この破綻者に憐れみを 作:熾烈
Side Hinata
昔から彼は私と一緒だった。ある時は私から好意を向け、ある時は私が拒絶した。それでも彼と離れることはなかった。できなかった。
依存か愛か、どうでもいい。彼と一緒ならそれで良い。
でも、期待している自分が未だにいる。
◇◇◇
そっと唇を触る。言永智誓と合わさった部分だ。すでにその熱は失せていてるが、忘れまいと指先は同じところを擦った。
私1人で出発したが、部下が一緒に付いてきた。心底どうでもよかった。
道中で食べた元の世界の食事の再現、ラーメン。懐かしい味は記憶にすら残らなかった。
何を考えても、私は彼が好きなのであるという結論しか出ない。
彼に帰ってきたら返事をすると言ってしまった手前、帰らぬ覚悟が無用になり、生きて帰らなければならなくなった。
そう、生きて、帰る。
智誓の元へ。
愛しい人。私のすべてを受け入れてくれる人。私の、、、
「…タ…ま、……様! ヒナタ様!」
「……何?」
「何って、声をかけても反応がなかったので」
周りを見れば、皆心配そうな表情で見ていた。
「少し考えていただけ。なんでもないわ」
◇◇◇
現実は非情だ。
何故、彼らは戦っているのだろう。すでに戦いの火蓋が切って落とされた。
これでは穏便に済まそうにもいかなくなってしまった。
「なあ、ヒナタ。言うまでもなくここは俺の領土だ。軍事行動をとった時点で、お前たちに害意ありと判断できる。先制攻撃を許すほど俺は甘くないんだよ」
魔王リムル。この時ほど、彼が絶望に感じたことはない。魔王に対する恐怖ではなく、別の事に対してだ。
憤りを滲ませるリムルにゆっくり目を向ける。
「……………私は、生きて帰る」
初めから食い違っている2人は更に拗らせ、ヒナタに限ってはもはや、目的が変わってしまっていた。
「だから、消えて」
冷たく言い放った。
ヒナタにとってこれは、生きるか死ぬかの問題であり、様子見をする余裕はなく、初めから全力で挑んだ。
『私カラ何モ奪ワセナイ』
聖霊力を具現化した聖霊武装を身にまとい、リムルに斬り込む。
「くそ」
リムルは悪態をつくしかなかった。それ程までに後手にまわっているからだ。攻撃しようにも隙が無く、相手の攻撃を防ぐか受け流すことしか出来ていない。むしろ、攻撃地点に誘い込まれている。
「
「しまっ!?!?」
ヒナタが放った対魔必殺の一撃はリムルに吸い込まれていった。
「リムル様!!」
近くで見守っていた側近の鬼が叫ぶ。
◇◇◇
戦場は静まり返っていた。武器の交わる金属音、呪文を唱える声、唸り声、全てが無かった。
ヒナタの剣は、リムルに刺さっていた。
「.........」
「.........これで、私は....」
剣を引き抜くと、リムルは膝から崩れ落ち、人の形を保てなくなり元のスライム状に戻った。しかし消滅はせず、なんとか生き残ったようだ。
「止めよ。私と彼の為に、死んで」
ヒナタの声は静かな戦場によくとおった。
剣を両手で握り、足元の敵に突き刺そうと振りかぶる。
「待ってて、直ぐ帰るわ......うっ!?」
力が抜けて手から柄が滑り落ちた。
浮遊感があり、次に空を見ていた。
胸元が焼けるように熱く、寒かった。
すーすーする。
鼓動を感じない。脈の拍動が聞こえない。
息が出来ない。もがこうとしても、体は動かない。だんだんと沈んでゆく。
私の父もこんな感じだったのだろうか。
暗く、冷たく、何も無い。
「智誓....」
吐き出せた息は、彼の名を呼んでいた。
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