いいねぇ。なんとも味わい深い出来栄えだ。なぁ本郷。

あぁ。歪んではいるが、まっすぐだ。

ま、ヘタクソには違いないがな。








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シン・仮面ライダー観終わった方向けの謎短編です。
なお昭和ではなく平成ライダーとの微クロスオーバーモノの模様。誰得なんだウルトラマン。









通りすがり

 

 

 

 人間の気配が消え失せた『渋谷らしき街』のストリートに、計六本の改造マフラーからなるけたたましいエキゾーストノートが炸裂する。

 

「どいたどいたぁ!」

 

 白いカウルに身を包んだハイパワーマシン『シン・サイクロン号』が、灼熱の白煙を噴き上げて渋谷の道路を爆進する。

 強化された二輪のタイヤで猛然とアスファルトを斬り崩しながら、眼前に蔓延る『異形たち』を次々と跳ね飛ばしていくサイクロン。

 道路の端から端まで溢れかえっていた醜悪な怪物たちが、輝くマシンの突撃に全身の骨を粉々に打ち砕かれ、瞬く間に物言わぬ骸と化していく。

 

「あぁ、いいぞサイクロン!今日のお前は最高にいい仕上がりだ!」

 

 爆走するマシンとそれを操るライダーの前に、死屍累々の異形たち。

 ある者は豪炎と共に爆発四散し、ある者は青い炎を纏った灰となり。

 ある者は腐った土塊へと姿を変え、またある者は七色のステンドグラスとなって砕け散る。

 不思議な風の音が鳴り渡る無人の街が、色とりどりの死の芸術で満たされていった。

 

「ぬぅっ、と!」

 

 暴れる車体をウン十トンの胆力で無理やり横向けるライダー。黒々としたタイヤがアスファルトを擦りあげ、甲高いスキール音を無人の街に鳴り散らす。

 

「ふぅ」

 

 巨大な交差点のど真ん中でバイクを停車させたライダーが、軽く息を切らせながら広い道路を振り返る。

 通りすぎた道沿いに点々と散らばる破壊の残滓に、ライダーは緑色の仮面の奥でそっと目を閉じた。怪物たちの肉の千切れる音が、ライダーの脳髄にざわざわと残響する。

 そんなライダーの耳に、仮面に宿ったもう一人の『ライダー』が、優しげな声でそっと囁いた。

 

『大丈夫か』

 

 気遣わしげなその男の声に、ライダーは一度被りを振ってからカラリと笑った。

 

「いやなに、我ながら派手なパフォーマンスだったと思ってな。そうだな、サイクロンクラッシャーとでも名付けよう」

 

 無人の街に吹く不思議な風に赤いマフラーをはためかせながら、そう飄々とうそぶくライダー。仮面の中の男は、ただ静かに『いい名前だな』と返した。

 彼らの名は『仮面ライダー』。二人で一人のロンリーヒーローである彼らの間に、余計な言葉は必要なかった。

 

「それはそうと、なぁ、本郷」

『なんだ、一文字』

 

 重いアイドリング音を響かせるシン・サイクロン号に跨った仮面ライダー、一文字隼人が、緑の仮面に宿ったもう一人の仮面ライダー、本郷猛に語りかける。

 猛、なんて名前に到底似合わない穏やかな声に小さく笑いながら、一文字は流れる風の様に気ままに口を開いた。

 

「あのビルが見えるか?」

 

 クイ、と鋭いクラッシャーに覆われた顎をしゃくる一文字。彼らの目線の先にあるのは、渋谷の有名な商業施設109『らしきもの』。

 

「俺の目がおかしいのか?どうにも俺には、あの109が『901』に見える。しかも見事に文字が『反転している』って、ハモるなよ」

『すまない』

 

 何気ない一言に淡々と謝罪を返してくる本郷に少々呆れつつ、一文字は改めてこの渋谷によく似た謎の街を見渡した。

 コォォ、とどこか機械的な印象を抱かせる冷たい風の音が鳴り渡るこの街には、先ほど引き潰した異形たち以外、全く生命の気配が無い。

 そのうえ、この文字の反転だ。あの109だけじゃない、道路標識も、看板も、街を彩る街頭広告もなにもかも、あらゆるものの左右が反転している。

 

「まるで鏡の中だな」

 

 サイクロンの上でぐいっと伸びをしながら呟く一文字。本郷は考え込む様に口を閉ざした。

 この狂った渋谷にいつ自分たちが迷い込んだのか、ライダーたちにはまるで見当もつかなかった。気がついたらサイクロンと共にそこにいて、数十はくだらない異形の怪物たちに周りを囲まれていた。

 そうしてあれよあれよと言う間に戦いになり、やむを得ず自慢のマシンによる大量轢殺戦法を初披露する事になったのだ。カウル越しに伝わってきた生々しい肉の感触が、黒いグローブにじっとりと残っている。

 

『ひょっとすると』

 

 気を紛らわす様にサイクロンのタンクを撫でつけた一文字に、しばらく黙っていた本郷がブツブツと語りかけ始めた。

 

『僕たちは僕たちの世界とは位相の異なる平行存在的反転性物質世界に一種のパラレルテレポートアプローチを過失的に敢行したのかもしれない』

「日本語で話せ本郷」

『日本語だ一文字』

 

 耳が滑る様な意味深な単語群に、ウンザリと首を逸らす仮面ライダー、一文字。

 全く、いつの時代も厄介だ、賢いヤツの話し相手ってのは。コイツらは相手に合わせて『噛み砕く』って事を知らないでいやがる。どうにもこうにもスッキリしない。

 

「はぁ。要するにここは異世界か」

『あぁ。全ての物質が鏡の様に反転した、ミラーワールドとでも呼ぶべき空間だ』

「ミラーワールドか」

 

 あっさりと要約した一文字は、奇妙に反転した鏡面世界を眺めつつ、首に巻いた真紅のマフラーをくしっと弄った。

 

「まあ、響きは悪くない」

 

 さてどうするか、どうやって抜け出すか。

 二人のライダーが、愛機シン・サイクロンの上で再び頭を悩ませた時。

 彼らの体に、突如として異変が生じた。

 

『…っ、一文字!』

「なんだ本郷…っ、これは…!?」

 

 黒い防護服に覆われた仮面ライダーの全身が、風に吹かれた砂山の様にザラザラと崩壊を始めたのだ。

 痛みも痒みも何も無く、ただ静かに己の身体が虚空に溶けてゆく。そのあまりに異様な視覚情報に、さしもの一文字も動揺を隠せない。

 だが、一文字隼人はそこで立ち止まる男ではなかった。

 

「…よし、走るぞ、本郷!」

 

 一文字は素早くサイクロンのアクセルをふかし、ザラザラと消えゆく左手で乱暴にクラッチを繋いだ。

 ゴゥンッ!と激しく嘶いたシン・サイクロンが、ロデオの様に前輪を振り上げながら猛然と急発進し、六本のマフラーから真っ赤な炎を爆ぜさせる。

 つんざく爆音を轟かせながら、ミラーワールドを激走する仮面ライダー。

 

『何故走るんだ!?』

「何故だって!?」

 

 何の脈絡も無く走りだした一文字に驚く本郷だが、一文字に迷いは無い。ガンガンとサイクロンのギアを上げながら、全身を緑の突風と化していく。

 

「俺たちはライダーだ!走った道こそライダーの世界!だから走るんだよ本郷!」

『それは抽象的な世界の話だ!僕たちは』

「気にするな!世界は世界だ!」

 

 舌を噛みそうになる程の猛スピードの中、一見無意味な暴走に身を委ねる仮面ライダー。

 胸のコンバーターラングと腹部のタイフーンが激しい風に反応し、周囲に満ちる生命エネルギー『プラーナ』を猛烈な勢いで吸収していく。

 

『この世界にもプラーナが…でもこれは…』

「あぁ、なにやら妙な味わいだな?」

 

 仮面ライダーの全身に満ち満ちてゆく、ミラーワールドのプラーナ。煌めく緑のエネルギーに加えて、乱反射した鏡面の様な銀色の輝きが、仮面ライダーとシン・サイクロンから放出されはじめる。

 そしてライダーは、真っ白な眩い光に包み込まれ、ミラーワールドから姿を消した。

 

 

 

 

 気づくと二人は、寒々しい岩肌に囲まれた荒涼な大地に、サイクロンに跨った姿勢のまま佇んでいた。

 一文字はタイフーンからプラーナを放出し、緑の仮面をゆっくりと脱いだ。

 己の半身が宿った仮面をサイクロンのミラーに引っ掛け、蒸れたグローブを脱ぎ捨てる。

 

「さて、どうかな」

 

 汗に濡れた前髪をかきあげながらスマートフォンを取り出し、マップアプリを作動させる。

 文字が反転する事もなく、正しく表示された座標と地名。どうやら日本の埼玉県、無事に帰って来れたらしい。

 

「大成功か。いいねぇ」

 

 ガシガシと頭を掻きながらニッと笑う一文字。一か八かの賭けだったが、やはり一文字の肉体に組み込まれたプラーナシステムの性能は一級品だった。

 

「細かい理屈は分からんが、とにかくこれで」

「心スッキリか?」

「そうそうスッキリ…っ、なに?」

 

 いつの間にか、一人の男が一文字の側にいた。

 程よく遊ばせた茶色い髪に、不遜な顔つき。ホストの様なドレスジャケットでキザったらしく着飾った見知らぬ青年が、ポケットに手を突っ込んでサイクロンのフロントカウルに寄りかかっていた。

 

「アンタは?」

「通りすがりだ」

 

 そう言って、不遜な青年は手に持った小さなトイカメラを一文字に向け、遮る間もなくシャッターを切った。

 

「一文字隼人、仮面ライダー第2+1号、ね。なかなか面白いじゃないか、お前たちの世界も」

 

 派手なマゼンタカラーのトイカメラをポンポンと弄ぶ謎の青年に、一文字は何故か警戒心を抱けなかった。

 仮面ライダーである自分の名前を知っている男。普通であれば、まず間違いなく『ヤツら』の刺客であろうと身構えるところだ。

 だが、一文字は拳を握らなかった。何故か今の一文字には、この名も知らぬ青年の事が、旧い友人が何かの様に感じられた。

 

「しかし驚いたな。世界の破壊に巻き込まれておきながら、たった一人で破壊を防いだ仮面ライダー。そのうえ、あのミラーワールドからも自力で抜け出すと来た。プラーナ、だったか?全くショッカーってヤツらは、どこの世界でも大したモンを作りやがる」

 

 つらつらと何の気ない声で話し続ける青年。これには流石の一文字も動揺した。

 仮面ライダー、プラーナ、SHOCKER。一文字たちをはじめとした一部の関係者たちしか知らない筈の単語が次々と飛び出し、そのうえミラーワールドの事まで。まるで一文字と本郷の戦いを全て見ていたかの様だ。

 

「なぁ」

 

 一文字はバイクから降り、カメラを弄る気取り屋の男に向き直った。

 

「アンタ、一体どこの誰なんだ?お兄さん」

「言っただろ、ただの通りすがりだ」

「ならさっさと通りすぎるといい」

「つれないな」

 

 男はサイクロンからよっと身体を浮かし、慣れた手つきでカメラからフィルムを取り出した。

 目に痛いくらい鮮やかな色合いの、マゼンタカラーのトイカメラ。中々に人を選ぶデザインだが、不思議と男にはマッチしていた。

 

「カメラはウソをつかない」

 

 気取った口調で語りながら、男はフィルムを一文字にぽいっと投げ渡した。

 思わず受け取ってしまう一文字に目を合わせる事もなく、青年は続ける。

 

「無色透明なレンズの中には、世界の在り方がありのままに写る。それぞれの世界に住む人間の数だけ、また違った世界が広がっている」

 

 だから好きだ、と楽しげに語る青年の横顔に、やはり一文字は不思議な親近感を覚えた。

 

「じゃあな、一文字隼人、本郷猛。旧い世界を破壊し繋げる新・仮面ライダー。いや」

 

 -シン・仮面ライダー-

 

「ぁ…」

 

 そう言い残して、男は突然現れた黒いオーロラに包まれて消えてしまった。結局最初から最後までペースを持っていかれっぱなしだった。

 

「…どうにもこうにも、スッキリしないが」

 

 一文字は、ヒトのカタチに戻った肌色の手に持った小さなフィルムを見やって、ニッと薄く笑った。

 カメラ。うん、悪くない。

 

「この俺を被写体にしたんだ、きっちり男前に撮ってくれたんだろうな?お兄さん」

 

 フィルムを懐に仕舞い、一文字はサイクロンに跨った。

 後にカメラ屋で現像した写真には、ピンボケしてひん曲がった一文字の隣に、同じくひん曲がりながらもしっかりと立ったもう一人の男の姿が、寄り添う様に写し出されていたという。

 

「いいねぇ。なんとも味わい深い出来栄えだ。なぁ本郷」

『あぁ。歪んではいるが、まっすぐだ』

「ま、ヘタクソには違いないがな」

 

 

 





いやぁこっちの世界の一文字も性格は違うが立派な仮面ライダーだなぁ♡
それに比べて鎧武ッッッッッッッッ!!

↑このネタ好き過ぎて未だに擦ってる。
ちなみに私は鎧武普通に好きです(夏映画以外)。


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