一文字隼人、オタクに優しいギャルみたいな奴だよね。 作:よよよーよ・だーだだ
我らをねらう黒い影 世界の平和を守るため
GO、GO、レッツゴー! かがやくマシン
ライダー……ジャンプ!
ライダー……キック!
仮面ライダー、仮面ライダー
ライダー ライダー
――『レッツゴー!! ライダーキック』より
夜の月下を、影が駆けている。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
追われているのは少年が一人。名前はトオル。トオル少年は、ひと気の無い夜の街を必死の形相で走って逃げていた。
「ヒュ、ヒュ、ヒュ!」
そのトオル少年を執念深く付け狙うのは“黒い影”。影の狙いはただ一つ、見てはならないものを見てしまったトオル少年をこの世から消し去ることだ。
迫る“黒い影”の魔の手から、トオル少年は懸命に逃げた。すぐに周りの大人たちへ助けを求めようとしたものの、夜更けの街では他の人影はなく、トオル少年はただひとり走って逃げることしか出来なかった。
路地裏を駆け抜け、大人には通り抜けできない脇道をくぐり、ときに物陰へ隠れてやり過ごす。だがそんな命懸けの追いかけっこも、すぐに終わりが訪れた。
「……っ!?」
体育の授業よりも遥かに長い時間を走り続けて限界を迎えたトオル少年は、いつのまにか袋小路へと追いやられてしまっていた。すぐさま周りを見回してみたけれど、咄嗟に身を隠せる隙間も、子供だけなら抜けられる都合の良い細道もない。
絶望の状況を悟ったトオル少年、そのすぐ背後に“黒い影”が迫る。
「……ったく、てこずらせやがって、ガキめ」
トオル少年がおそるおそる振り返ると、そこには手下の下級構成員を大勢引き連れた“黒い影”が立っていた。大蛇のような腕の鞭をしならせる“黒い影”、SHOCKERのコブラオーグは狡賢い蛇のように残忍に嘲笑っていた。
「ヒュ、ヒュ、ヒュ……このおれを散々走らせやがった罰だ。さあ、せいぜい怯えろ、泣け、喚け、おれを楽しませろ。そしてこのおれを『幸せ』にしてくれ!」
声高に笑うコブラオーグの指示のもと、下級構成員たちがトオル少年一人を取り囲む。
絶体絶命の窮地、けれど。
「……こわくなんか、ないぞ」
「あん?」
コブラオーグが改めて見たトオル少年の目、その瞳からは希望の光が消えていなかった。勢い、トオル少年はがくがくと震えながらも懸命に言葉を発し続けた。
「正義は必ず勝つ! おまえみたいな力任せの悪党、いつか必ずやっつけられるんだ!」
……こんなの出任せ、ただの虚勢だ。トオル少年自身、それくらいわかっていた。けれど、コブラオーグみたいな下劣な悪党へ弱音を見せたところでますます喜ばせるだけ。だったらせめて最後くらい清く正しく、気高くありたかった。
そんなトオル少年による精一杯の強がりを、コブラオーグは鼻先で一笑に付した。
「ヒュ、ヒュ、ヒュ! そんなのただの雑魚の負け惜しみ、ルサンチマンの戯言だ! この世は弱肉強食、力こそ正義、それがすべてさ! おまえみたいな弱い奴の味方をしてくれる都合のいいヒーローなんて現実にはいないんだよ、ボウヤ!」
そう笑いながらコブラオーグは、か弱いトオル少年にじりじり迫ってゆく。
……助けて、ぼくのヒーロー。トオル少年が心の底から祈ったときだった。
「そこまでだっ、SHOCKER!」
トオル少年、下級構成員たち、そしてコブラオーグ、その場にいる者が一斉に振り返った視線の先。大きな月をバックに一人の『ライダー』が仁王立ちしていた。
ダスターコートを豪快に脱ぎ捨て浮かび上がる、洗練されたシルエット。鍛え抜かれた逞しいスレンダーな体つきがくっきり出ているライダースーツに、スラリとした美脚のライン。風に吹かれてなびくのは目が覚めるような真紅のマフラー、顔を隠すのは金属光沢を照り返す緑の
かがやくマシン:サイクロン号を傍らに控えさせながら、そのライダーは全身に力を籠める。
「むんッ!」
“彼女”が構えたのは、拳を握った力強いファイティングポーズ。その勇ましい姿を見上げながら、コブラオーグが呟く。
「仮面ライダー、だと……!?」
……ふー、なんとか間に合った。遅れてごめんな、だいじょーぶか、トオル君?
あーしがソッコーでSHOCKERの下級構成員を蹴散らして駆け寄ると、そんなあーしをトオル君は目をキラキラさせながら見上げていた。
「本物の仮面ライダー、“力の二号”だ……!」
ヨシッ、だいじょーぶだな!
驚き半分、感激半分の表情を浮かべているトオル君にあーしは安堵した。
ちなみにトオル君の反応についてだけど、巷じゃあ仮面ライダーは密かな都市伝説になっていて、子供たちのあいだでは今やちょっとした人気者だ。ちょっとオタクが入った子だと本郷とあーしの戦闘スタイルが違うこともちゃんと見抜いていて、『技の一号、力の二号』なんて渾名で呼んでくれてるらしい。
……しっかし、『力の二号』ねぇ。かつて力へ溺れてSHOCKERに利用されたあーしからすればあまりに皮肉が効きすぎたネーミングで、子供たちからそう呼ばれるたびに内心で苦笑いせずにいられなかった。でもまっ、いいか。それで善い子の皆が喜んでくれてんだもんな。
そんなことを頭の片隅に置きながら、あーしはトオル君へ向けてサムズアップ。
「絶望に挫けずヒーローを信じるその心意気……イイネ!」
か弱い子供の身でありながらここまで逃げ切ったトオル君のド根性、いざ悪党に追い詰められても決して屈しなかった勇気、そして『ヒーローが来てくれるまでなんとしても生き延びる』という希望を捨てなかった強い心。それらすべてに惜しみない賛辞を贈ったあと、あーしは言った。
「トオル君、コイツのことはあーしに任せな。君は離れたところで隠れてなさい」
「わかった!」
あーしの言葉にトオル君は素直に頷き「ありがとう、仮面ライダー!」とお礼を言いながら、あーしが築いた退路から足早に避難してゆく。
……ちゃんとお礼を言える子、ますますイイネェ。どこぞのコミュ障のことを思い出しつつ、あーしはマスクの下で笑みを浮かべた。『あいつ』も口数は少ないし微妙に間が悪いこともあったけど、言うべきことはちゃんと言える奴だったしね。
「……さて、と」
トオル君が安全な場所へ隠れたのを見届けたあーしは眼前の敵、コブラオーグへと振り返る。SHOCKERが開発した最新鋭爬虫類型オーグメントであるコブラオーグはというと、蛇のような声を挙げてあーしのことを嘲笑っていた。
「ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュ……噂に名高い仮面ライダー、どんなものかと思えばこんな弱そうな小娘とはな。せいぜい無駄な抵抗の末に怯えて泣き叫んで、おれを『幸せ』にしてくれ!」
うっわー。男女平等のこのご時世に、ミソジニー全開すぎてドン引きだわ。トオル君についてもそうだけど、自分より弱そうな相手をいじめて『幸せ』とかコイツ、マジ終わってんな。
そんなヘンタイ趣味のコブラオーグに、負けじとあーしも言い返す。
「アンタの言葉、そっくりそのまま返してやんよ。お望みとあらば必殺の『ライダーキック』、アンタのそのブサイクヅラにキメてやる」
……ライダーキック。必殺技のネーミングにしてはちょっち安直すぎたかな? セリフもなんだかクサすぎて、自分で言ってて照れてしまった。
アンタはどう思うよ、本郷?
こっそり感想を聞いてみると、マスクの中に籠められた本郷の魂はいつもどおり下手糞に笑いながら答えてくれた。
「いや、シンプルでカッコいい。ぼくは好きだ」
あ、そう? なら良いや。本郷がそう言ってくれるなら間違いねーわ、アンタはコミュ障だけどウソはつかねーもんな。
気になったことをスッキリさせたうえで、あーしはマスクの中の本郷へと語りかけた。
「……ウチらはもう独りじゃないよ、本郷。いつも二人だ。二人でSHOCKERと戦おう!」
「ああ、行こう、一文字!」
……風の音が聞こえる。体の中から風の音がする。そして
だから今宵もあーしは戦いを挑む。
「行くぜ本郷! ウチらは、二人で一人の仮面ライダーだッ……!!」
こうして人間の自由を守るため、仮面ライダーはSHOCKERと
おしまい。そのうち後藤ひとりみたいなTSド陰キャ本郷猛とか書くかも。
感想もらえると嬉しいです。
過去作
https://syosetu.org/novel/312346/
https://syosetu.org/novel/312789/
https://syosetu.org/novel/312788/
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