一文字隼人、オタクに優しいギャルみたいな奴だよね。   作:よよよーよ・だーだだ

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第1話 対決、そいつの名前は仮面ライダー

「では、お見せしよう……『変身』」

 

 あーしは腰のタイフーン:開閉式安全装置付初期改良型のスイッチを入れた。途端にクレストのシャッターが解放、猛回転する風車ダイナモファンが空気を吸い込んでプラーナを一気に凝縮(ギョーシュク)、あーしの身体を戦いに適した姿へと作り替えてゆく。

 第2バッタオーグ。バッタの跳躍と生命力を誇る人外合成型オーグメントの最高傑作、その第2号。それがSHOCKERに作り変えられたあーしの新たな身体にして、変身を完了したあーしのコードネームだ。

 そんなあーしと対峙した相手、仮面ライダーこと本郷(ほんごう)猛(たけし)は心底驚いていた。

 

「風も受けずに変身を……!?」

 

 本郷猛は旧型の改造人間、第1バッタオーグである。古いモデルである彼は、変身のために全身で風を受けてプラーナを体内に取り込む必要がある。対するあーしは後継モデルである第2バッタオーグ、変身システムをより改良されてるから風が無くっても変身することが可能だ。

 あーしはマスクを被り、拳を握ったファイティングポーズで言い放つ。

 

「どーもスッキリしないんだけどね、本郷猛、アンタについては『倒せ』ってのが命令でさ。言っとくけど、変身もしてない今のアンタじゃ、このあーしには勝てねーよ?」

「……だろうな」

 

 あーしの率直な指摘に、本郷猛も素直に納得したらしい。

 

「この勝負、いったん預けるッ!」

 

 そう答えるや否や、本郷猛は連れの緑川ルリ子を抱きかかえたままコートを翻し、すぐさま踵を返した。あーしもすかさず後を追う。

 ……本郷猛、アンタが“イイヤツ”だってのは一目でわかったよ。そんなイイヤツと戦うのは正直イヤだし、SHOCKERの上級幹部構成員なんかに命令されて戦うってのもあんまりスッキリしない。

 だけどあーしの『幸せ』のためには仕方ない。せめて『本気の戦い』を御膳立てしてやって、戦いの間だけでも心から楽しませてくれることを願っとこう。

 

 

 

 爆音を立てて疾走するサイクロン号を駆る本郷たちと、同じくサイクロン号であとを追うあーし。サイクロン号同士による熾烈な追走劇、その果てで行き着いたのはひと気の廃工場地帯だった。

 ……うん、そろそろいいか!

 頃合いを見計らったあーしは本郷の前へと躍り出て、彼の駆るサイクロン号を力尽くで停めさせた。突然のあーしの行動に怪訝な様子を見せる本郷へ、あーしは告げる。

 

「プラーナを充分(ジューブン)圧縮できたか?」

「…………。」

 

 あーしの問いに、本郷は無言だった。

 本郷が変身するためには風を受ける必要があるのはさっきも言ったけれど、サイクロン号での走りはまさにその『風を受ける』のに最適だ。バッタオーグとサイクロン号は人機一体、もとより本郷をバッタオーグへと改造した緑川博士のコンセプト自体がそういうものだったんだってな。

 ……ってことはさー。

 

 バイクで走らせてやったら、本郷猛も変身してくれるんじゃね?

 

 バッタオーグ同士の追いかけっこなんて、いつまでも続けていられない。本郷の方だって、チャンスさえあればすぐにでも変身してあーしを迎え撃ちたいはずだ。

 そんなことを考えたあーしは本郷を敢えて逃がし、変身できるチャンスを与えてあげた。おかげで本郷も存分に風を溜め込みプラーナを圧縮、今なら変身して戦う覚悟も整ったはず。本郷猛については重度のコミュ障って聞いてるけど、ここまでお膳立てされておいてそれでも逃げるってんなら腰抜け、チキン、ドヘタレもいいとこだと思うねっ。

 あーしはマスク越しに本郷へ笑いかけた。

 

「戦う準備が出来た、ならばヨシ! ほら、弱いままのアンタを倒しても、なんもスッキリしねーじゃん?」

 

 そこまで誘導されていたことに本郷の方もようやく気づいたらしく、やっとあーしに応えてくれた。マスク越しのくぐもった、だけど力強い声で本郷は答える。

 

「……ああ。決着をつけよう」

 

 ウチらが戦うリングは、廃工場の開けたところを選んだ。

 頭上の空は晴天、互いにダスターコートを脱ぎ棄て戦闘モードに入ったあーしと本郷、両者のあいだで乾いた風が吹き抜け、本郷の首下でマフラーがなびいているのが見える。

 そして、事ここに至っても、なお突っ立っているだけの本郷。

 

「掛かってきなよ、本郷。やる気なんだろ?」

 

 そんな彼に焦れたあーしが誘い掛けると、ようやく本郷はプロテクターで固められた拳を繰り出してきた。あーしはすぐさま掌で受け止め、その破壊力を堪能する。

 破裂音が一帯に響く。

 

 ……いや、軽いな。軽すぎる。

 

 バッタオーグのパンチ力は軽く15トン、キックなら20トン。人間相手なら簡単に殴り殺せるほどになるはずだ。だけど本郷の中では、その力を誰かに対して振るうことに強い抵抗があるようだった。そのためらいが、本郷本来の力にブレーキを掛けてしまっている。

 その理由を、あーしは察した。

 

「大した自制心……いや、優しさかな?」

 

 ……正直、優しいヤツは嫌いじゃあない。

 だけど優しさと弱さは紙一重。巷では優しさを言い訳に目の前の困難から逃げ出すような手合いが大半だし、仮にホンモノの優しさだとしてもそれだけじゃあ何も守れない。

 だから、あーしは本郷に教えてやった。

 

「優しいのはいいんだけどさ、」

 

 そう言うあーしの視線の先にいるのは、チョウオーグのアジトへ本郷と一緒に乗り込んできたお嬢さん、緑川ルリ子。

 

「アンタが手抜きしてあーしに殺されちゃったら、そこの“お嬢さん”はどーなると思う?」

「……!」

 

 そのことに触れた途端、本郷の雰囲気が変わった。

 これまでの甘さを捨て去ったかのような、鋭く熱い闘気。本郷の総身から溢れ出るそれらを、あーしはスーツ越しの肌身でひしひしと感じとる。

 ……これでちょっとはノリ気になってくれたか? 本郷の闘争心へようやく火を着けられたことに満足しながら、あーしは告げる。

 

「ウォームアップは終わりだ。いいかい本郷、今度こそ本気(マジ)で来いよ?」

「……わかった」

 

 あーしの言葉を皮切りに、本郷は今度こそ意を決した様子で腕を振り上げて殴りかかった。あーしもすかさず拳をかざし、本郷の拳を真正面から受け止める。バッタオーグ同士、その本気同士のぶつかり合い。轟き渡った衝撃で、廃工場全体が震えた。

 ……ふーむ、これが本郷の最高出力(フルスペック)かあ。

 

「イイネ!」

 

 思わず感嘆の声が漏れた。強化されたあーしの腕から骨の髄にまで、びりびり響くこの衝撃。本郷猛による仮面ライダーとしてのパンチは、他のどんなオーグメントのそれよりも重い一撃だと思う。ホントマジサイコーだぜ、本郷猛!

 

「…………。」

 

 そんなあーしの惜しみない称賛に対しても、本郷は無言だった。それともバカにしてると思われたか?

 こう見えて、あーしはいつも言いたいことを言う主義だ。仲間だろうが悪いことは悪いと批判するし、敵であっても褒めたきゃ素直に褒める。それで人一倍に損をしている自覚はあるし、味方もなかなかできなくて昔から一匹狼だ。けど、それがあーしの性分で、何より『スッキリ』しないのはガマンならない。言いたいことは言わなくちゃな。

 本郷の本気(マジ)を確かめた上で、あーしは戦いの火蓋を切った。

 

「いくぜ、本郷!」

「…………ッ!」

 

 第1バッタオーグと第2バッタオーグ、同じバッタ型改造人間同士の戦い。誰もいない工場地帯を縦横無尽に跳びまわり、空中で体を重ねながら拳と蹴りを幾重にも交わし合う。

 実際戦ってみた第1バッタオーグ、本郷猛はスゴイ戦略家だった。

 

「なるほどっ、こいつァシンプルだ! 風の強い高台に行けばプラーナも溜めやすい、周りにも迷惑が掛からない! イイネ、本郷!」

「…………。」

 

 改造人間オーグメントとしての地力に頼るだけじゃあ、後継モデルであるあーしには勝てないことを理解していたんだろう。本郷は、自身の特性を存分に活かせる戦術を即座に組み立てて次から次へと繰り出してきた。コミュ障なれどスポーツ万能、頭脳明晰ってのはホントだったんだな。

 

「だが、あーしも負けちゃいねーぜッ!」

 

 パワー、スピード、タフネス、オーグメントとしての基本スペックでいえば、第2バッタオーグであるあーしの方が上のはずだ。本郷が巧みな技(ワザ)でくるのなら、応じるあーしは圧倒的な力(チカラ)でねじ伏せてやればいい。

 互いに死力を尽くした熾烈な応酬、激突、そして死闘。

 

 だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、あーしにはわかってしまった。

 

 ……たしかに、今の本郷のパワーはフルスペックだ。

 だけど彼が繰り出すそのパンチにもキックにも、あーしを殺そうという気迫をまるで感じられない。出来の良い殺陣(たて)みたいなもんだ、本郷の目的は飽くまでも相手を叩き伏せて行動不能にするのがせいぜいで、あーしへの殺意自体は未だに抱けていないようだった。

 

「手を抜くんじゃねェーッ、本郷ッッ!!」

 

 あーしが怒鳴ると、本郷は苦しむように本音を吐き出した。

 

「君はSHOCKERの洗脳に抗ってるッ、だから戦いたくないッ!」

 

 うわー、やっさしー。

 敵であるあーしですら思い遣ってくれている本郷猛の在り様に、かつて出くわした『世界の不条理』があーしの脳裏をよぎった。もしも本郷みたいな人がもっと沢山いてくれたなら、世の中もうちょっとマシだったはず。こんなに悲しい世界になんか、きっとなっていなかったはずだったのだ。

 ……おっと危ない危ない、イヤなことを思い出すところだった。せっかくSHOCKERのおかげで幸せな気分で戦えてるんだ、暗いことなんて忘れてハッピーに楽しもう。

 

「甘いなあ、本郷!」

 

 すぐさま頭を切り替えながら、あーしはマスクの下でほくそ笑んだ。

 

「今のあーしは『戦うことしか頭にない』ッ!」

「…………ッ!!」

 

 そしてあーしは、わずかに隙を見せた本郷の脚を力任せに叩き折った。

 

 

 

 あーしが地表に降り立つと、本郷は足をもがれたむしけらのように地に這いつくばっていた。

 バッタオーグとしての最強の武器である本郷の左足、それが今は膝関節を粉砕されておかしな方向へとねじ曲がっている。新陳代謝を促進された変身状態でも、修復して立ち上がるにはまだまだ時間がかかるだろう。

 そんな無様な姿の本郷だったけど、当人はまだ負けたつもりはないようだ。あーしを見上げるその目には、未だ力強い意志の光が灯っている。

 そんな本郷を見下ろしながら、あーしはついつい深い溜息をついてしまった。

 

「……こんなもんかよ」

 

 足をもがれたバッタを狩ることなんていとも容易いものだ。本郷猛の優しさと勇ましさ、その心根は立派だけれど、心ばっかりで実力の方がついてゆけていない。こんなの形無しだ、やっぱり理想なんて本物の暴力には敵わない。

 

「悪いね、本郷。これで終わりにしよう」

 

 そうして本郷にとどめを刺そうと歩み寄ったとき、あーしの目の前に一人の女が割り込んできた。

 本郷猛とずっと一緒にいた茶色いコートのお嬢さん……たしか、緑川ルリ子、だったか。かつて緑川イチローの妹としてイカレた“人類救済”を主導しておきながら、その土壇場でSHOCKERを裏切って本郷猛を仮面ライダーに仕立て上げた張本人だ。

 その緑川ルリ子が今、あーしの前に立ちはだかっていた。あーしは言った。

 

「……どきな、お嬢さん。それとも次はアンタが相手になるかい?」

 

 見るからに非力そうな緑川ルリ子にあーしは殺気全開で凄んでみたけれど、彼女はこちらをじっと見据えたまま一歩たりともたじろがなかった。

 

「…………。」

 

 ……ふーん。いい根性(コンジョー)してんじゃん。

 SHOCKERの裏切り者、緑川ルリ子。彼女についてはSHOCKER上級幹部構成員である緑川イチローから『絶対に殺すな、生け捕りで連れてこい』と厳命されていた。イチローの言うことを聞くのはスッキリしないが、あーしだって敵でもないお嬢さんに暴力を振るうような下衆な真似はしたくねーしな。

 けど、こうして『邪魔をする』ってんなら話は変わってくる。殺すつもりはもちろん無いけど、かといって無傷にしてやる義理も無い。当て身で気絶させて連れ帰っとけば、まー文句も言われねーだろ。

 そう判断して拳を振り上げようとしたあーしに、緑川ルリ子は青(・)い(・)瞳(・)を(・)輝(・)か(・)せ(・)な(・)が(・)ら(・)手を伸ばす。その両掌はあーしの頬へ。

 

「SHOCKERの洗脳を解除:Pariharise(パリハライズ)する。貴女の魂(プラーナ)の自由を解放して」

 

 ……なんだって? 言われたことを理解しようとしたときだ。

 

 

 

 絶望が溢れてきた。

 

 

 

 ……どうして、忘れていたんだろう。忘れようとしてたことさえ忘れてたのを、今また思い出してしまった。SHOCKERに改造されて以来、ずっと心の奥底に封じ込められてきた苦しみ、懊悩、絶望。耐え難いほどのマイナス感情が、怒涛の勢いであーしの心で荒れ狂った。

 

「うっ……ぐっ……!?」

 

 これまで必死に目を背けて抑えつけてきたものが、堰を切ったようにあーしをめちゃくちゃにした。暴力へ寄りかかっていた陶酔感(キモチヨサ)が立ちどころに消え去ってゆき、ちっぽけなあーしの心が膨大な罪悪感に押しつぶされそうになる。目の前の景色が、今立っているこの世界が、自分自身の支えが崩れ落ちてゆく。

 ああ、そうだ。あーしは、あーしは……っ!

 

「う、う、ああ……っ……ッ!」

 

 嗚咽を漏らして悶え苦しむわたしに、緑川ルリ子は言う。

 

「……耐え難い苦しみや悲しみ、その想いを封印(マスク)し多幸感で上書きするのが、SHOCKERの辿り着いた洗脳手段。だからその洗脳が解ける時、封じ込めていた絶望が一気に貴女を襲うことになる。悲しみの洪水に耐えて、一文字」

「あ、あ……ああ……!」

 

 今のあーしは涙が止められなかった。胸が詰まって、息が出来ない。全身に力が入らない、立っていられない。もはやなにも、かんがえられない。

 止め処ない悲しみに我を失い意識が薄れてゆく中で、抱き締めるような温かい声だけが聞こえてくる。

 

「……おねがい。貴女もライダーになって。彼を助けて」

 

 そう、祈っていた気がする。

 

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