見えなくても読み取れなくても、そこに確かにある強い感情。
届かなくても、大切なもの。
裏側に隠れたその意思は、誰ぞ知るや。
まあなんとも色気の無いクリスマスイブだな、とは思う。色気の有るクリスマスイブなんて過ごしたこと無いけど、さ。
先輩から貰ったクーポン券も使って、友達みんなでカラオケパーリィ。いや楽しいんだけど、気になるのは雛の事。
すっかり立ち直って見えるし、実際猪股とも普通に話せるようになってる。でもその影で、何処かにまだ澱みが残っている気がするのだ。
もし、全てがうまくいっていたら。雛はきっと私たちとイブを過ごしてない、猪股と二人きりになっていただろう。
そう、もしも――猪股が雛をフラなかったら。
告白したというのは夏休みが明ける前、本人から直に聞いた。興奮冷めやらぬといった感じで、眼差しは燃えるように熱かったのを覚えている。ただ「返事はまだ良いって言っておいた。私を好きになってくれたら、その時にしてって」と言っていたのが引っ掛かった。
つまり、つまり。今の時点では、猪股は雛に良い返事をくれないという事。そして雛はそれを聞きたくないから、先送りにしたという事。
二人が仲良しなのは知っているし、付き合っちゃえどころかとっとと結婚しろとか囃し立てられてるのを見たこともある。でもそれはあくまで「親友」としての親密さ。それは恋愛とは違う、決して繋がらない。私だって一応は女子だ、その辺はわかっている。雛だって気付かない訳がない、それでも必死で目を背けようとしていた。思いは届くと、信じて疑おうともしなかったんだ。
そのままどうにか取り繕えればまだ良かったんだろうけど、菖蒲が余計なことしたみたいなんだよなあ。
新体操部じゃないしクラスも違う、でもなんか良く分からないうちに雛の隣にいたあの子。友達を取り合うほどコドモじゃないけど、少しだけ複雑な気持ちにはさせられた。いつの間にか雛は私に相談しないような事を菖蒲に打ち明けていて、そして菖蒲は最短距離でそれに応えようとしていた。
その結果秋合宿で正式にフラれた訳だけど、でもそれは全部が全部菖蒲のせいという訳じゃない。時間が開いて冷静になればなるほど、猪股は
時間は有限で、決して止まらない。いつかは必ず、向き合う時が訪れていた。それが雛の想像より早かった、というだけだ。
それから時間が経って、一時期は練習さえ儘ならなかった雛も笑顔を見せるようになってきた。それが心からのモノじゃないのは残念だけど、仕方ないか。まだ瘡蓋すら固まりきっていない傷痕を抱えたまま、他人に気を許せる筈がない。
こうして明るそうに振る舞えているだけで、奇跡的だろう。今はまだそれで良い、見守ろう。
ただ、だ。個人的にはちょっと気になるんだよね、――猪股の行状が。「雛の人生に大した影響は与えてない」ってイヤミ言ったりはしたけれど、猪股にとって雛をフッた事はどういう事案になっているんだろう。好きな人がいるとか風の噂には聞いたけど、その辺もわかりゃしない。バスケ部の先輩がどうとか聞いたような、でもどうだっけ。
猪股はバド部で今もまだ練習中かな、そろそろ片付けかも。今から行かせたら、なんて思ってしまうのは良くないな。せっかく明るいイブなんだから、湿っぽくしない方がいいや。
……そういや菖蒲って確かバド部でマネージャーしてる筈だけど、しれっと遊びに来てるんだよね。良いのかな、コイツ。て言うか根っから遊び人気質だし、よくマネージャーなんて地味な仕事やってるよね。
考えてみれば不思議な奴だ、気が付けば雛の側に立って理解者になっていた。
もしかして、もしかしたら。私はもっと、グイグイ行くべきなんだろうか。雛が自分から言ってくれるまではそっとしておくべき、と見守ってたけれど……こんな感じに余計な世話を焼くくらいでも良かったのかもしれない。
そうやって猪股と雛がくっつくように仕向けていたら、今日のこの日は全然違うものになっていただろうな。まあ外堀から埋めていくのは、少しばかり野暮かもしれないけどね。
「この次にいなちゃんね、いつもの入れとこっか?」
デンモク片手に笑う親友に笑顔を返し、私は頭を切り替える。
楽しめ一瞬を、今こそが人生だ。振り返って後悔しないように、精一杯駆け抜けよう。
さぁて、一曲いきますか。