そう願い伸ばす手が届くかどうか、それは分からない。
裏も表も踏み越えて、ただただ突き進め。
きっとそれは、世界を変える。
雑念を払え一心に励め、ただ試合に集中しろとは言う。でもそれが極まると、一周回って頭の中は透明になっていく。身体は頭と切り離され、今までに刻み込んだ技術を実行するオートパイロットになり、研ぎ澄まされた理想的な動きだけがそこにある。いわゆるゾーンってヤツなんだろう、これは。
考える必要がない、脳を経由せず身体が動く。周囲の全ての情報が勝手に入力され、最適化して出力されている。今の私はきっと、バスケをする為の機械だ。
それが幸福で、仕方無い。
このメンバーでする最後の試合に、最高のコンディションで臨めて良かった。欲を言えばもっと前、インターハイの時点でこれが出来ていれば。そうなってくれたなら、千夏を泣かせずに済んだかもしれない。
あんなにも懸命で、あんなにも直向きなあの子を泣かせてしまったのが、今でも心苦しい。
みんなバスケが好きで努力を重ねて、それでも挫折しながら歩んできた。千夏だけが辛い訳じゃない、それが分かっていても私は思ってしまう。千夏が報われないなんて、そんなのは世の中の方が間違っているんだと。
家族の都合で日本を離れるかもしれない、と聞いたときは生きた心地がしなかった。夢佳の次は千夏までいなくなるのか、とベッドの中で震えながら泣いていた記憶は、今も鮮明に残っている。結果的に残ってはくれたけど、それが千夏にとって強い覚悟の上での決断だったと知ったのは文化祭の少し前。
一つ下の男子がいる、親の知り合いの家に預けられた。そう聞いたときは思わず「あんたバカなの!?」と声を荒げてしまったっけ。だって……うん、男子と一緒とか色々と心配になるし。まあ同居人くんは悪い子ではないようだし、ヘンな気を起こしたりはしてないみたいだけど。
でもまあ、千夏にとって良い影響にもなっているっぽい。大きな試合を前にしても気負うことなく自然体でいられていたのは、きっと彼の存在があっての事だろう。この先付き合ったりとか、そんなのもあるんだろうか。
ちょっと頼りないところもあるけど、千夏を託すには及第点かな。もうちょっと見極めに時間をかけたいけど、まあそれは今度で良い。
今必要なのは、目の前の勝利だけ。ただそれを果たすため、身体に鞭をくれてやる。
肺は破裂しそうに疼き、全身が軋む音がする。それでも止まるな、動け。私はまだ動ける、なら死んでも食らい付け。
「――っ」
紙一重で指先を触れさせ、強引にボールの軌道をねじ曲げる。あと一歩踏み込めていたら取れていた、先輩に直接パスを回せていた。全身全霊をかけてフル回転して尚、私の技量は相手にまだ及んでいない。自分にできる最高のパフォーマンスでさえ、ほんの少し届かない。
そうか、これか。これが夢佳の見ていた世界なんだ。どんなに才能と努力を掛け合わせても、それが勝利に繋がる訳じゃない。だから夢佳はいつだって、苛立っていた。自分がもっと上手くなれれば、ともがいていた。そりゃそうだ、これは辛すぎる。培ってきた全てを費やしても、それは評価の対象外。準優勝は敗者だ、勝たなければ意味がない。何処まで行っても上がいて、なのに自分の力には限界がある。
――だけど。素直に折れていられる程、私たちは脆くない。全力で伸ばしても届かないなら、腕を切り落としてでも先へ飛ばしてやる。
夢佳がいたら、そう檄を飛ばしただろう。いやもっと口汚く煽るかな、あのイヤミ大臣の事だから。
分かっているさ、知っているさ。負けたからって負けっぱなしでいられない、それでこその私たちだ。勝利はいつだって、限界を一歩踏み越えた所にある。だから命を捨ててでも挑め、私。
汗にまみれ絶死の覚悟で走り続ける、それが何よりも幸せ。もっともっと闘いたい、競いあいたい。
でも
ああ、ああ――祭りが終わってしまう。