2201年9月18日午前11時30分。
元ナデシコクルーの、ホシノルリナデシコB艦長就任記念パーティ。
……ま、ある意味同窓会みたいなものであるわけで。
最近、昔よりも髭が濃くなってきたように感じる。
昔は数日に一度剃るだけでも、別にざらついたりはしなかったけど。
今では毎日剃らなければ、ざらざらと手に残る感触がある。
髭をそり、眉を整え、髪をセット。
歯磨きと洗面は終わらせてあるから、これで一応大丈夫である。
鼻元に残った水をタオルで拭いて、洗面所から出る。
部屋に戻って、着替えを開始。
普段着よりちょっといいボクサーパンツに、インナーの白Tシャツ。
準礼装の上下にYシャツを探して、求めているのが見当たらない。
薄い水色のラインが入った、涼しげなYシャツはどこだろう。
まだ暑いし、ちょっと色合いだけでも爽やかに決めたいのだが。
見当たらないので、部屋を出てリビングにある背中に声をかけた。
「ユキナちゃん。
あのブルーのYシャツってどこー?」
「まだベランダよ。
自分の服ぐらい把握しておいてよね」
そういいながら、外に取りに言ってくれるのは白鳥ユキナ嬢。
まだ高校生なのだが、いつの間にか俺の家に入り浸っていたりする。
俺よりもこの家のことに詳しく、冷蔵庫の管理も彼女であったり。
ああ、別に一緒に住んでいるとか、そういうことではないけど。
何故か週に数度この家に来て、料理洗濯掃除をこなしてから帰る。
……人呼んで、幼通い妻ということらしい。なんか人聞き悪い。
はい、と渡された求めていたものに、ありがとうと伝えて。
部屋に戻ってから、さっさと着替える。大体数分で全て着終わる。
姿見に映した全身で、ネクタイが曲がっているような気がした。
ちょいちょいと直して、でもなんだか納得いかなくて。
数度に渡って結びなおしている時に、ピンポンとチャイムが鳴る。
ありゃりゃ、流石に時間をかけすぎた様だと流石に慌てもして。
「やあ弟くん。
もうそろそろだし迎えに来たよ」
「はぁい、トオルくん。
お邪魔するわねぇ」
出迎えにユキナちゃんが出て、そして入ってきたのは白鳥夫妻。
何故か3年前より俺を弟と呼ぶ白鳥九十九さんとミナトさんの二人。
一応違うのだが、反論したら後が怖い気がするので、しない。
っていうか、今更何かを言ったところで俺の意見は無視だろう。
住む場所も近くにするようにと、ほぼ命令みたいな指示があったり。
気がつけば合鍵が普通に作られてる辺り、恐らく間違いない。
「ちょっとトオルくん。
ネクタイまだ結べてないの?」
「ああ、うん。
なんか上手くしっくりこなくて」
そうして、ユキナちゃんは俺の首元にあっさりと手を伸ばし。
くるくるくる、と巻いて、ちょちょいと調整して。
数十秒の後には、腰に手を当てて満足そうによし、とつぶやいた。
むう。流石に俺よりネクタイを結ぶのが上手いだなんて。
一応働いている人間としては、恥ずかしいような気もするのだが。
なんか暖かい視線しか送られないので、気のせいかもしれない。
こう、なんか。色々間違ってたり駄目な気もするんだが。
とっても暖かいぬるま湯のような、居心地がいいのか悪いのか。
そんな感じの日々が、俺の周りを囲んでいるのだけれども。
――――ま、これはこれで。きっと幸せってやつだろう。
これで文句を言ったら、誰かに刺されるような気がしなくも無い。
多分これからも、あんまりかわらない日常が続くのだろう。
その隣に居るのは……やっぱりこの子なのかなぁと。
10歳も歳の離れた、やたらしっかりものの女子高校生を見る。
なんだかほっこりした気分で、俺は3人に続いて家を出た。