黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

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二十九話 邂逅

 風が吹いて、潮の匂いが漂う。

 顔を上げると、海に夕焼けが沈んでいく景色を一人で眺めている彼がいた。

 

「兄貴ー!」

 

 繋いでいた叔母の手を振り払い、大好きな彼の元へと駆け寄る。

 こちらに振り向いた彼の表情には翳りがあった。

 

「どうしたんだよ、こんなところに一人でいるなんて」

「……よく一緒に遊ぶ友だちの父親が亡くなったらしいんだ」

「亡くなった?」

「死んだってこと。もう会えないんだ」

 

 死んだ?もう会えない?

 虫が死ぬのは見たことがある。

 でも人間が死ぬ?

 想像がつかなかった。

 

「人はいつか死ぬんだよ。いつかは、オレの父さんも、オレも……」

「いつか、兄貴とも会えなくなるのか? そんなの嫌だよ」

「はは、オレもお前と会えなくなるのは嫌だな」

 

 そう笑う彼はどこか辛そうに笑った。

 

「時々、考えることがあるんだ……人間はいつか死ぬという結果に辿り着く。それなら何のために生きているのか、どうすればいいのかって」

 

 彼は難しい話をしているようで、オレはちんぷんかんぷんだった。

 でも悲しそうな彼を見るのは嫌だった。

 

「オレ、ずっとお前と一緒にいるよ。いつか死んじゃうなら、それまでずっと」

 

 彼の目を見てそう言うと、彼は一瞬驚いた表情を浮かべた後に、少し緊張がほどけたように笑った。

 

「それなら寂しくないな。ありがとう」

 

 直後、置いてけぼりにしていた叔母に腕を引っ張られた。

 

「あ……叔母さん、ごめんなさい。じゃあ兄貴、また明日な!」

 

 そうか。

 そういえば、オレがあの屋敷に行くことになったのはこの直後だ。

 オレは、あいつを一人ぼっちにしてしまったのか。

 だから屋敷であの部屋に閉じ込められてすぐ、こう言ったんだったな。

 

「いつか、絶対この屋敷を出てお前に会いに行くよ」

 

 ──────。

 

 それは、大好きだった彼の名前。

 肝心なところなのに思い出せない。

 そうだ。オレは彼に……会いに行かなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッと目を覚ますと、真っ白な天井が広がっていた。

 

「ここは……どこだ……?」

 

 重い頭を抑えながらゆっくりと体を起こす。

 

「ん……あれ……は!? 生きてる!?」

 

 ぼーっとしていた頭が少し冴えた。

 目の前で両手を握ったり開いたりしてみる。

 確実に、今ここにいる感覚がある。

 

「本当に、生きてる……のか」

 

 顔を上げて周りを見渡す。

 

「目が覚めたか」

「うわあああああああ!? 誰だお前!」

 

 視界に人の姿を捉えると同時に、その人物から声をかけられた。

 寝ていたベッドの隅まで後退りする。

 

「単刀直入に聞こう……お前は何者だ。何者で、何があって重傷を負い、あの海へ流れ着いた」

 

 その人物は起き上がったオレを見て冷静に、静かにそう言った。

 重力に逆らうように上に伸ばして固めた長い銀髪に、片目には眼帯をしていて、両足は義足の男。

 

「先にオレの質問に答えろよ。質問を質問で返すなって教えられなかったか? 礼儀に欠けるってヤツだぜ」

 

 相手の行動が読めないため、今は下手に情報を吐かない方がいいだろう。

 

 もし彼がパッショーネの人間なら、すぐにオレを殺すか、ボスに引き渡しているだろう。

 しかし今のオレは五体満足。怪我をしたはずの首元には痛みすら残っていない。

 

 つまり相手はパッショーネではなく、現時点ではオレを殺そうともしていない。

 一度、相手の出方を待つ。

 

「……承知の上だ。こちらにはどうしても譲れない理由がある」

 

 彼がそう言うと、背後から新たに人影が現れた。

 それは『人』ではなかった。

 

「お前、スタンド使いか!?」

「見えるのだな。やはりお前もスタンド使いか」

 

 現れたのは、銀色の鎧を着たようなスタンド。

 レイピアのような武器を持っている。

 

「じゃあ、質問を変えるぜ。何のためにオレの情報を引き出そうとしている?」

「お前が敵かどうか知るためだ」

「曖昧だな。それじゃ全然分からねえよ」

 

 このままでは埒が開かない。

 目の前の男はオレをじっと睨み、一つ一つの行動を逃すまいと観察している。

 

 この様子だと、相手はオレの情報を何も掴んでいない。

 とりあえずは、オレが何か話したところで、仲間たちに危害が加わることはないだろう。

 

「オレは元パッショーネのアフェット」

「!!」

 

 『パッショーネ』と口にした瞬間、相手自身とそのスタンドが身構えた。

 

「そんなに警戒するな。元、って言ったろ。今は訳があってパッショーネに命を狙われてんだよ」

「何をしたんだ」

「オレだけ話すってのはフェアじゃねえだろ。次はお前の番だぜ」

 

 少し意地の悪いことを言ってみる。

 こちらに危害を加える気はなさそうだが、どうしてそこまでオレを警戒しているのか、原因を探りたい。

 

「……すまないが、話すことはできない」

「やーっぱりそれか。まあ別にいいけどな」

 

 彼はパッショーネに何か関係があるのだろうが、オレや仲間たちに関係はなさそうだ。

 無理に詮索する必要はないだろう。

 

「そういや首の傷とか綺麗さっぱりなくなってるんだが、お前が手当してくれたのかよ?」

「手当したのはこの村の医者だ。オレはお前を引き取っただけだ。監視するためだがな」

 

 片目が見えないなら視界は狭まっているはず。その上に自由の効かない足で、監視するためにオレを引き取った……よほど自分のスタンドに自信があるのか。それとも、それほどまでにオレの存在が不安だったのか。

 そう考えを張り巡らせる。

 

「傷が無くなっているのは、お前がここに流れ着いてもう二年ほどになるからだろう」

 

 ……ん?

 

「ま、待て……お前今なんて……に、二年!?」

 

 二年間、オレはずっと眠っていたのか。

 流石に死を意識するほどに傷だらけだったので、仕方ないかもしれないが。

 

「お前はこれからどうするんだ」

 

 これから?

 確かに、オレは本当に生きているらしい。

 二年間意識を失っていたようではあるが。

 

 今は匿われているから無事であるだけで、表に出れば立場は変わっていないのだろう。

 オレは裏切り者としてギャングに命を狙われた。二年ごときでそう簡単に払拭されるものではない。

 記憶の中の彼に会いたい気持ちはあるが、やめておいた方がいいだろう。

 

「帰る場所もねえしなあ……下手に外に出ても狙われちまうだろうし……どうするかな」

「この村にいる限り、その点は心配しなくても大丈夫だ。ここはパッショーネの目が届かない」

「お前、オレと暮らすつもりかよ。オレのことを警戒してたんじゃねえのか?」

「信用はしていない。だが……『パッショーネに狙われたにも関わらず、まだ生きている』と言うのなら、お前には実力がある。足の一本すらも、お前は失っていないのだからな」

 

 彼の言い方に、違和感を覚える。

 まさか彼の足は、パッショーネに狙われたことによるものなのだろうか。

 もしかすると、その目も……

 

「お前なら、もしかするとおれの望みを叶えられるかもしれない」

「望み?」

「いや……話すべき時が来たら話そう」

 

 はっきりしないおかしな奴だ。

 あれもこれも秘密にされてしまうと、より彼のことが掴めない。

 彼の望みとは何だろう。

 

「せめて名前だけでも教えてくれよ。そのくらいいいだろ」

 

 そう問いかけると、意外にも彼はすんなりと答えてくれた。

 

 

 

「おれはポルナレフ。ジャン=ピエール・ポルナレフだ」

 

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