まるやまっ!   作:わらしべいべー

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今日のお昼ご飯は値上がりしたマックでした。


【前回のあらすじ!】
・俺が!俺たちがRoseliaファンなんだぁ!!(サイリウムアーマー没収済み)
・美咲ちゃんの運命の分岐点発生
・衝撃!謎のシングルバンドガールマルヤマ仮面降臨!






らららいぶ!

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、まずったなぁ」

 

 ライブの参加者待機室前。宇田川巴は1人悩んでいた。

 悩みの種は大きく、普段は快活で明るい彼女が下を向いて苦い顔をするくらいには重篤だ。

 

「何で逃げてきちまったんだろ…」

 

 実のところ、宇田川家の姉妹仲は良好とは言い難い。明確に嫌悪しあっているわけではないが、半ば喧嘩別れのような状態で気づけば数年が経過していた。

 喧嘩の原因も正直ほぼ巴に非があると言って良い。だからこそ今日の機会に仲直りと思っていたのだが、数年の間に築かれた溝は想像より大きかったらしく、妹を目の前に逃げてきてしまったのだ。

 

「……戻ろう。そんでちゃんとあこに謝るんだ」

 

 そう呟ききた道を引き返そうと歩き出す。するとガチャガチャと何か機材を探るような音が聞こえてきた。どうやらこのスタジオから聞こえてきているようだ。

 スタッフが楽器でも探しているのだろうか。そういえばプロのバンドグループが遅刻してライブが遅延しているとか放送で言っていた。さぞかしスタッフも忙しいだろう。

 そんなことを考えていると、音が聞こえていた扉が勢いよく開いた。

 

「キーボードゲットだぜ!結構上等な奴だし、これならノープロだねノープロ!」

 

「……ぇ」

 

「衣装とかはあの衣装からペンライト取って……ってあれ」

 

「………」

 

「あーっ!君あれでしょ!えーっと、そう!Afterglowのドラムの人!良かったよ演奏!体の芯に響いてきたよね!力強いドラムのリズムが」

 

「丸山彩…」

 

「パない……って、え?」

 

 唐突に本名を言い当てられた彩は動きを止める。対する巴はまるでそこにいるはずの無い存在に会ったかのように目を見開いていた。

 

「あれ?んー、君どっかで会ったっけ。ウーム…」

 

「………」

 

「…ん、あっ、いや待って!違うぞ!私は丸山彩では無い!ハルカちゃんだ!あ、いや違うミッシェル仮面だぞ!ほらミッシェルのお面あるし!」

 

 慌ててお面を被る彩だが時すでに遅し。巴は完全に確信を得てしまっていた。

 

「……」

 

 巴の脳内に蘇っていく記憶。

 目の前の彼女の挙動に声、その一つ一つが鮮明にかつての記憶を掘り起こす。あの日、あの場所で刻まれた決して剥がれ落ちない焼き跡。精神の異常は心のみにとどまらず、浅い息を繰り返す。

 

「…んー?まぁいいや。今から私ライブするからさ、良かったら見ていってよ。今日は最高な時間になりそうな予感がするんだ!」

 

「………らい、ぶ?」

 

「うん!最後のバンドの人たちが来るまで時間稼ぎすることになったんだー」

 

 らいぶ。…らいぶ?…ライブ!?

 一気に意識が現実に戻される。同時に湧き出てきたのは、一刻も早く目の前の存在を止めなければいけないという使命感。

 

「ちょ、待ちなよ!」

 

「え、なに?」

 

「…ッ」

 

 瞳がこちらを射抜く。それだけで気後れをしてしまいそうになる。しかし止まるわけにはいかない。あんな事を目の前で2度も繰り返させるわけにはいかないのだ。ましてや蘭たちがいるあのステージで。

 

「い、行かせない…!絶対行かせない!!」

 

「何事?お腹痛いの。お手洗いなら後ろだよー?ほら離した離した!」

 

「嫌っ、絶対嫌だ!またあんな事を繰り返すつもりなの!?そんなこと絶対やらせない!あたしらみたいな被害者はもう出したくないんだ!」

 

「…??? よくわかんないけど、どこかで会ったことある?ごめんねー、顔思い出せないや!」

 

「……おい、まさか本当に覚えてないのか?あんな事をしておいて…!?」

 

「覚えてない!!ごめん!!」

 

 その言葉と同時に、巴の怒りは爆発。怒りのまま綾の胸ぐらを掴む。

 

「…ッ!!ふ、ふざけんなよッ!!あんたのせいでどれだけの人間が苦しんでると思ってんだ!!どれだけ…!どれだけあたしらが苦しんだと思ってるんだ!!今もおかしくなってるやつだって…!!」

 

「でもそれって私が演奏をやめる理由にはならないよね」

 

「………はっ?」

 

 一瞬何を言ってるのかが理解できなかった。巴の慟哭など意に介さず淡々と言葉を続ける。

 

「要するに私が歌ったら苦しむ人が増えるから歌うなって言ってるんでしょ?なんで私が他人のために演奏する事をやめないといけないの?」

 

「…おまっ、なんでって…!」

 

「音楽は自由だよ。誰に制されるでもなく、誰に縛られるでもなく、ただ人前で謳歌できる凄いコンテンツ。その特権を顔も知らないような人たちに奪われる謂れはないよ」

 

「…………………………」

 

 感性が違う。

 巴はずっと彼女に思いの丈をぶつければどうにかなると考えていた。真正面から当たればどうにでもなると思っていた。

 しかし甘かった。彼女はそもそも自分の歌で影響を受ける他人のことを見向きすらしない。完全なる興味の喪失。

 そもそも基盤となってる信条の違いが最悪の食い違いを生み出した。巴がどれだけ被害者として声を張り上げようと、彩には何も響かない。何故ならどうでもいいから。

 

「ほらそろそろ離して。早くステージ行かなきゃいけないからさ!」

 

「…ッ!嫌だ!行かせない!言って聞かないなら力尽くで──」

 

「離せ」

 

「はい」

 

 するりと巴の手は彩の胸ぐらから離れる。

 

「………え?…はっ?」

 

「ライブぜってえ見てくれよな!最高のステージにするから!じゃーね!」

 

 そうして彩は廊下の角を曲がって走り去っていった。

 ただ呆然と彩の消えた曲がり角を見る巴。数十秒経って、ようやく巴は状況を理解した。同時にその場に膝を折る。

 

「……………畜生」

 

 そう言って大粒の涙をこぼすことしか今の巴にはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に丸山彩は誰かと演奏する時はその演奏相手に合わせるように心がけている。

 

 以前に路上で共に演奏した戸山香澄が良い例だ。あの時彩は極限まで香澄と音の背丈を合わせていた。彩の視点から言えば手加減をしていたと言って良い。

 いや、本来演奏とはそういうものだ。互いに互いの息を合わせて一つの曲として昇華させていく。前に出過ぎず、後退し過ぎず。足並み揃えてこその音楽。それこそが演奏の在り方なのだ。

 

 しかし丸山彩に限ってはそれに当てはまらない。

 

 彼女にとって演奏とは自分1人で成立するものであり、本来誰の手も必要ないのだ。そこに何者かが混ざっても彼女1人の演奏の劣化か、不協和音にしかなり得ない。

 かの氷川紗夜と演奏した時でさえ彩は無意識に彼女に音を合わせていた。とはいえあの時の彩は限りなく本領に近かったのも事実だが。

 兎も角、結局のところ何が言いたいのかというと、彩は複数人よりも1人で演奏した方がその本領が遺憾無く発揮されるということである。

 

 何者と組まずとも最初から丸山彩の音は完成しているのだ。

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

『イェーーーーーーーーーーイッ!!!』

 

 

 まるで気分がハイになった不良学生のようなハスキーボイスが会場をぶち抜く。

 しかしそんな低俗な音からは想像もできないほどの高い技量が観客たちを魅了していく。視界に映る可視化されたクロスの光。その軌跡がまるで会場全体を輝かせるかのようにギラギラと極光を放つ。

 

 共に鳴るキーボードの音。荒く無茶苦茶に叩いているようにも見えるそれは、しかし素人から見ても美しく調和のとれた指運びだと理解できる。

 そして何より弾かれ発せられる音。彼女の歌声と完全に組み合わさったそれは、両方を合わせて限りなく完全に近いと思わせるものだった。

 

 全員が目を奪われる。

 全員が目を離せない。

 全員がのめり込んでいく。

 

 その完成された演奏に。

 

「……すごい」

 

 そう言葉を発したのは誰だったか。しかし全員の感想は一致していた。

 一度はその演奏を間近で聴いたRoseliaの面々。あの時は立つことがままならないほどの光が照っていたが、慣れたからなのだろうか。今は倒れるどころか逆に活力と多幸感が湧いてくる。

 確かに今、彼女たちはその音を、その姿を、はっきりとその五感で感じ取れていた。

 

「………」

 

 言葉をこぼす余裕すらも消えていく。今この会場にいる観客全員が、一秒でも長く彩の歌を、音を脳内に詰め込もうと必死にリソースを注いでいる。

 呼吸すら忘れる。瞬きすら忘れる。経過した時間すら忘れる。その圧倒的かつ象徴的な存在感に。

 

『最☆強』

 

 その言葉で演奏は締められピアノの音の余韻と共に光のドームは幕を閉じる。

 全員が数秒何も言えなくなる。演奏が終わってしまったという喪失感と処理の追いつかない脳細胞が拮抗し、そうしてようやく数人のまばらな拍手が飛び始めるが、その瞬間に次の演奏が始まった。

 

 数秒、と言っても十秒も経過していない。拍手も喝采も要らぬと言わんばかりに、彩は再び世界を光で満たす。

 彼女に今観客に気を遣う気などさらさら無かった。折角のステージ。折角の観客。折角の自由。今丸山彩は貯めていたものを溢れ出し、爆発させている。

 止まることも、止める者も、もういない。

 彼女の気の赴くまままでこの極楽は続く。満足させるのではない、満足するまで終わらない。

 

『はっははははははははーっ!!!えんどれーーーーっす!!』

 

 過去最高に楽しそうな表情を浮かべる彩に対して、観客はその熱線に耐えられず1人、また1人と倒れ伏していく。しかしそんなことはお構いなしに彩はさらにギアを上げていく。

 それに釣られるように会場から歓声が湧き上がってくる。弾いている曲は彩完全オリジナル。到来するワクワク感はその場にいる人々の感性をぶっちぎっていた。

 

(………遠いわ。本当に)

 

 友希那は1人感慨深る。

 届いたなどと思っていなかった。追いついたなどと思っていなかった。しかし、あまりに遠かった。

 たった1人で、いや1人だからこそ完成させられる演奏の極地。また色濃く己の脳に彼女の存在が刻み込まれるのを自覚する。

 いつまで経っても届く気がしない。しかしそれは逆にたどり着くべき場所が明示されたということでもある。

 

(Roseliaはこれからも止まれないわ。彼女に、ハルカに追いつくためにも)

 

 そしていずれは対等に、素晴らしい自分として彼女の前に立ちたい。手を固く握りながら、切にそう願っていた。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 ーー

 ー

 

 

 

 

 

 

「いやいや、こんな遅刻するなんて思わなかったなぁー」

 

「リーダーが時間間違えるからだよー?おかげでとんだとばっちり受けちゃったじゃんー」

 

「ホントだよー」

 

「まぁまぁ、今からライブなんだから落ち着いてって。観客のみんながあたしらを待っている!」

 

「だ、大丈夫かな…。もう予定の時間より1時間異常遅刻しちゃってるけど…」

 

「大丈夫だって。ほら私ら上手いし」

 

「そうだぜ。むしろ私らの演奏を聴けるんだから多少の遅刻くらいは目を瞑ってほしいもんだ」

 

 彼女たちはプロバンドとして活動しているグループ『RUN RUN』。その粗暴さと炎上スレスレの問題行動からその業界では特に問題視されている5人グループだ。

 一方的な遅刻を理由にライブに出遅れた彼女たちは、ようやくライブハウスCIRCLEへと到着した。

 

「…ん?なんかライブハウスの前変じゃねーか?」

 

「きゅ、救急車ですね…。人もいっぱい…」

 

「トラブル発生ー?」

 

「あのライブハウスちっさぇからなぁ。機材トラブルでもあったんだろ。ははっ、間抜け」

 

「言ってる場合かよ。このままじゃあたしらのライブが台無しになっちまうじゃねーか。無駄足はごめんだぜ」

 

 5人は人混みを避け、裏口からライブハウスへと入る。

 スタジオに行くまでの道中、見知った顔と会った。

 

「お、後輩ちゃーん」

 

「…あっ、皆さん……。やっと来たんですね…」

 

「外どうなってるのあれ。なんかいっぱい人来てたけど、なんかトラブったワケ?ライブは?」

 

「………えっと、ライブは…、運営側がプログラム進行不可能と判断しましたので……その、中止になりました」

 

「…は?」

 

 空気を割るように響くリーダーの声。その中には明らかな苛立ちが混ざっていた。

 態々こうして遠い地から予定を開けて足を運んできたというのに中止などと、到底受け入れられる事実では無かった。

 

「と、取り敢えず見た方が早いと思います。一緒に来てください」

 

 そう言われて5人はスタジオを通り、舞台裏からやけに騒がしいステージ前の観客席を覗き込む。

 

「……なんだよこれ」

 

 異様な光景だった。

 観客であろう人たちが無数に倒れている。何十人ではない、何百人だ。動けるスタッフや救急隊員が慌ただしく介抱をしている様子が見て取れる。

 知らぬ人が見れば毒ガステロで起きたのではないかと思わせるかのような光景。全員の背筋に嫌なものが走る。

 

「おーい!後輩ちゃん!」

 

「あ、まりな先輩…」

 

「もう大丈夫なの?体調良くないから休んでくるって言ってたけど…」

 

「はい、大丈夫です。もう幸福です」

 

「え、幸福?」

 

「なんでもないです。それよりナガレ先輩は…」

 

「見てないけど…、一緒にいなかったの?」

 

「はい、どこかに行ってしまったみたいで…」

 

「困ったな…、オーナーも倒れて病院いっちゃったし、頼れるのあの人だけなんだけど…」

 

「…もしかしたら、追いかけていったのかもしれないです」

 

「追いかけたって、例の子?」

 

「はい、演奏が終わったらすぐに逃げ帰っちゃいましたから」

 

「やるだけやって帰るってなんで傍迷惑な…。それに今でも信じてないよ、1人のライブでこんな有様になったなんて」

 

「まりな先輩はちょうど備品の買い出しで聞けてないから、仕方ないですよ。きっとあの子のライブを聞けば私の気持ちもきっと理解できます。…ええ、本当に、良かったんです。すごく幸せで、まるで極楽で…」

 

「…やっぱり疲れてるよ後輩ちゃん。ほら、後ろ下がっておいて。あとは私がなんとかするから」

 

「…あの」

 

「…あっ、RUN RUNの皆んな。ごめんね、見ての通りこんな感じだからさ、ライブ中止になっちゃったんだ。埋め合わせは絶対するから、ごめんね!」

 

 そう言ってまりなは後輩を連れて舞台裏へと消えていく。5人はその様子を何もいうこともできずにただ呆然と見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

「世を駆ける超絶美少女が現れた!Roseliaはどうする!」

 

「ハルカ……!」

 

 1時間近くにも及ぶスペシャルライブを乗り切り、救急隊員が迫る前にライブハウスを出たRoseliaの面々はその帰路に合うことはないと思っていた人物に遭遇した。

 しかしそこには友希那とリサの2人しかいなかった。てっきり全員いるものかと思った彩は目を丸くする。

 

「あれれ?2人だけ??」

 

「あはは、そうなんだよね。みんな帰っちゃって…」

 

 彩の逃亡直後、紗夜は彩を探すために解散。あこは巴と話すために解散。燐子もどうしてもしたいことがあると言い1人本来の帰路とは逆の方向へと帰っていった。

 ライブが終わった喪失感とも言える心の穴のせいで呼び止める気力すら湧かず彼女たちの後ろ姿を見ることしかできなかったが、それは今目の前に喪失の原因が現れたことでピッタリと埋まった。

 

「ま、いっか。超良かったよライブ!痺れちゃったね!みんな超イケメンだったよ〜!キラキラ輝いてた!」

 

「……ふふ、貴女がそれを言ったら私たちの立つ瀬が無いじゃない。改めて素晴らしい演奏だったわ。人を倒したり、終わった瞬間に逃げ出すのは宜しくないけれど」

 

「倒れたみんなはきっと満足したんだよ!ほら皆んな幸せそうだったでしょ?なら私の目的は達せたわけだ!」

 

「……ええ、そうね。そうに違いないわ」

 

「ん?」

 

 友希那はそう言うとハルカに近づいて正面から倒れるように抱きついてきた。

 

「およ?どしたの、疲れちゃった?」

 

「……ええ、少し疲れたの。休んでいいかしら」

 

「いーよ。ライブって楽しいけど疲れるからねぇ」

 

「そういう貴女はあれだけ歌ったのに息も切らしてなかったじゃない」

 

「ふふーん、体力には自信があるのよ!」

 

「友希那だけずーるい!私もー!」

 

 そう言って背中にリサが飛びついてきた。驚いてバランスを崩しかけるが気合いで持ち堪える。

 

「はぁー、やっぱりすっごい安心するー…」

 

「……そうね」

 

「もーなにー?2人して。もしかして私に惚れちゃったー?全く困っちゃうぜー」

 

 あははーと冗談混じりに言うが、割と冗談にもならないのだ。

 丸山彩は言ってしまえば存在自体が甘露な毒。麻薬のように脳内へと溶け込んでいくそれは、人の精神に多大な影響を与える。

 

 そしてそれが今ある人間関係に決定的な軋轢を与えていくのは必然のことだった。

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 夕陽が差し込んでいる街路。

 奥沢美咲はだらしなくも惚けた顔を浮かべながら帰路を辿っていた。

 

「……」

 

 其れは未知の体験だった。

 見たこともない世界、見たこともない姿、聞いたこともない音。そしてあまりに輝かしいヒカリ。

 その全てが美咲の身体を精神を容赦なく貫いた。

 

(……丸山先輩。あんなに上手かったんだ…)

 

 いや、もはや上手い下手の領域を超えているのかもしれない。

 美咲は音楽に関しては作曲以外は素人も良いところな立場だが、彩の演奏が他と比べても明確に隔絶していると言うことは理解できていた。

 

「………綺麗、だったな」

 

 その強烈な姿になす術もなく倒れた美咲だが、その最中に最も心に残ったものがある。

 

 ピアノだ。

 美咲はキーボードを弾く彩の姿が、奏でる音が、頭から離れないのだ。

 抱いている想いは、羨望か。あの会場にいた誰よりも自由に、そして楽しそうにキーボードを叩いていた彼女を心底羨ましく感じているのかもしれない。

 ハロハピというどこよりも自由なバンドに所属しておきながら、何たる贅沢か。しかし一度生まれた想いはそう簡単には消えない。

 

(…今度、丸山先輩にまた教えてもらいに行こうかな)

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「…既読、つかないわね」

 

 紗夜は道の真ん中で小さく呟く。

 演奏が終わった瞬間に飛び逃げていった彩を追いかけて会場を出てきたが、よく考えれば身体能力で彼女に勝てるはずがなかった。一瞬で見失ってしまい、メールや電話にも出てこず、今に至るまで見つけられていない。

 しかしそれにしても彼女も意地悪である。いったいどんな理由があったのかは知らないが、1人でライブを強行するなど、どうせなら自分も誘って欲しかった。一刻も早く彩に追いつくためには彩と一緒に演奏をするのが最も手っ取り早いのだから。

 …いや、きっとそれは言い訳だろう。紗夜は理解していた。彼女1人の演奏は明らかに2人で演奏していた時よりも上等であったことを。自分がまだ彼女の足を引っ張っていたと言う事実をまじまじと突きつけられたのだ。躍起になって探したくもなる。

 

(……一度帰りましょう。もしかしたら先に帰ってるかもだし)

 

 今日の食事当番は彩だったはずだ。帰ったらライブ祝いと称して豪勢な食事が用意されているかもしれない。

 胸が高鳴り自然と口角が上がる。仮にいなかったとしても一緒に作れば良いだけである。どこをどうとっても幸せだ。そうと決まれば一刻も早く帰ろう。足早にその場を後にする。

 

「おねーちゃん」

 

「!」

 

 その場にいないはずの声が響いた。急速に身体の熱が冷めていく。紗夜はゆっくりと後ろを振り向く。

 

「やっと…見つけた…」

 

「……日菜」

 

 2週間以上会っていなかった妹が目の前にいた。

 日菜は喜びが耐えられないと言わんばかりの表情で足早にこちらに近づいてくる。

 

「どうしてここに…!」

 

「ライブするってりさちーから聞いてたから、あの会場にいれば絶対会えるって思って外で待ってたんだー。…でも良かった。急にライブハウスを飛び出した時はもう見つからないって思っちゃった」

 

 紗夜は息を呑む。紗夜が最も恐れていたことが起きてしまった。

 氷川家の中で最も恐ろしい人物は誰かと問われれば、紗夜は即座に日菜と答える。父親も母親も多少の鬱憤晴らしはしてくるが、その感情の根幹は無関心だ。しかし日菜は違う。何を考えているのか彼女は姉である自分に異様に執着している。

 紗夜は日菜が苦手だ。自分と比べるまでもないほどの才能の差は勿論だが、何よりも不気味なのだ。自分以外にも世界はあると言うのに日菜は自分と姉しかいないように振る舞う。なんでも片手間に成し得る才能を持ちながら何も持ち得ない自分に執着する。それが堪らなく嫌だった。彩と出会ってその嫌悪感はより明確に自分の中に現れたと思う。

 

 そんな事を考えているうちにみるみる2人の距離は縮み、紗夜が後ろに下がるよりも速く日菜は紗夜の腕を取る。

 

「ほら、帰ろ。おねーちゃん」

 

 恐ろしいほどいつも通りにそう話しかける日菜。

 怖い。正直、身を引いて逃げ出しそうになる。しかしここで逃げても事態は何も解決しない。延々と追いかけ回される事だろう。そうなれば必然に彩も巻き込むことになる。それは嫌だ。

 ここで日菜と決着をつけなければならない。

 

「……嫌よ。私はもうあの家とは、貴女とは縁を切ったの」

 

「そんなことない。まだあたしとおねーちゃんは繋がってるよ。ほらっ」

 

「ッ…!」

 

 力づくで引っ張られる腕。鈍い痛みが走る程に強く掴まれたそれは、日菜の執着の強さをそのまま表していた。

 

「帰ったところで、あの家に私の居場所なんてないわ。父も母も私を必要となんてしていない。貴女といても心が苦しいだけ。私にはあの家にいる理由がないのよ!」

 

「ある。あたしにはあるよおねーちゃん。おねーちゃんがいなくなってあたしすごく苦しかった。あたしたちは姉妹なんだよ?双子なんだよ?家族なんだよ?いなくなっちゃうなんて許されないんだよ。だから帰ってきて」

 

 ドロドロと日菜の口から出てくる本心。紗夜は敢えて作っていた自分の妹との隔たりを壊された事を感じ取る。

 

「居場所もあたしが作ってある。あいつらもあたしが説得した。もうあの家におねーちゃんとあたしを邪魔する奴なんていない。だから──」

 

「嫌よ!私にはもう自分の居場所があるの!…これ以上関わらないで」

 

 明確な拒絶。日菜を心底恐れている紗夜にはこの選択肢しか選べなかった。

 唖然としている日菜の手を振り払い、そのまま背を向けて走り去ろうとする。

 

「……………やっぱり、アイツなんだ」

 

「…ッ!」

 

 地の底から響くような声が聞こえた。

 同時に胸ぐらを掴まれて押し倒される。軽く頭を打ち痛みに悶える。

 

「ちょっと貴女何を…!」

 

「丸山彩」

 

「…ッ!?なんっ」

 

「あはは、その反応、やっぱりそうだったんだ。…おかしいと思ったんだよ!!」

 

「ッ!!」

 

 突如豹変した日菜。見たこともない怒りの形相を浮かべて地面に押し付けた紗夜の腕に万力を込める。

 紗夜はその場から逃げようと踠くが、日菜の腕はびくともしない。

 

「無駄だよおねーちゃん。力だってあたしの方が強いんだから」

 

「日菜…!こんな馬鹿な真似はやめなさい…!」

 

「……おねーちゃんが悪いんだよ。あたしのことなんか見向きもせずにずっとアイツのいる方を向いてるんだから…!!」

 

「っ痛ぅ…!」

 

「あはは、怯えておねーちゃんも可愛いよ。…うん、るんっ♪て来る」

 

 瞳孔が開いた瞳が紗夜を貫く。

 見ているだけで気分が悪くなる。一刻も早く目を逸らしたい。

 今の紗夜にとって日菜は自分をあの地獄に連れ戻そうとする悪魔同然。仮にどれだけあの家がマシになっていようとも彩の下から離れるつもりなどさらさらなかった。

 

「ほら、あたしと一緒に帰ろう。おねーちゃんはあたしのおねーちゃんなんだから!」

 

「…違うッ、私の居場所はもう丸山さんの隣なの!氷川家じゃない!!」

 

「あははー、聞こえなーい。大体さー、アイツのどこが良いの?勉強だって今ひとつだし、学校の評判も良くない、少し運動はできるらしいけど、それくらい」

 

 そんなわけないと、怒鳴り散らしたい気分だった。しかし日菜の有無も言わせぬ雰囲気がそれを許さない。

 

「それにさー、あたし見つけちゃったんだよね」

 

 ケラケラと笑いながら体を起こす。まるで嘲笑うかのようにこちらを見下ろす。

 

「アイツの、丸山彩の前科ってやつ」

 

「前科…ですって…?」

 

「そう。明確な逮捕歴があるってわけじゃ無いけど、酷いことしたらしいよー?」

 

「………」

 

「経歴から見て不自然だったんだよね。中学以前までの記録が不自然に飛んでてまっしろけ!で、ちょっとハッキングして調べたらわかっちゃったんだよね」

 

 スマホを操作して、紗夜に画面に映ったそれを見せつける。

 

「ほらこれ。栗山小学校大量昏倒事件!アイツはこの事件の容疑者。けど被害があまりに子供離れしてるから警察に事実を隠蔽されてる」

 

「……」

 

「音楽発表会中、学生543人、教師32人、親族102人昏倒!いやー、一体どんな手段使ったんだろー。しかも学校内の人間関係が原因だってさ。あはは、おっかなーい」

 

「…………」

 

「あ、やっぱり知らなかったんだ。まぁそうだよね。自分から前科あるますなんて言う馬鹿はいないよ。でもそれってずっとおねーちゃんに嘘ついてたってことじゃない?あはは、酷ーい」

 

「帰ろ、おねーちゃん。こんな奴と一緒にいたら、おねーちゃんまで余計なとばっちり受けちゃう。だから、ほら」

 

 

「………………」

 

 

「帰ろ?」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「やっと解放されたでござる…」

 

 ようやく2人から解き放たれた彩は疲れた表情で帰路を辿っていた。

 

「ファンなのはすごく嬉しいけど、スキンシップ激し目は当方NGなのだよなー」

 

 正直ライブするよりも何倍も疲れた。まるで幼子を相手取るようなあの感覚は前世の社会人時代を思い出す。生まれ変わってもファンへの対応は大変である。

 

「お、紗夜ちゃんから連絡きてる。…えーと、ジャンクフード屋さんの前で待ってる、か。よし決まり!なら行こう!」

 

「待ちなさい」

 

 いつの間にか彼女たちは彩の視線の前に立っていた。見た顔だった。

 現れたのは2人。美竹蘭と青葉モカ。

 

「……確か超かっこいい演奏してた、えーっと、あ、そうAfterglow!演奏よかったよー!」

 

「あはは〜、そりゃどうも〜。でも正直貴女に言われても全く嬉しく無いんだよね〜」

 

「え、じゃあ私の労いコメントとか!今ならクラッカー付きだぜ!」

 

「いらないわよ。貴女の言葉なんて。反吐が出る」

 

「パンパカパーン!お疲れお歌ー苦労!あ間違えた、Afterglow!イェーイ!」

 

 彩は2人の意見を完全無視。

 パンッとクラッカーの音が虚しく響く。2人の視線は以前冷たいまま。なんとも言えない空気になる。しかしそんな空気も無視して彩はニコニコ笑顔のままだ。それが2人にはどうしようもなく癪に触った。

 

「……本当、あの頃からずっと変わってない。その腹の立つ笑顔も、狂気めいた言動も。自分中心に世界が動いてると思ってるそのお気楽な性格も!!」

 

「そうだね〜。ちょっとはマシになってるかななーんて考えてたあたしたちが馬鹿だったよ〜。……良い加減真面目に対応してくれないかな。こっちはお前に用があるんだよ丸山彩」

 

「……なにぃ!?なぜバレた!カツラつけてるのに!」

 

「そんなもの無くても分かるわよ。貴女の顔を忘れた日なんて1日も無いんだから…!!」

 

「んー…?どこかで会ったことある?」

 

「…はっ、まぁ貴女にとってはどうでも良いでしょうね。勝手に狂った奴らのことなんて」

 

「でもあたしたちは大変だったんだよ〜?みんなおかしくなって、手を伸ばしてくれる人もいなくて…だからあたしたちだけでどうにかしてきた。いつかお前に全部を償ってもらうために」

 

「んー…?よくわかんないけど何が言いたいの?」

 

「謝れ」

 

「……」

 

「あたしにも、モカにも、ひまりにもつぐみにも巴にも父さんにも!あの日、あの時に会した全員にその額地面に擦り付けて謝れ」

 

 

「その上で一生全員に償い続けなさい」

 

 

「それが貴女が犯した罪の洗い方よ、丸山彩」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ、ぷっ、ふふっ…!」

 

「…?なに。何がおかしいのおねーちゃん」

 

 唐突に吹き出した紗夜。それは耐えられぬと言わんばかりに笑いへと変わっていく。日菜はとうとう頭がおかしくなったかと一瞬頭によぎる。

 

「ふふっ、あはははっ、いえ、ごめんなさい、ちょっとあんまりにも可笑しくて…!」

 

「……はぁ?」

 

「ねぇ日菜。貴女今日の最後のライブ聞いた?」

 

「おねーちゃんのライブ終わった後はずっと外で待ってたから全然」

 

「そう。なら話すことはないわ」

 

「は?」

 

 そう言うと紗夜は片腕に偏っていた日菜の体のバランスを崩し、そのまま拘束から脱した。

 

「あっ!?」

 

「…貴女は丸山さんのことを何もわかっていないわ。彼女が嘘つきの犯罪者?丸山さんにそんな小さなことを隠すおつむがあるわけ無いじゃない」

 

 そもそも彼女の性格からして全くもって気にも留めていないだろう。

 それに日菜が見せた記事にも彩のことは容疑者とだけ書いてあった。つまり断定はされていないと言うこと。そりゃそうである。誰もまだ中学も入っていない子供の歌が原因でこんな大惨事が起こったなど誰も信じないからだ。彩が容疑者になったのはおそらく被害者からの報告だろう。それが恨みからか信仰からか、どちらかはわからないが、供述がある以上、彼女が容疑者とならざるを得なかった。…まぁ、実際そうであるのだが。

 

「確かにそれをしたのは丸山さんでしょうね。それだけのことをできる能力を彼女は持っている」

 

「だ、だったらなんで!!」

 

「決まってるわ。……好きだからよ。私が丸山さんのことを」

 

「………………」

 

「仮にどれだけの罪を丸山さんが犯していたとしても、私は離れるつもりは微塵たりともない。だってあそこは私にとってもう本当の居場所なの。あの家じゃ得られなかった本物がある」

 

 彩との生活は経験したしたことがないことばかりだった。以前の生活では得られなかった心休まることばかりで、本当の意味での充足感というものを手に入れられていた。

 故に離れたくない。離れない。あの日にもう決めたことだ。氷川紗夜は過去にあった全てと決別し、唯の紗夜として生きることを決めた。

 そして、妹が現れたこの状況も自分の責任。ケジメは付けなければならない。

 

「…だから、ごめんなさい。日菜」

 

「……えっ?」

 

「貴女の想いには私は応えられない。今の私には理解もできないし共感もできない」

 

 それは、久方ぶりに見た姉としての氷川紗夜の姿だった。それと同時に、これが最後なのだと、日菜の直感が知らせる。

 

「……正直あの家には碌な思い出はない。けれど貴女は私の妹。だから最後に言葉は落としてあげる。…恨むなら勝手な姉と恨みなさい」

 

 日菜は自分に一方的に帰ってこいと言ってきたのだ。これくらい言い返してもバチは当たらないはずだ。

 

「ま、待ッ…!」

 

 

「さよなら、日菜。もう2度と私たちに関わらないで」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌に決まってんじゃん。馬鹿なんじゃねーの?」

 

「……」

 

 彩の答えは決まりきっていた。そもそも誰よりも自由を尊ぶ彼女が誰かの言いなりになるなど許容できるはずがない。

 

「…そう、まぁ貴女ならそう言うと思ったわ。知ってたもの、貴女が他人を顧みないクズだってことは」

 

「そもそもさぁ、状況わかってる〜?開き直るところじゃないと思うんだけど〜」

 

「うんわかってる!要は、2人は私のファンってことでしょ!」

 

「「は?」」

 

 2人の瞳が豆粒のように小さくなる。

 こいつは何を言っているんだ?一体何をどう読解したら自分たちがファンなどと言う結論に辿り着くのか。全く理解できない。

 

「いやー、良くいるんだよね!こう言う厄介ファン。まぁでも!ワタクシの魅力にメロメロになったのなら!仕方ないかもね!」

 

「………ふざけてるの貴女。状況理解してる?私は貴女のことが嫌いなの。憎いとすら思ってるのよ。だからわざわざ貴女を探してここまで来た!!」

 

「キャーッ、嬉しい!そんなに私のことが大好きだったなんて!しかもかのAfterglowのボーカルから!ウレシー!」

 

「…ッ!!」

 

 イライラする。本当にイライラする!どこまで自分勝手なんだ!

 

「本当いい加減に…!!」

 

「よし!じゃあ勝負をしよう!」

 

「……勝負?」

 

「そうそう、勝った方は負けた方のいう事を何でも聞く勝負!もちろん音楽でね」

 

 突如持ちかけられた勝負。

 確かにこのままでは話は平行線だろう。ならば直接対決で話をつけた方が早いというわけだ。

 

「良いわ、最初からその気で話しかけたもの。Afterglowは貴女に勝つためだけに結成したバンド…!ただし勝負内容はこっちで決めさせてもらうわよ」

 

「んー?良いけど、めんどくさくないのにしてね」

 

「内容はシンプルよ。これを見なさい」

 

 そう言われ見せられたスマホの画面にはライブの広告が映っていた。2週間後に行われるライブ。かなりお大型で行われるライブであり、優秀なチームにはなんとFWFの本戦出場の切符が貰えるほどに大きな大会だ。

 

「このライブに私たちは出るわ。丸山彩、貴女も出なさい。そこでより優秀な成績を収めた方が勝ちよ」

 

「……あのー、4人以上のメンバー必須って書いてあるんですがそれは…」

 

「貴女ならそれくらい余裕でしょう。騙すのが得意なあなたならね」

 

(全然得意じゃありませぬ…)

 

「ちょ、ちょっと蘭!こんなところで丸山のライブなんてさせたら被害が…!」

 

「モカ。私たちがどうしてAfterglowを結成したのか忘れたの?この目の前の悪魔を乗り越えるためよ!コイツを超えない限り、あたしたちはずっとあの時から止まったまま!!決着をつけるならここしか無いのよ!!」

 

「…………蘭」

 

「丸山彩、私たちが勝ったらさっき言った通りあの場にいた全ての人間に一生かけて償い続けなさい」

 

「え、じゃあ私が勝ったら…えーっと……どうしてもらおっかなー…。まぁバイトの手伝いとかでいーや。最近人手足りなくなってきたし」

 

「勝手にしなさい。…丸山彩、私は貴女の全部を否定する。覚悟してなさい」

 

「は、はーい」

 

 そう言って2人はその場を立ち去ろうとする。彩も紗夜のいるところに行こうとした時、何かを思い出したような素振りを見せ、あ、そうだ、と呟き今さっき思い出した事を告げた。

 

「ひまりちゃんによろしく言っといて!演奏よかったよって!」

 

「ッ!?ちょっと貴女──!!」

 

「んじゃーね!ライブ楽しみにしてるよー!」

 

 そう言ってあっという間に彩はどこかに走り去っていった。それ呆然と見る2人。

 

「……いつから思い出してたんだろうね」

 

「…知らないわよ。アイツの考えてることなんか」

 

「…うん、違いないね」

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

「あ、紗夜ちゃん」

 

「…丸山さん?」

 

 適当に家に向けて走っていたら紗夜ちゃんとばったり会った。なーんか疲れてる顔してる。ライブ疲れかな?

 ってわぉ!紗夜ちゃんのハグ攻撃!ダイタン!今日はやけにハグをされる日である!

 

「どしたの?」

 

「…いえ、改めて丸山さんの有り難さを実感してるだけです」

 

「???」

 

 どう言うことだってばよ?

 ハッ、まさかついに私はご利益を見出せる程には神々しくなってしまったと言うことか!?フッ、また私は宇宙にその名を轟かせると言う夢に一歩近づいたと言うわけだな!

 

「…丸山さん」

 

「んー、なに?」

 

「丸山さんは家族について、どう思いますか?」

 

「急に何?」

 

「いえ、少し気になって…」

 

「うーん…、まぁぶっちゃけいてもいなくてもどっちでも良い存在かなー」

 

 他の人にとってはそりゃ大事な存在なんだろうけど、少なくとも私にはいようがいまいがさして影響がない存在だろうなぁ。あ、でも今世の妹のことはちょっと気がかりかなー。目ちゃんこ良い子だし、お小遣いあげたくなっちゃう!

 

「…そうですか」

 

「どしたの急に」

 

「…いえ、もう終わったことです。大丈夫ですよ」

 

「んーそう?」

 

 ふーむ、なんのこっちゃ分からないけどまぁいっか。

 それよりも私には早急に考えねばなるまい深刻な問題があるのだから!

 

(うーん、まじでバンドメンバーどしよ…)

 

 今の所誘える心当たり0人!

 ぶっちゃけ今世最大のピンチである!誰がぽすけて…

 

 

 






転生彩ちゃんのヒミツ⑰:前世の彩ちゃんの家は超豪邸!伝統と血筋を重んじるクソめんどくせぇ家柄だったぞ!





ただし彼女の血縁者は全員原因不明の変死をしており、警察は全員の死因を自殺と判断している。


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