
タクシーを呼びタルタロスと本土を隔てる海に掛かる長い橋を移動し、店へと向かう2人。……尤もホークスの話す焼き鳥屋は夕方から朝の営業時間と速すぎる……いや早すぎる男を体現していた。
「いいとこ知ってましたねぇ〜アーチャー君!」
「ランチラッシュさん繋がりですよ。」
満面の笑みでぽんぽんとお腹を叩くとホークスは衛宮を見る。赤銅色に白が混じる髪。顔の一部が黒く変色し、そこにある眉毛までも白くなっている。表情は優しく、前評判の通り物腰柔らかい好青年。だからこそホークスは眉間を寄せ、思案に沈み黙り込む。
監獄の中を歩く2人と職員の1人。何もない殺風景な廊下だが、来客用という事が見て取れるようにゴミひとつない清潔な空間であった。複数の扉を通過しながら衛宮はホークスに話しかける。
「……何故俺が指名されたんですか?」
「んー……俺もアーチャー君を呼んでほしいって依頼を受けた側だからねぇ。詳しいことは聞かされてないんだよ。」
「聞かされて……ない?」
「うん。流石にタルタロスから直接連絡って事はないから、公安委員会から経由しての依頼って事。」
その回答に満足したのか、元々なんとなく聞いていた衛宮は「そうなんですか」と言葉を残し口を閉じる。しかし、ホークスの言葉に真実はなかった。言えなくて当然だろう。ホークスは公安委員会直属のヒーローという公にされていない肩書きを持っている。
元々今回の件とは別に一度レディ・ナガンとの面会が秘密裏に実施されていた。公安委員会の現会長の計らいによって誰の目に届く事のないようにタルタロスへ入れられたレディ・ナガン。投獄されて数年間、動きが一切なかった彼女からのコンタクトが公安会長へ突然現れた。その内容は「ヒーローアーチャーと会話がしたい」というものだった。
会長は一度その真意と面談可能な精神状態かの確認が必要と考え、ホークスを向かわせた。初対面であるにも関わらず明るく振る舞うホークスは飄々としながらも冷静にレディ・ナガンの様子を伺いながら話をした。結果として精神状態は問題ないと判断。真意に関しては彼女自身も理解できていないようで、公安から時々送られているであろうヒーローの記事を叩くと一言だけ口にした。
「コイツの目、どこか見た事ある気味が悪い目だ。」
一つの部屋が透明なアクリル板によって二分されている、ドラマなどでよく見る面会室へ衛宮とホークスは通される。そこにはオレンジ色の囚人服を身に纏うピンクとダークブルーの2色の髪の女性が……レディ・ナガンが既に居た。
入室した衛宮の姿を見るなりじーっと一つの動作も見逃さないように見つめ続ける。そんな様子に衛宮はついたじろいでしまい冷や汗を流す。
「……おまえがアーチャーか。」
「っ……!初めまして……レディ・ナガンさん。」
「随分な警戒のされようだな。」
「そりゃ入ってきてからひたすらに見られたら誰でも警戒くらいしますって。」
軽口を叩くホークスのおかげか少しリラックスした衛宮は対面の椅子に腰掛け、目の前に座る彼女の目を見る。その目は切れるような鋭い目をしており、あまりの力強さに圧倒されそうになっていたが心の中に渦巻く一つの疑問によって気にならなくなってしまっていた。お互いの目を見続ける短い時間が過ぎ、その沈黙を破る声が発せられる。
「えーっと、お2人さんどうしたんです?睨み合っちゃって……もしかして」
気まずい雰囲気に耐えられなくなったのか軽口を続けようとするホークスの声を遮って2人の声は同時に発せられた。
「その目……似ている。」
「その目……あの時のじゃない。」
「…………へ?」
1人置いてけぼりなホークスは間の抜けた声を思わず出してしまっていた。2人の表情は変わらず、寧ろナガンの目はより鋭くなりより強く衛宮の目を睨みつける。対する衛宮は僅かにだが目を開き瞳は揺れ、驚きの様子を見せていた。
「あの記事のおまえの目。どこかで見た事があると思った。」
「……!」
少しの静寂の後ナガンが口を開く。衛宮は知らない既にホークスと話をした時の話題。その話題をいきなり持ってくる事にホークスは思わず反応してしまう。
「気味の悪い目。見たくない目。幾つものヒーローを始末していた時の私の目だ。」
「ちょ……っ!?」
「ヒーローを始末……!?」
1回目の面談の際、ホークスは幾つか注意事項を話していた。公安が行なっていた秘匿命令。犯罪に手を染める……染めようとするヒーローの暗殺。公安元会長の殺害。そして自分が公安直属だという事。
しかし彼女はその約束をすぐに破った。その言葉にホークスは驚愕し衛宮は混乱しながら驚きの反応を見せていた。
「罪ごと消した。
「ヒーローという存在を信頼たるものへと維持する。それがレディ・ナガンというヒーローの役割だった。」
「そこに意思は無くただただヒーロー社会という世界の歯車となっていたんだ。」
「……彼が、アーチャーがそんなあなたと同じ目をしていたと?」
「ああ、そうだと思っていた……がどうやら勘違いだったようだ。」
そういうと彼女は少し表情を崩す。ふぅっと軽く息を吐くと少し柔らかく、困ったように少しだけ口角を上げる。
「あんな目してる奴がヒーローとしていたのならそれは繰り返しているんだと判断していた。私という存在をただ忘れ蓋をしていただけだと判断していた。」
「そう……か……」
ナガンが身の上話をしていた時からずっと顔を俯かせていた衛宮がようやく声を出す。その顔は俯いたままでホークスからは表情すら読み取れなかった。しかしその声は先程まで共に食事をした優しい好青年のそれとは違った。
「ホークス……さん。少し席を外してくれないか。」
「ア、アーチャー君……?ええ、いいですけど……」
その感情がいまいち見えない声に言葉遣いに、そしてチラリと見えた鋭い眼光にホークスは思わずたじろぎ言われるがまま部屋を出てしまう。
そんなホークスの様子に、そして何より雰囲気が一変した目の前の男に彼女は先程よりも強く睨みつける。警戒心を剥き出しにした彼女は話を続ける。
「何か聞きたいことでもあるのか?いきなり一対一で話したいなんて。」
「レディ・ナガン。君はこの今のヒーロー社会をどう思っている?」
「……お前……誰だ。」
「おっと質問しているのは『私』だ。」
「……そうかよ。今の社会についてだったっけ?酷いもんさ。薄く脆く少し崩れるだけであっという間に崩壊する虚像。酷く濁り切った社会だ。」
肩をすくめ軽く馬鹿にするように言い放つ彼女の顔は暗く、今の社会がそれを甘んじて受け入れている思考だから私はここにいると言わんばかりに酷く苦い表情をする。
そんな言葉に呆れるように軽く息を吐く男はやれやれと首を振り口を開く。
「そんなところだろうと思ったが……生憎君のその考えは世界を破滅へ導く者への駒としかならないがね。」
「……話させておいてそれかよ。とんだ皮肉屋だな。それに妙に具体的な…………っ!おまえその目っ!」
「ああ、まるで鏡だな。しかも酷く出来の悪い物だ。あの時よりかは幾分マシだが。」
ガタリと音を立ててナガンは立ち上がる。その目を見て立ち上がる。対面するその男は目を閉じ立ち上がると、ゆっくりと瞼を開き彼女と目を合わせる。
やがてナガンは考える事が面倒になったのか、舌打ちをするとドカッと乱暴に椅子に座り背もたれに体を預けだらっと力を抜く。
「ったく……本当に何者なんだよおまえ。」
「お前と同じ道を辿り既に終わった身だ。」
「終わった……?何言って……」
「一つ忠告をしておく。」
「この世界は現在非常に不安定だ。」
「……あぁ、そうさっき言ったろ。」
「いや、社会的な話ではない。『世界』の話だ。」
何を言っているんだと言わんばかりの呆れを浮かべるナガンを気にも留めず、男は抑揚のない声で淡々と話を続ける。
「並行世界。パラレルワールド。人理定礎を元に分たれた道。……だがどういう訳かその根本的な因果がズレ始めている。」
「は?オイオイ急に何訳の分からない事を……」
「今の世界は本来進む道から乖離したという事だ。本来では枝分かれしている幾つもの世界。しかし、本来ではあり得ない筈の干渉が発生している。世界の道標が歪んでしまっている。そのうねりに無意識ながら誰もが巻き込まれている。当然君も。」
「私が……?」
混乱している彼女をよそに男は深く息を吸い込むとゆっくりと目を閉じ立ち上がると部屋の扉へと向かう。
「オイッ!待てッ!!」
「……この先何が起きるか私にすら分からない。だが、世界をどのように導くのかはこの世界で生きる者達だ。」
「なんなんだッ!?お前は何者なんだッ!?」
「………何と言われても、私は正義の味方を志すただの歯車さ。君と同じく世界のな。」
話を続けたいのか荒げる声と共にナガンは静止の言葉を投げかけるが、男は無視し部屋を出る。取り残されたナガンは取り乱した息をゆっくりと整え、一方的に話された言葉を忘れない様に瞳を閉じ先程とは打って変わって静かに椅子に座る。
考えれば考えるほど理解ができないその内容に、しかし自分に社会に全てに関わるであろうその内容に元とはいえヒーローである身が思考を止める事ができない。
「アーチャー……何を考えて……」
「随分と盛り上がっていたようですね?アーチャー君。」
「……ホークスさん。お待たせしてすみません。」
「……後で面談の内容を監視カメラから見させてもらいますからね。」
「えぇ、問題ありませんよ。」
その表情はすっかりと元に戻り、まるで憑き物が落ちたかのような変わり様であった。その様子にホークスは緊張を解き、柔らかく微笑み返す。
「どうします?夜飯でも行きますか?時間的にさっき言ってた焼き鳥屋開いてそうですけど。」
「……ごめんなさい。実は今日中に行かなきゃいけない場所があるんですよ。」
「へぇ?どこ行くんですか?」
「冬木市に……家に帰らないといけないので。」
最後まで読んで頂きありがとうございました!こっから物語がどんどん動き出しますよぉ〜!……料理系が読みたい人には本当に申し訳ないです。かなり少なくなりそうです。
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