ブルーアーカイブ 実績『RE Aoharu』取得RTA 13:36:51【解説付き】 作:珊月
セリフは多めかもしれないです。
その後、私はいつの間にか意識を失っていた。次に目が覚めた時は病院の一室で、私はベッドに寝かされていた。後で知った話だが、私は丸二日寝込んでいたらしい。
私は起きてすぐに隣にいた看護師さんに、お姉ちゃんについて聞いた。
夢であってほしい。そう祈っていたが、現実は無情だった。私は、唯一の大切を失ったのだ。
それから様々な検査をされたが、その間私はひたすら呆然としていた。医者からの質問に、どう受け答えをしたのかも覚えていない。とりあえず何の異常も無かったらしいが、一応二日間も意識がなかったのだからしばらく入院することになる、と言われたことだけは覚えている。
何時間かして検査が全て終わった後、病室の扉が開いた音が私を現実に引き戻した。そしてそこから、見知らぬ少女が入ってきた。制服とその校章を見て、彼女はヴァルキューレ。それも公安局の生徒だと気付いた。
『初めまして、ヴァルキューレ公安局の者です。お目覚めになられたところ恐縮ですが、あなたのお姉さんについてお話があります。』
そう言って、彼女はベッドの隣にある椅子に腰掛けた。
私は彼女が口を開こうとする前に、一体誰がお姉ちゃんを殺したんだと大声で問い質した。すると彼女は目を丸くして、いかにも困惑している様子を見せた。
そして言いにくそうにしながらもこう答えた。
『その、恐らくですがあなたのお姉さん。星詠ルネさんは、自殺されたのだと思われます。」
『────は?』
じさつ。ジサツ。自殺。その単語を処理するのに、私はかなりの時間を要した。
自殺?なんで?どうして?お姉ちゃんがそんなことするはずがない。
『第一そんな素振りなんて何一つ──』
見ていない。そう言おうとして、私は気付く。
そういえばここ一ヶ月、お姉ちゃんはいつも「私がいなくなった時のための話」をしていた。貯金はいくらあるとか、バイト先の選び方、とか。
それはまるで自分がじきにいなくなるのを自覚しているような物言いで…………。
それにあの日の朝、お姉ちゃんが家を出る時の様子がおかしかった。いつもなら「行ってきます」と言っていたところを「さようなら」と言ったり。
思い返せば思い返すほど、点と点が繋がって一つの線となり、やがて一つの結論を形作った。
『本当に、自殺したんですか?その証拠は?何かの勘違いなんかじゃないんですか?』
その結論から目を逸らそうとして、私は彼女に問いかける。
『……これがルネさんの遺体から見つかりました。』
そう言って彼女が取り出したのは、一枚の紙。書いてあるのは、まさしくお姉ちゃんの字。まさか、と思った私はそれを剥ぎ取るようにして手に取り、そこに書かれた字を読み始めた。
モネへ。
まず初めに、あなたを一人にしてしまって、急にいなくなってごめんなさい。あなたがこれを読んでいる時、私はもうモネの隣にいないと思うわ。
私ね、疲れてたの。この生活にじゃなくて、生きるのに。この先もずっとこのままなんだと思うと、もう諦めたほうが楽だと思ったの。勝手なことして、ごめんなさい。
モネのためだって分かってるのに、もう耐えられないって思っちゃって。こうするしかできなかったの。今まで、黙っててごめんなさい。
でも、私がいなくなったからって誰かを恨まないで。怒らないで。全部、私が悪いから。
本当に、ごめんなさい。
『何、それ。わけ分かんないよ。お姉ちゃんが悪いって、何?』
恨まないで……?怒らないで……?そんなこと、できるわけない。だって────
『悪いのは、お姉ちゃんを助けられなかった私なのに。っ私が、全部悪いのに……!!』
押し寄せる罪悪感に、私は潰されそうになった。
淡々と、それでいて感情的な声色でモネは語り続けた。それはまるで誰かに懺悔をしているようで、聞いているだけで胸が締め付けられるような思いになる。
しかし彼女の話を聞いて、疑問ができた。何故、モネはこの事件に関係ないはずの連邦生徒会を恨んでいるのか。それを問おうとして、私は口を開こうとする。だがそれよりも早く、彼女が沈黙を破った。
「本当は、分かってるんです。お姉ちゃんが死んだのは、他の誰でもない私のせいなんだって。お姉ちゃんが悪いはずがないんだって。」
震えた声で紡がれた言葉は、今にも消え入りそうなほど弱々しいものだった。それでも、彼女はは言葉を途切れさせない。後悔してもしきれないほどの罪悪感を抱えながら、必死に自分を責め続けているのだろう。
「お姉ちゃんの一番側に居たのに、異変に気づけなかった私が悪いんです。もっと早くお姉ちゃんのところへ行かなかった、私がっ……!」
そこまで言って、モネの声色はさらに悲痛なものへと変わった。そして「でも、」と続けて、
「どうしても、それを認められなかったっ……!だから連
今まで抑え込んでいた感情が一気に溢れ出したように、モネは嗚咽混じりに叫ぶ。勢いよく振り返った拍子に彼女の両翼は空気を切って音を立て、瞳から涙が振り落とされる。
「……そう思い込んで、憎しみの標的を私から連邦生徒会に移しました。」
「でも思い込みすぎた。責任から逃れようとしすぎてしまった。」
「いつしか嘘の憎しみは本心にすり替わっていて、あの人達に本物の復讐心を覚えてしまった。」
「なのに頑なに認めなかった。罪と向き合うのが怖かったから。」
「その結果がこれですよ?私はお姉ちゃんの言葉を守れてなんかいないんです。」
「──もう責任から逃れるのはやめにします。これ以上逃げても、誰かを傷付けてしまうだけですから。だから好きに責め立てて下さい。私を、楽にさせてください。」
自嘲的な笑みを浮かべ俯きがちに呟くモネ。
なにも彼女の言っていることはおかしくない。助けられなかった自分を責めるのも普通の行為だし、何しろ思春期の少女だ。そんな感情に耐えられず、逃避するのは当然だろう。だが、果たして彼女自身に責任はあるのだろうか。そもそも、その責任は本当に存在しているのか。
「……君は悪くなんてないよ。誰も、悪くなんてない。」
気がつけば私は、そう口にしていた。咄嵯に出た言葉だったが、これは紛れもない事実だ。少なくとも私には、彼女を責めることなどできない。
すると彼女は驚いた表情でこちらを見た後、すぐに目を伏せてしまった。そして口を開く。
「っ、そんなことあってはいけないんです!誰も悪くなかったら、お姉ちゃんは一体……それにっ、私が悪くない訳がないじゃないですか……!」
その声は震えていた。だが、それは悲しんでいるわけではないように思えた。怒りとも、違うように聞こえた。
「そう認めたら楽になるんですよっ!自分の罪を認めれば、楽になれるはずなんです!もう関係無い人達を恨んだり傷つけたりしなくて済むんです!」
顔を上げた彼女の目尻には、再び大粒の涙が溜まっている。
「たとえお姉ちゃんが赦してくれても、私は私を赦せないからっ…………!!」
その言葉を聞いて、真に理解した。
彼女を苦しめているのは、彼女自身。抑えきれない自責の念が暴走しているだけで、本当は心優しい生徒なのだろうと。
残酷な世界の責任を負おうとしてしまうくらい、優しいのだと。でも──
「──そんな責任は、君が背負うべきものじゃない。」
「私が、大人が背負うべき責任なんだ。だから君には、その荷を下ろしてほしい。」
「そして願わくば、その責任は本当に存在するのかどうか考え直してほしい。」
「でもそれが出来ないなら。君が君を赦せないなら、その分私が君を受け入れる。」
「私はまだ君の話をちょっと聞いただけの余所者だけど、同時に"先生"でもあるからね。」
「それに、そんな方法で楽になっても悲しむ人が居るんじゃない?」
「誰が何と言おうが、君は
そう言い切ると、彼女は目を見開いた。そして今度は泣かずに、何かを堪えるように唇を噛み締めている。葛藤しているのか、或いは罪悪感に押し潰されそうなだけなのか。それは分からないけど、今は彼女の決断を待つしかなかった。
やがてモネは大きく深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。少しだけ迷いが混じった声で、問いかける。
「……今からでも、遅くないんですか?」
不安そうにそう尋ねるモネ。それに対する私の返答はもちろん──
「──安心して、遅くないよ。」
その言葉を受け取った彼女の瞳からは、もう涙は流れていなかった。
ふと、私はモネに会いに来たもう一つの理由を思い出し、懐から小さなものを取り出してモネに手渡す。それは星型のガラス製のキーホルダーのようで、いくらかヒビが入っているようだ。
「っ、これは……」
「今日の朝会った時に落としてたみたい。大切なもの、だよね。渡せてよかったよ。」
モネはそれを受け取るとしばらく見つめた後、ぎゅっと胸に抱きしめるようにして握りしめた。そしてすっかり落ち着いた表情でこちらを見ると、ありがとうございます、とだけ小さく呟き、微笑む。
「……形見、なんです。私がお姉ちゃんから貰った、最後の誕生日プレゼントですから。」
そう言う彼女の手の中で、キーホルダーが夕陽を浴びて金色に輝いた。
先生とモネ、二人が夕焼けをバックに会話しているさながらドラマのワンシーンのような映像が映し出されたタブレット端末が、テーブルの上に立てかけてある。
そしてその映像を横目に、ティーパーティーの制服を着たプラチナブロンドが特徴的な少女──ラムがスマホを通して誰かと話をしているようだ。
「……流石にあれは荒治療すぎます。先生があそこまで強引だと知っていたら、彼を利用しようだなんて思いませんでした。結果上手く行ったとはいえ、もう二度と彼は頼らないほうが良いかと。」
そう呟くと、彼女はタブレットの電源を落としてその真っ暗な画面に反射する自身を見つめた。
「……『トリニティ内部の潜在的な脅威は全て排除しなければならない』。確かにそれはティーパーティーの使命の一つですが、果たしてここまでする必要があったのでしょうか。」
そこから目線を外すと、すっかり冷めた紅茶を一気に飲み干す。カップを置き一息つくと、彼女は窓の外に広がる景色を眺めた。そこには既に日が落ちて丹色に染まった空が広がっている。
窓から漏れてくるその色はテーブルの上に置いてある一枚の紙を染め上げ、赤いインクで書かれたサインを掻き消してしまった。
「──っですが、彼女を苦しませてしまっては……いえ、貴方様がそう言うのでしたら、私は従うだけです。…………にしても、この写真を送ってきたのは一体何者なんでしょうか?」
通話をスピーカーにして、彼女はメールアプリを開く。映し出されたのは、私服のモネが一人でアビドスにあるブラックマーケットに入っていくところを捉えた画像。そして、それが添付されたメール。
差出人は────不明。
「身元どころか、発信元を特定することも叶いませんでした。彼女と先生を会わせる口実ができたのはありがたかったのですが──」
《──別に構わないよ。この件に於いて肝要なのは送り主ではないからね。》
「……承知致しました。」
彼女はテーブルの上に置いてある紙を手に取り、席を立った。
「では、私は引き継ぎに入ります。この貸しは、私が辞めてから支払ってもらいますね、──」
そして釘を刺すようにそう言って、彼女は通話を終えようと画面に指を伸ばす。
「──
《…………あぁ。勿論、無茶の代償は支払わせてもらうとも。》
妖しく光る円卓を囲うのは、四人の大人。
黒いスーツを着込んだ身体が
「──ベアトリーチェ、そちらの進捗はどうでしょうか。」
そう語りかけるのは黒服の彼。右目のように見える発光部は揺らめいているが、それはベアトリーチェと呼ばれた彼女をしかと射抜いていた。
「何も問題有りません。ですが黒服、あなたの状況は芳しくないと聞きましたが……」
「あぁ、確かに貴重な研究試料を一人処分する羽目になりました。ですよね、ゴルコンダ。」
黒服はステッキを持つ彼──いや、さらにその彼が抱える写真に向かってそう呼び掛けると、どういう原理か写真から落ち着いた声が発せられた。
「えぇ、
写真はどこか落胆したように言うと、首の無い者はこの張り詰めた空気にそぐわない明るい口調で「そういうこった!」と同調した。
約三名に自身の不手際を指摘されたおかげで、黒服はバツが悪そうな雰囲気を放っている。
「……返す言葉もありません。今回はあなたとマエストロのおかげでなんとか偽装が間に合いましたが、次があれば私の存在を公に晒しかねない。表立って行動するのは今ではありませんから、
彼の表情は読めないが、声色や雰囲気からは反省の意が伝わってくる。
その様子に、ベアトリーチェは口元に手を当てながらくすりと笑みを浮かべていた。そんな彼女の頭にある無数の目もまた、妖しく輝いている。
「して、黒服よ。
木彫りのマネキンのような頭を二つ持つ彼は怪訝そうに訊く。すると黒服は先程までの落ち込みようが嘘だったかのように、自信ありげな声で答えた。
「はいもちろん。彼女が
「……ならば私が貸した
マエストロは木が軋むような音を立てて黒服に向き直る。
「では私は帰らせてもらおう。次会う時は、より良い結果を期待している。」
そして彼はタキシードの裾を翻すと、そのまま虚空へと姿を消した。他の面々もそれに続き、円卓には黒服だけが残った。やがて静寂が訪れると、黒服はゆっくりと顔を上げ、そして呟いた。
「にしても、まさかあのように杜撰な手法でも処分できるとは……それだけ弱っていたということでしょうか。…………次は丁重に扱いましょうか。」
次話「幕間 一欠片の青春」
なんだかきな臭くなってきた物語も、これで第一章が終わったといったところでしょうか。まだまだ謎が残ったままなのに一章終わらせてしまって良いのか良いんです(自己解決)
では次回までしばしお待ちを……
流石に今月中には投稿したいところ。