かつて外の世界には、名を出すことさえ憚られる最強の人喰い妖怪がいた。
一夜に屍の山を築き上げ、人妖問わず喰らい尽くさんばかりの暴食の権化。
二つ名を”宵闇”――その名を人喰い妖怪ルーミア。

なお、幻想の地へ消えた現在は。

「知り合いから一週間程度ご飯を抜かれて死にかけています。こんなことは許されない」

文句の絶えない、空腹に悩まされる人喰い幼女になっていた。

※当作品は二次創作設定を多量に含みます。
 お読みいただく際はご注意ください。

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当作品へ目を留めていただいた皆様、ありがとうございます。
朱と白です。

本作は作者がルーミアの設定を眺めていた際に思いついた、リハビリ代わりの作品です。
至らない点やお見苦しい点、作り込みの甘さなどが目立つ作品だと思いますが、最後までお読みいただければ幸いです。

それでは、どうぞ。


人喰い幼女、飢え死に寸前。

 

 世界のどこかには、『幻想郷』と呼ばれる場所がある。

 

 『忘れられた者達の楽園』と例えられるそこは、結界で隔離された山奥の里。

 人間的な化学は存在せず、妖術や魔法、果ては神通力などの人外の力が大半を占めている場所。

 神や妖怪などの、所謂外の世界で存在を否定された者が実在する世界である。

 拡張性も高い、在り方そのものは『来る者拒まず』を地で行く。成程聞けば楽園そのものなのだろう。

 

 本当に楽園(そう)であれば、どれだけ良かったか。

 

 幻想郷に流れ着く人間以外の種族は例外はあれど、プライドの高い者が多い。

 神は信仰を、妖怪は畏れを糧に存在を維持するし、必然的に縦社会を形成しようと考える。要するに自分以外の上位者を嫌うのだ。

 誰かが『我こそが支配者に相応しい』と名乗りを上げれば、出る杭を打たんとばかりに現れる他の誰かと小競り合いが起こる。

 身も蓋もない言い方をしてしまえば、今の幻想郷はプライドの高い連中の寄合所帯。衝突は必至だった。

 

 幻想郷の創設者と管理者を兼ねる大妖怪・八雲紫(やくもゆかり)と幻想郷のパワーバランスを保つ調停者・博麗の巫女の尽力も相成り、今でこそどうにか形を成しつつある幻想郷ではあるが、その実態は未だ黎明期。

 後に世に名を知られるスペルカードルールも、力以外のバランスを保つ術もない。

 強い者が幅を利かせ、弱い者が踏み潰される。

 度重なる戦いに、人間も幻想郷の土地も荒れ、傷つくばかり。

 

 最早紫と彼女の有する式、加えて博麗の巫女では対処しきれない現状。

 楽園とは名ばかりの地獄が生み出される状況に、さしもの紫も頭を抱えるしかない。

 現状を打開する解決策の提示は急務になりつつあった。

 

 故にこそ、早々に彼女は行動を起こした。

 幻想郷と切り離された外の世界から最低限交渉が通じる実力者を幻想郷に招き入れる。利益の下に協力関係さえ結べれば、博麗の巫女と並ぶ無法者に対する実質的な抑止力の完成だ。

 本来は自分と巫女で運営・対処を行うことが理想だったが、そうも言っていられない。使えるモノは使い、使えなければ次を探す。

 当代の巫女からは許可は取ったし、自分の式にいざという時の任も託しておいた。

 

 ただ、幸いなことに心当たりはあった。

 曰く、外の世界には名を出すことさえ憚られるほどに恐れられる根無し草の人喰い妖怪がいるらしい。

 在り方から察するに、性格は奔放を好むものなのだろう。

 だが個で動く特性上、興味を惹いて当人の許可さえ取ってしまえば、幻想郷に誘い込むのは容易い。

 何も手駒とする必要はないのだ。協力者か、友人のような関係性でも構わない。

 

 そう思って、外の世界へ出向いた彼女が見たのは、あまりにも埒外な光景だった。

 

「これは......」

 

 歓迎とばかりに飛び込んだ景色は、空を覆う黒と地面に広がる赤。

 真っ白な紙に適当に絵の具をぶちまけたような状態としか言いようのない、妖怪の感性を以てしても言葉を失う状態。

 見渡す限りの闇に塗り潰された周囲と鼻につく血の匂いが、一層その異常性を増している。

 

「お姉さん、見ない顔だね。それとも......あなたは食べてもいい人類?」

 

 ほんの一瞬の出来事だった。

 気がつけば、首元に槍を象った闇が突き付けられている。

 

 目の前の光景に気を取られていた。結果的に隙を晒したのも間違いない。

 それでも紫は大妖怪だ。

 仮に隙を突かれようと、迎撃どころか返り討ちにできる。

 そんな彼女の意識の隙を突き、ほんの一瞬の内に詰みに近い状態へ持ち込める者など、はたしてどれだけいるか。

 

「あ、ごめんね? 状況が状況だし、つい反射的に威嚇しちゃった」

「......こちらに害はなかったし、大丈夫よ。それと、残念ながら私は妖怪だから『食べてもいい人類』には当たらないわ」

「そーなのかー」

 

 『状況が状況』?

 『反射的な威嚇』?

 

――”眼前にある積み上げられた無数の屍は、あなたが作り上げたものでしょうに”。

 

 喉元に込み上げた言葉を飲み込み、努めて好意的に話しかける。

 万一機嫌を損ねられれば面倒だ。せっかく引いた当たりを逃したくない。

 

「ちょっと待ってねー......おっとっと」

 

 舌足らずな声が響き、声の主が屍の山から飛び降りる。

 

(噂には聞いていたけど、また随分と......)

 

 現れたのは、蓄えた闇を翼のように広げる黒剣を携えた少女。

 黄色の髪と口元を血に汚した、()()()()()()に身を包む、見紛うことなき少女だった。

 

「こんばんわお姉さん。それとも『はじめまして』の方が良いかな?」

「いいえ、『こんばんわ』で構わないわ。私はあなたとお話がしたくて来たのだから」

 

 「話?」と首を傾げる少女へ目線を合わせて、語りかける。

 目的の人物なのだと確信を抱いたのは、ほぼ同時だった。

 

 闇の中でも煌々と輝く、黄金にも映る黄色の髪と赤い瞳。

 どれだけ拭い去ろうと消えることのない血の色と匂い。

 特徴的な黒一色の装いの少女然とした容姿。

 何より、彼女の二つ名の由来になった『闇を操る力』。

 

「私の名前は八雲紫。――単刀直入に、あなたを”宵闇”と見込んでお話があります」

 

 少女の二つ名は”宵闇”。

 その名を、人喰い妖怪のルーミア。

 

「もしも、約束を守れば恒久的に食事が手に入る場所があるとしたら」

 

 これが、全ての始まり。

 いずれ幻想郷の実力者の一端を担う闇を操る人喰い妖怪と、妖怪の賢者との出会い。

 

「あなたは、幻想郷(楽園)へ来てくれるかしら?」

「是非行きます」

 

 かくして、ここに契約は成立したのだった。

 

 なお、どういうわけか即頷いたルーミアの反応は想定外だったが、余裕がないこともあり特に気にされなかった。

 

 

○○○○

 

 

 まともにモノを食べたのはいつだったか。

 顔を付けた土の匂いを感じながら、それだけを思う。

 

「闇、闇......ダメだ全然伸びない...」

 

 自分の一部から生成した力――この世界に準えて言うのなら『闇を操る程度の能力』を使ったのは良いが、日光に弱い特性のせいか、自分を覆う程度の闇しか出せない。

 せめて日陰に行けば話は変わるのかもしれないが、空腹も合わさり思うように身体が動かない。

 吸血鬼のように日光に焼かれて死ぬことはないものの、下手しなくともそのうち餓死する気がする。

 

 最後の抵抗とばかりに頭に結ばれたリボン――もとい御札へ手を伸ばし引っ張ってみるが、悲しいことにびくともしない。

 

 これを外すことができればこんな状態も現状もあっさり解決できるのだが、流石は知り合いのスキマ妖怪と今代の博麗の巫女が用意した封印術。

 あっさり解けるようにはできていないらしい。

 

「くそぅ、八雲めぇ...『恒久的に食料が手に入る』って言ったのに......」

 

 「人喰い妖怪は人間が主食なのに」と言ってみるが、当然独りぼっちなので返ってくる反応はない。

 

 さて、これだけ語れば察しの良い人はもうお分かりだろうが、改めて自己紹介をさせていただきたい。

 私の名前はルーミア。

 そう、かの有名な弾幕シューティングゲームの第一作目『東方紅魔郷』の1面ボスの、あのルーミアである。

 厳密には彼女に転生した元一般人、と言うべきか。

 

 ちなみに前世の記憶はあるが、前後の記憶がないので、誕生の原理は分からない。

 どうやって生まれたのか、どんな原因があったのか、そもそも死んだのか。詳しい原理が私にも説明できない。

 感覚的には何も知らない、力もない状態のまま、『闇を操る程度の能力』だけ持たされて人妖蔓延る力がモノを言う世界に放り出されたわけだ。誰がなんと言おうが、全てを恨んだ私は悪くない。

 

 とはいえせっかく得た二度目の生、足掻かなければ損だと思った私は頑張った。この辺を語ると長くなるので割愛するが、それはもう頑張った。

 同時に最も荒んだ時期だった。

 目に映るもの全てを攻撃したわけではないが、あてもなく国中を回り、気に入らない連中を人妖問わず喰い荒らしたのもこの時期だったか。

 かれこれ数百年経つ頃には、私の名前を出すことさえ憚られる程度には恐れられる存在になっていた。

 

 丁度その頃だった。スキマ妖怪こと八雲紫と出会ったのは。

 

 八雲は『恒久的な食事を用意するから幻想郷に来ないか』と誘った。

 私は即頷いた。人間だった頃どうにか行けないものかと憧れた幻想郷だ、断る理由がない。

 

 結果。

 私を待っていたのは、八雲紫と博麗の巫女主導の下行われたまさかのナーフイベントである。

 本人達曰く『その力をそのまま振り回すには危険すぎる』とのことらしく、一定の条件下で外れる強力な封印を施された。平常時は低級妖怪程度の力しか出せないとも言われた。

 

 それは良い。

 一応封印が解ける条件はあるし、待っていれば八雲が約束通りに食料(人間)を運んでくる。

 

 だったら何が不満なのかって?

 現状だよ。

 食料が運ばれなくなってから一週間。つまり一週間の飯抜き状態である。

 一応肉や魚などの食材を食べればある程度の飢えはしのげるものの、私の主食は人間。食べなければいずれ死ぬ。

 本人からは『忙しくなるから食料の調達が遅れる』との連絡を受けているが、いくらなんでも限度というものがあると思うのだ。

 

 え? 人間でも襲えばいい? 最悪暴れている妖怪か神でも倒して喰えばいい?

 一週間も飯抜かれた空腹状態で動けるわけがないだろいい加減にしろ。

 

 私は声を大にして叫びたい。

 こんな幼女を見捨てて心は痛まないのかと。(今のところ)約束を守る人畜無害な人喰い妖怪を放っておいて良いのかと。

 おかしい、こんなことは許されない。

 鬼! 悪魔! 妖怪! BB......おっと、これは言い過ぎた。いよいよ本格的に食料を抜かれると餓死する危険がある。

 

「......おなかすいた」

 

 いけない。

 叫んだら余計にエネルギーを消耗した。やるんじゃなかったこんなこと。

 

 しかしどうしたものか、いよいよもって限界が近い。

 こんな時に人間か妖怪が出たらいよいよ――。

 

「一体どこだここ......うん? 子供? 外人...?」

 

 出ましたね、人間。しかもちょうど食べ頃の若い男。

 むくりと顔だけを起こし、土だらけの髪と視線を向ける。

 

「あなたは、食べてもいい人類?」

「はい?」

 

 意味が分からないという顔を向けられた。

 失敬な。

 こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに。

 

「そーなのかー。......じゃあさ」

 

 しかし残念、取って食べられる人類だったが、食べに行けるほどの元気も気力も残っていない。

 ならばやるべきことは一つ。

 

「食べるものがあったら、ちょーだい......お礼に食べ物のある場所とか教えるから...」

 

 恥もプライドも外聞も投げ捨てて、前世の知識をフル活用。

 名前も顔も知らない男へ、取引を行うことにした。

 

 この際人肉とか贅沢は言わないから、生肉とかないかなぁ......。

 無理かなぁ......。




●ルーミア(転生者)
 気がついたら人喰い妖怪になっていた元一般人。
 外の世界では”宵闇”の二つ名を冠する最強格の妖怪に数えられており、油断ありきとはいえ、八雲紫の不意を突ける程に強かった模様。
 ちなみに現在は紫と今代の博麗の巫女お手製のリボン(御札)により、平時は低級妖怪レベルに弱体化している。

 外の世界→EXルーミア
 現在→原作ルーミア
 こんな感じのイメージ。


如何でしたでしょうか。
前書きにも書きましたように、毎度のことながら至らない上にお見苦しい点が多々目立つ作品だったと思いますが、少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

もしもよろしければ、感想や評価をいただければ幸いです。
次回以降の予定は未定ですが、もしも次回があればお付き合いください。

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