転生したらフォルテだった件   作:雷影

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お待たせしました。
三武仙とディアブロの戦いの始まりです。


145話 古き悪魔の微笑み

ヒナタ達がブルムンド王国から魔国連邦(テンペスト)に向かって出立した頃の出来事。

ファルムス王国の首都マリスではエドマリスの行動に対し国民達が不満の声を上げていた。

 

「そもそもだ。先王エドマリスが魔物恐ろしさに勝手に結んだ終戦協定だろう?」

 

「兄の尻拭いで賠償に応じねばならぬエドワルド王も気の毒に。」

 

「気の毒といっても、金の出処の大半は我らの税金だぞ?」

 

「腹立つ話だ。」

 

戦場の出来事を何も知らない国民達は賠償金に自分達の税金が使われる事に文句を言い合っていた。

 

「新王にはもっと強く出ていただかないと。」

 

「号外‼︎号外ー‼︎」

 

そんな時だった。ファルムス王国に新たな情報が出回ったのは。

 

「一部もらおうか。」

 

話し合っていた一人がその新聞を貰い読んだ瞬間、驚愕の声を上げた。

 

「なっ…先王エドマリスが英雄ヨウムと結託し賠償金を着服…⁉︎

 

「「⁉︎」」

 

そう…あの偽情報の記事だった。

 

「現在は二ドル領に身を隠しているものの、新王エドワルドはその所在を突き止めており、二万の軍勢を引き連れ包囲する様に陣を張っている。」

 

「おい、私にも一部寄越せ!」

 

「英雄ヨウム…。」

 

「最近台頭しだしたごろつきの集団だろう。」

 

「英雄などとおこがましい!」

 

国民達は偽情報を鵜呑みにし、ヨウムに対して非難の声を上げる。

 

「私は新王への協力を申し出るぞ!」

 

「それがいい!私もそうしよう!」

 

偽情報によって国民達はエドワルドを支持する事を決めゆく様子を眼鏡をかけた1人の女性が観察していた。

 

その後その女性は二ドル領へと向かい二ドル・マイガム伯爵の屋敷である人物に首都マリスでの国民の様子などを報告した。

 

「…やはりこの地が台風の目となるのは間違いなさそうだな。」

 

報告を聞いた者…ダムラダはそう口にする。

 

「英雄ヨウムとエドマリスが魔王リムルと魔王フォルテへの賠償金の横領。その発表にファルムスの上流階級は激怒。“エドマリス討つべし”との民意を受け新王エドワルドは兵を挙げた。」

 

ダムラダの言葉に合わせて配下の女性が地図の上にエドワルド軍を現す様に白いチェスの駒を配置。

 

「だがヨウムとエドマリスがその様な偽りの発表を認める訳がない。魔国連邦(テンペスト)は英雄ヨウムに援軍を派遣。魔王リムルと魔王フォルテは旧王に加担したという事だな。」

 

配下の女性は今度はヨウム達を現す様に黒いチェスの駒を地図上の二ドル領に配置する。

 

「二ドル伯爵の言い分では新王エドワルドは魔国連邦(テンペスト)と敵対するつもりはない様でずが。」

 

「詭弁だな。援軍の派遣は戦争を辞さないという魔王達の意思表示だ。既に魔王リムルと魔王フォルテからの援軍が到着している。この地で戦が起きるのは必然だったという訳だ。やはり魔王リムルと魔王フォルテは英雄ヨウムを見捨てなかったか…。(正直なところ戦力の分散などせずにヒナタ・サカグチに集中してもらいたかったが。)…ままならないものだな。」

 

ダムラダは顎に手を置きながらそう口にすると、その様子を見ていた配下の女性が口を開く。

 

「総帥の命はこの地で戦乱を起こさせる事。既に達成したのでは?」

 

「ああ気にするな。あわよくばと考えていただけだ。(あの女は利用された事を決して許さないだろう。今後西側諸国で活動する為にも消えてもらいたかったんだがな。)」

 

ダムラダは商人としてヒナタと何度も交渉していた故に、彼女の性格なども把握しているのでそう考えていた。

 

「…さて残るは五大老との約束。新王と敵対する悪魔の討伐だが…。」

 

「調べによると宮廷魔術師ラーゼンは件の悪魔に従っているとか。」

 

「その様だな。彼の英雄の名声は東にも伝わっている。その実力もファルムス王家に対する忠誠心も。」

 

配下の報告を聞きながらダムラダはラーゼンの実力と忠誠心を知っている故に、意外だと内心では驚いていた。

 

「(てっきり旧王エドマリスに従っているものと思っだが…。)それが事実だとしても、あのラーゼンが現代種や近代種程度の悪魔に敗れたとは考えられんな。」

 

「現代種…?」

 

「なんだ知らないのか?勉強不足だぞ。」

 

ダムラダは配下の女性に説明する。

 

「悪魔は長く生きる程力が強大になる。種として保有魔素量(エネルギー)に上限があるとされているが、その分 長い年月を技量の研鑽に費やすからだろう。」

 

・階級      ・年数

・現代種(騎士) ・0〜30年

・近代種(準爵位)・30〜100年

・近世種(男爵位)・100〜400年

・中世種(子爵位)・400〜1000年

・古代種(伯爵位)・1000年以上

・先史種(侯爵・公爵位・大公爵位)・3000年以上

・原初の悪魔(王)・古から存在…天地開闢以前

 

「身の程知らずが中世種以前の者を呼び出した結果、召喚者自身が滅ぼされる事も珍しくない。もっとも、人間の召喚に応じて従った例は中世種までしか記録にはないがな。」

 

「…なるほど。」

 

ダムラダからの説明を聞いて悪魔の階級を理解した女性。

 

(しかし魔人ラーゼンの実力ならば中世種にも劣らない筈だ。戦い敗れたのならばそれ以前の悪魔と考えた方が自然だろう。古代種が先史種……。)

 

「ダムラダ様?」

 

ラーゼンを倒した悪魔がどの階級なのかダムラダは思考する中、あり得ないと思いながらもとんでもない悪魔が思い浮かんだ。

 

(原初の……。)

 

そう…原初の悪魔達を。

 

「…笑えんな。もっとも古き災厄級の悪魔がよみがえったか……?」

 

原初の悪魔が脳裏に浮かんだダムラダは冷や汗を流しながらすぐさま行動に移る。

 

「やむを得ん。観察者を残しファルムスから撤収する。」

 

「はっ…承知しました。では本国より呼び寄せた悪魔討伐者(デーモンハンター)達はどう致しますか?」

 

「ああ、私が連れて行こう。ここを離れる前に彼らを新王への手土産として置いていく。」

 

「…つまり悪魔についてはエドワルドに押し付けるのですね?」

 

「人聞きが悪いぞ。五大老との約束を果たすついでに新王に恩を売るのだ。」

 

「しかしそこまでの警戒が必要ですか?投資額を回収し切れていませんが…。」

 

「さてな。考え過ぎかもしれんが、私は自分の勘を信じるよ。損切りを失敗して命まで失う様な愚はおかせんからな。」

 

「かしこまりました。」

 

そうして女性が部屋を出ていった後、ダムラダはある巻物(スクロール)を取り出した。

 

「フッ…。もう一つ新王へのプレゼントを用意しておくとするか…。」

 

巻物(スクロール)を見ながら笑みを浮かべるダムラダ。

 

 

それから数日後。

新王エドワルドは軍を率いてファルムス王国のエドマリス子爵領内で陣を張っていた。

 

(魔王リムルと魔王フォルテがヨウムへ肩入れした時にはどうなることかと思ったが、ルベリオス法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)の三武仙…あの聖人ヒナタに次ぐ英雄達が参戦してくれるとは。)

 

エドワルドはリムルとフォルテがヨウムに援軍を送った事を知り動揺したが、七曜とグランベル達の暗躍によって本来なら参戦する筈がなかった三武仙が参戦した事で安堵した。

 

(そのヒナタも魔王リムルと魔王フォルテの討伐へ向かったと聞く。天は我を見放さなかったな。)

 

そして、ヒナタが魔国連邦(テンペスト)へと向かった事も当然エドワルドへと伝わっていた。

 

(問題は二ドル領 侵攻への大義名分だったが、東の商人が持って来た二ドル伯爵からの救援要請書これさえあれば…。)

 

ダムラダがエドワルドに用意したもう一つのプレゼント…それが救援要請書だった。

 

(しかもかの者は余のために対悪魔専門のチームまで用意してくれた。)

 

側から見たら何もかもが都合良くエドワルドの為に動き味方している様に見える。……実際そうなのだが。

 

「憂いは全て片付いた!」

 

エドワルドは天幕から出て兵達に向かって大きな声で命令する。

 

「これより敵に先制攻撃を仕掛ける!目標二ドル領の逆賊ヨウム!」

 

エドワルドの声を聞き兵達は一斉にエドワルドの方へと顔を向ける。

 

「ガストン!」

 

「はえ?」

 

「其方は先遣隊五千を率いヨウムの立てこもる町を攻めよ!」

 

「は…ははっ!」

 

エドワルドはどこか間の抜けた様なガストンという者にそう命じた。

すると、三武仙のサーレがエドワルドに話しかける。

 

「では我が右腕グレゴリーを共につけましょう。ファルムス王国は魔王リムルと魔王フォルテとの戦いで多くの将兵を失いました。彼がいればきっとお役に立つ筈です。」

 

「おぉ!何と心強い!感謝致しますぞサーレ殿!う〜んフフっ。」

 

サーレからグレゴリーが同行すると聞き上機嫌となるエドワルド。

すると、グレゴリーは笑顔でサーレの肩に手を置き後ろに向くと同時にサーレに詰め寄る。

 

「おいサーレ。俺にこのボンクラ共のお守りをしろと?」

 

「勿論建前さ。お前の獲物はレイヒムを殺したっていう悪魔だ。」

 

「何?」

 

「奴は援軍としてヨウムの側にいるって噂だ。行ってお前が誘い出せ。ただしハズレを引いたらすぐ戻って来いよ。」

 

「フッ成る程。心得た!」

 

サーレの考えを知ったグレゴリーは上機嫌でサーレの背中を叩いた。

 

そして三武仙最後の一人にしてグランベルの手の者であるグレンダの方は、周囲を見渡しダムラダがいない事に気付いた。

 

(ダムラダの奴逃げたか。金で雇われた悪魔討伐者(デーモンハンター)達ねぇ…。まっ捨て石にでもなってもらおうじゃないの。)

 

 

その頃戦場の上空では、ディアブロとウルティマがエドワルドが居る本陣に向かって飛んでいた。

 

「クッフフフ…許しませんよ。リムル様とフォルテ様の前で私に恥をかかせた事を。もし仕事を奪われる様な事があれば…。リムル様にあの時の様に〝帰っていいよ〟など言われでもしたら…。考えるだけで身震いがします。」

 

ディアブロはリムルが魔王となって目覚めた日…あの時のリムルの言葉を思い出した。

 

私はあの時に絶望を知った。思い出しただけで身を裂かれるよりも辛い。もう二度とあんな思いはしたくありません。)

 

ディアブロは右手で顔を押さえ冷や汗を流しながら恐怖で震えた。

……リムルから必要とされなくなるという恐怖で。

 

「クフフフフ…恐怖など一度も感じた事がなかったというのに。この私に大司教殺しの濡れ衣を着せ リムル様とフォルテ様の覚えを悪くさせた者共。これ程の恐怖を私に与えた報いを必ず受けて頂きますよ…。

 

恐怖で引き攣った笑顔を浮かべながらディアブロはそう言った。

 

「うわぁ…ディアブロがこんな顔するなんて初めて見たよ。…でも今回ばかりは僕もその気持ちは分かるかなぁ…。」

 

ディアブロが恐怖で冷や汗を流し引き攣りながら笑顔をする姿を真横で見たウルティマが物珍しそうに見てながらも、ディアブロに気持ちに共感していた。

何故なら、ウルティマもラージャ小亜国で監視を命じた筈の配下であるラキュアが勝手な思い込みで騒動を起こすという失態を犯した事を知った時は同じ気持ちだったのだから。

 

あの失態によってフォルテからお叱りを受けるとウルティマは思っていたのだが、フォルテはウルティマの配下の失態を自分のせいだと受け止めウルティマに同じ事が起こらない様に注意する形で許した。

それでもあの時の配下の失態を知った時…フォルテから必要とされなくなるのではとウルティマは内心恐れていた。

 

 

「…フォルテ様からの命もあるからね。今回は僕も協力してあげるよ。」

 

「クッフフフ…それは有難いですね。ではもし貴女の力を借りる事になればその時はお願いしましょう。」

 

ウルティマとディアブロは互いに黒い笑みを浮かべる。

その後すぐに魔力感知を使い敵本陣の様子を探り始めた。

 

「いましたね。新王エドワルドと…。ふむ…少し目立つ連中がいますね。」

 

「多分フォルテ様が言っていた十大聖人の内の法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)の三武仙って連中だね。」

 

ディアブロとウルティマは本陣の天幕の前で優雅に昼食を取るエドワルドとサーレとグレンダに加え二ドル領へと向かうグレゴリーを発見した。

 

ディアブロとウルティマはすぐさま思念伝達でその情報を白老に伝える。

 

『白老殿。其方に1名少し目立つ者がファルムスの兵を率いて向かっています。』

 

『多分三武仙の1人だと思うよ。』

 

嵐牙(ランガ)殿の良き退屈しのぎになるでしょう。』

 

『了解じゃ。殺さぬ方が良いか?』

 

『ええ。捕らえて交渉の材料にしようかと。』

 

『心得た。そう伝えよう。』

 

『ファルムスの5000の兵はどうする?僕が戻って相手してあげようか?』

 

ウルティマがそう白老に問い掛ける。

 

『いや、ガビルとゴブタの相手に丁度良い。彼奴らを向かわせよう。』

 

『『え?』』

 

思念伝達を繋げていたガビルとゴブタは白老の言葉に思わず声が出た。

 

『ワシも備えておる故お主達はお主達の好きするが良い。あまりやり過ぎぬ様にな。』

 

『心得ております。』

 

『は〜い。』

 

白老の言葉に聞いた二人は返事をした後すぐエドワルド達のいる敵本陣へと飛んでゆき昼食中の彼らの前に降り立った。

 

「ん?」

 

「初めまして皆様。私の名はディアブロと申します。エドワルド王におかれましては和睦協定以来ですね。」

 

「僕はウルティマ。宜しくね♪」

 

ディアブロが礼儀正しくエドワルド王達に向かって挨拶し、ウルティマは可愛いらしく手を振りながら挨拶すると、三武仙のサーレとグレンダはすぐさま立ち上がり騎士達もすぐさまディアブロとウルティマに向かってハルバートを構え包囲する。

 

「警戒態勢!」

 

「エドワルド王をお守りしろ!」

 

「おい、今のは…。」

 

「敵襲か!」

 

騎士達の声が聞こえた記者達が特ダネを逃すまいと急ぎ駆け出す。

 

「あぁ。各国の記者の方々ですね。」

 

記者達の姿を確認したディアブロが指を鳴らすと記者達の行手を遮る様に結界が張られた。

 

「あなた方に危害を加える気はありません。」

 

「悪いけどそこで大人しく見ててよね。」

 

ディアブロとウルティマはそう記者達に言う。

 

(悪いなグレゴリー。獲物の方がこっちに出向いて来てくれたよ。)

 

サーレは二ドル領へと向かわせたグレゴリーに対し心の中で謝罪した。

すると、周囲を見渡していたエドワルド王が立ち上がりディアブロに話しかける。

 

「これはこれは魔王リムルの使者殿。本日はどの様なご用件ですかな?」

 

「フフフ…何 要件はひとつ警告ですよ。」

 

「警告…?」

 

「今すぐ兵をひきヨウム殿と和解しなさい。そうすれば知らずに済んだ筈の恐怖を味わう事もないでしょう。」

 

「ハッハッハッ…!異な事を申すものよ!」

 

ディアブロの言葉を聞いたエドワルド王は笑い声を上げた。

 

「そもそもこれは我が兄が貴国への賠償金を横領した事が発端。余はそれを回収するべく動いたまで。悪魔に口を挟まれる言われわない!」

 

「ふ〜ん。あくまで和議を守っているって言うんだ…。」

 

エドワルド王の言葉に対しウルティマがそう口を開く。

 

「当然である。寧ろ貴国に誠意を示すべく動いているのだ。……もっとも、その必要はなかった様だがな。ふん。余も騙されておったわ!」

 

「と 言いますと?」

 

「白々しい!兄上…いやエドマリスやヨウムなどという詐欺師連中と共謀したのは貴様等であろう⁉︎」

 

そう叫んでディアブロに向かって指差すエドワルド王。

 

「我が国から二重に賠償金をせしめようなどという卑劣で姑息な企みなど全てお見通しよ!」

 

エドワルドの言葉に対しディアブロとウルティマは答えないが……表情から笑みが消えただならぬ雰囲気となっているのだが、……エドワルド王は気付かない。

 

「言葉もないか?魔王を名乗ったところでリムルとフォルテとやらも底が知れておる。金に汚く戦の火種をばら撒くつもりであろう。こうも浅はかな金策に走るとは。」

 

リムルとフォルテを愚弄するエドワルド王の発言を聞いたディアブロとウルティマの目が更に冷たいものとなりエドワルド王を睨む。

……下等な存在として。

 

その事に全く気付かないエドワルド王は調子に乗ったまま更に話を続ける。

 

「何故企みが露見したのか不思議かな?いいだろう…では証拠を見せるとしよう。こうして証人も集まっている事だしな。」

 

エドワルド王がそう言うと話を聞いていた記者達はより真剣な表情となった。

そしてエドワルド王は懐から記録用の水晶球を取り出し掲げる。

 

「さぁ、貴様の悪事はここにちゃんと記録されておる!しかと見るいい‼︎」

 

「「「「おぉ…!」」」」

 

エドワルド王の掲げる水晶球に記者達の視線が集まると、水晶球にズタボロの姿のレイヒムが映し出された。

 

【お許しを!お許しくだされ!裏切るつもりなどなかったのです!私はこうするしか…!】

 

そこで水晶球の映像が途切れ記者達は騒つく中、エドワルド王が口を開く。

 

「ふぅ…なんとも痛ましい。どうだ?これはグレンダ殿がルベリオスにて記録した決定的な映像だ。」

 

「決定的?それが一体どの様な証拠になると?」

 

命乞いをするレイヒムが映し出されただけの映像が決定的な証拠と言うエドワルド王の言葉が理解出来ず問い掛けるディアブロ。

 

「フンッ!まだ言い逃れが出来ると思っているとはな。あくまでも白を切るのなら説明してやろう。これは貴様がレイヒム殿の命を奪った瞬間だ。」

 

「それが?レイヒムの姿しか映っていないよね?決定的な証拠って普通は犯人の姿も映っているんじゃないかな。」

 

「そんなのは些細な事だ!教会の大司教殿を手に掛けるなどルベリオスの者ではあり得ない!」

 

ウルティマが正論を言っても聞く耳を持たないエドワルド王。

 

「自分にとって都合の悪い事実を握られている者に決まっている。そう…例えば横領の事実を口止めしていた悪魔だ。

 

そう言いながらディアブロを指差すエドワルド王。

 

「貴様はレイヒム殿を脅した上で情報収集の為に彼をルベリオスへ送りこんだ。だが彼の信心深さが貴様への恐怖を上回ったのだ!彼は恐怖を押し殺し教会に真実を訴えた。そして更にその事実を公の場で発表しようとした矢先、貴様に殺されてしまったのだ。」

 

「それは素晴らしい。私への恐怖をただの人間が克服したと?中々に面白い冗談です。」

 

ディアブロは目を閉じ軽くパチパチと拍手する。

 

「ですが、やはり不思議ですね。先程ウルティマが言った様に犯人の姿が映っていない映像のどこが証拠になるのですか?」

 

「フン!さっきも言ったであろう。動機を持つのは貴様だけなのだ!」

 

エドワルド王は再びディアブロを指差し記者達に聞こえる様に大きな声を上げる。

 

「犯人は貴様だ!大司教が自らの死をもって貴様を告発したのだよ‼︎」

 

おぉ…!

 

エドワルド王の発言を聞いた記者達は一斉にペンを取り手帳に書き記してゆく。

 

(決まった…!知恵と勇気を兼ね備えた英雄王…。その最初のエピソードとしては申し分ない。悪魔を問い詰める雄姿は記者達が国中に広めるだろう。)

 

エドワルド王は自身の発言と雄姿に酔いしれ何もかも上手くいっていると思った……この段階では。

 

「ふ〜ん。そんな不確かな情報だけでディアブロが犯人だって決めるなんて……馬鹿なの?」

 

「なっ⁉︎無礼者め!誤魔化すつもりか!これだけの証拠がここにある!言い逃れなど……!」

 

「もういい黙れ。」

 

「ッ‼︎」

 

あまりにも御粗末すぎるエドワルド王の言い分にウルティマが呆れて言うと、エドワルド王が声を荒げるが……ディアブロの冷たくも重い言葉がそれを遮った。

それと同時にエドワルド王は見た…見てしまった。

…自分を睨むディアブロの途轍もなく殺気に満ちた金色の瞳を。

 

「真実を詳らかにしようと考えていましたが、自分の信じたい事しか信じぬ生き物に言葉での説得は無駄でしかない。」

 

冷たく重いディアブロの言葉を聞きながら、エドワルド王はそっとサーレの後ろへと退がる。

 

(もしかして余は何か触れてはいけないものに触れてしまったのか?)

 

エドワルド王はようやく自分の誤ちに気付き始めた。

……原初の悪魔二人を怒らせるという誤ちを。

 

「本当だよね〜。知恵比べしようにも、こんなレベルが低過ぎる相手だとは思わなかったよ。」

 

ウルティマも口調は可愛いらしいが、エドワルド王へ向ける眼にはハイライトが消えその視線はとても冷たく恐ろしい冷酷な笑みを浮かべていた。

 

「くっ…!」

 

ウルティマの冷酷な笑みを見たエドワルド王は、思わずサーレの肩を掴んだ。

そしてディアブロがエドワルド王に向かって口を開く。

 

「それではもっと簡単に身の潔白を証明するとしましょうか。」

 

「なっ何を言っている!」

 

「先程言っていましたね。大司教レイヒムの信心深さが私への恐怖を上回っただとか。ですからテストして差し上げましょう。本当に人間が私への恐怖を克服出来るのかを。」

 

そう言いながら一歩一歩ゆっくりとエドワルド王へと迫るディアブロ。

 

「この中で一人でも私への恐怖を克服できたならばその言い分を認めて差し上げましょう。ですが忠告を一つ。私は今まで一度も敗北した事はありません。リムル様とフォルテ様を悪し様に罵った事を覚悟しなさい。

 

ディアブロの赤い瞳孔がエドワルド王を睨む。

 

「で…出番だぞ!そいつを殺せ!悪魔討伐者(デーモンハンター)よ!」

 

それに対しエドワルド王は悪魔討伐者(デーモンハンター)にディアブロを倒す様に声を上げて命じると、隠れ潜んでいた悪魔討伐者(デーモンハンター)達が一斉に飛び出しディアブロとウルティマを包囲する。

 

「恐怖を克服だと?笑わせるな!」

 

上位魔将(アークデーモン)など我が祖国では珍しくもないわ!」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)達はそう言って装備している円盾をディアブロとウルティマに向けて構える。

 

「「「「「ふっ!」」」」」

 

すると円盾から鎖が放たれディアブロとウルティマに巻き付き絡め取って動きを封じた。

 

「東では対悪魔の戦術は研究され尽くしている!」

 

「人間を舐めるな!」

 

「準備は終わりましたか?」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)達の言葉を聞き終えた後、ディアブロは彼らに問い掛ける。

 

「でしたら開始の合図をお願いします。」

 

「何?あえて抵抗せず拘束されてたとでも?」

 

「勿論そうです。せっかく努力してくれているのですから。」

 

「だってその方が恐怖も大きくなるよね。」

 

「ふ、フフフ悪魔め。やはり貴様の弱点はその慢心だ。」

 

ディアブロとウルティマが抵抗せずに拘束された理由を聞いた悪魔討伐者(デーモンハンター)はそう言うが、グレンダは冷静に見ていた。

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)達は言葉とは裏腹に奴らを舐めちゃいない。だけど…。)

 

「その傲慢をあの世で悔いるがいい!」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーがそう声を上げると、討伐者(ハンター)達が一斉に動く。

 

滅せよ!六連雷光撃(サンダーボルト)

 

ズガアアァァァン!

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)達の鎖から雷撃が流れ空へ向かうと暗雲が広がりディアブロとウルティマ目掛けて凄まじい落雷が落ち直撃した。

 

「どうだ!魔素を介在しない自然の(いかづち)を味わった気分は!」

 

「受肉した悪魔族(デーモン)などその身を砕けば存在を維持は不可能!」

 

「それは上位魔将(アークデーモン)とて変わらん!」

 

数多くの悪魔族(デーモン)を討伐してきた討伐者(ハンター)達は自信満々に言い放つ。

 

「素晴らしい!流石は東の勇者達じゃ。あの商人にも褒美を取らせねばなるまいな。」

 

その光景を目の当たりにしたエドワルド王が喜んでいるのに対し、サーレとグレンダは警戒を緩めず構えたままだった。

 

「何もできはすまいか…。(確かに悪魔族(デーモン)肉体(よりしろ)を破壊すれば物質界に影響を及ぼせなくなる。だから大抵の悪魔はその身を多重結界で護っているという…だが……。)」

 

「果たしてそうかしらね?」

 

サーレとグレンダの思っている通り、ディアブロとウルティマがこの程度で倒される訳がなかった。

 

「クッフフフ…!貧弱!あまりにも貧弱ですね!」

 

「こんな攻撃で僕達を倒せると思ったの?」

 

落雷によって巻き起こった土煙の中からディアブロの笑い声と共にウルティマの声が聞こえた瞬間、衝撃波が発せられ悪魔討伐者(デーモンハンター)達の鎖が千切れ砕けた。

 

「うっ!」

 

「そんな…。」

 

「直撃を喰らった筈…!」

 

土煙が晴れると其処には無傷のディアブロとウルティマの姿があった。

 

「クッフフフ…。期待外れでしたね。」

 

「だよね…。あれだけ自信満々に言っていたのに。」

 

土煙から姿を現したディアブロの右手には龍に様な鉤爪が装備され、左手には刺突に特化した様な黒い鋭利な鉤爪が装備されていた。

悪魔族(デーモン)固有スキルである物質創造で自身の手を変化させたディアブロの爪鋏刃(シザーズ)だ。

ウルティマは色欲之冠(リリスモン)で右腕に魔爪ナザルネイルを装着している。

 

「貴様ら何故雷撃が効かぬ!」

 

「そんなの弱いからに決まってるじゃん。」

 

「ウルティマの言う通りです。私達は自然影響への高い耐性を備えていますので。」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)の声にウルティマとディアブロは笑みを浮かべながらそう答えた。

 

「要は弱すぎて効かなかったってことさね。笑えるじゃないか。」

 

(笑えるか。)

 

グレンダの言葉にサーレは心の中でそう言った。

 

「そんな…そんな馬鹿なっ。」

 

「ば…化け物め!」

 

「ウルティマ。貴女は其処で見ていて下さい。」

 

「分かったよ。」

 

「ではテストを開始しましょうか。」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)達は自分達の攻撃が通じない事に戸惑いながらも警戒する中、ディアブロはウルティマに手を出さない様に釘を刺してから凄まじい覇気を放つ。

 

「うぅ…。」

 

「うっあぁ…。」

 

「うぅ…来るな…!」

 

「あぁ…。」

 

「た、助けて…助けてくれ…!」

 

 

ディアブロの覇気を浴びた騎士とエドワルド王は一瞬で意識を失い、悪魔討伐者(デーモンハンター)達はリーダー以外の全員がその覇気によって恐怖し怯えながら意識を失った。

 

「何だ?あの悪魔は何もしてない様に見えるが。」

 

結界によって守られている記者達は、何が起きているのか分からず不思議に思いながら見ていた。

 

「クソっ!何なんだこの威圧感は‼︎」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーは必死にディアブロの覇気に耐え続けた。

 

「おやおや試験に合格したのはたった3名ですか。」

 

「何⁉︎」

 

ディアブロの言葉に討伐者のリーダーは周囲を見渡し部下達やエドワルド王達が失神している中、サーレとグレンダが平然と立っているのを確認した。

 

(…流石は三武仙。この2人がいるならばまだ戦える!)

 

自分以外に三武仙の2人がまだいる事で勝機はまだあると討伐者のリーダーは再びディアブロに向かって構える。

 

「一応褒めて差し上げましょう。手を抜いているとはいえ私の“魔王覇気”に耐えたのだから。」

 

「ふっふふふ。流石は魔王に仕える悪魔だ。ハッタリもお手の物だな。」

 

「ハッタリですか?」

 

「ああそうだとも。貴様の威圧は確かに凄まじいが“魔王覇気”はあり得ない絶対にな。

 

「へぇ〜。そう言い切る理由って何?」

 

ディアブロ相手に自信満々に言い切る悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダー対しウルティマが理由を聞いてみる。

 

「魔王覇気を操れるのは魔王種となった魔物のみ!だが悪魔族(デーモン)の魔素量には上限がある。そして()()その最終進化は上位魔将(アークデーモン)だ。である以上、魔王種には絶対に到達しない。少なくとも貴様は口八丁に頼るくらい追い詰められているという訳だ。」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーはディアブロを指差しながら言い切った。

 

「成る程。良くご存知です。悪魔討伐者(デーモンハンター)を名乗るだけはありますね。」

 

「そおら見ろ貴様はー「でもその割には“通常”じゃない場合を考えていないんじゃないかな。」?…。」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーの言葉を遮る様にウルティマがそう言うと、リーダーは訳が分からず黙ってしまいウルティマに続く様にディアブロがリーダーに説明を始める。

 

「確かに我々悪魔族(デーモン)はその魔素(エネルギー)量の上限が定められています。ですが、上位への進化は可能なのですよ。」

 

「ある条件を満たせばね。」

 

「はぁ?」

 

ディアブロとウルティマの言葉を聞いても理解出来ずにいる悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーだったが、次にディアブロが口にした名で硬直してしまう。

 

「あなた方もご存知ではないですか?(ルージュ)”という魔王のことは。

 

「うぅ…!(馬鹿を言うな忘れていた訳じゃない。ただアレはあまりに古き悪魔であまりに例外で…いやちょっと待て。こいつは今あの魔王の事をなんと呼んだ?“(ルージュ)”…と呼び捨てにした?)」

 

硬直しながらも思考を巡らせていた悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーは、ディアブロがギィを(ルージュ)と呼び捨てにした事に気付いた。

 

「それに魔王の資格を得るだけなら簡単だよね。」

 

「ウルティマの言う通りです。限界値まで力を蓄えてから2000年以上年を重ねるだけで済む。何の苦労も必要としません。」

 

ウルティマとディアブロがそう悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーに話すも、リーダーはそれどころではなくディアブロがギィを(ルージュ)と呼び捨てにしてからずっと思考していた。

 

(悪魔には絶対的な上下関係が存在する。若い悪魔が原初たる王に対して呼び捨てなどあり得ない。そんな事があるとすれば王から許可されたか或いは同格の……“原初”と同格?何を馬鹿なそれこそハッタリだ。いやいやいくら口達者な悪魔でも階級差を無視した嘘をつくとは…。)

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーはディアブロの正体がまさかと思いながらも必死に否定しようと考えている。

……自分が思う存在だとしたらとんでもない相手に喧嘩を売った事になるからだ。

 

 

だが現実は残酷でディアブロとウルティマは更なるある事を口にする。

 

「貴方の出身地である東方なら“(ブラン)”の方が有名かもしれませんね。つい先日あちらの方で彼女の魔王覇気を観測しましたし。」

 

(くれない)に染まる湖畔事変の事か…⁉︎」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーが問い掛けるとディアブロは笑みを浮かべた。

 

「そういえば“(ジョーヌ)”は相変わらずレオンのところに何度もちょっかい出してるんだよね。」

 

ディアブロの話に合わせる様にウルティマはついでとばかりそう言った。

 

(ああもう駄目だ。否定できる材料がない。)

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーはもはや現実を受け入れるしかなくなった。

 

(ルージュ)だの(ブラン)だの(ジョーヌ)だのとこうも次々と上位の…原初の名を呼び捨てに出来る者など同格の存在しかある得ない。…という事は、コイツらの髪色から察するに原初の“(ノワール)”と“(ヴィオレ)”……‼︎)

 

ようやくディアブロとウルティマの正体を悟った悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーはその場で両膝を付いた。

 

(勝てる訳がない!そもそも刺激していい存在ではないのだ‼︎)

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーは即座にディアブロに対して見事な土下座を披露した。

 

「助けてください!命だけは何とぞ!」

 

「おやせっかく試験(テスト)に合格したのに降参ですか?」

 

「ディアブロの試験(テスト)に合格出来んだから楽しめば良いのに。」

 

「お…お許しを!私達は金で雇われただけなのです!今後絶対に逆らいません!ですからどうか…どうか命だけは!」

 

ディアブロとウルティマの言葉に対し必死に謝罪する悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーだった。

 

「ならば下がっているがいい。邪魔者共を片付けろ。」

 

「はい〜!」

 

ディアブロは冷たい眼差しで悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーを見ながらそう命じると、リーダーはすぐさま行動に移した。

その様子を見ていた記者達は少し騒ついている。

 

「ふ〜ん。中々やるようだね。」

 

「ん?」

 

悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーが必死に部下やエドワルド王を記者達のいる結界へと運ぶ中、サーレとグレンダがディアブロの前に出る。

 

「とても災厄級でしかない上位魔将(アークデーモン)とは思えないよ。」

 

「…あなた方は逃げないのですか?」

 

「逃げる?面白い事を言うね。」

 

そう言ってサーレは剣を抜いて構える。

 

「僕の名はサーレ。ルベリオスの法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)。十大聖人にして三武仙の1人さ。」

 

「ほう…。」

 

「ふ〜ん。」

 

サーレの堂々した態度にディアブロとウルティマは面白いと思い微笑みを浮かべた。

 

「それで、お前達は一体何者なのかな?」

 

「ディアブロと申します。偉大なる我が王リムル様の忠実な執事(バトラー)ですよ。」

 

「僕はウルティマ。フォルテ様の第一秘書だよ。」

 

サーレに問われ改めて名乗るディアブロとウルティマ。

 

「あくまでも正体は明かさないつもりかい?その舐めた態度後悔させてやるよ!」

 

サーレはディアブロに向かって斬り掛かる。

 

「僕をさっきの民間人と一緒にしないことだ!神ルミナスの守護を任される僕達は覚悟が違う!」

 

サーレの振り下ろした剣をディアブロは右手の爪鋏刃(シザーズ)で受け止め弾き返した。

 

「くっ!」

 

サーレはすぐに体勢を立て直し再びディアブロに斬り掛かる。

 

(ルージュ)(ブラン)(ジョーヌ)だと御託を並べて!何を怯える必要がある!」

 

サーレは自分が戦っているのが原初の悪魔とは流石に思ってもいないので悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーの様にその正体にまだ気付いていないのだ。

 

「正体を言うつもりがないのなら実力でもって暴けばいい!」

 

そう言ってサーレはディアブロに向かって剣を突き出し服を僅かにだが斬り裂いた。

 

サーレの一撃を受けたディアブロは少しは楽しめそうだと思ったのか自分の今の種族をサーレ達に明かす。

 

「正体ですか?私は確かに貴方がおっしゃっている様な上位魔将(アークデーモン)ではありません。リムル様より名を頂いた折に悪魔公(デーモンロード)に進化を果たしています。大して違いませんがお間違えなきようお願いします。」

 

「僕もフォルテ様から名前と最高の依代を貰って色欲悪魔公(ラストデーモンロード)に進化しているからね。これで満足かな?」

 

悪魔公(デーモンロード)…!うぅ…。」

 

ディアブロとウルティマの種族を知った悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーは声を上げながら気を失った。

 

「え…?」

 

サーレは気絶した悪魔討伐者(デーモンハンター)のリーダーの言葉に思わず振り返り再びディアブロへと顔を向けた。

 

「なん…だって…?(悪魔公(デーモンロード)…?)」

 

サーレはディアブロが悪魔公(デーモンロード)だと知り冷や汗を流した。

 

「(悪魔公(デーモンロード)は魔王種となった上位魔将(アークデーモン)の進化先だ。覚醒魔王に近しい存在であり成長限界は……ない。)…そうか僕が無知だったみたいだな。東の連中の方がヤバさを良く理解していたって訳だ。」

 

サーレは漸く悪魔討伐者(デーモンハンター)の判断が正しく自分がとんでもない悪魔を相手しているのだと理解した。

 

(何より恐ろしいのはそんな化け物に名を与えた魔王二人だ。魔王リムルと魔王フォルテは一体何を考えているんだ!)

 

サーレはディアブロとウルティマに名を与えたリムルとフォルテに対し心の中でそう叫んだ。

 

「何ほうけているだい!さっさと始末するよ!サーレ!」

 

そう言ったグレンダは前に飛び出す。

 

「待てグレンダ!ヤツの正体は…!」

 

「ふっ!」

 

サーレの言葉を聞かずディアブロに向かってナイフを投げ飛ばすと、そのナイフは見事にディアブロの胸に突き刺さった。

 

「ハッ!口ほどにもない!」

 

グレンダがそう言うと、ディアブロは普通にナイフを抜くと傷口は瞬く間に塞がる。

 

「そうそう言い忘れていましたが、私に物理攻撃は通用しません。」

 

「はっ…!」

 

(くっ…やるしかない!)

 

ナイフを簡単に引き抜く様を見たグレンダは唖然となり、サーレは本気を出してディアブロに挑む事を覚悟した。

 

「ハァァ…!」

 

凄まじい闘気(オーラ)を放ちながら再びディアブロに斬り掛かるサーレ。

 

「ぐっ!」

 

さっきほどまでとは違う速度で接近しディアブロの逆袈裟に斬り裂くも、グレンダのナイフの時と同様に瞬く間に傷が塞がってしまった。

 

「クソ!特質級(ユニーク)武器の破邪の剣(デモンスレイヤー)だぞ!」

 

肉体のみならず、魔素ごと斬り裂き魔力構築を出来なくする能力を備えた破邪の剣(デモンスレイヤー)の一撃すら効果がないと知り声を上げるサーレ。

 

「グレンダ!時間を稼げ!その間に僕が神聖魔法を……ん?おいグレンダ?」

 

「ディアブロにナイフ投げた女ならあっちだよ。」

 

ウルティマの指差す先には全速力でこの場から逃げ出すグレンダの後ろ姿があった。

 

「え⁉︎グレンダ〜!」

 

逃げ去るグレンダの姿を見たサーレは怒号を上げた後、すぐさまディアブロに向き直し構えた。

 

(やってやる!やってやるさ!グレゴリーが戻るまで時間を稼いでみせる!)

 

 

 

サーレが戻って来る事を期待しているグレゴリーはといえば、二ドル領目前で戦闘を開始していた。

 

ピリィィズガアアァァン!

 

うわ〜!

 

雷撃音と共に周囲のファルムスの騎士達は吹き飛ばされる。

 

「ひぃ!」

 

ガストンが怯える中、グレゴリー配下の二人がガストンを守る為に前に出るとグレゴリーは雷撃を放った者……全身に黒雷を迸らせながら唸り声を上げる嵐牙(ランガ)を見据える。

 

「こ…こやつは!グレゴリー殿!いかが致しましょう!」

 

「どうやら悪魔退治どころではなくなったようだな。」

 

グレゴリーは嵐牙(ランガ)と戦う為に馬から降りると、グレゴリーを見た嵐牙(ランガ)は笑みを浮かべる。

 

アオォーン!

 

そして嵐牙(ランガ)は吠えると同時に飛び上がりエクストラスキルの風操作で宙を駆け回る。

 

「オ…オオカミが空を!グ…グレゴリー殿いかが致しましょう…。」

 

「知るかよ。」

 

「はぁ?」

 

戸惑いまくるガストンに対し思わずそう呟くグレゴリー。

 

(ファルムスの練度の高い騎士は魔国連邦(テンペスト)侵攻の際全て失った。残ったこいつらが二流以下だってのはわかっちゃいたが…。)

 

戦場でここまで戸惑い動けないガストン達に対し、グレゴリーは仕方なく指示を出す。

 

「ガストン将軍あんたは遅れてやって来る部隊を相手しな。こっちに迫っているのが見えるだろ?」

 

グレゴリーにそう言われガストンが迫って来る者達を見る。

 

「り…了解した。」

 

ガストンの目に映ったのは。

 

・ゴブタ率いる狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)百騎

雷蔵(ライゾウ)率いる稲妻衆(イカヅチ)百騎

・ガビル率いる飛竜衆(ヒリュウ)百騎

・ランサー率いる螺旋衆(スパイラル)百騎

 

総数四百騎の魔国連邦(テンペスト)の部隊だった。

 

「ぐ、グレゴリー殿!数が多いのですが⁉︎」

 

「ウチの連中も貸してやるからなんとかしろ!」

 

「では…グレゴリー殿はいかがされるのです?」

 

「アイツの相手をするんだよ!」

 

そう言って嵐牙(ランガ)に向かって大斧を構えるグレゴリー。

 

「パイソン!ガルシア!お前達は将軍を守れ!」

 

グレゴリーが部下達に指示を出したその時だった。

嵐牙(ランガ)がガストン達目掛けて突っ込んだ。

 

うわ〜!

 

ガストン達はその衝撃で吹き飛ばされるもグレゴリーの配下達によってすかさず救助された。

 

「クソ!」

 

うわ〜!

 

嵐牙(ランガ)はそのまま戦場を駆け回り騎士達を次々と突き飛ばしてゆく。

 

「チッ…この犬野朗が!」

 

騎士達の悲鳴が響く中、グレゴリーは嵐牙(ランガ)を見失わない様に動きを追っていると、遂に嵐牙(ランガ)がグレゴリー目掛けて突っ込んで来る。

 

「うわ〜!来た!グレゴリー殿!いかが致しましょう⁉︎」

 

迫る嵐牙(ランガ)に恐怖し声を上げるガストン。

 

「ぬぅぅ…!万物不動!」

 

グレゴリーは全身に闘気(オーラ)を纏い嵐牙(ランガ)目掛けて大斧を振るったが、嵐牙(ランガ)は紙一重で躱しながら体当たりでグレゴリーを突き飛ばした。

 

「ぐおおおおッ!」

 

突き飛ばされたグレゴリーは地面に転がり近くの岩に激突した。

 

「く…クソッ!」

 

「グレゴリー隊長!大丈夫ですか⁉︎」

 

部下の一人がグレゴリーを心配し声を上げる。

 

(エドワルド王の側には東の悪魔討伐者(デーモンハンター)共が控えていた。抜け駆けでもしなけりゃ俺の出番はないと思っていたが…こりゃあとんでもないアタリを引いちまったようだな…。)

 

グレゴリーは嵐牙(ランガ)の強さを理解し警戒を強めるが、嵐牙(ランガ)が一瞬でグレゴリーの前に移動し前足でグレゴリーを殴り飛ばした。

 

「躾がなってねえ犬ころだな!俺が調教してや…⁉︎」

 

殴られたグレゴリーが声を上げるが、すぐ目の前に嵐牙(ランガ)の口が迫っていた。

 

(あ、コレ…ダメなヤツかもしれん。)

 

グレゴリーは諦めかけている頃、嵐牙(ランガ)の暴れっぷりを遠くから見ていたゴブタ達。

 

嵐牙(ランガ)さん速過ぎるっすよ!」

 

「かなり派手に暴れてるっすね。」

 

「我もあれだけ暴れたいぜ!」

 

地上からゴブタ、雷蔵(ライゾウ)雷牙(ライガ)がそう口々に言う。

 

「うむ。このままでは我輩達の出番などなさそうである。」

 

「兄上泣き言はいいのでさっさと追いかけてください。」

 

蒼華(ソーカ)の言う通りである。気を引き締めるのだガビル。」

 

ガビルに対し注意する蒼華(ソーカ)とランサー。

 

「それじゃあ、オイラ達は先に行くっすよ!」

 

「「承知した!」」

 

ゴブタは相棒の星狼族(スターウルフ)雷蔵(ライゾウ)雷牙(ライガ)と共に影移動で一気に戦場へと向かう。

 

 

「うお〜!」

 

戦場に倒れる騎士の影から勢いよくゴブタ達は飛び出したのだが…。

 

「ん?あ…あれ?」

 

「…どうやら終わっているみたいすっね。」

 

「くぅ〜!我も暴れたかったぜ!」

 

嵐牙(ランガ)によってファルムスの騎士達は既に殆ど倒され戦闘は終わっており、ゴブタ達が周囲を見渡し嵐牙(ランガ)を探していると…。

 

ゴリゴリゴリゴリゴリ!

 

「あ゛あ゛あ゛……あ゛!」

 

「グレゴリー殿!」

 

まるで犬がおもちゃを噛んで遊んでいるかの様にグレゴリーを噛んでいる嵐牙(ランガ)の姿を見つけた。

 

「あ〜!ちょっ!マズいっすよ嵐牙(ランガ)さん!それ以上やったら死んじゃうっすよ!」

 

「……相手が哀れっすね。」

 

「中々噛み心地が良い相手の様だな!」

 

「大変!早く手当てしなくちゃ!」

 

「ん?だがこの者ももっと遊びたいのではないか?」

 

ゴブタ達の声に対し嵐牙(ランガ)はそう言った。

嵐牙(ランガ)自身グレゴリーに対して甘噛みして遊んでいるつもりだったから。

 

「いやいや…!それはないっすよ!」

 

「これはどっちかといえば遊ばれているほうっすね。」

 

「そうですぞ!もうそのへんでやめないとリムル様に怒られますぞ!」

 

「ああ。間違いなく怒られるであろうな。」

 

「それはマズい…。」

 

リムルに怒られるとゴブタ達に言われしょぼくれながら小さくなる嵐牙(ランガ)だった。

 

そんな嵐牙(ランガ)を横で蒼華(ソーカ)はガストンに話しかける。

 

「このまま部隊を退くなら追撃はしない。どうするか?」

 

蒼華(ソーカ)の問いに対しガストンは全力で頷く。

 

「撤退!撤退である〜!」

 

ガストンの撤退の指示を聞いた騎士達は悲鳴を上げながら全力でこの場から去っていく。

 

「勝てるか!勝てる訳があるか〜!」

 

「ふぅ…ん…。」

 

ガストン達の姿が見えなくなるのを確認した蒼華(ソーカ)はどこか呆れた様な目をしていた。

 

そしてグレゴリーの方は嵐牙(ランガ)の甘噛みによってズタボロとなっているのをゴブタ達が改めて確認していた。

 

「うわぁ…これ曲がっちゃいけない方向に曲がってるっすね。」

 

「既に虫の息であるな。」

 

「てか良くこの状態で生きてるっすね。」

 

「うむ。流石は三武仙の1人であるな。」

 

ゴブタ、雷蔵(ライゾウ)、ガビル、ランサーの会話を聞いていた嵐牙(ランガ)はこのままでは本当にリムルに怒られると冷や汗を流していた。

 

そして、……何を思ったのか瀕死のグレゴリーに対し前足をそっと構える。

 

「ちょと嵐牙(ランガ)さん‼︎」

 

「ち違うッ!少し真っ直ぐにしておこうと…!」

 

「なるほど!なら我も‼︎」

 

嵐牙(ランガ)の言葉に納得した雷牙(ライガ)もグレゴリーに向かって前足を向ける。

 

「深追いしたら本当に元に戻らなくなってしまいますぞ!」

 

そんな嵐牙(ランガ)達の会話を瀕死ながら聞いていたグレゴリーは冷や汗を流しながら命の危機を感じていた。

 

この一件でグレゴリーは犬嫌いとなり“犬嫌いの不動要塞”というあだ名が広まる事になった。

 

 

 

 

(早く…早く帰って来てくれグレゴリー!僕一人じゃこいつには…!)

 

そんな事を知る筈もないサーレはグレゴリーが戻って来る事を願いながら必死でディアブロに立ち向かっていた。

 

「クフフフ…。もっと頑張って面白い技を見せてください。」

 

「クソ!ハァァ…!」

 

サーレを挑発する様にディアブロがそう言うと、サーレは破邪の剣(デモンスレイヤー)の刀身に自身の闘気を纏わせる。

 

「自分の闘気に敵の苦手属性の魔法を付与する一撃必殺の斬撃。」

 

「ぐぅっ!」

 

ディアブロは一眼見てサーレの技を見抜く中、サーレは構わずディアブロに斬り掛かりその刃がディアブロに迫るが…。

 

(ですが、魔法を発動する前にその構成を読み解いて分離してしまえば…。)

 

刀身に纏う闘気がディアブロを斬り裂く前に消えた。

 

「あ…!」

 

「奇跡は起こりません。」

 

「チッ…出鱈目だ!」

 

ディアブロの言葉を否定しながらサーレは何度も闘気を剣に纏わせ斬り掛かるが、ディアブロによって無効され斬撃も軽くあしらわれながら受け流される。

サーレとの戦いはディアブロにとっては遊びだと表しているかの様に。

 

攻撃を続けていたサーレは一旦ディアブロから距離を取り構える。

 

(よく分かったよ。いつでも僕を殺せるのにそれをしないって事はこいつにはその気がないって事だ。)

 

サーレはディアブロが自分を本当に殺す気がない事に気付いた。

 

「(魔王ヴァレンタインより強い化け物がわざわざレイヒムを殺す理由などない。この化け物が殺害の記録を撮られて気が付かない訳がないし、そもそもあの水晶球の映像も証拠として微妙だし報道陣も訝しんでいる者が大半だろう。)…だとしたら僕はなんでこんな目に遭っているんだろうな。」

 

サーレはディアブロなら証拠を撮られて気付かない訳がなく、あの水晶球の映像も証拠としては不十分だと改めて理解した。

 

(兎に角、この悪魔は真犯人じゃない。大司教殺しの真犯人が分かればそれを材料に……真犯人……はっ…そうだよ…。)

 

サーレはある事に気付く。

 

(今回の件には筆頭(ヒナタ)は関与せずという方針だったのに筆頭(ヒナタ)が旅立った後まるで筆頭(ヒナタ)の不在を狙った様なタイミングで大司教が殺された。もしそうなら筆頭(ヒナタ)が出て行く様に仕向け僕らに悪魔討伐の命を下した者が真犯人なんじゃないのか?いや、しかし古の賢人達だぞ⁉︎そんな事が…。)

 

サーレは真犯人が七曜の老師だと気付いたがまだ信じきれていなかった。

 

「サーレよ。応援に来てやったぞ。」

 

「感謝せよ。共に悪魔を滅ぼそうぞ。」

 

そんなサーレの背後に突如黒い渦が発生して中からサーレに声を掛ける者達が姿を現す。

 

「し…七曜の老師!」

 

「ほう…あれが。」

 

「漸くお出ましって事だね。」

 

三人の七曜の老師が現れた事にサーレは驚きディアブロとウルティマは黒幕の登場に少し興味を示した様な眼差しで見据える。

 

「そのまま抑えよ。我らの魔法で始末しよう。」

 

そう言って七曜の老師の内二人が中央に立つ老師に力を集約し、中央の老師が火球を作り出しディアブロに狙いを定める。

 

「お、お待ち下さい七曜の老師よ!まずは話を…!」

 

「応じる訳ないでしょう?このタイミングで彼らが此処へ来た理由は一つ。」

 

サーレは七曜の老師を説得しようとすると、ディアブロが口を開いた。

 

「追い詰められた犯人のする事は分かりやすいですね。雑な証拠隠滅ですよ。」

 

「しょ証拠…?あんな映像なんの証拠にも…「水晶球ではありません。」ッ⁉︎」

 

水晶球の映像が証拠だと思っていたサーレに対しディアブロは七曜の老師が消そうとしている証拠がなんなのか教える。

 

「目撃者です。」

 

「気付いたところでもう遅い。」

 

 

ディアブロの言葉に答える様に七曜の老師の1人が声を上げると、ディアブロに向けていた火球を記者達…報道陣へと向けた。

 

「え…?」

 

その行動気付いた記者の1人が訳もわらず声を漏らしたと同時にサーレも七曜の老師が狙っているのが報道陣達だと知り声を上げる。

 

「マズい!逃げろ〜!」

 

ドゴォォォォオン!

 

だが時既に遅く七曜の老師の火球は放たれ報道陣達の()()凄まじい爆発が起こったのだった…。

 




今回は原作と殆ど変わらない感じになりました。
戦闘にこそ参戦していませんが、ウルティマがディアブロと共にいた分悪魔討伐者(デーモンハンター)の恐怖は倍以上になっていたかなと思っています。
次回はいよいよ七曜の老師との戦いが始まりますのでお楽しみに。
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