え? 女子なのにブルーロックですか?   作:エゴイヒト

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金に関する地の文はちょっと調べただけで書いた素人なので、割とトンデモの可能性があることに注意。まあ主人公ちゃんの存在自体がトンデモなので許せ


哀神友の誘惑

 

「やはり、こんなのはおかしいです」

 

 我慢の限界とばかりに、哀神が静かに怒りを滲ませる。食堂に集うチームVの面々が、彼女の言葉に凍り付いた。

 元々、互いの出自など分からぬ間柄。加えて例外的にブルーロックに参加している唯一の女子という点からして、哀神は謎に包まれた人物である。玲王と似たような、見るからに育ちの良い雰囲気が滲み出ており、男子達は彼女が金持ちの家庭に生まれた娘ではないかと考えていた。そんな彼女がとんかつを前にして急に機嫌を悪くしたものだから、すわ、お嬢様には口に合わなかったのか、と彼らは思った。

 

 だが彼女が怒るその理由は、その怒りの矛先は、決して自らの前にある食事に対してではない。このブルーロック1次選考においては、ランキングに応じて食べられる物が変わる。チームVトップである221位の哀神はとんかつ、222位の凪はハンバーグプレート、というように順位が高い方が豪華な食材を獲得できる。

 彼女とて、とんかつくらい食べたことはある。不満などありはしない。問題は、彼女以外の面々の食事にあった。

 

「育ち盛りの男子高校生達を何だと思っているのです? おかずが『かにかま』や『ひじき』だけなんて、もはや虐待でしょう。栄養バランス以前の問題です!」

 

 即物的な報酬を提示することで競争を促そうという腹なのだろうが、あまりにも精神論が過ぎる。

 まず第一に、栄養が十分取れなければプレーにも影響が出る。そうなれば一度固まった順位を覆すことは難しくなるし、正確なランキングができているか疑わしくなる。そもそも、そんなお互いにガタガタなパフォーマンスの中で生まれるプレーが、世界一のストライカーを生み出すことに繋がるはずがない。

 

「大方、貧困の中から這い上がった優れた選手を見て、飢えという逆境が才能を生んだのだ、などと思い込んでいるのでしょうが……思い違いも甚だしい」

 

 飢えれば勝てるのなら皆飢えている。それはただ、努力をする動機を与えただけ。飢える者が皆成功したわけではない。優れた才能を持つ者が相応の努力をしたからこそ、逆境を乗り越えることができただけ。典型的な因果の誤謬だ、と彼女は憤る。そんなことも分からない程、絵心甚八という男は狂い果ててしまっているのか、と。

 

「可哀そうに。きっと彼も、若い頃は友達と遊ぶのが大好きな純粋な少年だったに違いありません、ええ。競争が、彼の心を荒ませてしまったのでしょうね」

「いや、それは絶対ないだろ……」

 

 チームVの面々が、揃って首を横に振る。あの陰険眼鏡が仲良しこよししている姿など想像できない。というか、想像すると吐き気がしてきた。

 

「皆さん、私から提案があります」

 

 くるり、と彼女の首がこちらを向いた。突如、意識の矛先が自分達に向けられたことで、少年達は身構える。依然、彼女に対する印象は不気味のままなのだ。

 

「苦しい時は皆同じ。競争に走らせようという絵心氏の悪意に屈してはいけません。ここは、それぞれのおかずを分け合うというのはいかがでしょう」

 

 え、と彼らは互いを見合った。

 

「お、俺はいいぜ」

「俺も俺も!」

 

 ちらほらと賛成の声が上がる。しかしそれはたったの4名で止まり、続く者はいなかった。

 

「馬鹿げてる。まともなおかずにありつけている奴らで、そんな提案に乗る奴いないぞ」

 

 玲王が、黙り込んだ彼らの意見を代弁する。賛成しているのはランキング下位の者達だけで、彼らのおかずはひじきやかにかまといった貧相なもの。とても釣り合っていない。不公平感は否めなかった。

 哀神の提案は、玲王が目論んでいた施しによる人心掌握とは、表面上は似ているようで全く違う。無私の奉公。それを自らだけでなく、周囲にも要求するものだ。

 資本主義社会が生んだ御曹司として、その思想には共感できそうもなかった。それは自らが学んできた帝王学の否定であり、そして存在そのものの否定でもあるからだ。まして、この女も玲王に負けないくらい育ちが良いのは間違いない。にもかかわらずそんな言葉が出てくるなんてありえない。こいつは信用できない。玲王の中で、哀神に対する不信感が芽生え始めた。

 

「……そうですか」

 

 提案に乗らないランキング上位勢を見て哀神は悲しそうな顔をすると、彼女はその場を離れていく。

 何をするのかとチームV達は遠巻きに見つめる。

 やがて帰ってきた彼女の手には、一枚のサーロインステーキがあった。

 

「そ、それって!?」

 

 ゴールボーナスの項目にあった、1ptで交換できる景品に間違いない。じゅうじゅうと音を立てて溢れ出す肉汁に、少年達は涎を垂らす。

 

「こういうことになるだろうと、点を使わずに取っておいたのです。こちらのステーキを、賛成してくださった四名だけに差し上げます」

「い、いいのか!?」

「うおおお! ありがてぇ!」

 

 彼女自身はステーキに一切れも手をつけず、無償で彼らに差し出した。

 

「ただし、条件があります」

 

 そして今にも手を出しそうになった彼らの前で、彼女はステーキを取り上げる。

 

「貴方達が持つおかずも、ちゃんと分け合って食べてくださいね?」

「そんなことでいいのなら!」

「もちろんだぜ!」

「うおおお哀神さん最高ーー!」

 

 4名の幸運な者達は、喜んでおかずを分け合った。そして、残りのチームVの皆はそんな彼らを羨ましそうに見つめる。

 

「い、いいなぁ~あいつらだけ」

「なぁ、俺達にも……」

「欲をかけば損をする。いい勉強になりましたね」

「そんなあ!?」

「また次の機会を待ちましょう、ね?」

 

 彼女は、少なくともこの食事問題において、ランキングによる競争構造を"破壊(ストライク)"した。

 その所業は、口先を弄したりコミュニケーションを用いる人心掌握術ではない。環境を変えることで、社会集団全体の思考を誘導し民意を操作する。これは、民衆統治術とでも言うべきものだ。

 

「……俺よりよっぽど傲慢じゃねえか」

 

 競争というブルーロックのルールを利用して上手く立ち回ろうとするのではなく、ルールを破壊し自分好みのルールを創造する。この発想は、玲王には無かった。

 彼はしばらく、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

 


 

 

 

 ブルーロック一次選考、チームVにとっての第二戦はVSチームW。チームVと同じく第一戦を勝ち上がってきた鰐間兄弟率いる五号棟ナンバー2との対決となった。

 ゲームフィールドに立ち、彼らは互いを睨みあいながら試合開始を待つ……とはいかなかった。チームYとの対決の時もそうだったが、哀神がチームWの面々から困惑の視線を向けられていたからだ。それもその筈、彼らはそもそも彼女がブルーロックの参加者であることを知らない。帝襟アンリのようなブルーロックプロジェクト側のスタッフかと思って、何かトラブルがあったのかと緊張が走る。

 

「チームWの皆さん、私から提案があります」

 

 そんな空気の中、哀神が明るい笑顔で言葉を掛けた。

 

「誰だお前は、とお兄は言っている!」

 

 チームWのリーダー格である鰐間兄弟、その弟が威勢よく応じる。

 

「これは失礼しました。私は哀神友。諸事情あって、貴方達と同じくこのブルーロックの参加者となっている者です」

 

 チームWが騒めく。しばらくは疑いの声が上がったが、チームVが当然の事のように受け入れている様子から、どうにも嘘ではないらしい事を悟る。

 

「で、提案とは何だ、とお兄が言っている!」

「簡単なことです。この試合、()()()()()()()?」

「……はあ?」

 

 流石の鰐間弟も、兄の言葉を代弁することを忘れてしまった。それほどに、言葉の意味が分からなかった。

 

「いえ、この試合だけではありません。ブルーロックプロジェクトを辞退しませんか?」

 

 その場の全員が唖然とする。それは仲間であるチームVでさえも。

 

「争いあえば敗者が生まれる。敗者になれば悲しい。『世界一のストライカー』、とやらになりたいのでしょう? だったら、成れなかったらきっと悔しくて悲しくて、死にたくなるくらい絶望する筈です。そんなこと、もうやめませんか? 競争を止め、互いを称え合えば、勝者も敗者もない。誰も傷つかなくて済むんです」

「何言ってやがんだこいつ……?」

 

 一人だけ、違う世界観に生きているようだった。いや、実際違うのだろう。彼女が見ている世界は、きっとこの場の誰とも相容れない。蒼いものが紅く見えるほどに、根本的な価値観が異なっている。

 どこから突っ込めばいいのか。ただ、『暴論』という言葉で片づけるしかなかった。

 

「待て……待て、待て!」

 

 玲王が、背後から哀神を呼び止めた。

 

「つまり、なんだ。お前が言いたいのは、誰にも負けて欲しくないから、ブルーロックを降りろってことか?」

「ええ、そうです!」

 

 自分の気持ちを的確に理解してくれた玲王に、哀神は満面の笑みを浮かべて肯定する。

 短い付き合いだが、未だ見た事がない程綺麗な表情で、玲王は眩暈がした。

 

「は、なんだそりゃ……」

 

 子供染みている、とか、頭にお花畑でも咲いているのか、と言えばいいのか。

 否、そんな言葉で片づけようとすら思えなかった。同年代の少女がこんなことを素面で宣うなど、考えたことも無かったので、ただただ言葉が出てこない。

 

「何だそれ、お前が勝ちたいだけだろ!」

「そんなんもう提案ですらねえ! ようは降伏しろって言いたいんだろ!?」

「そこまで言うなら、お前が棄権すればいいだろ!」

 

 要は喧嘩を売られているのだ、と捉えたチームWの面々は怒りを露わにして、哀神を非難する。

 

「それはできません。私には、このブルーロックプロジェクトという狂気を止める必要がありますから。皆さんの協力があれば、穏便に、誰も悲しまずに済みます」

「ふ、ふざけんな! 誰がそんな提案受けるかよ!」

「第一、俺達のサッカー人生が掛かってんだ!」

「そうだそうだ! 負けたらW杯にも出られなくなるんだぞ!」

 

 まるで出られることが確定かのような最後の発言には、お前如きが本気で出られると思っているのか、という視線がチームVのみならずチームWからも浴びせられたが、それはここにいる全員がそうだ。

 誰しも出たいと思っているし、だからこそ、このブルーロックに入った。

 

「そんなことはありえません」

 

 その表情からは先ほどまでの笑みは消え、真剣な声音で断言する。

 あまりにも自信満々に言い切るものだから誰かが口を挟もうとしそうなものだが、しかし彼らは思わず息を呑んだ。

 

「哀神家次期当主、哀神友の名において約束いたします。たとえこのブルーロックで敗れたとしても、それが理由でW杯に出られなくなることなどない、と。私の提案を吞んでいただけた方には保証しましょう」

 

 静まり返るチームW。見かねた鰐間弟が、空気に呑まれまいと口を開く。

 

「嘘だ、そんな保証どこにある!? とお兄は言っている!」

「では、()()()()()()()()でどうでしょう?」

「……? な、何の話だ?」

「ですから、保証金ですよ。約束を違えぬよう、それだけの額をお支払いします。もっとも、返して貰う必要はありませんが」

「…………」

 

 反応が返ってこないので、哀神は不安そうに確認する。

 

「年俸250億円で40年契約と考えると、そう悪い金額ではないと思うのですが……?」

「??????」

 

 そんな額、トップアスリートでも貰えない。スポーツ選手の年収ランキング上位は、だいたい1億数千ドル程度だ。2025年に公開されたリストではクリスティアーノ・ロナウドが2億7500万ドルを記録したが、それだって生涯に渡って貰い続けたわけではない。

 

 だが、ここまで言われれば流石に皆気がつく。彼女は、『世界一のストライカー』に見合う額を提示しているのだと。それは即ち、彼らの『夢』の値段であった。

 

「ふふ。なーんて、流石に吹っ掛けすぎですよね。高校生なら円安くらい知ってますし。100億ドルなら如何です?」

「なあ、100億ドルっていくらだ?」

「1兆5000億円……くらいじゃね?」

 

 チームWのメンバーは、哀神の言葉に流されようとしていた。

 だってそうだ。いくら世界一のストライカーを目指すと言ったって、今の段階ではただちょっとサッカーが出来る程度の高校生でしかない。彼らは絵心の口車に乗せられて威勢よくブルーロックに参加したが、不安だってあった。300分の1を掴み取りブルーロックの頂点に立つ。客観的に考えて、それが分の悪い賭けであることは明白だ。今の段階の彼らに、大した価値はない。いくら夢の値段が1兆円あったとしても、期待値で考えたら極めて低い。

 そんな彼らに、たとえ何もかも上手くいったとしても到底手に入らない金が提示されているのだ。少しも心が揺らがない方がおかしい。

 そんな、今にも首を縦に振りそうな彼らを見かねたのか。

 

「いやいやお前ら馬鹿か!? 10人に100億ドルずつ配ったら1000億ドル、世界長者番付だって1位でようやく1000億ドル程だぞ! そんな金ほいほい差し出せる奴いる筈がないだろ!?」

 

 背中から刺すように、玲王が哀神の甘言を否定した。

 しかも彼女の口振りからして、この提案は他のブルーロック参加者にもする筈だ。だが299人全員に同じ提案をするつもりなら、彼女が支払う総額は3兆ドル近い。

 米国市場の企業総資産上位層は大体数千億ドル。日本企業なら最上位層は数百兆円にも上るらしいが、それはグループ全体の額であり、ほとんどを旧財閥のファイナンス系が占めている。それらも、捻出できたとしても流石にグループが傾く額だ。個人ではなく企業の後ろ盾があったとしても、到底払える額ではない。そもそもたとえ社長だとしても、こんな馬鹿げた使途に独断で動かせる金額ではない。どう考えても詐欺だ。

 一方で、彼女が自分と同じような富裕層の人間であることは、これまでの振る舞いからも察せられる。金持ち同士だからこそ、()()()()()()教育を受けた者は見抜けるのだ。だからこそ分からない。そんな、どこぞの大企業の社長令嬢が、こんな低俗で分かりやすい詐欺をするだろうか? もっと現実的な額を提示することだってできた筈だ。実際、一人当たり1億円くらいなら、払えてもおかしくはない。

 未成年とはいえ、帝王学を学び既に富裕層の世界を知っている玲王だ。そこまで金を持っているなら、直接のコネは無くとも名前くらい聞いたことがある筈。聞いたことがないのであれば、国内ではなく海外の企業だろう、と当たりを付けた。

 

「そ、そうだ! 騙されるかよ!」

「そもそも、金を払ってもらえる保証だってないぞ!」

「危うく詐欺に引っかかるところだった、とお兄は言っている!」

「ゴールボーナスの項目に携帯の返却がありましたよね? 口座をお持ちであれば、すぐお支払いしましょう」

「えっ……」

「無ければ、貴方のご両親の口座でも構いませんよ。こちらで調べあげますので、振り込まれたかどうか電話でご両親に確認を取って下さい」

 

 一切退く気を見せない様子の哀神。そこまで言われると、途端に現実味を帯びてくる。流石の彼らも有り得ないとは分かっている。だがそれにしてもノーガードが過ぎるので、一度、試しに話を聞いてみてもいいのではないかと思えてきた。

 

『ちょ、ちょっと待ちなさい!』

 

 そんな彼らを引き留めるように、スピーカーから女性の声がした。

 キックオフやファールなどのアナウンスを行っている者と同じ声なので、この場の皆にも聞き覚えがある。しかし今回は淡々とした事務的な声ではなく、珍しく焦っているのが分かるくらい、感情的だった。

 

「アンリさんですか。試合開始にはまだ時間がある筈ですが?」

『そんな話は認められません! 金銭で勝敗の交渉をするのは八百長です!』

「ああ。言われてみれば、確かにそうですね。でも、それを禁止するルールがありましたか、絵心さん?」

 

 スピーカーではなくカメラを見つめて、アンリではなく隣にいるであろう絵心を狙い澄まして、彼女は問う。

 暫しの沈黙。

 

『確かに無い。どんな手段を使ってでも勝つ、それもまた一つのエゴだろう。下の下ではあるがな』

 

 モニターに、絵心が姿を現す。それを見て、少年達はどよめいた。絵心が直接、こうして姿を晒して言葉を交わすことは珍しい。少なくとも、彼らが言葉を投げかけた所でまともに取り合ってくれたり、返答が返ってくることはないだろう。今はまだ、ここにいる一人一人は才能の原石でしかない。300人の有象無象、半人前以下だからだ。

 だからこそ、絵心が出て来たのは少年達にとって衝撃だった。つまり彼は、哀神の行動、そしてこの事態を重く見ていることになるのだ。それは哀神の言葉が只の虚言ではないと認めたということでもある。

 

『絵心さんっ!? こんなことを許したら!』

「許す許さないもありませんよ。貴方達に私を縛ることはできない。そうでしょう?」

『……ああ。究極、お前はこのブルーロックで勝ち残る必要がない。お前にとっての勝利はそこに無い』

 

 彼女は、勝ち負けなどどうでもいい。競い合うことに価値を見出していない。ましてW杯の出場権など願い下げだ。そもそもこのブルーロックに参加したのは、父の差し金。意図も不明な父の道楽に、最後まで付き合う必要はない。今までだってそうだった。たとえわざと負けたとしても、何かあるわけでもない。

 彼女の第一目標は、このブルーロックプロジェクトを離脱して元の学生生活に帰ること。第二目標は、ブルーロックプロジェクトの早期終了。自分だけが離脱するのではなく、全員を争いの渦中(デスゲーム)から救い出すことだ。

 仮に彼女を失格にさせたところで、一度火が付き、義憤に燃える哀神友という女が止まるわけがない。あの手この手で、外からブルーロックを閉鎖に追い込むだろう。であるなら、中で飼っていた方がマシだ。少なくとも参加者である内はある程度ルールに従ってくれる。

 ここにきて、絵心に対し、ブルーロックの内側から金の力が立ちはだかる。外からは金の亡者。中からは金を振りかざす権力者。金からは逃れられないのかもしれない。

 

『その上で、問題ない。お前を入れると決めた時から、この程度のリスクは想定済だ。(エゴ)を金で売り払うような奴に、こちらも用は無い。そんな奴は、どの道世界一のストライカーにはなれない』

 

 そう言って、絵心はモニターから姿を消す。

 

「……さて、お墨付きも頂いた所で、改めてお聞きします。私の提案を受けていただけませんか?」

 

 重い沈黙があった。だが、互いの様子を窺ったりはしなかった。彼らは決意と、激しい怒りに燃えていたのだ。

 

「断るっ!」

「ああ、そんな額じゃあ全然足りねえよ! 無量大数ドル持ってこいや!」

「俺達を安く見積もった罪、ボコボコにして分からせてやる、とお兄は言ってる!」

 

 彼女の提案を呑むことは、夢だけではなくプライドも売り払う行為だ。一サッカー少年として、いや少年だからこそ。自分達の夢を値踏みされて、黙ってなどいられなかった。

 

「そうですか……残念です」

 

 少女は今にも泣きだしそうなくらい、とても悲しそうに落ち込む。

 

「うっ」

「ちょ、その顔は反則だろ……」

 

 サッカーで打ち負かしてやると意気込む彼らだったが、彼らも年頃の少年だ。モデルやアイドルが霞むほどの美少女の泣き落としには弱く、気が削がれそうになる。

 しかし次の瞬間に彼女は一転、無表情になる。

 

「―――では、もう二度と競争などしたくないと思えるよう、諦めさせてあげます」

 

 たった一度の絶望で。たった一度の痛みで済むように。

 金輪際、人と競い合おうなど思えない人間に矯正する。

 

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