キヴォトスに赴任する殺せんせー   作:名無しの毛玉

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その手を繋ぐもの

 

 

 

Vo1『アビドス対策委員会』

 

 

 

夢を見ていた。普段は見ない、懐かしい夢

 

 

『ねぇ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったの。ホシノちゃんみたいな可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて………うーん、うまく説明できてないかもしれないけど…。ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの』

 

「…毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか。昨日も今日も、明日もそうです。こんな当たり前のことで、何を大袈裟なことを」

 

『はぅ…だって…』

 

「奇跡、というのはもっとすごくて、珍しいもののことですよ」

 

『…ううん。ホシノちゃん。私は、そうは思わないよ』

 

 

…今の私も、そうは思っていない

 

 

『ねぇ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は─』

 

 

そこで目が覚めた

 

状況は変わらない。部屋に閉じ込められている。それでも変化したものがある

 

部屋に入ってから一切の身動ぎを禁止されていて固まってしまった体を解しながら、ホシノが立ち上がる

 

 

「…ん。体動くね。…先生がうまくやってくれたのかな。…じゃ、私も私で頑張んないと」

 

 

ホシノがイヤリングを触る。それ自体に温もりは無いが、ホシノは温かさを感じていた

 

自分が入ってきた扉に目を向ける

 

 

「…でもこれ実際どう開けようか。あの施設と違って開けられそうな隙みたいなのが無いんだけど」

 

 

たっぷり時間をかけて周辺を見回る。扉が開きそうなギミック無し、鍵穴無し、窓無し、道具無し、他に脱出できそうな経路無し。無い無い尽くしであることを確認してコツコツと足音をたてて部屋をぐるぐると歩く

 

そしてまた扉に向き直って、うんうんと頭を捻る

 

 

「…………………………ヨシ!取り敢えず蹴るかー!」

 

 

最終的には力技。キヴォトスの生徒に標準搭載されている思考回路だった

 

 

 

 

 

アビドス自治区防衛戦。カイザーPMCは壊滅状態だった

 

 

「理事!傷が!これ以上の損傷は危険です!撤退を!」

 

「グッ、クゥ…やむを得ん…。撤退する!各自隊長の指揮の下離脱せよ!」

 

 

理事の乗ったゴリアテが戦場を去る。逃がすまいと、長距離射撃が可能な生徒がゴリアテを狙い撃ちするが、部下が搭乗するゴリアテに庇われ、理事は戦場からの離脱に成功した

 

 

「クソッ!クソクソクソクソクソクソクソ…!どれだけの時間と労力をかけたと思っている…!それをこんな…!たった一日で全て終わる…!?私の半生をかけた計画が…!?あんな…あんな奴らに…!?」

 

 

怒りが止まない。思考にノイズが走る。激情にかられながら逃走を続ける理事に通信が入る

 

 

「北方のデカグラマトン大隊より伝令!出現の兆し有り!」

 

「…よりにもよってこんな時に…!」

 

 

不定期に訪れるソレの対処。普段からして面倒極まりない業務がこの土壇場に伝えられ、更に怒りを燃やそうとして

 

 

「…いや、待てよ?」

 

 

撤退しながら思考する。今日に至るまでに積み上げた防衛作戦の記録。小鳥遊ホシノが運び込まれたゲマトリアの実験室があるアビドス本校までのルート。今回の作戦が終わった後の己のポスト

 

既に複数の学園にアビドス襲撃は目撃されている。証拠の揉み消しは不可能。これからどう足掻こうと責任を追求され、カイザーグループを追放されるだろう。それが生存戦略というものだと分かっている。それそのものに異はない。納得している

 

それでも、怒りが止まない。例えなんの意味もない行動だとしても、やらねばならないという衝動が収まらない

 

アビドスの火種を完全に掻き消す。その為に、小鳥遊ホシノには消えてもらう。3年間も続ける事になった業務を終わらせる

 

 

「…どちらにせよこの戦況になってしまっている時点で私は詰んでいる。…ふ、ふふ…ある意味気楽なものだな。………対デカグラマトン大隊に伝令。目標をアビドス本校、ゲマトリアの実験室に誘導せよ。その業務が終わり次第、本日の業務は終了とする。無茶な仕事だがやり遂げてくれ。健闘を祈る」

 

 

 

 

 

理事が遠くに消えていく。他のPMCも撤退していく。その様子を見て、分かれて防衛していた対策委員会は自然と集まっていた

 

 

「アヤネちゃん!追跡は可能ですか!?」

 

「ドローンは間に合ってます!追うことは可能ですが徒歩で向かうには遠そうです!」

 

「ん………ロードバイクなら人数分あるけど」

 

「それシロコ先輩の家まで取りに行かなきゃ行けないやつじゃない…?というか私達の分まで買ってたの…?」

 

「その、みんなでやりたいなって」

 

「シロコちゃん…!でもごめんなさいマシンガン(この子)を持った状態でロードバイクで走れる気がしません…!」

 

「あ、流石のノノミ先輩でも無理なんだ。なんかちょっと安心。…でも実際どうする?」

 

 

最初は慌てていたものの自分より先輩たちのほうが慌てているという珍しい状況に逆に冷静になったセリカが辺りを見回す

 

トリニティの戦車やバイトが何処からか持ってきた戦車はあるが、流石に借り受ける訳にも行かない。借りた所で砂漠を戦車で走れる程の操縦技術を持つ生徒は対策委員会にはいない

 

 

「…取り敢えず走る?」

 

「そうするしか無いか…」

 

「ふっふっふっ…困ってるようね!」

 

「…?アル?」

 

 

車のタイヤが擦れる音と共にアルの大声が響いた。振り向けばトラックの上にアルが立っている。運転はカヨコが担当していた

 

 

「アイツを追ってホシノの居場所を聞き出そうって流れでしょう!?乗りなさい!最高速で連れてってあげるわ!」

 

「…これ引越し用トラックだからそんなに無茶出来ないんだけど。…まあ、頑張るよ」

 

「…助かる!お言葉に甘えて乗せてもらうわ!」

 

「お、バイトちゃん素直だー。じゃ、みんなこっち乗ってー。扉開けたまま走るから落ちないでねー」

 

 

ムツキがコンテナの方から対策委員会を呼ぶ。全員が乗り込んだのを確認して、トラックが走り出す

 

なんとなくカッコつけて上に乗ったままでいたアルが落ちないようにアタフタしていると、カタン、と誰かが跳び乗る音がした

 

アルが振り向くとそこにはヒナが立っていた

 

 

「…相変わらず忙しないわね」

 

「………ふん」

 

 

両者睨み合う。緊迫した空気が流れている

 

ように見えるがアルは『ヒナが来ちゃった…!?』と内心大慌てだし、ヒナは『味方だと面倒が無くて楽ね…』と思いながらただ眺めているだけだった

 

 

「…と、取り敢えずこの場は協同戦線ってことで、いいのよね!?」

 

「…ええ。先生からのオーダーは小鳥遊ホシノ救出を手伝うこと。…何処まで手伝うかは私達に一任されてるから、別に行かなくてもいいんだけど。…ついて行ったほうが良いと判断した」

 

「…そう、なら、ここでは仲間ということで。…よろしく、ヒナ」

 

「…よろしく」

 

 

アルとヒナが手を交わし、一振りして手放した。若干震える手をヒナから隠しながらアルは前を向いた

 

 

 

 

 

対策委員会が理事を追い始めた頃、殺せんせーは一度シャーレに戻り、連邦生徒会に申請しておいたヘリに乗ってホシノがいる場所まで急行していた

 

 

「さてさて、黒服から教えられた座標はこの辺りですが…アロナさん。アビドス本校の座標もここで合ってますよね?」

 

『はい!合っています!それにホシノさんの生体情報もスキャン出来たので間違いなく此処です!』

 

「本当ですか!いやー良かった。無事そうですか?」

 

『無事みたいですね。自力で動くことも可能みたいですよ』

 

「ヌルフフフ…元気そうでなにより。…誰もいませんね」

 

『そうですね。ホシノさん以外は誰もいません』

 

「…てっきりここで決戦の火蓋が、と思っていたのですが。…では降りてみましょうか。あの辺りが良さそうですね」

 

 

砂を大量に巻き上げながら、ヘリが着陸する。ヘリから降りた殺せんせーの耳に、音が届く

 

 

「…結構強引な方法でがんばってますね」

 

 

音の発生地に近付く。巨大な扉がガコンガコンと叩かれる音がする。やがて致命的な何かが壊れた音がして、扉が開く

 

 

「やーーーっと開いたー!んもー!足痛ーい!…おっ…?」

 

 

ホシノと目が合った。生ぬるーい殺せんせーの視線を受けてホシノは目を明後日の方向に向けた

 

 

「…うへへ、なーんかしまらない再会になっちゃったねー?殺せんせー?」

 

「ヌルフフフ…いえいえそんな事は。ホシノさんが頑張った結果ですから」

 

「…えっと。その。…そうだなー。…ついさっきまでさ、寝てたんだよ、私」

 

「…?はい」

 

「だから…その…」

 

 

恥ずかしそうに頬を掻きながら、しっかりと殺せんせーの目を見てホシノが言葉を口にする

 

 

「…おはよう、殺せんせー」

 

「…ヌルフフフ。おはようございます、ホシノさん」

 

「うへー、改まって挨拶すると変な気分ー。…で、殺せんせーの手に持ってるそれは?」

 

「ホシノさんの武器ですよ。はい、どうぞ。傷一つ無く無事ですよ」

 

 

殺せんせーがホシノにトランクを手渡す。ホシノはトランクを開けると武器と盾を手慣れた手付きで装備し、盾の機構等の簡単な点検をした

 

 

「…おー。ぜーんぜん普段通り。…これ大丈夫?発信機とか付いてたりしない?」

 

「そういうのは無かったと思いますよ」

 

「…なら、まぁ、良いか。…じゃ、このまま帰るー?」

 

「そうですね。帰りましょうか。ホシノさん高いところは平気ですか?ヘリで帰ることになると思いますが」

 

「へーきへーき。…いやー、おじさんとしては帰ったあとの事が心配だよ。色々やっちゃったからなー」

 

「怒ってるでしょうねぇ。ヌルフフフ…。………あっ」

 

「うん?どうしたの?」

 

「いえその、今回色んな生徒のみなさんの手を借りてここまで来た訳なんですが…」

 

「…そういえばアビドスが襲われたのってどうなったの?」

 

「あ、それに関しては撃退したという連絡があったので大丈夫です」

 

「良かった…。じゃあ殺せんせー何を気にしてるの?」

 

「…対策委員会のみなさんにホシノさんの居場所を連絡するの忘れてました」

 

「…先生」

 

 

ホシノは慈愛に満ちた眼差しを殺せんせーに向けていた

 

 

「もしかしてたまに信じられないミスとかする?」

 

「…たまに慢心します」

 

「…今からでもいいから連絡しとこ?私はほら、こうして無事だからさ」

 

「はい…」

 

 

「ここまでカッコつけて来たのに最後の最後で恥ずかしい…」と手で目を覆いながら対策委員会への連絡をアロナにお願いする。『わ、私も忘れてました…』とアロナも両手で顔を覆いながらアヤネの通信端末にメールを送信した

 

どこか気の緩んだ、ある意味普段通りの空気。それにホシノは『帰ってこれたんだなぁ』と安堵しようとして

 

砂を掻き分ける足音がする

 

 

「…もう普段通りの日常気分というわけだ。全く反吐が出る」

 

 

ボロボロのゴリアテ。搭乗席が露出するほどの損傷を負った機体。カイザーPMC理事がそこにいた

 

 

「…ヌルフフフ。はじめまして。お一人ですか?」

 

「…はじめましてだな、先生。会えて嬉しいよ。小鳥遊ホシノだけは確実に潰そうと思ってここまで来たが、ついでに私の計画を掻き乱してくれた不埒な輩も消せると思うと、気が楽になる」

 

「…へー。そんなに私の事嫌いだったんだ?」

 

「嫌い…あぁそうだな嫌いだとも。目障りだった。如何なる手を使おうと、もう希望などまるで無いほど衰えた学校に、いつまでも、いつまでも、縋り続けた対策委員会が、私は嫌いだ。…あれほど、あれほど痛めつけたのに!進む先に光など無いだろうに!苦しめた筈だ!徹底的に!たった二人だった!3年前!残る障害はたった二人だったのに!何故増える!?何故留まる!?何故、何故あんな!毎日毎日楽しそうに!笑っていられる!?」

 

 

発狂、という言葉が適切な叫びだった。理解出来ないモノを見る目で、理事はホシノを見ていた

 

 

「…気持ちが悪い。吐き気がする。だから貴様らを消し去りたい。事ここに至って私の行動原理はそれだけだ」

 

「…それで、どうすると言うんです?」

 

「カイザーPMCは優秀でね。言う事を聞きやしない生徒と違って命令を全うしてくれる」

 

「言う事を聞かない生徒でごめんねー?」

 

「…そのニヤケた面をやめろ、小鳥遊ホシノ。気色悪い。…頼んだ荷物が届いたようだ」

 

 

突如、大地が揺れる。轟音が響く。砂の中からナニカが顔を出す

 

 

「さぁ、仰ぎ見ろ。制御不能の厄災の姿を」

 

 

ビルよりも巨大な、蛇の様な機体。砂の中から現れて尚、傷も、汚れも、何一つ無い真白の鉄衣。アビドス砂漠に根差す厄災。正体不明の怪物

 

理事が知っているのは、黒服がそれをデカグラマトンと呼んだことと。カイザーPMCが総力をあげて発掘拠点を防衛しなければならない程に強大な力を持つ何かであるということだけ

 

 

「ふ、ふふふふふふふ…壊せ、潰せ、デカグラマトン…!跡形もなく、全て、消してしまえぇぇぇぇぇ!」

 

 

その身が血肉の通う人であったなら、喉が裂けそうな程の叫びを上げる理事の声

 

怪物は何も応えず。暫し身動ぎもせずその場に佇み…無機質な眼が殺せんせーを視認した

 

途端、シュー…という、嘶くような、汽笛のような、巨躯によって咆哮と聞き違うような音が響き

 

なんの予備動作もなく、鈍重さを微塵も感じさせない素早さで開かれた怪物の口から、熱線(レーザー)が殺せんせーに放たれた

 

 

 

 

 

「…神名十文字(デカグラマトン)、神の降臨を預言する者」

 

 

闇に包まれた何処かで、黒服の囁きが響く

 

 

「…昔々、神を作ろうとした者たちがいました」

「神が実在するのなら。神たる構造を理解し、分析し、解体し、再構築すれば、新たな神を造る事は可能なのではないか。存在証明が為されたのなら、神の創生は人の手で行えるのではないか」

「余りにも荒唐無稽なその理論に興味を示し、支援した者たち」

「名をゲマトリア。…私たちが借り受けた名の源流です」

「…莫大な資産と時間を費やされたであろうその研究が行われた場所は、今では水に沈んでいます。誰も人が訪れる事の無いその場所で…遺された人工知能は高らかに宣言しました。神は存在する(Q.E.D.)と」

「人ならざる智慧の持ち主たちは、その証明、思想、或いは希望に感化され、預言者になりました。アビドス砂漠の厄災もそのひとつ」

「『違い』を以ってその存在を痛感する静観の理解者。デカグラマトン、3番目の預言者。白蛇を模した真体に冠された名は、『理解(ビナー)』」

「…殺せんせー。些か時期尚早かと思いますが、見せてください。あなたが信じる生徒が、神に届きうるのかを」

「シャーレは、あの少女たちの神秘は、新たな神の神秘に耐えうる器なのかを」

「我々に見せてください」

 

 

 

 

熱線が着弾した。周囲は赤熱化し、砂の一部がガラス化している。岩など一瞬で融解するほどの超高温

 

それ程の惨事が起きた着弾地点の中心

 

 

「…うへー。あっついなーもう。…ま、このくらいなら大丈夫そうかな」

 

 

ホシノは一切の負傷なく、手に持った盾で殺せんせーを守りきっていた

 

 

「ヌルフフフ…ありがとうございますホシノさん。…助けられた身でなんですが、アレ、先生の方でどうにかすることも出来ますよ?続けます?」

 

「んもー、殺せんせー分かってて聞いてるでしょー?…今の私ね、調子が良いんだ。ただでさえ私じゃ勝ち目なさそうな殺せんせーがもっと強くなりそうな何かを持ってるのがなんとなーく分かるくらいにはね。…だからまー今回は私に…いや」

 

 

ホシノが遠くから走ってくる対策委員会に視線を向ける

 

 

「私たちに任せてよ。…ね?」

 

「…ヌルフフフ。では、先生は待ってますよ。安心していってらっしゃい、ホシノさん」

 

「…うん。いってきます」

 

 

そう言ってホシノは対策委員会に向けて走り出し…

 

 

「あ、でも指揮はお願いね」

 

「あ、はい。…うーん、使えるものは使う。いつものホシノさんですね」

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩いたーっ!」

 

「やぁやぁセリカちゃーん。今日も元気だねー。で、いきなりで悪いんだけど、みんな手伝ってくれなーい?アレを一人でやるのおじさんじゃ時間かかっちゃうからさー」

 

「…ん。落ち着いて話し合いする時間を確保するためにも、そうした方が良さそう」

 

「いやーシロコちゃん話がはやくて助かるよー」

 

「そうですねー♪いっぱいやりたいことありますからねー♪」

 

「…あの、ノノミちゃん?ノノミちゃんがその笑顔をおじさんに向けてきた後って大体恥ずかしい思いしてる気がするんだけど、気の所為だよね?ね?…なんとか言ってよぉ」

 

「…本当に良かったです。先生からホシノ先輩が無事って連絡がきて私、本当に、安心して…」

 

「おわー!?アヤネちゃん泣かないで!?ごめん、ごめんよー!?ほら、これが終わったらさ!ママが炙りチャーシュー奢ってあげるから!ね!」

 

「あー…いつものホシノ先輩だー…。というか終わった後の予定やっぱり柴関なのね…別にいいけど…」

 

 

暫し再会の喜びに花を咲かせ…その空気を引き裂く警報が鳴る

 

 

『誘導ミサイル発射の予備動作を確認。おおまかな着弾地点と爆破範囲の送信完了。ミサイルの弱点を看破、送信完了。生徒さんに被弾した際の被害予測完了。敵個体の耐久値を測定、時間がかかりそうです。行動予測開始』

 

「ノノミさん、セリカさん。直撃しそうなミサイルの迎撃を。ホシノさん、盾を構えておいてください。アヤネさん回復剤の散布準備を。シロコさん、ドローンで敵個体のカメラと思わしき目を狙ってください」

 

 

了解、と。異口同音で、イントネーションもかなり違う返答が返ってくる。その後の対応は素早いもので、人どころか街路樹位なら飲み込めそうな高さの砂柱を着弾地点に発生させる程の威力のミサイル数十発に狙われても尚、対策委員会の被害は軽微だった

 

シロコのドローンから放たれるミサイルがビナーを襲う。巨躯に対して余りにも小さなミサイル。それでも確かな威力があるそれが、眼という大事に見える場所に被弾してもビナーは何の反応も示さなかった

 

 

「…私の武装じゃあまり効かなそう」

 

「如何せん初遭遇ですからね。まずは色々と試す所からはじめましょう」

 

「ん、わかってる。…色んな場所から攻撃を加えたいけど、散開する訳にもいかない。…まとまって動ける機動力が欲しい」

 

「私達を呼んだかしら!」

 

 

砂漠をドリフト決めながら走る四輪トラックの上に堂々と立つアルの姿がそこにいた。ビナーから放たれたアル達へのミサイル攻撃はヒナが全て防いでいた

 

 

「…まぁ、呼んだ。なんというか、本当にタイミングよく現れるね」

 

「ふっふっふっ…真のアウトローとはそういうものよ!」

 

「アル…じゃない社長…何言ってるか分からない…。取り敢えず早く乗って」

 

「じゃあ失礼しますねー。…あれ、こんなにヘコんでました?コンテナの側面」

 

「あーそれ?ほら、トラックが途中で横転したじゃん?だからアビドスのみんなには先に行ってもらった訳だし。でどうやってトラック起こそうかって時にハルカちゃんが下から爆弾ドカーンってして無理矢理起こしたの。その傷」

 

「すみませんすみませんアル様のトラックなのに傷付けてすみませんすみませんこんな事を思いつくような頭は消し飛ばさないと…!」

 

「はーいハルカちゃんステーイ。無事に着いたんだから大丈夫だって。辿り着けなかったらカッコ悪くてアルちゃん泣いちゃってたかもだし。あ、そうだ。今コンテナはパンパンだからみんなアルちゃんと一緒の所でお願いねー?ハルカちゃーん。あとどれぐらい出来そー?」

 

「あ、あと20個程は…」

 

「ふふーん♪上出来ぃ♪」

 

 

ムツキがハルカをナデナデしている。ハルカは「え、あ、うぁー…!」と溶けそうな声を出しているが、爆弾を作る手は淀みなく動いている。コンテナには爆弾がミッチリ詰まっていた

 

トラックに対策委員会が乗り込む。ホシノとヒナが対面する

 

 

「…風紀委員長ちゃんも来てくれたんだねー。おじさんもしかしてモテモテ?」

 

「…はぁ。色々と迷惑をかけたのは此方だから。返せる時に返そうと思っただけ」

 

「そっか。まー仲良くしようねー」

 

「…そうね」

 

 

『若干空気が気まずい…』と思いながらアルがトラックに全員が乗り込んだ事を確認してカヨコに伝える。カヨコがアクセルペダルを踏む

 

 

「…こういうの得意なのは私じゃなくて給食部のフウカとかなんだけどな」

 

 

そう口にしつつもトラックは砂漠を凄まじい速さで駆けていく。砂をものともせずに進む中で、ビナーが身動ぎを始める

 

 

『敵個体の行動による影響予測。砂の津波が発生するものと推測。攻撃範囲を予測。トラックで離脱可能か否かを計算中。…厳しいですね。迎撃を推奨したいですがどうしましょう…』

 

「ハルカさんの爆弾の威力は分かりますか?」

 

『…あー!なるほど!演算開始します!…1個…足りません。3個…不足。5個…惜しいです。7個…いけますけど不安が残りますね。10個…余裕でいけます!』

 

「ムツキさん、爆弾を10個、迎撃に使ってください」

 

「…ふぅん?なるほど楽しそー!」

 

 

コンテナからムツキが爆弾を砂漠に投げて設置する。次の瞬間にはビナーが大きく躍動し、ビルをも飲み込む高い砂の津波が発生し、襲い掛かる

 

 

「それじゃ、どうなるかご覧あれ〜。えーい!」

 

 

ムツキが爆弾を起動する。耳にするには大きすぎる爆音と共に、砂の津波は下から爆破され、トラックまで到達すること無く、その場に砂の防壁のように見える巨大な砂柱を発生させるに留まった

 

 

「おー!良い景色ー!…でもあんまり何回も使える手じゃないよー?」

 

「そうですね。短期決戦といきましょう」

 

『耐久値の測定完了。走行中に与えたダメージから計算すると完全な破壊を目標にすると月単位の攻略が必要そうですが…撃退する分には案外早く終わりそうです。どうやら自動修復機能がありそうですが、いくつか治療しきれていない損傷があります。そこを狙って大きく損傷させれば撤退を判断すると思います。ポイントを送信します』

 

「シロコさん、アヤネさん、ドローンの準備を。ノノミさん、空崎さん、この距離からでもいけますね?アルさん、恐らく最後はあなたです。決めてください」

 

「ん、任せて」

 

「任せてください!」

 

「ちょっと遠いですけど…大丈夫です♪」

 

「……………平気よ、この距離でも問題ないわ」

 

「…ホシノ、最後をもらうけど、いいのね?」

 

「うん?あー、いいよいいよ。気にしないでー。私はほら、ショットガンだし。この距離で大ダメージ与えられるような武器じゃないからいいよー。それにまーアルちゃんなら大丈夫でしょ?」

 

「…ふふん。ええ、期待には応えるわ。任せなさい」

 

 

攻撃目標が決まった所で、ビナーが叫びをあげる

 

 

『敵個体!突進してきます!影響範囲!…先程と同様の対処でいけます!ミサイルによる攻撃にも注意してください!』

 

「セリカさん!ホシノさん!ミサイルの対処は任せます!」

 

「任せなさい!全部止めてやるわ!」

 

「まー止めきれなくてもどうにかするから気楽にねー」

 

「カヨコさん!敵が突進してきます!全速力で!」

 

「最初から全速力…!でも、大丈夫…!アル!ムツキ!ハルカ!」

 

「任せなよーカヨコちゃん。ほらほらハルカちゃんも投げて投げてー」

 

「は、はい!」

 

 

ムツキとハルカで協力して突進後に襲い来るであろう津波を迎撃する爆弾を設置する。ついでに突進してくるビナーにダメージを与えられるようにもばら撒いていく

 

 

「砂煙に包まれることになりますが…みなさん指示通りに撃ってください」

 

『砂煙くらいこのスーパーアロナの手にかかれば何の問題にもなりませんからね!』

 

 

ビナーがトラック目がけて迫ってくる。巨躯に任せた質量攻撃を、法定速度なんて知ったことではない全速力で駆けて回避する

 

そのすれ違いの最中

 

 

「ドローン作動開始」

 

「状況把握…!タイミングは逃しません!」

 

「ふふ、覚悟してくださいねー?」

 

「ターゲット確認」

 

 

ビナーに一斉射撃が放たれる。寸分の狂いなく全ての攻撃が傷痕へ命中し、一切反応が無かったこれまでとは違い、悲鳴のような叫びが木霊する

 

 

「ふ、ふふふ。ここまでお膳立てされたらね。…一撃で充分。ぶちのめすわ」

 

 

アルが銃を構える。痛みに悶えるように暴れるビナーに残った傷痕に向けて、弾丸が放たれる。この土壇場にあってなお片手で放たれた弾丸は傷痕に命中し、爆発した

 

 

 

 

 

ビナーが砂に潜っていく。これまでの轟音が嘘のように静かに消えていく。そうしてその姿が完全に見えなくなる頃には、何事も無かったかのような静寂だけが残された

 

 

「…やったのよね?」

 

「やりましたねぇ」

 

「…はー…疲れた」

 

 

対策委員会も便利屋も、一斉に膝から崩れ落ちる。朝と昼の境界のような時間から、もう夕方を迎えそうな時間になるまで。ぶっ続けで戦闘を続けてきた疲労が襲ってきていた

 

ホシノが辺りを見回して、殺せんせーに問いかける

 

 

「ねえ殺せんせー。もう何もないよね?」

 

「少々お待ちを…そうですね。何もなさそうです。いつの間にかカイザーの理事もいなくなってますね」

 

「うへー。ちゃっかり逃げたんだ。また会うのかねー。…じゃあ、まあ。落ち着いたってことで。…ねぇ、みんな。ちょっとこっち来てもらっていい?」

 

 

ホシノが手をチョイチョイと振って対策委員会を呼び寄せる

 

ノノミとシロコは一瞬だけ疑問符を浮かべて、ノノミは笑顔で素直に、シロコは少しだけ微笑んで、セリカとアヤネの手を引きながらホシノの側に向かう。セリカとアヤネは特大の疑問符を浮かべている

 

集まった所で

 

 

「こういうの…おじさんのキャラじゃないけど。やりたくなったからやっちゃうねー。えーい!」

 

 

ぎゅっと。ホシノがみんなを抱き締める

 

アヤネは顔を真っ赤にして大人しく、セリカは顔を真っ赤にして暴れそうな所を抑えられて、ホシノの小さな腕に収まるようにノノミとシロコが1年生二人をギュッと押し込みつつ抱き締められていた

 

腕の中の温もりを感じながら、ホシノは柔らかく幸せそうな笑顔を浮かべた

 

 

「みんな、来てくれてありがとう。…本当に嬉しい。勝手に色んな事しちゃってごめん。あと、あとはね。…みんな大好き。…うへへ、これ恥ずかしいどころじゃないなー」

 

「…ホシノ先輩。…えい」

 

「いったぁ!?え、なにセリカちゃん!?おじさん結構勇気出して言ったんだけど!?なんで急に耳ひっぱったの!?」

 

「あっ、そうでした。えいっ」

 

「アヤネちゃんまでいたたたた!?あ、これ流れ的に二人もなの!?」

 

「ん、諦めて」

 

「えへへ、やさしくひっぱってあげますねー」

 

痛い痛い全然優しくない(いひゃいいひゃいぜんぜんやしゃひくにゃい)!?」

 

「ぷっ…!あっははは!ホシノ先輩がこんな慌てた声出すのはじめて聞いたかも!…これで許してあげる!…おかえり、ホシノ先輩」

 

「ん、おかえり」

 

「おかえりなさい!」

 

「おかえりなさい、ホシノ先輩」

 

「………うん。ただいま!」

 

 

セリカもアヤネもシロコもノノミも、そしてホシノも。みな笑顔で、再会を喜んでいた

 

 

 

 

アビドスの現状は何も好転していない。借金は残っている。土地も取られたまま。生徒数も5人しかいないまま。それでも。大人に頼る事を、頼っても良いと知った今からなら、きっと、良い結果に辿り着ける。そう、信じている

 

 

「これからもよろしくね?殺せんせー」

 

「ヌルフフフ…ええ。いっぱい頼ってくださいね」

 

 

 

 

 

Vo1『アビドス対策委員会』fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空に浮かぶドローン。黄色いタコ型のそれはミレニアムで殺せんせーが自作した撮影ドローンだった。アビドス自治区での戦いを撮影していたドローンは今、ハッキングされてとある生徒が操作していた

 

 

「…デカグラマトン。遂にその存在を撮る事が出来ました。…撮れてしまいました。…はぁ。…仕方ないですね。あの女の言う事を聞くのは大変癪ですが、私も興味が湧いてしまいましたし。ふふ…ミレニアムの超天才清楚系病弱美少女ハッカーであるこの私、明星(あけぼし)ヒマリに感謝してくださいね、リオ」

 

 

いくつものディスプレイが光を放つ部屋の中心。白い髪、白い服、白を基調としたメカメカしい車椅子。長く尖った耳をした生徒。車椅子にはミレニアムサイエンススクールのエンブレムが刻まれていた

 

 

「…取り敢えず、今回の件を見て確信しました。先生とは仲良くしたほうが良さそうです。…ふふふ、出会うのが楽しみですね。…どんな文面で招待しましょうか。流石に大人の方にお便りを送るのは初めてですし…そう思うと緊張してきましたね…」

 

 

独り言を口にしながら、宙に浮かぶ電子的なキーボードをタイピングしていく。とんでもない超大作になりそうなタイピング速度だった

 

殺せんせーの新しい舞台への招待状はそうして書かれはじめた

 

 

 

 

 

to be continued in 『エピローグ』

 

 

 

 

 




さよなら便利屋68で引っ越ししてたけどトラック運転できそうなのはまぁカヨコだよなぁと

ヒナの『いいなぁ…』という感情を溜めるフェイズ

最初スマートに鍵開けさせようと思ってたけど開けられるような扉を…?ゲマトリアが…?となったため力技に

毎日毎日楽しそうに!(このセリフが異様に好き)

『なにか来ます!』は万能ではない(よく喋るアロナ)




2023/8/14/18:30予約投稿ぽちー

流石に土日に色々ありすぎたというのが言い訳となります

ホシノ側からしても手放したつもりがまるで無いため手は繋がったままというサブタイです(手をすり抜けたもの→それでも手放さなかったものというタイトルの流れとは違うからなぁ…となってこのタイトルに)

デカグラマトンからの特異現象捜査部からのミレニアム入りからのVo2という流れ。なんというかこう、ゲーム開発部編にゲーム開発部からの申請で殺せんせーが向かうと廃墟に行かずに真っ当にゲーム作らせそう…と思ってしまったため(普通にゲーム開発部最初からソレ出来る能力はあるから精神面を殺せんせーが補強したらゲーム開発部がゲーム開発して終わっちゃう…となってしまった。私がソレを書けるかは別として)

あと殺せんせーの頭にプライステーションが当たる気がしなかった

ビナー戦。無事に短期決戦で終わったけどこのメンバーならこれぐらい出来るやろ…で書いてる。ちゃんとビナーくん強くない?って思える描写を書けてたらいいのだけども
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