今回の話はほんのりボルサラ風味ありでお送りします最終回です、お楽しみいただけましたら、気軽に感想いただけましたら嬉しく思います。
それではどうぞ。
……あれからもうちはイタチという人間の前世の記憶がある身としては信じられない程穏やかに、日常という名の月日は過ぎた。
そのことから考えてもやはり今の忍界は平和だということで、それを守っているのは今代の火影であるナルトを筆頭にした、五影とその支持者達によってなのだろう。
それを有り難い話だとイタチは思った。
前世でうちはイタチという人間として生まれたときは第三次忍界大戦の最中で、醜いモノも沢山見たものだ。死臭と苦悶の声はうちはイタチという人間にとっての原風景で、こんなものもう起きて欲しくないと、平和が世に訪れることを心から祈った。
戦争が終わっても、それで平和が来たかといわれたらそれは否だ。
平和の対義語は戦争では無く混沌であり、その歪みは、火種はあらゆる所に落ちていた。
この世界は争いを繰り返しており、大きな戦争が起きていなくても常に水面下で闘争が続いていた、それが当たり前だった。
だが、大事なのはその当たり前を如何に終わらせるか。
異なる立場の者達が互いに相手を理解しようと努力し、対話していく事にある。
生前のうちはイタチには、結局それがわからなかった。
彼は家族が存在しても尚、独りだったから。
犯罪者として里の為に死んだこと自体には不満はないけれど、それでも自分に嘘をつき続け己が何者かわからなくなったそんな人生だった。
簡単なことだったのに。
出来ないことを出来ないと認め、自分を許しありのまま認めてやること、それだけで良かったのに死ぬまで気づけなかった。
後悔をするなら、そこについてだ。
もっと早く本当の言葉を伝えてやれば良かったのだ。
だから、もう今世は同じ過ちは犯さない。
別に、前世のようなことが出来なくていいとそうただの鼬であるイタチは思っている。
前世の人間だった頃に比べても随分と出来ることは減ったけれど、それでいいのだ。全てを1人で背負う必要などないのだから。この里はナルト達を含め、沢山の火の意思がこれからも守っていくのだろう。
だから、自分に出来ることを出来たらそれでいい。
サラダの側にいてやりたい。
彼女を守ってやりたい。
うちはサラダ、前世にあたる人間うちはイタチにとっては姪にあたる少女であり、鼬として生まれた今世のイタチにとっては主人で家族にあたる存在だ。
彼女が幸せに笑ってくれたなら、イタチもそれだけで嬉しい。
前世の弟にして、サラダの父であるサスケとは未だに顔を合わせた事は無い。
多分恐らくきっと、イタチの短い生が終わるまでこの先も彼と巡り会うことも無いのだろうと、なんとなく予感している。それも別にいい。
イタチにはうちはイタチという人間の21年分の記憶があったけれど、それでもうちはイタチとは厳密には別人ならぬ別鼬なのだから、うちはイタチの人生は既に終えており、今はただのサラダのペットのイタチだと認識しているのだから、それでいいのだ。
うちはイタチとうちはサスケの物語は既に終わった。
一目でも会えたなら嬉しくは思うけれど、会えない事になんとも寂寞感が胸に沸いては来るけど、それは前世の記憶があるからこそ感じる感情の残滓だ。自分が会えない事は別に良いのだ。
それでも父の愛に飢えている
そんな風に思ううちに月日が過ぎていく。
サラダの8歳の誕生日には、野花を摘んできてプレゼントした。そうすると彼女は「ありがとう!」と可愛らしく微笑んで、「押し花にするね!」とはしゃいで大切そうにイタチの贈った花を抱きしめた。
この家に来て拾われて丁度1年が経った日は、朝から親子揃って家の居間を飾り付けて、「イタチ、誕生日おめでとう!」と花冠をサラダに贈られ、御馳走で祝われた。
そんな穏やかな日常がなんともくすぐったくて、こんな幸せを本当に味わって良いのかと時々現実を疑ってしまうほどに、それは夢のように幸福な日々だった。
サラダに誕生日として祝われたのは7月の出会った日であるが、イタチが生まれた本当の誕生日は初夏だ。逆算すると丁度前世の誕生日のあたりにうちはイタチの記憶を取り戻したこととなり、推定5月生まれである。
そうして此の世に誕生して1年と半年が過ぎ、二度目の冬を目前に迎えた頃……。
「……イタチ?」
彼の体は徐々に動かなくなり始めていた。
フワフワと美しかった毛並みはゴワゴワと強張り、食欲もどんどんと落ちていく。
出されたキャベツは食しているが……もうネズミを自ら狩り、食べることさえない。
ひっそりと気配を殺しながら、夜の木ノ葉の里を駆け回ることも無くなった。
少しずつ全ての機能が衰えていく。
……種明かしをすれば、なんてことはない。
寿命だ。
元々、鼬という種は短命である。
その平均寿命は野生なら1年と9ヶ月、飼われている鼬なら1年と4ヶ月ほど。
そしてイタチは此の世に誕生してから1年と6ヶ月を過ぎた……野生の鼬にしては少し早いが、人に飼われた鼬としてはこれでも長生きした方となる。
その鼬生に悔いは無い。
もしもあの誘拐犯との戦いで負傷し、後遺症が残っていなければ……もう少しだけ長生き出来たのかもしれなかったが、それも出来たとして数ヶ月……人間から見れば些細な差だ。
こんなに楽しい幸せな生涯を悔いがあると言ってしまうなんて、罰が当たる。
それに前世の人生は成人して1年ほどで……平均寿命よりも早くに亡くなったが、今世では寿命一杯まで生きたのだ。なら十分だろうと、そうイタチは思う。
悔いはない。
故にその死を受け入れていた。
静謐な瞳をして穏やかに余生を過ごす。
そんな中時々今生の母や兄弟達の事を想う。
……母はどんな最期を迎えたのだろうか。
鼬という生き物の習性や寿命から考えると自分が巣立った年の冬に、冬を越えたか越えていないかくらいに亡くなったことだろう。
母はとても鼬らしい鼬だった。
自分のような異端な子供をあの旅立ちの日まで平等に扱い、名など概念すらないはずの自らを「イタチ」と名乗る変わった息子に、それでも他の兄弟と同じ扱いを徹底していた。
そしてあの日、最後通牒としてお前は旅立ちだと巣立ちを迫ったが、あれは母なりの慈悲深さであった事にイタチは気付いていた。
異端を受け入れられないのは人間界だけでなく、それは自然界においても顕著だ。イタチのような野生の鼬の生態から外れた息子など、母によって殺されて無かったことにされてもおかしくは無かった。
それでも旅立ちの日まできちんと他の兄弟達同様育て、あの日もイタチに巣立ちを迫れど害することはなかった。それは十分に野生動物の親としては慈悲深いといえる姿だった。
良くも悪くも一貫してブレない姿勢は、野生として森の鼬としての強さがあった。
きっと森の鼬らしく生き、森の鼬らしく死んだのだろう。
(……兄弟達は、無事に子孫を残しただろうか)
鼬は夏を過ぎた頃に巣立ちを迎えるが、基本的にイタチのようにたった1匹で巣立つわけではない。巣立ち初めは兄弟達で固まって1つの群れとして行動し、2ヶ月ほど共に集団生活を送った後にそれぞれ独立して単独行動へと移る。だからきっと去年も秋までは自分が抜けた後の4匹で仲良く暮らしていた筈だ。仲良くやっていたならいい。
脳裏にかつて共に暮らした日々がよぎる。
『イタチって変なの~』
そんなことを言いながらもイタチが自己鍛錬に励んでいると、食い入るようによく見つめていた雌の姉妹。
『兄弟、いっしょに遊ぼうぜ』
と天真爛漫でお調子者だった兄弟に、楽天家でのほほんとしていた兄弟に、よく自分に遊んで遊んでと突撃してきた兄弟。
彼らの鼬生が実り多いものであればいいと、そう思う。
自分はどうしても野生の鼬らしく生きられなかったけれど、それでもそんな自分を当たり前のように受け入れてくれた兄弟達の生涯が少しでも幸福であればと、そうイタチは願っている。
死は隣人だ。
悔いなく生きてきたイタチにとって、それは恐れるものではない。
ただ、その先に待ち受ける死を見つめ、微睡み、考える。
兄弟達の行く末や、今の家族であるサラダやサクラのことを想いながら、終わりの日をただ待つ。
元々落ち着いた性分だったから、一見するとそこまで変わっていないように見えるだろう。だが、ずっとイタチを家族として見てきたサラダには何かが以前とは違うことは明白だった。
その動きは反応は徐々に鈍っていき、生気が薄れていく。
元々サラダは頭が良い子供で、勤勉だ。読書が趣味でもある、だから一体自分のペットに何が起きたのかと調べるのも当然だった。そして彼に訪れたものが寿命……永久の別れが近いという事も知った。
だから、ある日尋ねた。
いつも夜にサラダと語り合っていた時間に彼女のベットの上で気怠げに伏せているイタチに、泣きそうな顔と声で。
「イタチ、死んじゃうの……?」
そう問うた。
イタチはゆっくりと瞬きをした。
それからゆったりした動きで体を起こし、不安げに揺れる少女の肩にするりと登り、トンとサラダの額をその小さな水かきのついた手で小突いて、それから粘土板にカリカリと以前よりも時間をかけて、以前よりも少しだけ歪に文字を刻む。
『許せ、サラダ。これが最後だ』
それを読んで、赤い眼鏡の少女は泣き出した。
「うわあ~ん、イタチのばかぁ~!! ほんとパパ並みのしゃんなろーだよぉ!!」
そりゃもうこれまで見たことがない勢いでの大号泣である。
あまりの勢いで目玉がこぼれ落ちてしまうんじゃ無いかと、困ったようにイタチは思った。
「ひっく……ひっく、わた、わたしが子供だからってね、死んだら終わりだって、もう会えないってことぐらい、知ってるんだからね……ぅえええ~!」
泣く子には勝てない。
そういう諺があるがそれはどうやらこの頭脳明晰な鼬も同じだったようだ。
イタチは慰めるように大泣きする彼女に寄り添い、頬をスリッと少女の背中に摺り合わせるが、そんな彼の行動に前世の姪にあたる少女の涙の雨は益々酷くなるばかりだった。
(泣かないで欲しい……)
ぽんぽん、ぽんぽん。
前世で幼い頃、赤子だったサスケをあやしていた時のように尻尾でリズムをつけながら、嘆くサラダの背中に寄り添い、短い手をぎゅっと出来るだけ広げて抱きしめる。彼女を抱きしめられるほどイタチの体は大きくなかったから、抱きしめているというよりも縋り付いているような絵面ではあったけれど、それでもこの想いが届けばいいとそう彼は願う。
(オレは幸福だったと、どうすれば伝わるのだろう)
やがて大泣きからすすり泣くような声に変わって、少女は眼鏡の奥の可愛い顔をグチャグチャにしながら、ぎゅっとイタチの体を震える手で抱き寄せた。
「……ねえ、本当に、もうお別れなの……?」
「…………きゅ」
「私、私、まだイタチに、パパを紹介すら出来てないよ……」
その言葉に本当に優しい子だなと思う。
自分もパパに会えていなくて、それが寂しくて仕方ないのに、家族としてイタチを紹介したいと思ってくれている、その気持ちだけでも十分すぎる程にイタチは嬉しい。
「他にも、他にもやりたいことが、いっぱいあるんだ。いっぱい、沢山……イタチに教えて貰いたいことも、教えたいこともいっぱい沢山あるんだよ……?」
「…………きゅ」
「やだよ……もっと、ずっといっしょにいたいよ。いかないで……」
サラダの願いは全て叶えてやりたい。
それでも、その願いを叶えることが出来ないことはどちらもわかっていた。
サラダだって本当はわかっているのだ、これはイタチにはどうしようもない問題だって。それでも幼い彼女には死を受け入れているイタチを責めるしかなかったのだ。
悲しい。苦しい、寂しいよ。
そんな想いを持て余した彼女には泣くしかなかった。
イタチは何も言わない。正確には言えない。喋れない。当然だ、彼は人間の記憶を持ち合わせているだけで人間ではなく、忍獣ですらないただのサラダのペットの鼬なのだから。
それでも、この想いが伝わればいいと寄り添い、その頬に伝う涙を舐める。
その体温は温かかったけれど、以前よりも低い温度で、あんなに綺麗でフワフワだった毛並みもゴワゴワしていて、体は以前よりも痩せ細っていて、サラダはまた泣いた。
その日は一緒に同じ布団で眠った、この体温が少しでもイタチの小さな体を温めますように、そう祈って共に夜を過ごした。
その3日後のことだった。
サラダが学校から帰り、自分の部屋に入ると、彼女のベットの上で冷たくなっているイタチを発見した。
「イタチ? ……ねえ、起きてよ」
揺すりながらそう声をかけるが、本当はもうわかっていた。
これは現実逃避で、もう彼は亡くなってしまったことくらい、聡明なサラダはとっくに理解っていたのだ。それでも、認めたくなくて、「ママ、イタチが起きないの」そう冷えて固まっている彼を抱きしめて、母の元に向かって「そう、森で眠らせてあげましょうね……」そう言われ、一緒にイタチと初めて会った修練場近くの森に向かって、木の根元に彼の小さな体を埋めた。
それから漸くボロリと、声もなく、静かにサラダは涙を流した。
サクラはそんな娘をぎゅっと抱きしめた。
それから一週間、サラダはずっとイタチの死を引きずっていた。
あの日は次の日が休みで良かったと思う。そうでなかったらアカデミーを無断欠席してしまったかもしれないぐらいに落ち込んでいた。
チョウチョウや他の皆もなんだかいつもより暗いサラダを気にかけてくれているのはわかっていた。それでも、ちょっとしたことで涙腺が緩みそうで、彼女は上手く笑えなくなっていた。
(私って本当……馬鹿)
そう落ち込むことも珍しくない。
本当はもっと切り替えなければいけないのはわかっている。
ふとした時にひょっこりとまた顔を見せてくれるんじゃないかって、そう期待している自分がいて、彼のいない部屋で寝起きして、おはようの挨拶がないことに落ち込むのだ。
そうして一週間を過ごし、このままではいけないと思ったサラダは気持ちを入れ替える為に部屋の掃除をすることにし、ふと思った。
(そういえば……あの粘土板どこにいったっけ?)
それは今まで一杯一杯で気付いていないことだった。
サラダがこの家でペットとして迎え入れた時にイタチに贈ったものは2つ。
1つは赤いシンプルな小動物用の首輪で、もう1つが彼と意思疎通をするための粘土板だ。
うち赤い首輪の方は、彼を埋葬する前に取り外し、綺麗に洗浄消毒した後に、サラダの部屋のタンスの引き出しの中に大事に仕舞われている。
だが、粘土板のほうは……最後に見たのはイタチが亡くなる3日前だ。あの大泣きした日に見たのが最後で、どこにいったのか……そう考えるサラダは、ベットの下に何かが隠すように転がっている事に気付いた。
そしてサラダは、それを見つけた。
* * *
その日、7代目火影うずまきナルトの長男であるうずまきボルトは、いつものように友人とダベり、ゲームや次の悪戯計画の話をしながらアカデミーの教室へと入ってきた。
「……お?」
ふと眼に入った視線の先には1人の少女が前方の席に座っていた。
少し外ハネした肩口までの漆黒の髪に赤い眼鏡の、幼馴染みとも言える少女……うちはサラダだ。まあ、そんなこと言ったらクラスメイトは全員幼馴染みみたいなものではあるが。
……それにしても何故彼女が目についたのだろうか。
サラダとの仲はボルトの主観としては良くも無く悪くも無く、普通だと思っている。口うるさくて所々絡んできて鬱陶しいなと思うこともあったが、父親との勝負を助けられたこともある。
まあ、そんな感じの仲だ。積極的にボルトから絡みに行くほどの仲じゃない。そもそも、あいつは女だし。女なんかと仲良しこよしなんかやれるかっというのは、ボルトくらいの年頃の少年にとってはある意味当然過ぎる感覚なのである。
そこまで考えてから金髪碧眼の少年は気付いた。
(……笑ってる)
ここの所ずっと暗くてなんか沈んでたのに、今日の彼女は何かを見ながら笑っていた。
「何を見てんだ?」
その事に少し興味を引かれて、ボルトはひょいと彼女の手元を覗くようにして尋ねた。
それに、一瞬「ちょっとボルトあんたねぇ……」とサラダに文句を言われることを身構えるも、どうやら今日の彼女は本当に機嫌が良いらしい。
「ん? ……ラブレター、あんたも見る?」
その悪戯そうな満面の笑みに一瞬ドキリとした。
(って、なんでサラダなんかにドキドキしてんだってばさ)
そう思い直して、ついでにラブレターと続いた言葉になんだか面白くないような気持ちを抱えながら、ボルトは「興味ねー」と答えつつも、ほっとした。
元気になってくれて良かった、と思ってしまったのは幼馴染みとしての情からか、それとも別の理由もあったのかはボルト自身にもよくわかっていなかった。それが誰ぞからのラブレターの御陰、というのはなんだか気に入らないけれど、それでも暗く沈んだままよりはずっといい。
ツンと口元をとがらせながら、見た目だけ不機嫌そうな顔を作りながら去って行くボルトに、「男って本当に馬鹿だねぇ」なんてクスクス笑いながら、サラダはもう一度その写真に目を落とした。
それが何かと問われたとき、サラダはラブレターだと返した。
それは嘘では無い。
あの日、サラダのベットの下から見つけた、粘土板に描かれたイタチからの最後のメッセージ。サラダが眺めていたのはそれを写真にプリントアウトしたものだ。
彼が最期の力を振り絞り、言葉を刻み、サラダのベットの下へと隠したそれの実物は墓代わりに埋葬した。
そこにはイタチの文字でこう刻まれていた。
『サラダへ、オレはお前たちと過ごせてとても幸せだった。
オレのことを家族にしてくれてありがとう。
たくさんのおくりものをありがとう。オレは幸せだった。お前もそうだとうれしい。
他にも言いたいことはたくさんあるがこれだけは伝えさせてくれ。
お前がこれからどうなろうと、どんな道をえらんでもオレだけはお前の味方だ。
先にいくが、オレはおまえをずっと愛している』
イタチさんの鼬ライフ・完
ご覧頂きありがとうございました。
面白かったですか?
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伯父姪コンビ万歳!
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泣いた