やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。 作:ひきがやもとまち
修学旅行編ラスト回。
終わり方だけは、今作完全オリジナルとなっております。
「お・・・」
「――あっ」
三浦との予期せぬ邂逅を終えてホテルに戻ってきた俺は、その夜二度目の予期せぬ邂逅を果たすことになっていた。
雪ノ下が、ホテル1階のロビーにある土産物屋の前でなんか見てた場面に出くわしちまったのである。
「・・・」
「・・・・・・」
そのまま気付いた素振りも見せず、さりげなく見えると本人は思ってそうな動作で手にしてた物品を陳列棚に戻し、俺にも気付かなかったフリして去って行こうとする雪ノ下。
今さら言うまでもないが、あくまで元に戻した土産物はアイツ基準だと『ゆるキャラ』ということになっているらしい。
「可愛らしい見た目のゆるキャラを買うなんて、私のイメージには合わないわ!」
とかのサキサキさん的なイメージが動機でやっている行動だろうと予測だけはしているのだが・・・・・・何故だろう。
サキサキさんの時はちょっと可愛く思えなくもないギャップ萌えの行動だったのに、雪ノ下がやると残念さばかりが強調されて見えてしまうのは、俺にも先入観補正があるからだろうと思いたい・・・。
まっ、俺としてもコンビニで不毛なやり取りを、マッカンという名の黒い水で流したかっただけだから別にいーんだけども。
修学旅行の宿泊先ホテルから教師の目を盗んで抜け出した先で、クラスメイト女子と私服姿でダベってたとにしては、本当に不毛なやり取りだったからなぁ・・・・・・ホントに何のために話しかけてきてたんだろう? アイツって。
――その程度にしか俺的には思っていない事だったんだけれども。
スタスタスタ―――ぴたり。・・・クル。
・・・・・・すたすたすた。
「あら、こんな夜中に奇遇ね」
「・・・そうだな。お前の中ではそうなっているんだろうな、きっと」
「――キッ!!」
「――ササッ!!」
なぜだか修学旅行先でも、いつも通りの日常風景を演じちまう羽目になる・・・と。
学べねぇなぁ、俺たち奉仕部メンバー・・・学年主席と国語学年3位がそろってるはずなんだが・・・・・・。
「・・・それで? どうしたの? 部屋に居づらくなったから逃げてきたの?」
「ハッ、あまり俺を舐めるなよ雪ノ下。俺は選ばれしボッチのエリートだぜ? 別の言い方すりゃキャリアだ。
他の奴らから鬱陶しがられたぐらいで自分から去ってくキャリアなんて、現実にはいねぇだろ。自分が居座るため他人を追い出す奴ならいそーだが」
「・・・・・・呆れるほど変わらなすぎるにも程があるわね、この男・・・。必ずしも否定できないところが、つくづく厄介なのもいつも通りだし・・・判断に迷うわ」
なにやら思い当たることでもあったらしい、県議会議員の娘な特進クラス1のエリート様。
首都圏よりは少なくても、地方には地方で腐敗はあるだろうからな。キャリアが犯した不祥事なんか昔っから腐るほどあったろうが、責任取って自分から辞めて出て行ったエリートは何人いたことだろう。
それこそがエリート。現代日本を支える選ばれし存在たちの名前である。
「って言うか、居づらくなって出てきたって言うなら、お前の方なんじゃね? 周りの連中と話し合う性格とも思えんし。上っ面だけで評価する奴らから好かれそうだけどな」
「・・・あなたが私のことを、どう見られていると思っているのかよく分かったわ。――そもそもあなたが文化祭のときに人目のある場所でいろいろ言うから・・・・・・」
「あん? 俺がなんだって?」
「――――――――――別に・・・・・・なんでもないわ(ぷいっ)」
そして何故だか、ふいっと視線を逸らされる俺。
照れたようにも見えなくもない様子に、ふと「ゆきかわいい」という言葉が浮かびかけたが――まぁ幻想だよなハッキリ言って。
人の夢と書いて「儚い」・・・いい言葉だぜ。捻くれエリートの悟りには相応しい。
「そんな些細なことより、依頼の調子はどうなのかしら? 状況を聞かせてちょうだい」
雪ノ下も雪ノ下で、そんな平常運行過ぎる俺たち私たち奉仕部メンバーの自分らに嫌気でも差してきたのだろう。
あるいは、誤魔化したかっただけかもしれないが、そんなことを聞いてきた。
「そっちの方は微妙そうだな。可も無く不可も無く、ってとこじゃねぇか。
もしくは、一歩進むと牽制されて二歩下がらせられる膠着状態のどっちかだ」
「・・・?? どういう意味なの? それって」
「気にすんなよ。俺も一応はアイツらと同じクラスだってことだ」
「ああ・・・なるほど。そういうことね。でも、そうなると悪いわね。私は別のクラスだからなかなか手伝うことが出来なくて」
「気にするな」
そういう説明の仕方で察したらしく、納得してくれたらしい雪ノ下。
同じ場所に属してる者同士なら分かることできる内輪情報っぽい言い方は、別の所属の奴相手にするときには便利である。
そんな風に、何となくロビーにあったベンチに横並びで座って話をしていた時のことだった。
「あ」
「・・・ん?」
「――なっ!? なんで君たちがここに・・・っ!」
高校生の泊まっているホテル内に、『不審者』が侵入してきたのを俺たち二人は目撃することになる。
サングラスと、襟元を立てたコートで顔を隠し、足早にホテルの外へと立ち去ろうとしている寸前の、何かやらかして逃走するところにしか見えん姿の不審者を。
「いやー、美味かったぁ~。流石は『天下一品』総本店、一度は食べておきたかったんだ」
「・・・・・・凶暴な旨味でしたね・・・」
約:『自分的にはマズかった』
――まぁ、こんな感じの会話を雪ノ下と交わすあたりから見ても、平塚先生だったわけなのだが。
なんでもホテルで晩飯だされた後だけど、ラーメンを食べたくなったから抜け出してきたらしい。
健康と体重のサイズ的には悪そうな食生活じゃありそうだが、夜には結構よくある事でもあるっちゃある。
普段だったら、この時間は仕事終わって家帰る途中か帰った後だから、千葉には支店ないから無理だけどラーメンそのものは食べたくなったら、屋台なり別の店舗のを食いに行ける。
だが修学旅行中は、学校行事に参加してる生徒たちの引率扱いだから、旅行終わるまでずっと勤務時間中。
旅行中に生徒たちが問題起こすと学校側の責任問題問われるのと同じように、旅行中の学校教師が教え子の女生徒たちを部屋に連れ込んでサービス強要したとかいう事件が昔あったからな確か。
多分そういうのを避けるためリスク回避の思考でもあるんだろう、きっと。
もっとも、こーいうルールってのは守らせてる側に取ってさえ時の流れと一緒に形骸化していき、形式化しちまってるのが一般的な現代日本の高校ってもの。
当然それは俺たちが通ってる総武高校も例外じゃあない。
そーいう状況なんで結果として、こーいう人が生まれる訳でもあり↓
「それにしても、なぜ私たちが同伴を・・・・・・教師がこんなことをしていいんでしょうか・・・?」
「いいわけないだろう。だからラーメンで口止め料を払った」
「その行いは更に教師らしからぬ行為なのでは・・・バレたら叱られるのでは・・・」
「叱られるのは悪いことではないよ。誰かが見ていてくれている証拠だ」
容疑者は悪びれることなく、自己の行為についてそう語った、県立高校の新米女教師(2×歳)
『叱られるのは悪いことではない』と言いながらも、『バレないための口止め偽装工作』を教師権限のゴリ押しで教え子に強要し、バレたときには連帯責任の状況へと巻き込ませて自己保身、か・・・・・・。
しょせん官僚主義に染まって形骸化した日本の学校組織に染まりきった教師のやる事なんて、そんなもの。
有名大学への進学率高い高校でもあるしな。受験時に優先的な待遇してもらえるよう普段から仲良くやってるのかもしれん、
――やはりエリートの足を引っ張ることしかできなかった俗人には、世界はよりよく指導する絶対的ひねくれエリートを必要としているようである。
「教師も人間、大人も人間だよ。過ちを犯すこともある。自覚的であれ、無自覚であれ、な。
それに、もしバレたとしても叱られることはないだろうさ。せいぜい小言や嫌味を言われたり形式的に呼び出されるくらいで済むだろう」
「それは叱られているのではないでしょうか・・・・・・?」
「違うよ。問題を起こすなという命令と、問題を解決するよう促すことは、まるで違う」
「――まっ、確かに。そうでしょうねぇ」
とはいえ、如何に汚職文化に染まった連邦の道具に成り下がったニュータイ――もとい、日本の学校教師の言葉とはいえ一理あることには一理あるもの。
「ほう? 比企谷。君には、この二つの違いが分かるようだな。流石だよ」
「当然でしょう?
“問題を起こすな”は部下の責任問題を問われたくないパワハラ上司の命令で、“問題を解決するよう促す”のは本人の自己責任で起きた問題を処理するよう遠回しに切り捨ててる上司の命令としては定番ですし」
「・・・それに、無自覚での過ちなら過失であり、事故の部類です。
自覚的な過ちは、意図的な悪意をもって行われた計画的な犯罪になりますから、『過ちを犯したのは同じだから』というのは犯罪者の自己弁護かと」
「お・ま・え・らという奴らはぁぁ・・・・・・!!
修学旅行に来てまで本当にお前等という奴は~~~~ッッ!!!」
という感じにドッカーンと怒られながらタクシーから追い出され、残っている距離分はホテルまで歩かされることになってしまった俺と雪ノ下の修学旅行2日目の夜でありましたとさ。めでたくなし、めでたくなし。
・・・・・・だがまぁ、結論としては平塚先生の話も間違ってないものだったんだろうと俺も思ってはいた。
特に今回の奉仕部が請け負った依頼には、多分にそーいう面がある。
無自覚な過ちと、自覚的な過ち。
バレなければいい口封じと、問題を起こすのを避ける奴と、解決を促すよう他人に押しつけたがる奴。
それら全部を、とまでは言わないが結構な割合で内包しちまった状態で始まっていたのが今回の奉仕部が受けた依頼なのだから・・・・・・。
それは、戸部でさえ例外じゃない。
戸部もまた無自覚な過ちだけじゃなく、自覚的な過ちを犯す道を選んでいる。
そのことは翌日の嵐山に行ったときに、由比ヶ浜の提案で『告白する場所』が決定した後、葉山と川縁で二人だけで話す流れになっちまったことで余計に確信することになる。
「やけに今回は非協力的なんだな。お前らしくもない」
「・・・そうかな?」
「むしろ邪魔してるまであるぐらいだ。らしくなさ過ぎてドッペルゲンガーで本物の葉山もう死んで埋められてるんじゃないかと疑ったレベルだぞ」
「・・・・・・いや、流石にそこまで酷くはなかった気はするんだが・・・」
タラリと、わずかに一筋だけ汗を頬に垂らした困り顔で微笑んでくる葉山隼人。
こういうところは、いつも通りなコイツなんだが、戸部が海老名さんに接近しようとアプローチを賭けたときには必ずと言っていいほど、さり気なく割って入って邪魔してくるのが今回の修学旅行ではパターン化してしまって今に至っている。
実に葉山らしくない行動だった。だから告白場所と日時が決まってから、部屋で騒ぎだした戸部とかの葉山グループを置いて一人だけ抜け出してったコイツの後を追い、追いついた先の河原でこうして男同士の語り合いなんていう、気色悪いことをする羽目にもなってる訳だ。
「邪魔するつもりはなかった。本当に、そういうつもりはなかったんだ。・・・ただ」
「“ただ”?」
「・・・・・・俺は今が気に入ってるんだよ。戸部も、姫菜も、みんなでいる時間も、けっこう好きなんだ」
照れもせず、葉山は青春映画の主人公みたいな言葉を、真っ向から見据えながら――反面どこか後ろめたそうな空気をにじませた口調で俺に語る。
少なくとも俺個人が思い描く葉山隼人という人間は、内輪の問題のときでなら限りなく正解に近い答えを導き出すこと、“それ自体はできる人間”だ。
正論を唱えられるときは唱えるが、正論が場の雰囲気を壊すときには妥協案としての正解を導き出して、そっちを優先するのを由とする。
正論にも詭弁にも縛られないが、人間関係のしがらみには雁字搦めに縛られまくって、全体のリーダーという纏め役のポジションを維持し続けるため、自由意志による自己決定は半ば放棄している。
言うなれば、Fateのセイバーみたいな奴なのが葉山隼人という人間だった。
リーダーという存在は、グループ全体を動かすための歯車であればいいとかの考えを、自分の意思より優先してる人間。
そしてセイバーであるが故に、最終的にはカムランで終わる。
そんな奴だと、少なくとも俺はそう思っている。
だから今回の件でも葉山は、「友人を応援する」という『戸部の願いを叶えるだけなら正解』となる答えを安直に選ぶことができず、グレーゾーンの妥協案ばかりを実行する羽目になってたんだ。
「だから、それを――」
「その程度で壊れるような関係なら、もともとその程度の関係だったってことなんじゃねぇの」
「そうかもしれない。けど・・・・・・失ったものは戻らない。もう二度と・・・」
俯きがちに告げられた最後らへんの言葉だけには、ほかの言葉とは違う実感がこもっていた。そんな気がした。
まるで過去にそうした経験があるような言い方に多少の興味が沸かなかったわけじゃない。だが今は関係がなく、本気で気にしてる過去が絡んでる話なら葉山の方でも聞かれただけで答えるはずもない。
「何事もなかったように過ごすことはできるかもしれない。そういうのは苦手じゃない」
「それでも無かったことにはできないぞ。特に、やった本人と、やられた相手自身はな」
「・・・・・・それは・・・」
予想通り話を続けて、自分の話からは話をそらした葉山だったが、続く言葉でまた躓く。
知らず、俺自身の言葉にも確信が満ちたものになっていく。
世の中、どんなに悔やんでも悔やみきれないことは腐るほどある。些細な言葉のつもりが、取り返しがつかない一言になったことだってあるだろう。
そういう出来事があった相手に思うところを感じながら、それでも関係を維持するため「気にしてないよ。大丈夫。私たち友達だから」と硬い笑顔を浮かべ合い、互いに過去の出来事には触れないよう気を遣い合って付き合い続ける。
そういうストレス堪りそうな程ギクシャクした、トモダチ関係。
今回のは丁度それになりそうな条件が、葉山たちグループには揃っちまっている。
「何事もなかったように過ごすことはできるかも」という方針の葉山は当事者ではなく、戸部や海老名さんは当事者ではあってもグループ内のリーダーじゃない。
葉山はそれでよくても、他の二人にとってはどうなのか? あるいは他の一人は葉山に賛同したら残った一人はどうなるのか?
この件に関しては、仲介役であって無関係ではなくても、当事者では全くない葉山は『他人事のポジション』に立たされちまっている。
それが普段は如才ない葉山が、曖昧な対応だけに終始してきた大きな理由の一つだろう。
最悪、自分が好きな相手と付き合えたかもしれない可能性をアヤフヤで終わらされた戸部は、やがて葉山を憎むようになる未来だってないとは言えんのだから。
「そんな上っ面な関係になった後まで楽しくやっていけるかも、とか考えてるお前らの方がおかしい」
「そうかな? 俺はこれが上っ面だなんて思ってない。今の俺にとっては、今あるこの環境が全てだよ」
「“今はまだ”、な。だが今のまま進むと上っ面になる。
そして、そうなった状態は、今の関係が壊れたと判断したからこそ、今のお前は戸部を邪魔する行動にでる道を選んだはずだ。
本気で今の関係が“上っ面じゃない”と信じてるなら、相手を信じたまま流れを傍観してるだけでいい。・・・違うか?」
「・・・・・・(ギュッ)」
図星だったのか、葉山は足下に落ちてた石を拾って強く握りしめたまま、無言を答えとして返すだけ。
先程から葉山が語ってくる答弁には、詭弁がアチラコチラに色濃く散りばめられて影響を与えていた。実に葉山らしくない屁理屈のオンパレードだ。
なぜなら、いま問題にしているのは『戸部と海老名さんの交際』で、『2人が付き合いだすかフラれた後の葉山グループの関係』であって、葉山の主観は関係ない。
葉山が『自分だったら過去の出来事を何事もなかったように過ごすのは苦手じゃない』としても、2人の方は苦手だったのでは何の意味もないのだから。
「・・・・・・その通りなんだろうな、きっと。俺も何度か諦めるように戸部には言ったんだ。戸部が彼なりな真剣さで姫菜のことを想っているのは俺にもわかる。
けど今の戸部には、姫菜が心を開くとは思えない。・・・・・・それでも先のことまでは分からない。互いに思い合える日が訪れるかもしれない。けど今の自分で関係が壊れてしまったら、そうなる可能性も失われる・・・・・・」
握りしめていた石を川に向かって投げ入れて、何度か跳ねてから湖面に沈んでいったのを見届けてから、葉山は改めて今回の自分が動いてきた『動機』を結論づける。
「だから、あいつには結論を急いでほしくなかったんだ。
得ることよりも、失わないことが大事なものだってあるだろう。
・・・・・・まして、いま得ようとして失わなければ、得られていたかもしれないものなら尚更に・・・」
「・・・・・・まっ、それも事実ではあるんだろうけどな」
手元から離れて、川の底へと沈んでいって失われた石の行方を追うように、ジッと水面を見つめたままの葉山に同意して、俺も賛同の言葉を答えとして返しておく。
『今の戸部に海老名さんが心を開くとは思えない』って部分に同意したのだ。
他の部分はどうかまでは知らんし分からんけど、少なくともその部分に関しては確実だと言っていい。断言できるし保証だって出来てしまえる。
実際問題どれだけ何を言っても俺も葉山も、今回の一件の結果として『何かが損なわれるに決まっている』という前提で話を進めている。
戸部と海老名さんが付き合いだして、周囲から祝福されて、「いつまでも幸せに暮らしました」とかのハッピーエンドな関係になれた未来を得られる可能性を、最初から一言も話そうとはしていない。
告白したら失うことは分かっているから、今の関係まで終わってしまう始まりになるだけだから。
本当に大事だと思うなら、失わないため―――告白自体を諦めさせる努力をするべきだ、と。
そういう理由と目的で、葉山は今回の一件を邪魔する方向に動いていたわけで―――考えてみたらビミョーに最低じゃね? コイツ・・・とか思わなくもなかったけれども、分かるけれども。
「とはいえ、勝手な言い分ではあるっちゃあるんだよな。あくまで告白したがってる本人は戸部で、本人にはナイショでお前が独断で勝手に判断して動いてるだけだし」
「う゛、ぐ!? そ、それは・・・・・・まぁ、そうなんだけど・・・・・・」
「しかも奉仕部に手伝い依頼してくるときに付き添ってきてたのも、お前だしな。
仲間の想いを分かって助けてやりながら、失敗する結果も知ってて教えずに協力して、相手には秘密裏に自分独自の行動でいろいろ動く。
・・・・・・考えてみたら今のお前って、完全に裏切り者ポジションになってんだよな。大丈夫か?
後になって、『何度生まれ変わっても必ず同じ道を選ぶ』とか言い出したりしないよな?」
「それは一体なんの話だい!? っていうか仕方ないじゃないか! そういうことが必要な立場なんだから!! 君なら分かるだろう!?」
「まぁ、分かるんだけどな。それも一応は俺なりにだけど」
頭の中でなんとなく、仮面のエリート剣士をイメージしちまってた思考をいったん置いて真面目に考え――葉山“たち”が置かれている現状について今一度考え直し、心の中でため息を吐かされた。
・・・それに一応とはいえ、葉山の言うことも分からない訳じゃないんだよな。
想いを伝えることが、すべてを打ち明けることが本当に正しいとは限らない。
踏み出せない関係。踏み越えることが許されない関係。踏みにじることを許さない関係。
ドラマも漫画も、いつもそれを踏み越えてハッピーエンドに至った成功例だけを描く。
けれど、現実はそうじゃない。
一つの成功例の周囲には、無数のバッドエンドに終わった失敗例が、英雄の周囲に広がる一般兵士の死体と同じくらいに山となって積み重なっている。
それが現実の、踏み出せない想いを踏み越える物語。その結末の一般的パターン。
むしろ踏み出した先でハッピーエンドに至ってる物語でさえ、ドラマや漫画なら別として、ギャルゲーや恋愛ゲームでだったら主人公でさえ選択肢の選び間違い一つで寂しい卒業後エンドがエピローグとして描かれるほど。
AVGでもそれだ。昔のギャルゲーだったら確実に踏み越えた相手と結ばれて、伝説の木下にいけると決まってる奴なんて熟練者ぐらいなもんだったろう。
大事なものは替えが効かない。
かけがえのないものは、失ったら二度と手に入らない。
だからこそ、失敗したくはない。
失敗するのが分かりきってる勝負なら、勝負から逃げるのが正解になり、課金さえすれば勝てるなら喜んで傭兵NPCを雇ってでも勝ちたくなる。
「・・・それが俺たちに依頼した理由だったってことなんだろうな」
「え・・・?」
「戸部の奴が、今回の件で奉仕部に依頼しにきた理由だよ。まさか本気で、自分が告白するって話を他人に教えて手伝いを頼むとかいう奴が、現実に実在してるとか考えてたわけじゃねぇだろうな? 普通だったら翌日には学校中から笑い者確実だったぞ。ソースは俺」
「いや、そんな暴露話をいきなりされても・・・・・・それに戸部の話だって、アイツは本気で姫菜と付き合いたいと思ってたから成功率を上げようとしてただけで――ひょっとして、違ったのか?」
「ああ、まず間違いなくな。理由もおおよそは想像がついている」
「・・・・・・どんな?」
「簡単だ。奉仕部の部員の1人は由比ヶ浜だぜ? それが理由の全てだろ」
関係性としては、最初から単純な答えと簡単な計算式によるものではあったのだ。
戸部としては告白で失敗する危険性を少しでも下げるため、他人の助けを借りたいところではあっても、赤の他人にはさすがに言えるような話題じゃない。
その点で、由比ヶ浜結衣は、条件として申し分のない立ち位置にいる女の子だった。
奉仕部の一員ではあっても、葉山グループの1人でもある由比ヶ浜は、性格も相まって双方での関係性を重視せざるを得ない位置にある奴だ。
その由比ヶ浜が部員として所属してる奉仕部は、戸部にとって完全な他人たちの組織ってほどには遠い関係じゃない。奉仕部に相談した内容が外部に漏れたら、葉山グループ内での由比ヶ浜の立場が悪くなるからだ。
奉仕部部長の雪ノ下が由比ヶ浜と仲良いことは、結構前に三浦との馴れそめが始まってた一件でクラスの連中も知っているし、夏合宿で一緒だった経験もある。
由比ヶ浜に配慮するため、雪ノ下は外部に情報を漏らさない。失敗して由比ヶ浜が責められないよう動いてくれる可能性も高い。
また、由比ヶ浜が葉山グループの中で二人いる女子の片割れという点も重要ポイントの一つだったろう。海老名さんとも仲悪くないみたいでもあるしな。
奉仕部への依頼という形で由比ヶ浜に知らされれば、個人的に動いて、それとなく海老名さんに伝えてくれるかもしれない――そんな淡い願望があったとしても不思議はない。
一方の俺は俺で、一応は葉山たちと同じクラスの一員で、奉仕部部長の雪ノ下とかと比べればペーペーの下っ端。好き好んで独走して立場悪くしたがるバカと思われない程度には評価されてるっぽくもある。
「要するに戸部は戸部で、それなりにリスクリターンを計算したうえで、どれかが成功してくれればいいと思って奉仕部に相談しにきてたんだよ。
俺たちやお前にセッティングしてもらった告白で上手くいってもいいし、由比ヶ浜から間接的に伝わった話で失敗率高そうだったら今は止めて、次の機会を狙ってもいい。どれでもいいから成功して終われるよう選択肢を増やすため俺らを頼った。そんなとこが狙いだろう」
「アイツが・・・戸部が・・・・・・そんなことまで考えて・・・?」
「それぐらいの計算もなく、他人に自分の告白手伝い頼むバカいるわけねぇだろうが。
もっとも、大して深く考える性格の奴じゃないってのは賛成だけどな。大雑把に方針だけ考えて動いたから、今言ったみたいな『どれか一つが当たればいい』とかの方法論を選んじまってんだろうし。・・・・・・ただなぁ」
そこまで言ってから、俺としては溜息を吐かざるを得ない。
複数の結果に至れそうな可能性を用意して、どれか一つが上手くいったらよくて、結果的に告白が成功できたら全部に感謝みたいな方法を選んだのは、それだけ戸部が海老名さんと付き合いたいと本気で願っている現れなんだろうなとは思う。
なにより海老名さん自身が、相談にきた葉山グループの一員だし。
誰か言ってくれるだろ。たいていの場合は誰かが、直接的には聞かない表現で意思確認とか、相手への心の準備をさせとく発言とかを。
そーいうのから伝わって想いを知った海老名さんの方から自分に~~、とか。
そんな夢みたいな可能性も0じゃない程度には考えてたんじゃないかな、アイツって?
・・・・・・だが逆に言えば、「結果さえ良ければ」で複数用意して、「経過」はなんでもいいって方針は、戸部が一つ一つのやり方とか、成功した方法で上手くいった場合の結果とかを大して考えないまま大雑把に「上手く行ければ何でもいいっしょ」とかのノリでしか想定してないことを意味してるものでもあるんだよなぁ・・・。
「要するにアイツ、自分が海老名さんと付き合えるようになるって『結果までだけ』は考えて動いてるが、その後のことはノープランだと思うぞ?
まったく考えないまま、成功したらハッピーエンドで、みんなも幸せとかの発想だけで計算して動いてるだけだと思うわ。
だからお前がアイツに、深い考えあって動いてるわけじゃないって予想も、あながち間違ってなかったかもしれん」
「・・・・・・アイツは・・・・・・そんなだから姫菜から、今は心を開いてもらえそうにないっていうのに・・・」
思わずといった調子で、頭を抱え始める珍しい様子の悩める少年、葉山隼人。
事実コイツの言うとおり、海老名さんが戸部を受け入れる気ない理由は、そーいうところが原因になってんじゃねぇかとは思う。
自分と付き合いだした後も、他の仲間とも今まで通りの友達関係を維持しようとか考えてて、気を遣われ始めるとか、自分たちもデートで忙しいから気を遣えとか、グループ行動中に二人の世界ウザイとか。
そういう諸々の悪感情とか面倒ごととか起きる危険性、まったく考えないまま好きだから付き合いましょうとか言ってくる奴なんて、どんだけ本気で思われてても友情破壊マンにしかなれそうにない奴だからな。
学生同士のグループ内で、メンバー同士のカップル成立とかグループクラッシャーにしかなれん率が高すぎる。
だからこそ、海老名さんも多分、戸部が告白の手伝いを頼みに言った直後の奉仕部に、遠回しな「依頼キャンセルの依頼」をしにきただけだったんじゃないかと俺は思う。
ぶっちゃけ、イヤだったら断りゃいいだけだし、遠回しに相手の想い伝える心を砕く手段は結構あるもの。
それらを使わず、俺たちへの依頼という形で『友情エンド』とかの曖昧な終わらせ方に第三者の手で持っていってほしいと頼みにきた。そんなところだろう。
戸部からの告白を受け入れるつもりはないが、『告白がないのなら』今のままの関係を維持し続けたいと思っている相手。
ルミルミの時とは真逆な関係性のグループ話ってことなんだと思う。
あのときはルミルミ一人を虐めるために関係性ができあがってたグループだった。だからルミルミという一人だけが犠牲になる状態が維持できなくなった時点で崩壊している。
逆に今回の葉山グループの崩壊する原因にされそうなのが、海老名さんって事になる。
彼女に悪意があるわけでもなければ、虐めてるわけでもなく、ただ戸部からの告白を受け入れたってだけでグループクラッシャーの切っ掛けを生み出す要因にされちまいかねない立ち位置。
・・・・・・そりゃイヤだろ、普通に考えて。
完全に巻き込まれポジションな人だし。
と言って別段、相手側にも悪意があるって訳ではないし。
表面的には仲良かった女友達に告白するだけだから、気分を害する断り方したら自分が悪者で、別のグループクラッシャー原因になりかねない。
もはや欺瞞だとか偽善だとか、嘘だとか真実だとかで評価できるほど綺麗さもなければ、形ばかりの青春すらも有るのか無いのかよく分からん、無自覚な過ちと自覚的な結果論としての過ちとで満ち満ちまくった葉山グループ内における、エゴとエゴで現状維持を望む願いと願い。
だが――そのことは別にいい。
俺にとっては関係のない話でしかない。
もともと俺たち奉仕部が今回請け負ってこなす義務を負った依頼は、『戸部の告白支援』と『海老名さんを含む葉山グループの崩壊阻止』の二つのみ。あとはアフターケア程度で考えてやるべき問題だ。
やりたきゃやってもいいが、余暇を使ってやるべきオマケ部分であって、本題をこなせた上でやらんと流石に無責任のそしりを否定できん。平塚先生からブン殴られそうだしな。
その点では、今回の依頼は難易度が高すぎだった。
二人の人物から同じ一つの案件に関して、真逆に近い結果を求めての依頼なのだから、整合性など最初からとれるわけがない。
少なくとも、戸部の方の依頼は端から達成不可能だと諦めるしかないものだ。
告白される側の海老名さんに、受け入れる気はないからこその彼女からの依頼内容だったからだ。
告白されると知っていて『友達でいましょう』という断り文句を、第三者である他人の口からオブラートに伝えてほしいというのが彼女の依頼。
・・・・・・「いい友達でいましょう」と告白を断った相手と、ホントに友達でいつづける女の子ってのも、考えてみればスゴい存在な上に希少価値ありすぎな気がしなくもなかったが・・・・・・。
どっちにしろ彼女からの依頼がきてた時点で、戸部の依頼が上手くいける可能性は
俺たち奉仕部とは関係なしに0にならざるを得なかった。それが今回の依頼の概要だった。
だが―――こうなると俺たちが解決しなきゃならない問題が一つ生じることになる。
「っあー、やっべー緊張してきた、やべー・・・・・・」
「おい、戸部。一つ聞いとくこと忘れてたんだけどさ」
「うわっ!? あ、あぁヒキタニくん・・・、っかー、やっべーわ、今の俺かなりキテるわー・・・」
「なぁ、お前、振られたらどうすんだ?」
「いや言う前からそれってヒドクない!? 俺今フラれること考えたくない気満々なんだけどー!?」
「いや重要なことだろ、あり得る状況なんだし。だから聞いてんだし。諦めるのか? それとも飛び降りる?」
「いや飛ばねぇし死なねぇよ俺!? って言うか、ありえる未来の可能性ヒドすぎなくね!? ――あ、でもショック大きすぎて緊張解けてきた気がするわ。ひょっとして俺の覚悟試しちゃう系? だったら覚悟決めて俺も答えるわ」
「・・・・・・そりゃ、諦めらんないっしょ」
「俺さ、こういう適当な性格じゃん? だから今まで適当にしか付き合ったことないんだわ。けど今回、結構マジっつーかさ」
「・・・・・・・・・そか。そんだけ覚悟あるなら俺から言うことは何もねぇか。じゃな」
「お、おお! やっぱヒキタニ君いい奴だったんじゃん! サンクス!!」
―――とかな感じになってる戸部のテンションと、海老名さんへの『想いだけ』は本気で強いっぽいガチっぷり。
それが俺の選び道を迷わせている原因だった・・・。それで間違いの可能性を消していくことができなくなっている。
戸部を振られないようにし、彼らのグループの関係性は保ち、海老名さんとも仲良いままにし続ける。
葉山と、海老名さんと、戸部の願い全部を叶えると、そういうことになる。
この三者の願いは、個々人の願いとしては違うものだが、共通している部分もある。
たった一つに集約されている部分がある。
『失くしたくない』
という利害の一致。大切に思っているものへの想いの共有。
たとえ向けられた矢印は異なる結末へと通じているもの同士な、すれ違いと勘違いと間違いを正解と信じて進んでいても、今をその手に掴み続けたいという一点においては全員が一致している。
ただ、結果としては相容れる道が一つもない。
間違った道に進んでいると自覚しながら言えない過ちと、崩壊への道を突き進んでいる自覚のない過ち。
失ったものは二度と戻らず、崩壊した後では『崩壊する原因となった出来事と影響』が全員の頭の中から全部消えてくれる日は二度とこない。
起きたことを無かったことには決して出来ない。『何事もなかったよう』に過ごせるだけだ。
むしろ、過去にあった出来事には触れないよう気をつかうため、起きた内容は覚えているってことになる。
それこそ葉山のような奴でさえ、『何事もなかったように過ごせる“だけ”』で『何かを失った過去』を未だに引きずっているらしいのは、本人自身が示しちまってたわけだしな。
・・・・・・一応、この一角だけがやたら多い、相容れない三角関係の告白劇を、おんびんに丸く納める方法ってのもあるにはあるんだ。
単純に、戸部が告白する前に、戸部が見ている前で、俺が海老名さんに告白すればいい。それで終われる。
俺「好きです。俺と付き合ってください」
海老名さん「ごめんなさい。今は私、“誰とも”付き合う気ないから・・・」
タッタッタ・・・・・・
ほら、これで終われる。海老名さんが断る気でいるのを事前に知ってるからこそ執れる手段。
形の上では全て未遂の時点で結末知れて終われるから、誰も傷つかない優しい世界が完成できる。
せいぜい俺が恥じかくのと、俺一人が戸部とか葉山グループから悪感情と悪評を被るだけで済む。そういうのは苦手じゃない。それで丸く終われる――――はずなのだが。
ただなぁ・・・・・・。
「・・・やべーな。思ってたより戸部のヤツの本気さがガチそうだ。
これだと俺が自爆前提で特攻して海老名さんの方針知っただけでも、アイツがやさぐれないとは言い切れねぇ・・・・・・どうしよ・・・」
そう、それが問題なのだった。問題になっちまった部分だった。
戸部が、海老名さんに告白する前にフラれる結果を知って思いとどまる、って道を選んだ場合でも、アイツが変な方向に恋愛感情こじらせてグループ崩壊させない保証がねぇ・・・。
仮にそうなったとき、俺一人が恨まれるだけなら別にいーんだが、俺が所属してる奉仕部には由比ヶ浜いるし、戸部との関係悪化を理由に由比ヶ浜が奉仕部やめるとか言い出したら雪ノ下がキレそうだし。・・・アイツの反応次第で丸く収められる自信ねぇんだよな・・・。
なにしろアイツって元々、『葉山のためのグループ』から始まってた連中の一員だった奴だし、チェーンメールを今の仲間同士で送り合ってた可能性ある一人でもあった訳だし。
今では本当に仲良くなってるとしても、今回のでブリ返して一人だけ昔に戻るとかの可能性だって0じゃないだろ。負の実績あるわけだし。
昔っから、男の嫉妬は女の嫉妬よりも性質が悪いってのを示す逸話に事欠かない分野だからなぁ・・・・・・。
もう少し時間的物的に余裕ない状況でだったら最初の案を強行するしかなかったんだろうけど、捻くれエリートとして凡人とは違うエリート推理力で当初から洞察できてた今の俺には余裕がある。エリートだからな。ウザ眼鏡的なエリート組の。
なにか・・・・・・何かしら成功率と安全性を高められる方法とか工夫はないだろうか?
残された時間内で用意できそうなもので、戸部が悪感情を刺激されにくくなって、違和感の少ない、今回の件を丸く収めるのに使えそうな、そんな都合のいいものがあ―――
「――――あ」
「あ、あの・・・」
「・・・・・・うん」
そして、そのときは訪れていた。
竹林の道に、ぽつり、ぽつりと、数歩ごとの間隔をあけて灯籠が白い明かりで竹を照らし出している。
夕日はすでに沈んで、月が昇っている時間帯に淡い光が彼らの周囲を包んでいる。
「俺さ・・・その・・・・・・その・・・」
「・・・・・・」
多少の覚悟はこもった必死さが伝わる表情で、どもりながら言葉を紡いでいく戸部。
それを聞く側の海老名さんからは、何も答えない。
お行儀よく腰の前で手を組んで、静かに戸部の話を聞いている。
表情は、透明で無機質な――笑顔。俺の嫌いな顔だった。
俺の嫌う、女の子の顔。
ほんの一言挨拶を交わせば気になって、メールが行き交えば心がザワつき、電話なんかかかってきた日には着信履歴を見て、つい頬がゆるんでしまう。
そんな優しい女の子の笑顔を、今の海老名さんは浮かべていた。
だが、それが優しさだと俺は知っているが、戸部は知らない。
自分に優しい人間は、他の人にも優しいことを、つい忘れてしまう。そんな――優しい笑顔。
そんな風に、俺の想像したとおりの笑顔で、戸部の告白を黙って聞こうとしている時点で、彼女の対応は決まっていたし、その先に続く未来も俺の想像を超えるものにはなれない流れしか続いていないのだろう。
「あ、あのさ・・・」
「・・・・・・・・・」
――なら、やっぱ方法は一つしかない。
人の意識の外側から、全部をひっくり返すジョーカーをぶつけて台無しにする。
最大限の興味を引くもので、その場の主導権を握れる、一瞬で場の空気を変えられる最強のジョーカーが俺には―――俺たちにはある。
インパクトの方には自信がある。
あと重要なのはタイミングだけ。
「あ、あの・・・・・・俺・・・ッ!! 海老名さんのこと―――」
戸部が意を決して、口を開いた。
それを聞き、海老名さんの肩がピクリと揺れる。
そして―――海老名さんは視線を、灯籠に落とした。
言うのなら―――今しかない。
「――――ずっと前から好きでした。付き合ってください」
その言葉を言われた瞬間。
言われた本人の海老名さんは目を丸くして驚いていた。
戸部だって驚いていた。
俺だって当然ビックリしている。
・・・・・・俺が考えて、やってくれるよう頼んだ事やってるだけだから、言ったらブッ飛ばされるので言えないけどね。
「・・・・・・っ(プルプルプル・・・///)」
「え、えっとぉ・・・・・・」
「・・・・・・・・・ッ(プルプルプルプル・・・///)」
「えぇ~っと、その・・・・・・ゆ、雪ノ下、さん・・・? あの、一体なにw―――」
「・・・・・・何か用かしら・・・?」
「え? え、あの、俺、今、えっと・・・・・・」
「・・・・・・・・・見て分からない? いま大事な話をしているの。デリカシーのない男は女性から好かれないわよ・・・・・・?」
「し、失礼しまし、た・・・・・・お、お邪魔虫みたいなんで退散しまー・・・す・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・ッッッ(ぷるぷるぷるぷるぷるッッ!!!)」
とまぁ、こういう形での結末の結果報告として戸部に話が伝わったって流れをとれば、葉山グループ内の関係は壊れないってゆーか、戸部も海老名さんとのことで他人のことどーこー思わんっつーか、蒸し返すのを怖がりそうってゆーか、前々からアイツ雪ノ下のこと苦手に思ってたみたいだし、適任かなって。
そう考えた故での、誰も傷つかない優しい世界を創れる結果だった訳なのだが。
「・・・・・・・・・・・・あなたのやり方、私、嫌いだわ。
―――絶対に許さない―――」
「い、いやまぁ・・・結果的には依頼はたせた訳だし、元々お前が部長として引き受けてた依頼なんだし、文化祭の一件で俺に借りがあるとかどーとか言ってた気がしたから、それでえっとその・・・・・・」
「絶対に――――ユルサナイ――――」
「・・・・・・・・・面目ない」
こうして、俺たち奉仕部にとって、秋になってから最初の依頼とイベントは幕を閉じる。
余談だが、その後しばらくして
「雪ノ下さんが付き合っている相手は、違ったらしい」
という噂が一部だけで流れて、すぐに鎮火したらしいのだが。
最初に噂されていた相手が誰だったのかは、2番目の噂が立った時点で立ち消えてしまって真相は闇の中だそうだと、由比ヶ浜がそう言っていた。
つづく