それが叶わないからこそ、立ち上がる。
何度でも、何度でも。
きっといつか、届くと信じて。
一つ増えて一つ減る、それは道理だろう。でも人は思ってしまう、どちらも手に入れたいと。そしてその挙げ句どちらも取り零し、自分の愚かさを嘆く事になる。私は二度とあんな思いはしない、そう誓った。
だからこそ、前を向け。
過ぎたことを悔やむな、もうこれは仕形がない事なんだ。そう無理矢理自分を説き伏せたまま、泣くことも出来ない私はただ立ち尽くす。クリスマスイブの喧騒は余りにも陽気で賑やかで、涙を流せるような空気ではない。
分かりきっていた事じゃないか、こんなのは。
大喜くんが私を、好きになる筈がないんだから。
夢を見てしまった、すがってしまった私が悪い。それでも、だけど。この日に現実へ引き戻されるなんて、神様というのは残酷すぎる。
すれ違っていく恋人たちの睦み合いを、ぼんにゃりと聞きながら。呆然と仰いだ空には、ヒラヒラと粉雪が舞う。
夢佳がここへ来てくれるなんて、有り得ない。呼び掛ける声だって、中学引退試合の記憶が甦ったのかと思ったくらいだ。
だけどこれは幻覚でもなんでも無い、正真正銘かつての親友がそこにいた。
その瞬間、私はきっと限界を越えるほどの力を放った事だろう。そのお陰で辛くもウインターカップ初戦を突破し、そして。私たちは、漸く本心をぶつけ合ったのだ。
渚に「子供か」と言われ、顔を見合わせて大笑いして。また一緒にバスケをしよう、と約束をした。勿論また栄明でチームを組む事は出来ないし、夢佳の家の問題はそのまま残っている。前途は多難で、私にできる事は余りにも少ない。
でも、だけど。一歩進めた、思い出を取り戻せた。
――そこで一旦、踏み留まらなければならない。
私の人生は、そんな上手く行くように出来ていない。そんな事すら考えられない程に、私は舞い上がっていたのだろう。
反省会を兼ねて食事にいく仲間たちに背を向け、私は駆け出していた。
大喜くんは今日も練習だ、バド部自体クリスマス時期は全日練習の予定らしい。そこを押して声をかけたって、困らせるだけ。良い同居人でいる為には、自重するべきタイミング。それでも私は、スマホから繰り返し発信を続けている。
ケープくんのスタンプ一つ送ればそれできっと通じる、でも今は声が聞きたい。大喜くんへの気持ちが、胸の奥で沸騰していく。
何度目かのコール音を経て、それは確信へと変わった。私は大喜くんが、好きなんだ。
『は、いっ千夏先輩っ! 遅れました、すいません!』
困惑の混ざった元気な声が、私の耳朶から入り込んで脳を揺さぶる。その一声さえ、愛しく思える。
「大喜くん、……勝てたよ。それが言いたくて。あと夢佳にチケット、渡してくれたんだね」
違う、そうじゃない。言いたいのは、それじゃない。ああ、また蓋をしてしまうのか。花恋にも言われたじゃないか、素直に気持ちを認めてあげてって。
照れたような大喜くんの声に、私はようやく覚悟を決める。
背筋が粟立ち血が逆流する絶死の冷気を力尽くで抑え込み、スマホを固く握って。
恥で人間死なない、それで死ぬくらいなら死んでしまえ。
「好き、です」
たった四文字の言葉は澱みながらも口から放たれ、電波へと変換されて大喜くんの下へと辿り着く筈だ。その寸毫であろう間を、永遠に近い感覚で待った私の耳へと帰ってきたのは――。
『そういうの、良くないですよ』
余りにもあっさりとした、拒絶だった。
電話越しで告白したことが良くなかったのかと問おうとした私に、大喜くんは優しく諭してくれた。お互いに夢を追う身であること、親同士の関係があるとはいえ
帰りに御祝いのケーキ買って帰りますね、明日もきっと先輩たちなら勝てますよ、と嬉しそうな声音で一方的に通話は終わり。あれから私はそのまま、夜の街で固まっている。
「……帰らな、きゃ……」
そうだ、私は帰らなければいけない。大喜くんがいる猪股家が、今の私の居場所なのだから。
好きになってなんか貰えない、それでも生きてる限り明日は来るんだ。きっといつか、大喜くんが私の思いを受け入れてくれる日が来る。そう信じるしか道はない、他に何がある。
奇跡を起こせ、この手で。歩みを止めるな、動き続けろ。止まらない限り倒れない、倒れない限りは死なない。死なない限り、私は止まらない。
そうだ、今はそれで良いんだ。唇咬んで不安振りほどき、孤独と弱さを擂り潰せ。
捩じ伏せてやる、何もかも。泣く暇なんかあるものか、私を――舐めるな。
血が滲む程拳を強く握り、軋む足を強引に動かして私は走り出していた。